俺を次元に選んでいただいたのは本当にありがたくてね。
先生の次元は必ず一生守り通しますよ。命かけてやっていますから
声優の小林清志さんが7月30日に急逝された。『ルパン三世』の次元大介役や『妖怪人間ベム』のベム役、映画の吹き替えではジェームズ・コバーン、リー・マーヴィンなど、僕らの“耳”に忘れられない印象を残してくれた名優だ。
弊社では昨年、モンキー・パンチさんの3回忌に際し、そのホームシアター遍歴をまとめた別冊『モンキー・パンチさんが教えてくれた』を刊行している。その中で、小林さんに次元を演じることになったいきさつや、モンキー・パンチさんの思い出についてインタビューをお願いしている。今回、関係各位の了承をいただき、その内容を紹介できることになった。ぜひ小林さんの声を思い出しながら、お読みいただきたい。
1971年にスタートした国民的アニメ『ルパン三世』や、その2年前に制作されたパイロットフィルムから一貫して次元大介を演じているのが、俳優・声優の小林清志さんだ。
今回、別冊『モンキー・パンチさんが教えてくれた』を製作するに際し、モンキー・パンチさんと親交があった方々にもお話を聞いてみたいと思っていた。もちろん小林さんはその筆頭だったわけで、2020年末にナレーションのお仕事の後にお時間をいただくことができた。そのインタビューで、開口一番こんな言葉が。
「わざわざ来てくれて申し訳ないけれど、モンキー・パンチ先生とは個人的な交流があまりなかったんだよ。彼は寡黙な方だし、人との付合いは少なかったんじゃないかな。
先生が時々スタジオに来るでしょ、そこで挨拶はするんだけど、その後にプライベートな話をしたことがないんです。もちろん、出演者と原作者という関係はありましたけどね。先生がオーディオ好きで、ホームシアターを作られたということは聞いていましたが、どんな機械を使っていたのかとか詳しいことは知らないんだよね。
俺もそれほど人なつっこい方じゃないから、先生もそういう人間だと分かっていたんじゃないかな。あまりふたりで膝を交えてと言うわけにはいかなかったね。肝心なことを先生がお話しになって、俺が聞いているということが多かった気がします」
ちなみに、小林さんはモンキー・パンチさんと初めて会った時のことは覚えていらっしゃいますか?
「多分『ルパン三世』 1stシーズンの収録スタジオだったかな。初めてお会いした時に、〝モンキー・パンチ〟という名前から想像した通りの、ぴったりの人だと思ったんだ。付けも付けたり!ってね。
こういっちゃなんだけど猿顔っぽくて、本当にモンキー・パンチとはよく付けたものだと思ってね。ペンネームからして傑作ですよ。小柄でにこにこしてそれでこういう絵を描くんだから凄いなぁと思ったんです」
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次元の声は、先生のリクエスト
さて、小林さんは1stシーズンから次元の声を担当されています。そのキャスティングはモンキー・パンチさんのリクエストだったという話を聞きましたが、本当ですか?
「そう聞いています。次元はもともと『荒野の七人』のジェームズ・コバーンをイメージしていたとかで、当時その吹き替えを演じていた俺を次元の声に起用していただいたんです。先生に、俺を次元に選んでいただいたのは本当にありがたくてね。今では次元は俺の分身だね。そうとしか言い様がない」
収録の際に、役作りに関してモンキー・パンチさんから演技のリクエストなどはあったのでしょうか?
「まったくありませんでした。彼は役について、ああしてくれ、こうしてくれということは一切言わない。スタジオにいらっしゃっても、じっと見ている。ですから俺は、黙っていらっしゃるということは、外れてないんだなと思って演じてました。
次元を演じていて苦労するということはなかったですね。何というか、俺がしゃべれば次元だと感じてもらえるようで、声を作ったということはないんです。そのままの俺の持ち味を発揮してくれればいいと言うことだったんでしょうね」
ちなみに『ルパン三世』のエピソードの中で、小林さんの印象に残っているものはありますか?
