先月末に、Bang & Olufsen(B&O)の完全ワイヤレスイヤホン「Beoplay EQ」が発売された。EQとは「Ear Quiet」の意味で、同ブランドとして初めてアクティブノイズキャンセリング(ANC)機能を搭載したことも注目を集めている。
さらに新開発の6.8mmドライバーを搭載し、同社従来モデル(ドライバー径5.2mm)よりも豊かなサウンドを実現、屋外を含めた様々な環境下で快適な音楽体験ができるよう配慮されている。
ワイヤレスイヤホン「Beoplay EQ」 ¥39,900(税込)
●ドライバー:6.8mmダイナミック型
●再生周波数帯域:20Hz〜22kHz
●Bluetoothコーデック:SBC、AAC、aptX Adaptive
●連続再生時間:最大6時間(AAC、ANC/オン)、最大7.5時間(AAC、ANC/オフ)、最大5.5時間(aptX Adaptive、ANC/オン)
●寸法/質量:本体=W24×H22×D27mm/8g、充電ケース=W77×H26×D40mm/50g
ノイズキャンセリング機能としては、イヤホン本体に6つのマイクを搭載し、外側・内側それぞれの環境音を測定して、フィードフォワード・フィードバック双方で最適な効果を実現。その際のアルゴリズムは、同社製のヘッドホンで使われているものをベースにイヤホン用にカスタマイズしているそうだ。
なおBeoplay EQでは周囲のノイズ量に合わせて11段階のキャンセリング効果を自動的に調整しており、これをオン/オフで切り替える仕組みになっている。その操作は左イヤホンのB&Oロゴマーク部分を2回タッチすることで可能だ(外音取り込み/ANCオン/オフがサイクリックに切り替わる)。
ちなみに同社では、ノイズキャンセリング効果をユーザーが任意に選択できるモードを準備中で、後日のファームウェアアップデートで実装される予定という(設定はスマホ、タブレットのB&Oアプリから行う)。
さて今回、Beoplay EQの試聴機を借用できたので、1週間ほどテストしてみた。以下でその感想をお届けしたい。
まずケースを手に取ってみると、仕上げも美しく、表面のなめらかさが心地いい。素材には航空機グレードのアルミを使い、アノダイズ処理を加えることで耐摩耗性に優れた製品に仕上げている。アルミを選んだことについては、そもそもB&Oはスピーカーキャビネット用にもアルミを採用するなどこの素材に造詣が深く、さらにリサイクルが可能で、軽量性、強さに優れていることも要因だったという。
先日の新製品発表会では、同社グローバルマーケティングディレクターのマイケル・ジョン・ハードマン氏が、ワイヤレスイヤホンは製品の性格上、外に持って行くことが多いので、その際にひっかき傷などが付きにくいように配慮したと話していた。確かにこのサイズや仕上げなら、ズボンのポケットや鞄にむきだしで入れても心配なさそうだ。
B&Oの従来モデル「E8 Sport Rapha Edition」と比べてみると、充電ケースの幅はほぼ同じで、高さはBeoplay EQの方が3分の2ほどと小さいが、奥行は5mmくらい大きくなっている。
イヤホン本体は、Beoplay EQは内蔵ドライバーが大きくなってはいるが、デザイン面の配慮もあって見た目はほぼ同じくらいに感じる(実際にはE8 Sportより3辺それぞれ1〜2mm大きい)。また左右間の通信用アンテナを周辺部に内蔵し、通信の安定性を高めるといった工夫もされている。
まずはiPhone 12とペアリングして、Beoplay EQの音を聴く。BluetoothのコーデックとしてSBC、AAC、aptX Adaptiveの3つに対応しているので、この組み合わせの場合はAACで接続されていることになる。
B&Oのワイヤレスイヤホンは、これまでも「E8 3RD GEN」や「E8 Sport」などを聴いたことがあるが、どのモデルでも自然なヴォーカル、安定した低音感を楽しむことができ、個人的にも気に入っている。
今回のBeoplay EQも基本的な方向性は同じで、カーペンターズの『シングルス1969-1981』ではカレンのつややかな歌声、自然な高音の伸びを聴き取ることができた。ビリー・ジョエル「ザ・ストレンジャー」のイントロの口笛の細かな反響、定番のイーグルス「ホテル・カエリフォルニア」のギターやドラムといった楽器の音色、細かいニュアンスもきちんと再現される。
