『オビ=ワン・ケノービ』
●スタッフ:出演:ユアン・マクレガー(オビ=ワン・ケノービ役)、ヘイデン・クリステンセン(ダース・ベイダー役)他●監督:デボラ・チョウ●配信スケジュール:毎週水曜日にディズニープラスにて独占配信 (C)2022Lucasfilm Ltd.
●Disney+(ディズニープラス):ディズニーがグローバルで展開する定額制公式動画配信サービス。ディズニー、ピクサー、マーベル、スター・ウォーズ、ナショナルジオグラフィックの名作・話題作に加え、スターブランドとして大人が楽しめるドラマや映画も充実、ここでしか見られないオリジナル作品も続々登場する。
泉 Disney+(ディズニープラス)で、『オビ=ワン・ケノービ』の配信がスタートしました。『マンダロリアン』『ボバ・フェット』に続く『スター・ウォーズ』テレビシリーズで、しかも主人公があのオビ=ワンということで、ファンの間では話題沸騰中です。
現段階(6月6日)で第3話まで配信されていますが、今日はこれまでの感想と今後期待したいことについて、『スター・ウォーズ エピソード 4/新たなる希望』原体験世代の酒井俊之さんとStereoSoundONLINE編集部・泉で語り合ってみたいと思います。
個人的には、『オビ=ワン・ケノービ』は『エピソード3/シスの復讐』と『エピソード4』の間をつなぐストーリーということで、かなり期待していました。酒井さんは、今回のシリーズについてどう思っていたのでしょうか?
酒井 マンダロリアンはテレビシリーズで初めて出会うキャラクター。ボバ・フェットは馴染みはあるけれど、いわゆるサブキャラクター。今回は他ならぬオビ=ワンですからね。『エピソード3』以降、彼はどう過ごしていたのか。他とは比べようがない重要な人物ですね。
泉 しかもルークの一番近くにいたという設定ですからね。その間のタトゥイーンとはどんな様子だったんだろうということも気になります。
酒井 ルークを見守るためにオビ=ワンは間違いなくタトゥイーンに居るだろうということや、また今回はヘイデン・クリステンセンが出演するとも発表されていました。ダース・ベイダーとして姿を変えたアナキンが描かれるわけですから、期待値は他のシリーズとは全然違います。
泉 まぁ僕らの世代は、ベイダーが出てくるだけで反応してしまうという宿命もあるんですけどね(笑)。
酒井 オビ=ワンといえば『エピソード4』のアレック・ギネスなんだけど、『エピソード3』や今回のシリーズではユアン・マクレガーが演じている。これまでの描写ではふたりのオビ=ワンは微妙に違う印象もありますが、ユアン・マクレガーのオビ=ワンから、アレック・ギネスのオビ=ワンにどう変化していったのか? そんな部分も後半のエピソードで描かれると嬉しいな、という期待もしています。
第1話 オビ=ワンそしてレイアの登場
泉 さてそんな『オビ=ワン・ケノービ』を第3話まで見終わったわけですが、まずは第1話の印象から振り返ってみたいと思います。
酒井 タトゥイーンでルークを見守りながら隠遁生活をしている、食べるためにその日暮らしをしているオビ=ワンの姿が描かれていました。このベンの姿はまさにイメージしていた通り。かつてのジェダイ時代からの凋落ぶりには胸が熱くなりました。
泉 僕はオビ=ワンはもっとルークに近い場所にいるのかと思っていたので、案外すさんだ暮らしをしていたんだなぁと、ちょっと意外でした。オビ=ワンとしてジェダイという立場から逃げようとしている、フォースを封印しようという思いを強く出していると思ったんです。
酒井 『エピソード3』でアナキンと戦い、さらにパドメまで亡くしてしまい、オビワンは失意の底にあった。ジェダイも風前の灯という状態ですからね。
泉 第1話のオビ=ワンは、アナキンが生きていて、ベイダーになっていることは知らないし、そもそも自分のパダワンだったアナキンがダークサイドに落ちたわけだから、その責任を誰よりも感じているわけですよね。
酒井 第1話でオビワンは、“もうジェダイの時代は終わった”と言っています。生きる希望を失っているとは言わないまでも、ルークを見守ることだけがかろうじて生きるすべになっている。年齢的にも我々の世代に近いキャラクターということもあり、どこか身につまされるというか、心情が推し量りやすいですよね。そういった意味でも、物語の始まりとしては上々の滑り出しだと思いました。
ジョン・ウィリアムズの重厚なテーマ曲や、シリーズ初登板のナタリー・ホルトによるスコアも生のオーケストラのサウンドが押し出されていて、『マンダロリアン』や『ボバ・フェット』とは違うイメージ。ディズニープラスのオリジナルシリーズというよりは、映画の続編を見ているような感じですよね。『エピソード3.5』的な装いも気に入りました。
泉 確かに、第1話はサーガの流れを受け継いでいる、そう思える展開でした。
酒井 そしてルークではなく、まずレイアの幼少時代が描かれていたのでこれは予想外で驚きました。その後のレイアを彷彿とさせるには充分でしょう。
泉 このまま成長したら『エピソード4』のあのレイアになるなぁと思わせてくれて、ファンとしても嬉しかったですね。
酒井 第1話で印象的だったのは、オビ=ワンが精肉所と隠れ家を往復する日常の繰り返しの中で、ストーリーが進むに連れて、オビ=ワンの心情の変化や揺れが彼の動作で描かれていたことですね。
泉 というと?
