ブライトーンが輸入販売を手がけている「GamuT Hi-Fi Lobster Chair」(ロブスターチェア)は、音楽ファンに向けて開発されたオーディオ用リスニングチェアだ。座る人の身体を自然に包み込む美しいフォルムを備え、音楽鑑賞時にはヘッドレストで音の反射等が起きないように適切な吸音機構が施されている。
今回はそんなロブスターチェアの家具としての魅力や、実際に座って音を聴いてみた感想について、インテリアコーディネーターの有城貞子さんと、藤原陽祐さんに語り合ってもらった。東京・目黒のオーディオショップ「ホーム商会」の店頭をお借りしてロブスターチェアをセット、B&W「Original Nautilus」を使った試聴を実施している。インテリアのプロとオーディオのプロは、ロブスターチェアをどう評価するのだろう。(StereoSound ONLINE編集部)
音楽を楽しむための理想的な環境を実現。GamuT Hi-Fi Lobster Chair
GamuT ロブスターチェア ¥1,320,000(税込)、オットマン ¥660,000(税込)
※販売店からの送料・設置費用は別途
ロブスターチェアは、高級家具メーカーのKvist(クヴィスト)とオーディオブランドのGamuTが共同で開発した、音楽愛好家のためのバリエーションモデル。音楽観賞のために、特別な音響減衰材料を適切なポイントに配置しているのがポイントだ。ヘッドレストには、耳の周りの音がよりよく反射されるように設計された特別な素材が組み込まれ、さらに音響減衰材料に対応するためにロブスターチェアの制振材と表面を変更し、効果的な音響処理を実現している。
●ロブスターチェアのサイズ:高さ950mm(座面高390mm)、幅730mm、奥行820mm/重さ65kg
●ロブスターオットマンのサイズ:高さ488mm、幅515mm、奥行515mm(足を含めた場合545mm)/重さ29kg
——今日はオーディオ用リスニングチェア、GamuT(ガマット)ロブスターチェアの体験会を行います。ホーム商会さんにロブスターチェアを持ち込ませてもらい、同店が扱っている機材もお借りして、ハイエンドなオーディオ再生環境を準備しました。
体験者にはオーディオ評論家の藤原陽祐さんと、インテリアコーディネーターの有城貞子さんにおいでいただきました。ロブスターチェアは世界でも珍しいオーディオ試聴用の椅子とのことですが、まずはその概要を輸入元であるブライトーンの福林羊一さんからご説明いただきたいと思います。
福林 ロブスターチェアはGamutというブランドから発売されています。GamutはDantax(ダンタックス)という会社の傘下にあるブランドで、海外ではスピーカーも発売しています。
ロブスターチェアにはオリジナルモデルがあり、こちらはデンマークのKvist(クビスト)というインテリアブランドから発売されています。弊社が扱っているロブスターチェアはKvistとGamutが共同で開発したオーディオ用モデルです。オリジナルモデルは座面がすべて本革仕上げですが、オーディオ用はヘッドレスト部分に吸音材と反射材を配して、前から来た音を吸音して後からの音を変に耳に届けないような改良が加えられています。
有城 Kvistはインテリアでは老舗高級家具メーカーですね。オリジナルモデルもオーディオ用を意識していたのですか?
