JVCケンウッドは、広い視野角を実現した独自のヘッドマウントディスプレイを開発、昨日その技術発表・体験会を実施した。
StereoSound ONLINE読者諸氏には、同社ディスプレイ事業といえば大画面プロジェクターのイメージが強いだろう。しかしプロジェクターは買替え需要が多いのも事実で、市場の拡大はなかなか難しい。そこでJVCではプロジェクター以外の新しい展開として、ヘッドマウントディスプレイの分野に目を付けたのだろう。
今回発表されたモデルは両眼視差を利用した立体映像が体験可能で、既存のレンズ式ヘッドマウントディスプレイで指摘されていた(1)低解像度、(2)視野角の狭さ、(3)実像が見えない空間で操作する違和感、といった問題点をすべて解決、「クリアーな高解像度と広い視野角の両立」「オプティカルシースルーによるリアルな操作性」を実解しているのがポイントだ。
そのために同社では、ミラー方式の構造を採用した。ヘッドマウントディスプレイの上側には透過型液晶パネルが内蔵されており、ここから下向きに映像を投写する。液晶パネルの下には半透過タイプのミラーが視線に対して45度の角度で設置されており、装着者はここに映った映像を見ることになる。
この方式だと目の前にレンズがいらないので、レンズ方式のような周辺での色収差や輝度の低下、のぞき込むような狭い視野感が発生しないという。また視野角についても左右合わせて120度、上下45度を確保しているそうで、これまではヘッドマウントディスプレイで横の映像を見ようと思うと必要以上に首をふらなくてはならなかったが、JVC製品ならほぼ自然に近い動きで問題ないという。
液晶パネルの解像度は片目あたり水平2560×垂直1440画素画素で、両目分を合わせると約5Kの情報量を持っている。ちなみに開発当初はそれぞれ4Kパネルを使って、両目で8Kの映像を再現することも考えたようだが、それだけの映像をリアルタイムレンダリングできるPCがほとんどないので、今回は5Kに落ち着いたそうだ。
上記の通り、今回の製品は両眼視差を使った立体視ディスプレイだが、そのソースはPCを想定しており、現時点ではブルーレイ3Dなどの立体映像は視聴できない。そのためのアプリはカスタマイズで制作するなどの展開を考えているとかで、将来的にはパートナー企業と一緒に、ハードウェアとソフトウェアのセットで提供されることになるのだろう。
ちなみに試作モデルでは、映像伝送用にPCとディスプレイポート2本でつないでおり、その他にコントロール用にUSBケーブルも2本接続されていた。
体験会ではヘリコプターのフライトシミュレーターや首都高のドライブシミュレーターを本機用にカスタマイズしたアプリの映像を見せてもらった。
試作機は3Dプリンターで造形したものとかで、W280×H140×D135mm、重さ595g(ケーブル除く)と案外大きい。これは高解像度の液晶パネルを内蔵するために必要なサイズだったとのことだが、実際に装着してみると思ったほどずっしりした印象ではなかった。重量バランスがいいのか、重さでうつむくようなこともない。
その映像は確かに明るく、クリアーだ。実際には100nitsほどの輝度とかで、HDRのような映像再現は望めないが、CGのディテイルや色味の再現はこれまでのヘッドマウントディスプレイとは一線を画している。シースルー方式なので明るめの環境だと映像の向こうに白い壁面や人物がぼんやり見えてしまうが、照明を落とすとそれらのノイズが消え、よりハイコントラストな映像として楽しむことができた。
視線のトラッキングにはSteam VR Trackingのシステムを使っているそうで、室内には無線送信機が2台設置されている。これをヘッドマウントディスプレイ側に取り付けられたセンサーが検知して装着者の動きを反映する仕組みだ。現時点では動きに若干のディレイがあったが、製品化までにはこういった問題点も解消するとのことだった。
JVCでは今回の技術について、各種シミュレーターやデザイン検証用のレビューシステム、5Gを使った遠隔操作、大規模な設計支援といった用途を想定しているそうだ。具体的な製品としては2021年度中の発売を目指しており、価格は業務用としてそれなり(100万円は超える模様)になるとのこと。
まずはそういった使われ方になるのだろうが、このクォリティや装着感で3D立体視が楽しめるとなると、気になるオーディオビジュアルファン、ゲームファンは多いはず。より使いやすくて安価な家庭用モデルへの展開も期待したい。