酒井 仕事終わりに肉を切って、ひと切れ包み隠して、ナイフを拭くという一連の動作が3回出てくるんですが、その動きが微妙に違っていますよね。後になると、ナイフを拭いた布をテーブルに叩きつけたりしている。周囲で様々な事件が起こり、オビ=ワンの気持ちが揺れ動いていることを細かな所作で描く、ていねいな演出だと思いました。
泉 いっぽう、新しいキャラクターとして尋問官が出てきました。元ジェダイで、今はジェダイを狩っている存在という面白い設定です。中でもサード・シスターは今後のキーになりそうです。
酒井 冒頭にオーダー66が発動された後のジェダイ聖堂のシーンが出てきますが、ここに子供のパダワンたちがいました。サード・シスターは多分あの中のひとりではないでしょうかね? では彼女がなぜジェダイ狩りやオビ=ワンに執着することになったのか、なぜベイダーと近い立場にいるのかも気になります。そのあたりのエピソードも後半では登場しそうですね。
第2話 ダース・ベイダー登場
泉 第2話では、いよいよオビ=ワンが砂漠に埋めたライトセーバーを掘り出し、宇宙船に乗ってレイアの救出に向かうわけで、 “再生の物語” が動き始めます。
ただ、個人的にはここから一大冒険活劇になるのかと思っていたんだけど、そうでもなかったですね。特にオビ=ワンがなかなかライトセーバーを抜いてくれない。ここはやきもきしました。
酒井 アクションシーンは出てはきますが、そこまで本格的という感じでもありませんでしたね。
泉 ビルから落っこちたレイアを救うためにフォースを使うシーンは印象的でした。
酒井 ここは第2話の胸熱ポイントでしょう。初めてオビ=ワンがフォースを使う。ところが往時のような力強さはまったくなく、小さなレイアを助けるだけで息も切れ切れというのがなんとも……。
泉 この10年間はフォースを使うのを禁じてきた、そんな感じもしましたね。アナキンのことがトラウマになって、ジェダイの力に対して何かしら忸怩たるものがあったんじゃないでしょうか。
酒井 そうでしょうね。レイアを救うために行動しているうちに、ジェダイの精神を取り戻していく姿を描こうとしているんだな、という意図が伝わってきました。
他にも、アニメ版の『クローン・ウォーズ』に出てきたトルーパーが物乞いをしているシーンがあったりして、しかもちゃんとテムエラ・モリソンが演じている。そういうところはファンサービスも含め、目配せがされているなぁと思いました。
泉 さて第2話の最大のポイントは、なんといってもダース・ベイダーの登場でしょう。
酒井 まさか、もう、第2話でベイダーが出てくる(笑)。
泉 しかもラストでオビ=ワンがアナキンが生きていたことを知るわけで、ここもファンには胸熱でしたね。
酒井 オビ=ワンはムスタファーでの対決で、自分の手でとどめを刺すことはできなかったけれど、アナキンは溶岩に焼かれて死んだものと信じていたわけですからね。
でもアナキンは生きていた。驚きと同時に、彼を生かしてしまったことへの後悔の気持ちと、しかしいっぽうではアナキンを殺してはいなかったのだという安堵感もあったかもしれないなぁと思ったりもしました。
第3話 オビ=ワン vs ダース・ベイダー
泉 そして第3話では、ビジュアルでベイダーの火傷の跡、機械に生かされているところまで再現されていて。『エピソード5/帝国の逆襲』の同様のシーンからすると隔世の感がありました。
酒井 冒頭ではアナキンがベイダーへと姿を変えていく描写が登場します。ここは思わず息が詰まるほどの緊張感がありました。
泉 その後も『エピソード4』以上に残虐で、ダークサイドの怖さを持った存在としてのベイダーが描かれています。圧倒的な存在感と畏怖を感じさせるキャラクターとして申し分ない。
酒井 『ローグ・ワン』の衝撃を凌ぐほどのベイダーの無慈悲ぶりですね。
泉 そんなベイダーがサード・シスターのバックにいたわけで、オビ=ワン捜索の目的がどこにあるのかも気になるところです。
酒井 自分をこんな姿にしたオビ=ワンに復讐するのだという私怨もあるでしょうし、シスとしてジェダイの生き残りを壊滅させたいという使命感もあるでしょう。でもそれだけではなさそうな感じもありますね……。