福林 いえ、Kvistのオリジナルモデルは高級インテリアとして開発・販売されています。Gamutブランドのロブスターチェアは、オーディオ用のスペシャル版という位置づけになります。
有城 座面の革はアニリン革(牛革)になり、なめしたような革の柔らかさがあり、経年変化を楽しめる素材ですね。とても高級な仕上げです。背面の曲線の仕上げも綺麗です。
福林 この形状がロブスターチェアの名前の由来です。背面に使っている木材はくるみ、ウォールナットです。形状として面白いのは、スタンドと椅子が一枚の板でつながっていて、椅子自体が360度自由に回転します。クッションは硬めですが、座っていると徐々に身体に馴染んできます。
有城 ウォールナットは、インテリアでも人気の素材です。日本では北欧家具、イコール、白木というイメージが強いんですが、本場ではウォールナットで仕上げているものも多いですね。この曲線も、加工に手間がかかっていますね。金属製のスタンドもクロームメッキ鋼で、つや消しのマット調にすることで、落ち着きがあります。とても高級感のあるデザインだと思います。
藤原 実際に座ってみると、椅子が浮いている感じで、ほどよく揺れる。気持ちいいですね。座面が回転する椅子は珍しくありませんが、機構の問題なのか、座った時にある種の頼りなさを感じてしまうことが少なくありません。でもこのロブスターチェアは360度自在に回転するのに、全体重を預けても不安定にならず、しっかりと支えてくれて、実に心地いい。
有城 音楽を聴くのにちょうどいい姿勢で身体をホールドしてくれるのがいいですね。それが凄く潔いというか、一番座りやすい形になっている気がします。
——おふたりは、椅子を選ぶ時にこだわっている点、チェックポイントなどはありますか?
藤原 椅子は、オーディオや映画を楽しむ上で、ひじょうに大切なテーマです。最近は映画館でもドルビーシネマやIMAXレーザーのように、良質な映像とサウンドと、居心地のよさ3点セットで鑑賞の価値を訴求していますからね。昔の指定席のように場所がいいということだけではなく、椅子そのものの座り心地も重要です。
個人的には、オーディオ観賞用の椅子なら、ほどほどの硬さで、自由に動ける方がいいと思っています。柔らかくて、身体が沈みすぎると、ちょっとストレスを感じるんですよね。もちろんそういった椅子が好きな人もいるでしょうが、いわゆる寛ぐための椅子とオーディオ観賞用では求める点が違っているので、そこをどう考えるかでしょうね。
自宅の視聴室でも、ある程度クッションが硬い椅子を選んでいます。あと、肘掛けがないタイプは駄目。特にリラックスする椅子は、肘掛けなしは考えられない。
有城 普通の椅子を選ぶ場合だと、デザインとか、自分の好みに合うかどうかを気にしますね。
藤原 そうですね。もちろん価格的なこともありますが、デザイン(素材や色も含む)、形から入って、その後に座りやすさを確認して、自分の部屋に収めた状態をイメージして、判断する、といった感じですね。
有城 ただ、趣味のオーディオ用ということになると、確かに選択肢が限られますね。ロブスターチェアは、音楽を聴くために設計されているというだけあって、身体がスポッと収まって、ちょっと揺れたりもできる。その点はとてもいいと思います。また360度自由に回すことができる椅子は、案外少ないんですよ。
あとデザインも格好いい。ウォールナットを使って、北欧・デンマークのデザインというのも、オーディオファンのどストライクじゃないかと思いました。ちょっと格好よすぎていやらしいくらい(笑)。
藤原 オーディオ機器は豪華でも、椅子までこだわっている人は意外に少ないんですよ。凄く凝ったシステムが並んでいるオーディオルームなのに、量販店オリジナルの普通のソファーがポンと置いてあったりして。極端に言うとスーツはアルマーニだけど、足下はサンダル、みたいな感じですよね。これって結構変な話だし、そう考えると椅子って本当に大事だと思います。
有城 いい音が聴ければ、椅子は気にしていない人が多いということですか? インテリア的にはそれは残念ですね。
