リアルアシストから、aune audioの新製品となる、デスクトップ向けの真空管DACアンプ「Flamingo(フラミンゴ)」が発売された。aune audioらしい流麗なデザインの中に、真空管を組み合わせたエレガントな製品となる。ここでは、オーディオ評論家の土方久明氏の自宅に本「Flamingo」を持ち込み、その音の魅力を存分に味わっていただいた。(Stereo Sound ONLINE)
正直にいうと、僕は10年ぐらい前まで、中国やアジアのオーディオ製品に対してあまり良いイメージを持っていなかった。安価だけど音質や機能は……。依然としてそのようなイメージを持っているオーディオファイルも多いことだろう。
しかし、昨今アジア勢のパワーは侮れない。依然として玉石混交な部分は残っているものの、デザイン品質は洗練され、音を真面目に作っているメーカもかなり増えてきている。そして製品の開発スピードも驚異的に速く、コストパフォーマンスにも優れる。
これらのアドバンテージを如実に感じた1ブランドが、当ステレオサウンドオンラインでレビューを続けている「aune audio」の存在だ。
同社は、2004年に中国で設立されたオーディオメーカーで、当初は録音や編集などのプロフェッショナル市場向けにコストパフォーマンスの高いオーディオ機材を提供し知名度を上げた。そして、その勢いを駆ってコンシュマー市場に参入した。
前置きが少々長くなってしまったが、そんなaune audioから、今度は真空管式のDACアンプ「Flamingo」が登場したのだ。
aune audio
管球式DACアンプ
「Flamingo」
¥38,500(税込)
Flamingoの主な仕様
入力端子:デジタル音声(同軸)、USB Type-B
出力端子:アナログ音声(RCA)、6.35mmヘッドホン出力
対応サンプリング周波数:【USB】768kHz/32bit、DSD512 【同軸】384kHz/24bit、DSD128
SNR:120dB
THD+N @1kHz:0.000145%
寸法:幅126×奥行65×高18mm
質量:約240g
現在、USB・D/Aコンバーターの世界はネットワークプレーヤーの台頭もあり、フルサイズの据え置き型モデルの発売数は沈静化している。対して数が増えているのが、小型筐体を採用したモデルだ。DACチップや回路構成の工夫など、コンパクトだけど高音を追求することで、オーディオファイルの人気を誘い、中でも最近活況を呈しているデスクトップオーディオの分野では、ヘッドホンやスピーカーの向けの用途で実績を伸ばしている。
さて、本Flamingoの仕様について紹介すると、筐体サイズは幅126×奥行65×厚18mmとたいへんコンパクトなもの。手のひらの上に載る大きさだ。質量はわずか240g。
入力端子は、USB Type-B、および同軸デジタル入力を搭載、スマホ等とワイヤレスで接続できるBluetooth接続機能もある。出力はアナログ音声出力(RCA)に加え、フロントパネルには6.35mmヘッドホンアウトを装備する。
これらの特徴は、デスクトップオーディオ環境にフィットする。USBによる有線接続ではパソコン、スマホ、流行りの小型ストリーマー(ネットワークプレーヤー/トランスポート)も利用できるし、家族などのスマホから手軽に音楽を再生することも可能。さらにボリューム調整機能もあるので、やろうと思えば本格的なハイファイオーディオ環境に投入し、パワーアンプとの直接接続も可能だ。
D/Aコンバーターとしての対応レゾリューションも高く、768kHz/32bitのPCM、及び22.4MHz(DSD512)に対応、同社のDACアンプ「X8」で好評だった、音調を可変できる7種のフィルターモードも搭載する。
そしてFlamingoの大きな魅力が、「ECC82/12AU7」と呼ばれる真空管が搭載されていること。その真空管のブランドは、クセのないアキュレイトな音色が高く評価されるPSVANE(プスヴァン)だ。真空管自身は、オーディオ用でも定評のある電圧増幅管で、ライン出力およびヘッドホン出力の両方で、「真空管アンプモード」と、真空管を通さない「オペアンプモード」を利用できる。
「真空管モード」のサウンドは、色彩感にあふれ、感情を揺さぶられるほどの再現性を持つ
ここからは試聴に入りたい、今回はデスクトップ用途を想定して、自宅1F試聴室にシステムを構築した。まずはスピーカー環境にFlamingoを投入する。再生システムは、上流からネットワークトランスポートにiFi audio「ZEN Stream」を使い、FlamingoとはサエクのUSBケーブルで接続する。FlamingoからはRCAケーブルで、トライオードのプリメインアンプ「Pearl」に接続して、カナダパラダイム社のエントリースピーカー「MONITOR SE ATOM」を駆動している。
