マランツから、同社新世代AVアンプ「CINEMA series」のフラッグシップとなるAVプリアンプ「AV10」と16chパワーアンプ「AMP10」が正式リリースされた。どちらも3月下旬の発売を予定している。

AV10 ¥1,100,000(税込)
AMP10 ¥1,100,000(税込)

 マランツでは、同ブランドの歴史を踏まえ、かつ “今の時代に合わせたAVアンプの再定義” を行ったモデルとして、昨年秋からCINEMA seriesを順次発売している。今回のAV10とAMP10はそのトップモデルという位置づけで、圧倒的な物量と精密な製造技術を注ぎ込んだ製品となっている。製造は福島にあるディ-アンドエムホールディングスの自社工場・白河オーディオワークスで行われる。

画像: 「AV10」

「AV10」

画像: 「AMP10」

「AMP10」

 AVプリアンプのAV10は、ドルビーアトモスやDTS:X、Auro-3D、IMAX Enhanced、360 Reality Audioなどの最新音声フォーマットに対応した。DSPには2,000MIPSの処理能力を持ったGriffin Lite XPを搭載し、15.4ch(9.4.6)のプロセッシングが可能となっている。

 しかも今回は、15.4chすべてのプリアンプ回路にマランツ独自のHDAM-SA3を搭載している点もポイントだ。HDAMはマランツがハイファイコンポーネントで培ってきた回路技術で、HDAM-SA3は超ハイスルーレートを誇るディスクリート高速アンプモジュールとなる。これまでもAVアンプにHDAM-SA2を搭載したことはあったが、それらはAVアンプ用にチューニングされたものだった。しかしAV10では、ハイファイ用とまったく同じ規模を持ったHDAM-SA3を初採用したという。

画像: AV10にはHDAM-SA3の基板が19枚搭載されている

AV10にはHDAM-SA3の基板が19枚搭載されている

 そのHDAM-SA3は、低ノイズ両面実装型バイポーラ・ジャンクション・トランジスターや医療グレードの高精密薄膜メルフ抵抗といった厳選パーツで構成されており、トランジスター数(「AV8805A」の合計300個から「AV10」では760個に増加)や回路規模はAV8805Aの2倍以上に達しているそうだ。

 また独立した基板で構成することでチャンネル間のクロストークを排除、優れた空間再現力を獲得している。なおHDAM-SA3は回路規模が大きく、ディスクリート回路ということもあり、外来ノイズ対策が必要になる。そこで今回は4層基板(信号層×2、グランド×2)にすることで対策したそうだ。

 DAC&マスタークロック回路も新開発され、2ch用のDACチップを10基搭載して15.4ch(19ch)のアナログ信号を得ている。ちなみにDACチップは電流出力型で、いい音と特性が得られる点に着目して選んだそうだ。さらに同社製SACD/CDプレーヤー「SA-10」と同等のマスタークロックも搭載されており、マスタークロックと各DACの距離の差はインピーダンスマッチングで均一化するなど、細かな配慮も施されている。

画像: 写真の赤丸部分が2ch用のDACチップで、AV10のDAC基板にはこれが10基並んでいる

写真の赤丸部分が2ch用のDACチップで、AV10のDAC基板にはこれが10基並んでいる

 電源部には、AV10専用のトロイダルトランスを本体中央に搭載した。OFC巻き線のトロイダルコアをアルミのケースとプレートに収めることで漏洩磁束を抑えるといった対策も行われている。他にも、アナログオーディオ基板やHDAM回路ごとにトランスの巻き線を分けることで回路間の干渉を排除。またDSPやネットワーク、USBなどのデジタル回路への電源供給には専用のトランスを準備し、アナログ回路との相互干渉を抑えている。

 筐体内部は3つのセクション(ピュアデジタル、ピュアアナログ、D/A変換)に分離され、回路間のノイズ干渉を抑制した。それらの回路を支えるボトムシャーシは3層構造として振動を吸収、脚部のパーツも同社ハイファイモデルと同じグレードが奢られている。フロントパネルとサイドパネルは2.5mm厚、天板は1.2mmのアルミを使用。

 リアパネルにはHDMI入力7系統、出力3系統を備え、出力1系統(ZONE2)を除き、ほかはすべて8K/60p、4K/120p信号のパススルーに対応している。アナログCD入力はRCAとXLRの2種類の端子が準備され、プレーヤーに応じて使い分けが可能。そのCD入力とプリアウトには真鍮削り出しのRCA端子が投入された。