藤原 CDなら1時間前後、映画なら2時間くらい座り続けるわけで、それを楽しむ時には、やはりデザイン的にも気に入った心地いい椅子を選びたいですね。今までそういう提案はあまりなかったし、椅子って違いが分かりにくいから、座りやすければいいかなって感じで選んでいるケースが多いのが実情だと思います。そろそろその考え方から変える時期がきているように思います。そのためにも、オーディオ用の椅子という提案が、もっと多くのブランドから出てくるといいですね。
有城 ロブスターチェアはARNE JACOBSEN(アルネ ヤコブセン)とか、FRITZ HANSEN(フリッツ・ハンセン)のスワンチェアやエッグチェアに通じる雰囲気もあります。日本人は特に北欧家具が好きですから、多くの方に好まれると思いますよ。スマートさがダントツで、案外和の空間にも似合いそうですしね。
藤原 このカタチを初めて見たときは、相当ハードな座り心地で、ちょっと窮屈なんじゃないかと心配していたんですが、実際に座ってみると、そんな感じはまったくしない。意外にサイズ的にもゆとりもあるし、包まれている感じが落ち着きますね。座面に適度な凹凸が配置されていますが、このひとつひとつの形状が異なり、しかも硬さも違う。座った感じも硬過ぎず、腰をホールドしてくれるのも気持ちいい。身体が沈みこまないように、よく考えられています。
福林 クッションにはパンテラフォームという、エコな素材が使われていると聞いています。
有城 一般的には、首のあたりまで包んでくれる椅子やソファーの方が落ち着いて座れると言われています。でもヘッドレストまで付いたソファーだと大きくなりすぎてリビングやオーディオルームには置きにくいでしょう。そういう意味ではロブスターチェアはインテリアの邪魔にもならないから、ぴったりかもしれません。でも、ここまで椅子がスタイリッシュだと、他のインテリアもそれに相応しいデザインにしたくなっちゃいますよね。
藤原 モノとしての存在感が強くなりすぎるので、僕もあまり背の高いものを部屋に置くのが好きじゃないんです。だからうちの視聴室は、AVラックとかスピーカーも含めて、目に入る場所には背の高いものは置いていません。その意味では、ロブスターチェアのサイズ感はいいですね。
有城 座面の色や仕上げは1種類なんですか?
福林 オリジナルモデルは何種類かあるようですが、Gamutのロブスターチェアとしては、この仕上げだけになります。
その他の主な視聴システム
●ネットワークプレーヤー:ルーミンX1 ¥2,662,000(税込、ブラック)
●ミュージックサーバー:ルーミンL1 ¥187,000(HDD 5Tバイト、税込)
●プリアンプ:ウェストミンスターラボQuest ¥3,300,000(税込)
●パワーアンプ:マランツMA-23F×8台※
●スピーカーシステム:B&W Original Nautilus※
※ホーム商会では現在、Original Nautilusとチャンネルデバイダー、MA-23F×8台をセットにして¥5,280,000(税込)で販売中です
今回の試聴では、藤原さん、有城さんのお気に入り楽曲データを保存したUSBメモリーを、ルーミンのネットワークプレーヤー「X1」に装着して再生している。X1のアナログバランス出力を、ウェストミンスターラボのプリアンプ「Quest」につなぎ、さらにB&W「Original Notilus」のチャンネルデバイダーにもバランスで伝送している。本文にもある通り、Original Nautilusとチャンネルデバイダー、パワーアンプ「MA-23F」はホーム商会で販売されているセットをお借りしている。
——では、そろそろロブスターチェアで音楽を聴いてみて下さい。スピーカーにはB&Wの「Original Nautilus」を使います。これはホーム商会で販売しているビンテージ品で、チャンネルデバイダーとマランツのモノーラルパワーアンプ「MA-23F」が8台セットになっているので、そのシステムをお借りしました。プリアンプはウェストミンスターラボの「Quest」で、再生機器にはルーミンのネットワークプレーヤー「X1」を準備しています。
おふたりのお気に入りの音源が入ったUSBメモリーをX1にセットしてありますので、心ゆくまでお楽しみ下さい。
有城 近くに寄っていくと、ロブスターチェアに “早く座って” と呼ばれているような気になりますね。しかし、こんなに人に囲まれて音楽を聴くと、ちょっと緊張します(笑)。