aune audioの製品群の1つの魅力は、安価であってもデザインがとても洗練されていること。事実、それを物語るように、デスクトップに設置されたFlamingoは、落ち着いた品位のあるシャーシデザインが目を引く。薄型で左右にアールが付けられた筐体は艶消し処理がされたブラックカラーで、天板からは真空管「ECC82/12AU7」が見える。
フロントパネル右側のロータリースイッチは、ボリューム操作と機能切替えが可能で、スイッチをワンプッシュすると入力切替え、ツープッシュでオペ(OPE)アンプ/真空管モードの切替え、長押しでデジタルフィルターの切替えができる。フロントパネル左側は表示部で、入力、フィルターモード、オペアンプ/真空管モードのステータスが表示される。小型DAC製品では、ステータスをLEDで簡素に表示するものも多いが、ここはしっかりとした表示部を持つFlamingoの長所の1つ。
まずはオペアンプモードで定額ストリーミングサービスのAmazon Music HDから宇多田ヒカル「BADモード」(96kHz/24bit)を再生した。クセのない帯域バランスで、価格の割に情報量もしっかりと出してくる印象。1つ1つの音のディテイルもある程度しっかりしており、音像の立体感やボーカルを取り囲むサウンドステージ表現も秀逸。さすがに業務用機の経験を感じさせる、真面目なサウンドだ。
次に真空管モードで同曲を再生したが、一聴して音色が豊になり、色彩感あふれるサウンドに変化する。ボーカルには適度に倍音と響きが乗りより妖艶な雰囲気になる。ソースに対しての忠実度で言えばオペアンプモードに分があるが、どちらが感情的に揺さぶられるかといえば、やはり真空管モードに魅力を感じる。
先述した通りFlamingoの対応レゾリューションは高いので、ステレオサウンド社「ハイレゾリューションマスターサウンドシリーズ」から、シリーズ第六弾となる『ホルスト:組曲「惑星」』を再生した。これは、DECCA黄金期を支えたジェイムズ・ロックが録音エンジニアとして名を連ねた超有名盤であり、英国保管のオリジナル・アナログマスターテープからダイレクトトランスファー、つまりダイレクトにDSD11.2MHzに変換した超絶的なコンテンツなのである。真空管モードの艶やかな音が気に入ったので、最初から同モードで再生した。
総勢110人を超える演奏家によって構成されたオーケストラによる、ダイナミックレンジの広い音源だが、それを忠実に表現しながらも、弦楽器の質感がより増幅された色艶の良い音に感心する。音楽的な楽しさも強く感じられ、真空管の魅力を再認識した次第。
最後は、本楽曲をアメリカ・グラド社の開放型ヘッドホン「The White Headphone」で試聴した。メイプル材のイヤーカップに専用チューニングを施した50mm径ドライバーを搭載した、インピーダンス32Ωのモデルである。オペアンプモードで聴く音は、スピーカーでも感じた、ソースに対して高忠実な再現性で、好印象。本ヘッドホンの個性である、躍動的な音調、音色を素直に表現してくれた。
次に真空管モードで聴取したが、個人的にはやはりこのモードが好きだ。かすかに乗る倍音成分の響きでヴァイオリンなどの音色も良くなり、主旋律を執る楽器の音色のエネルギーがより美しく聴こえてくる。
“真空管の音”を感じられる逸品。真空管の交換が可能など、購入後の楽しみも味わえる
いかがだっただろうか。Flamingoは安価でありながらも、きちんと“真空管の音”を楽しめる製品にまとめられていることを、ご理解いただけただろうか。その、音作りに手抜きが一切感じられなかったことが、僕は何よりも嬉しかった。さらに、所有欲を満たすデザインや機能的にもよく考えられた操作体系も評価できる。加えて、スピーカーやヘッドホン環境で使えるファイル/ストリーミング環境を安価に構築できることは大きな魅力だし、デスクトップ上で仄かに光る姿からは、アナログテイスト溢れる真空管オーディオを使用しているという、満足感が得られるだろう。
なお、本Flamingoには、管球式オーディオならではの楽しみも残されている、自己責任にはなるものの、真空管の交換も可能とのことで、ヴィンテージ管などを利用して音調や音色を変えることができるのは、オーディオファイルには嬉しいことだろう。輸入元のホームページから、真空管交換方法が書かれたドキュメントもダウンロードできる。結果的に、価格対満足度の高いオーディオ機器を紹介できたことを、一人のオーディオファイルとしてひじょうに嬉しく思う。