「とにかく話数が多いから、ひとつと言われても選べないよね。ただ、次元は俺の沢山ある仕事のひとつではあるけれど、終生関わっていく、共に戦っていくひとりの人物ではあります。それほど大切なキャラクターですよ、俺にとってね。
最近はファンの方から次元の声が老けてきたと言われることもあるけど、一人の役者が一人のキャラクターを演じているわけだから、若いままではいられない。役者というのは、自分の成長につれて役との取り組み方も違ってくるんだから、若い時の声を出せと言われても無理だよね。
今の次元でも俺が精一杯あてている方がいい、若い声を出してそらぞらしい演技をすることはないんじゃないかなと思っているんだ。ファンの中にはそれじゃ満足しない人もいるかもしれないけど。ただ、みんなの次元のイメージに近づけようと思って努力しているから、それは認めてくださいね」
あるインタビューで、モンキー・パンチさんが「ルパンのキャラクターは声優さんに育ててもらった」と話されていましたが、皆さんのチームワークはよかったのでしょうか?
「ヤスベエ(山田康雄さん)とは死ぬほど飲んだなぁ。あいつは飲んでベロベロになると、夜に電話がかけてくるんだよね。また昔は吹き替え収録の仕事が終わると、みんなで飲みに行ってたんです。納谷ちゃん(納谷悟朗さん)とは番組が一緒だったから、よく出かけましたよ。最近は体調を壊したこともあって、ほとんど飲みにいくことはないな」
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絵が違っても、演じるのは同じ
『ルパン三世』は時代によって絵柄も変化してきていると思います。次元を演じるにあたって、絵の違いは気になるものでしょうか?
「俺が大雑把なのかもしれないけど、あまりそういうことを意識したことはないね。ただ、手描きの絵は懐かしい。紙芝居みたいとかいわれるけど、昔の味は捨てられないね。吹き替えの現場でも多く触れているしね。この前の3D CG(2019年公開『ルパン三世THE FIRST』)もいいけど、ちょっと異次元な気もする。
ただ、絵が違っても演じることはまったく変わらない。俺は役者だから、次元だけじゃなく、洋画の登場人物など色々なキャラクターになる。確かに次元は俺の終生の相棒だけど、他にもいろいろやっていますから、その意味では演じるのは同じです」
最後に、小林さんから見て、モンキー・パンチさんはどんな方だったのか、お聞かせ下さい。
「見た目の通りだったね。朴訥でシャイで、中に何か秘めている感じのする人だよね。大人しそうな雰囲気なのに、いざ漫画を描くとあんな凄い絵をさっと描くでしょ、たいへんな才能だよな。しかも色々な表情を描くって、たいしたもんだよ。その姿は神に近かった。本当だよ。
俺も昔はジャズが好きでよく聴いていたんだけど、先生と音楽の話をしたことはなかったね。ホームシアターもどんな部屋を作っていたのか知らないんだよ」
ここで小林さんに、ホームシアター完成時の記事(別冊126ページ)をご覧いただいた。
「凝り性というか、本当に凄いね。『積年の夢が叶った!』とあるけど、本当にそうだったでしょうね。
今考えると、先生ともっと個人的に親しくしていたらよかった。こっちからどんどん押しかけていけばと思うと残念だよね、先生から色々な知識を教わっておけたらと思います。もうちょっとお話ししたかったよな。
先生には、まだ次元をやってます、頑張ってますよ清志は、とお伝えしたいですね。先生の次元は必ず一生守り通しますよ。命かけてやっていますから、と」
インタビューの後、別冊誌面に掲載したイラストをご覧いただいた。その中で小林さんが気に入っていたのはやはり次元で、「12、20、35ページの絵がいいね」との感想。ぜひもう一度これらのイラストも見直していただきたい。(取材・文:泉 哲也)
小林 清志(こばやし きよし)さん
1933年1月11日生れ、東京都出身。日本の声優、俳優、ナレーター。所属事務所は東京俳優生活協同組合で、同組合の創立メンバーの一人。
日大芸術学部演劇科卒業後は、劇団泉座で俳優活動を行ないながら、特技の英語を活かして外国映画の台本翻訳を手がけていた。それがきっかけで吹き替えの仕事にも関わるようになる。当時はアメリカのテレビドラマ『ジス・マン・ドーソン』の翻訳をしながら、同時に主役ウィリアム・コンラッドの声を吹き替えていた。その後1969年に泉座が解散。
1971~1972年頃から声の仕事が増え、1971年にスタートした『ルパン三世』では次元大介を担当している。テレビ映画やバラエティ番組などのナレーションも多く担当。洋画ではジェームズ・コバーン、リー・マーヴィンらの専属吹き替えを務めている。