画像: AV10のリアパネルには17.4ch分のプリアウトが並んでおり、再生ソースによって配置の異なるスピーカーの鳴らし分けも可能

AV10のリアパネルには17.4ch分のプリアウトが並んでおり、再生ソースによって配置の異なるスピーカーの鳴らし分けも可能

パワーアンプ「AMP16」は2ch×8の、計16ch分のアンプを搭載

 パワーアンプのAMP10は、足かけ5年にわたって開発されたマランツオリジナルのクラスDアンプモジュールを16chぶん搭載している。定格出力は200W(8Ω)、400W(4Ω)で、BTL接続やバイアンプモードにも対応しているので、サラウンド用はもちろん、スピーカーのマルチドライブ用としても活躍するだろう。なお切り替えはメカニカルスイッチだが、電源を入れた時にどのモードかを判別しているので、駆動方式を変えた場合は電源を入れ直すこと。

 クラスDアンプを選んだ理由は、ひとつの筐体に16chのパワーアンプ回路を収めるためで、様々なデバイスを検証した結果、定評あるIce Powerを採用している。

 アンプモジュールの開発担当者によると、今回は16chパワーアンプで出力、音質などの特性について要求が厳しく、さらにノイズ、電源などにも対策が必要だったそうだ。モジュレーターとドライバーICのみIce POWERを使い、その他のコンデンサー、インダクターなどは独自で選んで、専用設計のカスタム基板として仕上げている。

画像: 左がIce POWERの評価用パワーアンプ回路で、中央がマランツの試作回路、右がAMP10に搭載されたもの

左がIce POWERの評価用パワーアンプ回路で、中央がマランツの試作回路、右がAMP10に搭載されたもの

 そのパワーアンプ回路への電源供給や、パワーアンプの出力からスピーカー端子までの経路には非磁性体である真鍮製のバスバーが採用された。バスバーはワイヤーに比べて接地面積が大きいのでインピーダンスも下がり、大電流をハイスピードに伝えることが可能になる。飛び込みノイズの抑制も期待でき、結果として音質改善に寄与するという。

 電源回路はクラスDアンプ回路用と入力段用のふたつに分けられ、大電流が求められるクラスDアンプ用は、モジュールごとにスイッチング電源を搭載した。この回路はオーディオ帯域外の高い周波数で高速にスイッチングを行うので、音声信号に影響するノイズがきわめて少ない点も特長という。入力段用にはOFC巻き線トロイダルトランスやカスタム仕様のブロックコンデンサーなどのハイグレードなパーツが投入されている。

 なおAMP10は16chぶんのRCA/XLR入力端子を備えているが、そのすべてにHDAM-SA2高速アンプモジュールによるインプットバッファー回路が搭載されている。これにより入力信号を低インピーダンス化し、ノイズの影響も最小化しているという。なおHDAM-SA2はRCA入力時のアンバランス信号をバランス変換する反転アンプとクラスDアンプの入力部にも使用されているそうだ。

画像: AMP10のリアパネル。入力端子の選択や、BTL/バイアンプの切り替えは上側のスイッチで行う

AMP10のリアパネル。入力端子の選択や、BTL/バイアンプの切り替えは上側のスイッチで行う

 ずらりと並んだスピーカー端子には、マランツオリジナルのSPKT-1+を搭載。コア部は真鍮の無垢材からの削り出しで、表面には厚みのある一層ニッケルメッキ仕上げが施されている。直径4.5mmまでのケーブルに対応し、スピーカー端子をしっかり締められるように専用のレンチも付属する。

 今回AV10とAMP10の組み合わせの音を確認することができた。まずはSACD/CDプレーヤーのSA-10とAV10をアナログバランス接続して、AMP10のバイアンプ駆動でスピーカーの「801D4」を鳴らしてもらった。

 大西順子『Tea Times』では、ピアノの立ち上がりの早さ、響きの豊かさが印象的で、クリアーな音場が展開される。ステージの楽器の位置までわかるような再現性も備える。SACD『ジョン・ウィリアムズ ライヴ・イン・ベルリン』の「帝国のマーチ」では、空間の広がりに驚く。細かい音までしっかり再現され、楽曲を解析するといった新しい楽しみ方も体験できた。

画像: AMP10の内部構造。写真手前に並んだアンプモジュールは、バスバーによる給電方式を採用した

AMP10の内部構造。写真手前に並んだアンプモジュールは、バスバーによる給電方式を採用した

 続いて映画ソースは、B&Wスピーカーによる9.3.4環境で再生。L/Rスピーカーをバイアンプ、センターをBTLで駆動することでAMP10の16chをすべて活用している。

 『トップガン マーヴェリック』のドルビーアトモス音声は、冒頭シーンでの音楽から効果音まですべて高S/Nで、ダークスターのエンジン音も大迫力で再現される。クリーンな音場再現であり、映画の中の空気まで澄んできたように感じた。

 続く『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』ではイタリア、マテーラでのカーチェイスのスピードがいっそう増したようで、緊迫感も上がっている。シーンの最後に響く教会の鐘が真上から聴こえて来て、こんな体験は初めてといっていい。天井方向の定位が明瞭なわけで、それだけAV10+AMP10の情報再現力が優れている証だろう。

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