泉 それが明らかになる前に、第3話で早くもライトセーバー戦が始まりました。個人的には、オビ=ワンとベイダーがこんなに早く対峙するとは思っていなかった。僕と同様に、全6話のクライマックスじゃないかと思っていた人も多かったでしょう。
酒井 第3話でもうライトセーバー戦!? 早いなっ! と(笑)。
泉 しかもオビ=ワンがこてんぱんにやられてしまいますからね。
酒井 闘わないオビ=ワンの姿もショックでした。オビ=ワンはベイダーが市井の人々をフォースで痛めつけているのを見ているし、自分のフォースが弱くなっていることも分かっている。対峙しても『エピソード3』の時のように勝てるとは思っていなかったでしょうね。
泉 常に最前線にいたベイダーと、隠遁生活を続けていたオビ=ワンの差が明確に出たと。
酒井 シリーズのクライマックスになりそうなベイダーとオビ=ワンのライトセーバー戦を、なぜこんな早いタイミングに持ってきたのか考えた時に、再びふたりの対決があるんじゃないか、と思ったんです。
『エピソード 3』の最後でアナキンがダース・ベイダーへと姿を変えた時に、“パドメはどうしました” とパルパティーンに訊ねていますよね? アナキンはまだベイダーの中にいるわけです。今回ベイダーがオビ=ワンを捜索しているのも、実は “アナキン” としてオビ=ワンと対峙したいという気持ちからではないかな、と思っています。
泉 なるほど、そこまでは考えつきませんでした。
酒井 ベイダーがオビ=ワンを炎責めにして、“お前の苦しみは始まったばかりだ” と言う場面。あのシーンでベイダーがオビ=ワンを見つめている。そのヘルメットの横顔や背中越しのショットをじっくり見せている。ベイダーは今何を思っているのか、アナキンは何を考えているのか。
あのシーンを見て、自分が対決すべき相手はこのオビ=ワンではないとベイダーは感じていたんじゃないかと思いました。『エピソード3』のジェダイマスターとしてのオビ=ワンと戦いたいのだと。それは必ずしも復讐という気持ちだけではないように感じるんですよね。
泉 このシリーズは、オビ=ワンの再生ストーリーですよね。引きこもっていたオビ=ワンにレイアが絡んで、彼女の活発なキャラクターがお話を引っ張っていく。それをメインの筋として、ベイダーの中のアナキンという、善と悪の対峙が盛り込まれていくということですね。
酒井 オビ=ワンにはオビ=ワンの、アナキンにはアナキンの再生があるでしょうし、レイアにも自分はいったい何者だろう? という思いがあるはずです。オビ=ワンと一緒に逃げている間にもそういうことを匂わせる描写がありました。『エピソード4』へと続く、彼女のこれからの生き方を模索している物語のようにも思えるんです。
泉 キャラクターの描き込みとしてはていねいにすごくやっているし、それがちゃんとできれば『エピソード3』と『4』の橋渡しとしては成功だと思います。
酒井 第1話から名前が出ているクワイ=ガン・ジンの存在も気になりますね。彼がどのタイミングで登場するのか。オビ=ワン流に言うと “暗闇の中の光” を見いだすきっかけとなる存在になるのかもしれません。オビ=ワンは『エピソード4』で自分からベイダーに斬られて霊体になるわけですが、その理由もこのシリーズでは描かれるんじゃないかと期待しています。
泉 確かに『エピソード3』のラストで、ヨーダからクワイ=ガンと会話する方法を教えると言われただけで、その伏線はまだ回収されていませんからね。
酒井 あとは、オビ=ワンがルークとどこまで接点を持つのか。特に第1話でオーエンに突き返されたスカイホッパーのおもちゃが、いつルークの手元に届くのか、ですね。
泉 『エピソード4』で持っていたから、必ずルークの物になるはずですからね。
酒井 『エピソード4』へと続く物語の結論はわかっているわけですから、どうお話をうまくつないでくれるか、でしょう。何より、これでオビ=ワンとベイダーとの対決は終わり、っていうことになったら『エピソード4』につながらないじゃん、って感じですしね(笑)。
デボラ・チョウらしい、アクションシーンに期待!