でもロブスターチェアは本当に座り心地がいいし、ヘッドレストのおかげで包まれている安心感もあります。ひとりでこの環境で音楽を聴いていたら、もっとボリュウムを上げたくなるでしょうね。この環境が自分の家にあったら幸せだろうなって思います。
藤原 ロブスターチェアに呼ばれるというのはいい表現ですね。確かにそんな気分になります。Original Nautilusの音も久しぶりに聴きましたが、女声ヴォーカルからロック、クラシックのピアノ曲までとてもナチュラルで、眼前で演奏されているようなライブ感、生々しさを感じました。
有城さんがおっしゃったように包み込まれる安心感があって、でも耳元で音が変に反射するような印象もないので、自然に音楽に没入できます。これはちゃんと吸音対策が施されているからでしょう。居心地がいい空間でいい音を聴きたいという思いは、オーディオファンならみんな持っていと思うんですが、こういう体験をすると、オーディオ機器と椅子を同じぐらいのレベルで揃えた方がいいんだと実感します。
——今日のオーディオシステムは、合計で1,100万円ほどになります。ロブスターチェアとオットマンがセットで税込198万円なので、価格としては機器の2割弱ですね。
有城 このスピーカーやアンプはそんなに高級品なんですか? そんな凄い音を聴いていたとは、改めて驚きました。
——ホーム商会では、Original Nautilusとチャンネルデバイダー、MA-23F×8台をセットにして¥5,280,000(税込)で販売されていますので、今回はそのお値段で計算しています。Original Nautilusの定価はもっと高いので、本来はもっと高価なシステムなんです。
藤原 目の前の空間が隙間なく音楽で埋めつくされる感じで、濁りのない豊かな響きがフワッと拡がる。それも単に響きが多いというわけではなく、空間が呼吸しているかのように伸縮し、スッと消える。
とは言え、まぶしすぎる輝きやドライで鋭角的な音に傾くことなく、そこには好ましい音のかげりや堀の深さや、一種のウェットな柔軟ささえ感じとれる。このあたりの感触がこのシステムの醍醐味だと思います。
低音の量感にしても、高域の拡がりにしても、表現がオーバーになりすぎず、自然なバランス、スケールを感じ聴かせてくれる。実はこの大袈裟になりすぎない普通の音を出すのが、意外に難しいんです。
スピーカーも椅子も、外観はすごく前衛的というか、アバンギャルドなイメージですが、実際の音や座り心地は、奇をてらわない正攻法の仕上がりで、 “この場に止まって、何時間も聴いていたい” と、お世辞抜きで感じたくらい、いい時間を過ごすことができました。
この組み合わせは編集部の提案のようですが、椅子もオーディオのシステムとして考えると、案外いいバランスだったかもしれません。
有城 椅子も含めた超高級なオーディオ鑑賞システムとして、これが完成形かもしれませんね。
藤原 ロブスターチェアを体験して、どんな椅子、ソファーに座って聴くかで、音のパフォーマンスも変わって感じることが分かりました。オーディオファンには、オーディオルームの椅子についても考えて欲しいですね。
有城 リビングにソファとロブスターチェアがあったら、ロブスターチェアに座っちゃうなぁという気がしました。そのくらい吸引力のある椅子ですね。特にオーディオ用ということじゃなくても、この座り心地、居心地のよさは魅力です。
藤原 集中してオーディオを聴く時はもちろん、普段使いで休憩する時にもちょうどいい椅子として、ロブスターチェアがリビングにあったら快適でしょうね。予算が許せば、視聴室とリビングに、2脚置きたい! というのが本音です。
ビンテージの名機から最新モデルまで、最高のオーディオに出会える「ホーム商会」
東急東横線・学芸大学駅から徒歩3分、商店街の中に出現するハイエンドな空間がホーム商会だ。ビンテージの名機から、比較的手頃な価格帯の中古モデル(どれも状態がいい)まで豊富に揃っているのも魅力。2023年1月上旬までロブスターチェアを展示しており、予約をすれば記事中で藤原さん、有城さんが試聴したシステムも体験可能だ。興味のある方はぜひ同店にお問い合わせいただきたい。
東京都目黒区鷹番3-21-21 Tel:03(3711)0600
Eメール:info@homeshokai.jp