他にも電子楽器やクラシックなどを聴いたが、どのジャンルでも特定の帯域を強調するといったことがなく、音源を素直に再生している印象だ。こういった演出感のなさがB&Oの魅力なのだと再確認した。またBeoplay EQではウッドベースなどの低音感にゆとりも出ているように感じる。このあたりは微妙な違いだが、ドライバーが大きくなった恩恵なのかもしれない。
さてここまではANC機能をオフの状態で聴いているが、そもそも同社のイヤホンは装着時に本体を耳甲介(耳のくぼみ)に固定することで、外部ノイズをカットできるようになっている。Beoplay EQも、イヤーチップを奥まで差し込んで、本体を軽く回すようにして耳甲介にフィットさせるだけでそれなりの遮音効果が確保できている。
それもあってANCオフでも不満はなかったのだが、試しにANCをオンにしてみて驚いた。時節柄リモートワークが多く、今回の試聴も自宅のリビングで行っている。そのためそれほどノイズが多いわけでもないし……と考えていたのだが、これが違っていた。
普段気にしていなかった天井のエアコンの動作音がすっと収まって、まさに演奏している場の空気感が変化したのだ。女性ヴォーカルやギターの弦の響きがクリアーになり、細かいニュアンスまで聴き取れる。ANCオフ時には無意識にシカトしていた送風音によって、実は音楽情報がマスクされていたわけで、ANCをオンにすることでそれらがきちんと再現された、ということだろう。
何より嬉しいのは、ANCオン/オフで音質に大きな変化がないこと。現在のBeoplay EQのノイズキャンセリングは、先述の通り外部ノイズに対して効果を自動調整しており、極端に強く働かせてはいないようだ。それもあって、 “控えめだが適度なノイズキャンセリング” が得られている。個人的にはこの効果はとてもいいバランスだと感じた次第だ。
だたし(これは他のレビューでも言われていることだが)、ANCのモードがわかりにくい点は改善して欲しい。現状は外音取り込み/ANCオン/オフの3モードを切り替えた際に動作音が入るだけで、今どのモードで聴いているのかが分からない。動作音ではなく、現在のモードをアナウンスしてくれればより使いやすくなるだろう。
さてせっかくなのでiPhone以外のデバイスとつないだらどうなるかも試してみた。iPad AirとペアリングしてiPhoneと同じ楽曲を聴いてみたところ、ベースやドラムの低音感はiPad Airの方が少し力強いかも、という印象。コーデックはAACのはずだし、再生ソフトはどちらもiOS用のfoobar2000なので、再生環境は共通。あるいはiPhoneとiPad Airの電源容量などの違いが影響しているのかもしれない。
またBeoplay EQはaptX Adaptiveコーデックにも対応しているが、残念ながら手元のスマホやタブレットはiOSなのでどれも非対応。せっかくならAAC以外のコーデックでの音を聴いてみたいと思い、クリエイティブメディアの「BT-W3」を準備した。
これはUSB Type-Cコネクターに取り付けてBluetooth信号を送り出すツールでSBC、aptX、aptX HD、aptX LLの送信が可能。Beoplay EQと組み合わせたらどのコーデックまで使えるのかも気になっていた。
使い方はBeoplay EQとペアリングしたBT-W3をiPad AirのUSB-Cに取り付けるだけ。これで音楽再生を楽しめるし、その際にどのコーデックで送信しているかはBT-W3のLEDの色で識別できるようになっている。
さっそく再生をスタートすると、BT-W3のLEDが緑色に点灯した。これはaptXで接続されているという意味で、残念ながらハイレゾ相当で伝送できるaptX HDで再生というわけにはいかなかった。
ちなみにaptXのサウンドはAACよりも音圧が抑えめで、少し落ち着いた上品な方向なので、クラシックなどはこちらの方が好みという方もいるだろう。ただし女性ヴォーカルなどではAACとの違いはほとんど分からなかったので、そのためにBT-W3を追加するかは微妙。
願わくばBT-W3のような小型Bluetooth送信機で、aptX Adaptiveに対応したモデルが欲しい。それがあればiPad Airのような再生機とBeoplay EQ間がハイレゾ品質で伝送されるので、音楽にもっと没入できるはずだ。あるいは低遅延を活かして映画作品も違和感なく楽しめるかもしれない。Beplay EQは、そんな期待を持たせてくれる音質を備えていた。
(取材・文:泉 哲也)