2021年は小型で性能のよいハイファイコンポーネントの存在感が増した年だった。イギリスのコード・エレクトロニクスが発売した、超小型のアナログインテグレーテッド/ヘッドホンアンプ「ANNI」(アニー)もそのひとつだ。
同社は、フルサイズボディのハイエンドシリーズ「Reference Range」を頂点として、多くのシリーズを展開している。
ANNIはその中でも、もっともコンパクトな筐体を持つ「Qutest Range」に属しており、先に発売されたD/AコンバーターのQutestやフォノイコライザーのHueiと組み合わせる高性能な小型デスクトップシステムの鍵となるピースとして開発された。
ANNIのシャーシサイズは横幅わずか160㎜とかなりコンパクトだが、筐体はCNCマシーンで高品位なアルミ材から削り出され、いわゆる小型ハイエンドの製品レンジに位置する。別売の「Qutest System Stand」という専用スタンドを利用するとQutestやHueiと積み重ねて場所を取らず設置できる。
前面部には、ボリュウムノブおよび6.35㎜と3.5㎜のヘッドホン端子(アンバランス)を搭載。ゲインと電源ボタンはコード製品らしく、カラーでステータス表示がわかるLEDが搭載されている。
背面部にはRCAアンバランスの2系統のアナログ入力と4㎜径のバナナプラグ専用のスピーカー端子、さらにQutestやHueiへの給電端子が2系統装備される。
ANNIでもっとも重要視したのは、小型でも音質には妥協しないこと。同社開発陣によると、ANNIの内部寸法はひじょうに小さく、開発はチャレンジングだったという。
例えば、オーディオ用にはあまり使われない縦型構造のMOS FET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスター)を搭載し、各デバイスを個別に熱感知および監視。さらに制御アンプのプラスとマイナスをデュアル・フィードフォワード・エラー補正回路で制御し、親指の爪ほどの小さなセラミック・トランスを4個使用することで得られた、12000µF電圧を小型かつ強力なコンデンサーに蓄える回路の搭載など、独自技術が多数搭載されている。
密度感が高い音が特徴。
Qutestとの相性はさすが
そんなコンパクトなANNIの実力やいかに? 今回はモニターオーディオの2ウェイブックシェルフスピーカーPL100Ⅱを駆動しハイレゾファイルを再生した。
筆者所有のMacBook Proをトランスポートとして、QutestとUSB接続。QutestとANNIはRCAアンバランスケーブルで接続して、女性ヴォーカルのオリヴィア・ロドリゴ『SOUR』を再生した。
歪みがなく、全体域がシルクのように密度の高い音というのが第一印象。ダイナミックレンジが広く、抑揚表現への追従力が高い。センター定位するヴォーカルと逆位相成分がたっぷりなコーラスの対比も秀逸。派手な音ではないが、一聴して音のよさがわかる。ずっと聴いていたくなるような良質な再生音だ。
チャンネルが10Wと出力が低いので、大音量という訳にはいかないが、QutestのDAC回路の音のよさをアンプがスポイルせず出している印象で、純正同士の組合せの相性のよさを感じる。
シアター環境でのクォリティチェックでは、パナソニックのUHDブルーレイプレーヤーDP-UB9000とANNIをこちらもRCAアンバランスケーブルでアナログ接続。『フォードvsフェラーリ』のチャプター1では、一聴してエンジンのメカニカルノイズに情報量を感じる。派手さはないが、スムーズで歪みのない音で、とにかくセリフの質感が自然なことに感心した。
10Wという出力のため、中〜大規模なビジュアル用途には向かないが、パソコンやタブレットを用いた良質なニアフィールド環境を構築したい場合にはおおいに利用できそう。
10Wという出力のため、中〜大規模なビジュアル用途には向かないが、パソコンやタブレットを用いた良質なニアフィールド環境を構築したい場合にはおおいに利用できそう。
先述したとおり、小型で高品質なのーディオ製品が増えてきた昨今だが、ANNIは、ハイエンドハイファイオーディオファイルやコアなポータブルファンから評価されるコードの技術力が投入された製品である。同社のロードマップ上にはQutestシリーズの新作も予定されているというので今後も期待したい。
https://www.chordelectronics.jp/products/qutest-range/anni/