泉 各話の印象の他に、1〜3話で気になった点などはありましたか?
酒井 今回の『オビ=ワン・ケノービ』の監督はデボラ・チョウ。彼女は『マンダロリアン』で胸熱なエピソードを担当していたわけで、今回はどういうアクションシークエンスを演出してくるかも楽しみでした。ただ、もうちょっとアクションのテンポ感をあげてもいいんじゃないか、と感じてはいます。
泉 具体的にはどのあたりでしょう?
酒井 例えば第2話。オビ=ワンが賞金稼ぎと屋上で銃撃戦を繰り広げますが、ちょっとまどろっこしい気もしたんです。オビ=ワンが実力を発揮しきれていないというのもあるでしょうが、撮り方、編集のテンポを含めて、もっと見ていて熱くなる感じが欲しいですよね。
泉 確かに、全体的にスローペースというか、戦闘の緊迫感などがいまひとつ表現できていないかもしれませんね。
酒井 『マンダロリアン』では、カッティングもシャープでテンポ感もよかった。もちろんスタッフも違いますからまったく同じイメージで、とはいかないでしょうが、デボラ・チョウの演出を楽しみにしているファンとしては、もうひと息頑張って欲しい気もしています。
泉 最近のハイスピードな戦闘シーンを見慣れた側としては、今回のペースは物足りない部分もあります。
酒井 それは第3話でも感じました。例えばオビ=ワンが遂にライトセーバーを起動する瞬間では、思わず膝を打つような演出を楽しみにしていたんですが、意外とあっさり流しちゃったな(笑)、という物足りなさがありました。
『オビ=ワン・ケノービ』は『エピソード4〜6』に近い、懐かしい感じの絵の切り取り方みたいなものも感じますよね。敢えてちょっとフィルム時代に寄せているのかなぁと。それがもしかしたらアクションシーンの印象につながっているのかもしれませんが。
泉 自宅では、第3話をドルビービジョン対応の有機ELテレビとSDRプロジェクターで見比べましたが、暗闇でのライトセーバー戦の描写はドルビービジョンでこそ凄さがわかると思いました。
酒井 僕はHDR10対応のプロジェクターとウルトラワイドモニターで見ましたが、光の演出、コントラス再現が良好でした。暗い中にもちゃんと色彩が再現されていたし、ベイダーの胸のパネルの細かい光もしっかりと見て取れました。
暗い中でのライトセーバー戦はHDR映えしますよね。黒は沈んでいるんだけど、一方で鮮やかなセーバーの光の強さ、青や赤の色味はちゃんと出ている。
泉 バーチャルプロダクション撮影という点を含めて、技術的には相当練った撮影がされているのは間違いありません。そこは文句なしですから、後はファンが納得する落としどころですね。
サウンド面では、本作はドルビーアトモスで配信されていますが、その効果はかなり控えめです。個人的にはそこがちょっと残念です。
酒井 作品の世界観は伝わってきますが、確かにドルビーアトモスのお手本! といった使い方ではないな、という印象です。できればどこかでジョン・ウィリアムズの手による旧シリーズからの劇伴も流してくれると嬉しいんですけどね。
泉 確かに! そうなると、『スター・ウォーズ』サーガのひとつとして、ファンの心に間違いなく響くでしょう。残り3話、そこまでの展開を期待します。
これからのエピソードにも、熱い展開を期待したい
酒井 思うところはいろいろありますが、まだ第3話、物語なかばでの印象、感想ですからね。第4話以降で出てくるであろうシークエンスとか、発表になってないキャラクターが登場してくるかもしれないなぁとか、これからの展開が楽しみで仕方がないのは間違いのないところです。
泉 オビ=ワンは、私はジェダイとして生きるべきだと悟って “最強に再生” するという、そんな姿をやっぱり見たいし、それが描かれれば、シリーズとして成功だと思います。
酒井 『エピソード1〜3』から入った世代と『エピソード4〜6』から入った世代で、本作の受け取り方にも違いはあるかもしれませんね。言葉遊びのようになりますが、『エピソード3』のあとの物語と考えるのか、『エピソード4』の前の物語だと考えるのか。
泉 確かに、最初に『エピソード4』と出会った世代なのか、サーガを年代順で体験したかで『オビ=ワン・ケノービ』が持つ意味は違いますね。
酒井 それが『スター・ウォーズ』でしょう。長い間続いているシリーズだし、『エピソード4〜6』や『エピソード1〜3』のリアルタイムじゃない世代も今回の配信を見ているわけですからね。だからこそ、落としどころが難しいともいえます。
泉 泣いても笑ってもあと3話。座して水曜日の配信を待ちましょう。
対談メンバー:酒井俊之、泉 哲也