良いことなのか悪いことなのかはさておくとして、SNSによって愚か者を可視化することが容易になったのは事実だろう。
ダンとベッキーはラブラブの若夫婦。ふたりには共通の親友・ハンターもいる。だがダンは落下事故で帰らぬ人に。ベッキーはそれから1年もの間、涙と酒と自暴自棄の中にいる。もうそろそろ次に進もうじゃないかと、父親もアドバイスを送るが、それもベッキーには逆効果だ。そうしたなか、ハンターがベッキーに「地上600メートルのテレビ塔がある。そこの頂上からダンの遺灰をまいて、新たな一歩に踏み出そうよ」的に誘いかける。
ちなみにハンターはまた、危険で目立つ行為をSNSで動画配信して数万のフォロワーから反応を引き出す承認欲求の塊でもあり、「映える」ように「盛った」服装でノリノリになりながら道中をもSNS配信するハンターと、ダンを失った痛手を背負い込んだままのベッキーのキャラクターの違いも前半の鑑賞のポイントであると感じた。
ふたりはとにかく、テレビ塔の頂上に到達することができた。到達する前の、直接物語と関係のなさそうに思えた事柄の数々が、エンディングに至る物語の進行中に、あざやかに「回収」されていくのには、霧が晴れるような思いがした。「ああ、前半の、取るに足らないように思われたここは、このシーンのための布石だったのか!」と唸らされることも多々あるはずだ。
ホラー、サスペンス、友情、三角関係、嘘と欺瞞、大自然、「アメリカ」。いろんなフレイバーがちりばめられた、香り高い一作といえよう。監督スコット・マン、主演グレイス・フルトン、ヴァージニア・ガードナー。2月3日から全国ロードショー。
映画『FALL/フォール』
2月3日(金)新宿バルト9ほか全国ロードショー
<キャスト>
グレイス・フルトン、ヴァージニア・ガードナー、ジェフリー・ディーン・モーガン、メイソン・グッディング
<スタッフ>
監督:スコット・マン
脚本:ジョナサン・フランク、スコット・マン
音楽:ティム・デスピック
編集:ロブ・ホール
撮影:マクレガー
プロダクションデザイン:スコット・ダニエル
製作:ジェームズ・ハリス、マーク・レーン、スコット・マン、クリスチャン・マーキュリー、デヴィッド・ハリング
配給:クロックワークス
2022年/アメリカ/英語/スコープサイズ/5.1ch/106分/原題:FALL/字幕翻訳:北村広子
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