ELROG(エルログ)は真空管のブランド名でドイツの産。それも過去の話ではなく、2016年に設立された新しいメーカーの製品である。それ以前には、別組織で軍用真空管やCRTを手がけた時代もあるとのことで、現在はハイエンド需要に見合った古典球のリメイクに注力しているようだ。ただし単なる復刻生産でないことは球の外観が示唆するとおり。中にはびっくり、トリタン(トリエーテッドタングステン)版300Bといった前代未聞の変り種も含まれる。
サンバレーのSV-S1628Dは、直熱3極管ファン向きの組立キットとして企画されたステレオパワーアンプである。組立代行による完成品も用意される。技術内容はたいへんめずらしい、845と211のコンパチブル設計だ(どちらかを選択して購入する)。その管種と銘柄によって価格が変るわけで、今回追加発売されたのがELROGのER845、およびER211ヴァージョンということになる。
実機のシャーシ天面には、ハムバランサーやバイアスアジャスターと並んで845/211のチューブセレクトスイッチがある。そこで回路図を眺めると、シングル出力の終段は211の場合セルフバイアス動作で、845ポジシヨンではグリッドにマイナス電源を引っ張ってきて、バイアスの不足分を補うしくみだ。つまり211出力が設計上の基準かなと思われるのだが、事実は逆のようだ。
このアンプのルーツは、サンバレー社の最初期に発売されてヒットした845シングルアンプキット。手配線方式のそれを現代に復活させることがテーマだったという。そのうえで、211互換の新機能を追加したのである。念のため記しておくと、もともと送信管だった211の電極構造をすこし改めて内部抵抗を低くするなど、オーディオ用途向きのモディファイを加えた球が845である。
要は兄弟に相違ないけれど性格も毛色も異なる211と845を1台のアンプで聴き比べようという、おもしろくも贅沢なエンターテインメント志向の製品。おそらくキット商品であることも考慮して、最大定格で修羅場の対決を迫るような危険は冒していない。そこがプロの設計なのだから、安心してお愉しみくださいということだろう。
ER211仕様の音は定格出力が7.5W程度なことに要注意だけれど、ひじょうに清らかで丁寧だ。いくぶん軽めのさっぱり傾向だが反応が速いし、ミッド帯域の磨き抜かれた透徹感に直熱3極+高真空球の水際立った凄味がある。欲をいうなら低域の踏ん張りがいまひとつ。ER845仕様では、心持ち重心の下がった自然体になる。
反応の速さは負けず劣らずで、音像の厚み、立体感が増す方向。低音のエネルギーも強いといった特徴が出る。フォーカスを絞り切った解像感を好むひとにはいかがだろうか。迷ったときは、このアンプの出自を思い出せばよい。