東京国立博物館とNHKは、8K映像技術を使った共同研究「8K文化財プロジェクト」を発足させ、その成果の第一弾発表会を、東京国立博物館内において開催した。今回ピックアップしたのは、青森県の木造亀ヶ岡出土の「遮光器土偶」(重要文化財)、および400年前の京都を活写した「洛中洛外図屏風 舟木本」(国宝)。会場には、8K文化財プロジェクトによって同2作をデータ化した各種展示・体験・上映コーナーが臨時で設けられ、同プロジェクトの展望する“新たな美術鑑賞方法”の提案が、実地で体験できるようになっていた。
8K文化財プロジェクトとは、8K映像技術や最新の3Dスキャナー、フォトグラメトリ技術(写真から、3Dデータを作成すること)を用いて、東京国立博物館に所蔵されている各種文化財の超高精細映像による3D CGデータを作成し、デジタルツールと組み合わせることで、宝物の細部の研究を進めると同時に、これまでない文化財の鑑賞方法(=楽しみ方)を訴求・追求するためのもの。
会の冒頭に登壇した東京国立博物館 副館長の井上氏の言によれば、「展示されている状態では確認できない細部が見られるようになるなど、新たな鑑賞手法によって、誰もが文化財を楽しめるようになり、それを通して“心の豊かさ”につながるような美術鑑賞の在り方を提案したい」とのことだ。
では実際にどうしたのかと言うと、立体物では、「形状」と「色や質感」を別々に測定し、出来上がったデータをさらに合成することで、最終的に高精細な3D CGデータを創造しているという。
今回の例で言えば、「遮光器土偶」については、3Dスキャナーを用いてその形状を精緻に計測。内部についてはCTスキャナーの画像を組み合わせているという。後者は、デジタル一眼レフカメラを用い、立体物の周囲を210枚撮影。フォトグラメトリによって3Dモデルとテクスチャを作成し、その後、3Dスキャナー映像と組み合わせることで、精密なモデリングデータとしているそうだ。
一方、「洛中洛外図屏風 舟木本」では、後者のデジタル一眼レフ機を用いての撮影がメインで、屏風全域を200カ所以上に区切って撮影。それらを合成して一枚のデータとしているという。撮影一枚当たり8192×8192ピクセルの解像度を持ち、それを210枚合成しているそうだ。会場では、アストロデザインの8Kプロジェクターを使って330インチの画面に映像を投写していたが、実寸では5センチ角ほどの人物を画面いっぱいに拡大しても、画像が粗くなることもなく精細感を保って表示されていた。ちなみにこの映像は、ゲームコントローラーを使って自由自在に移動・拡大・縮小が行なえるようになっており、将来的にこの展示方法が博物館に導入されれば、来館者は文化財の見たいと思う部分を自由に移動・拡大して楽しむことができるようになるだろう。
同プロジェクトでは、東京国立博物館が創立150周年を迎える2022年へ向けて、年3作ほどデジタル化を行ない、2022年には今回の2作を含めて合計8作を、プロジェクトの成果として展示したい、という目標を語っていた。
また、今年の7月には、「聖徳太子と法隆寺」展が開催予定(@東京国立博物館 7/13~9/5)になっているそうで、同展に展示される「百済観音像」を今回の8K文化財プロジェクトの技術を使ってデータ化し、AR(拡張現実)を用いて、同仏像の細部を楽しめる試みにも挑戦するという(ただし、展示されるかは現状未定)。
なお、今回発表となった「8K文化財プロジェクト」の模様は番組として、NHK BS8K、およびBSプレミアムにて、放送が予定されている。
『見たことのない文化財』
「遮光器土偶」
BS8K 3月20日(土) 19:00~
BSプレミアム 4月7日(水) 10:45~
「洛中洛外図屏風 舟木本」
BS8K 3月20日(土) 19:30~
BSプレミアム 4月14日(水) 10:45~
「特別編 百済観音(法隆寺 蔵)」
BS8K 3月20日(土) 20:00~
BSプレミアム 4月21日(水) 10:30~