前回、前々回のリポートで、F1解説者の川井一仁さんが新居に夢のホームシアターを実現するまでの顛末を紹介した。紆余曲折はあったけれど、無事4K/120インチの映像と5.1.2のドルビーアトモス環境が手に入り、今では映画・音楽鑑賞用に大活躍だという。そして今回、潮晴男さんの発案で、川井シアターでUHDブルーレイ『フォードvsフェラーリ』の上映会を開催することになった。しかも、実際にル・マン24時間耐久レースに出場したこともある片山右京さんも参加してくれたのだ!(編集部)
遂に完成! 4K/HDRとドルビーアトモスで生まれ変わった川井ちゃんシアター
川井邸の主なホームシアターシステム
●プロジェクター:JVC DLA-V7
●スクリーン:キクチ SE-120HD/ホワイトマット・アドバンス(120インチ/16:9)
●ディスプレイ:東芝 65Z740X
●BD/HDDレコーダー:パナソニック DMR-UBZ2020、DMR-BRG2030
●ケーブルテレビチューナー:パナソニック TZ-DCH520
●LDプレーヤー:パイオニア DVL-919
●CDプレーヤー:フィリップス CDR-670
●AVセンター:デノン AVC-X8500H
●スピーカーシステム:エラック FS207.2(フロント)、CC200.2(センター)、BS203.2(トップ、サラウンド)
●サブウーファー:KEF Kube8b
--今日は川井さんのホームシアターにお邪魔して、『フォードvsフェラーリ』のUHDブルーレイを体験させていただきます。
潮 この作品はル・マン24時間耐久レースを描いたものですが、今日はその現場を知っている川井さんと片山さんのおふたりと一緒に観られるという、とても貴重な機会になりました。片山さんもわざわざありがとうございます。
片山 最近は五輪関係の仕事が忙しく、なかなか自宅でホームシアターを楽しむことができないので、今日はわくわくしています。
潮 川井さんと片山さんは、この作品はもちろん観ていますよね?
川井 僕は海外出張の飛行機の中で観ました。小さい画面だったけど、面白くて行きと帰りで2回観たほどです。
片山 僕は六本木の劇場で観ましたが、凄く面白かったですね。
潮 やっぱり。車好きならぜったい気になる作品ですからね。ちなみに片山さんは実際にル・マン24時間耐久を走っているわけですが、何回出場されたのですか?
片山 1988年、92年、98年、99年、2002年、04年の合計6回出場しました。このうち99年は総合2位に入りました。
潮 6回も出たの? じゃあ目をつぶっていても走れるでしょう。
片山 目をつぶったら多分1コーナーでぶつかります(笑)。
川井 僕は現場リポーターとして2回参加しました。ミュルサンヌ・ストレートにシケインがない時代に1回、シケインができてからもう1回です。
潮 一般人には入れないレースの現場を熟知しているわけですね。そんなおふたりが今日の川井シアターのUHDブルーレイの絵と音をどう感じるか、オーディオビジュアルファンとしてはそこもたいへん興味深いところです。
片山 そこには僕も興味津々です。ところで、このプロジェクターは4Kなんですね?
川井 そうですよ。潮さんに相談したらJVCにしなさいっていわれたので「DLA-V7」を取り付けました。音は以前使っていたエラックのスピーカーをそのまま活かしてドルビーアトモスが再生できるようにしてもらったんです。
潮 AVセンターは奮発してデノン「AVC-X8500H」にしてもらったから、パワーアンプ的にはまだまだ余裕がある。今は5.1.2システムだけど、将来は7.1.6までバージョンアップできますから、追々考えましょうね。
--ではそろそろ上映をスタートします。オープニングからご覧下さい。
隠さなくて大成功! DLA-V7とトップ&リアスピーカーも綺麗に設置された
●本編再生スタート
潮 気がついたらチャプター15ですよ。う〜ん、取材を忘れて見入ってしまうなぁ(笑)。イントロのレースシーンもいいのですが、やっぱりGT40の開発が始まったあたりから引き込まれますね。マット・デイモン演じるキャロル・シェルビーと、クリスチャン・ベール演じるケン・マイルズのやりとりがいい。
片山 ケンがシェルビーにGT40の開発に誘われて、最初は “NO” と言っていたのに、テストカーに乗ったら思わずその気になってしまうのがいいですね。心が “Yes” と言っている様子が伝わって来ました。
潮 シェルビーからテストカーに乗った感想を聞かれたケンが、トルクが路面に伝わらないとか、225kmを超えるとハワイまで飛んでいくと言い出すあたりもなかなかマニアックですね。
片山 まさに開発現場で言いそうなことですね。きちんとテクニカルなアドバイスをしてくれる人がいて、役者にこういうシチュエーションであればこのセリフを言うようにと指示を出しているのでしょう。だからとんちんかんな会話になっていない。
潮 脚本もちゃんとしているということですね。片山さんから観ても正しいことが話されていると。
片山 映画の場合、技術的にはちょっとおかしいけどまぁ許そうか……といったこともよくありますよね。でも、この作品ではそんなことがない。ちゃんとリサーチができているという意味では、ドキュメンタリー的でもあります。
潮 ただ、サウンドデザインはちょっと盛っていた。エンジン音もきちんと録音しているのだろうけれど、演出も忘れてはいません。一番気になったのはシフトアップ、ダウンの際のガチャっという音かな。あそこまで大きな音はしないでしょう(笑)。
片山 確かに、走っている最中にあそこまではっきりは聞こえませんね。
川井 シフトの音を大きくしているのは、視聴者を運転している気分にさせたかったのでしょうね。
潮 奥さんとケンが車の中で言い争うシーンも面白いですね。奥さんがケンに “Don’t make it a secret” と怒りをぶつけるのだけど、そのセリフがとても迫真的でした。X8500Hはセリフも聞き取りやすく再現していますね。静かなシーンでもきちんと音を整えて聴かせるのは凄いことです。
片山 なるほど。潮さんはホームシアターのプロだから、そういった点も気にするんですね。今日は3人とも視点が違うから面白いなぁ。
お気に入りのLDプレーヤーも大切に! 選び抜いたAV機器がラックに並んでいる
●チャプター16〜25を視聴
潮 GT40の開発がスタートしてテストコースを走っているシーンの映像も印象的でした。テストカーのボディに毛糸を貼り付けているけれど、4Kではそのひとつひとつの動きまで確認できます。
川井・片山 これやったよね〜。
潮 え、本当にこんなことをやったの?
川井 初期の風洞実験って、車に毛糸を貼り付けて走り、それを写真で撮影して風の動きを判別していたんですよ。
片山 ひじょうにアナログですが、それでもレーシングカーの開発には欠かせないノウハウでした。
潮 なるほどね〜。4K映像として面白いカットだと思ってはいたけど、本当にこうったことをやっていたと思うと、説得力もでてきますね。
片山 風洞実験は毛糸で工夫してやったし、ブレーキも人間の感覚で判断していました。僕が現役の頃もテストカーで走ったら、エンジニアがやってきて「どうだ?」って聞くんです。
川井 今は荷重センサーがついているので、たとえば車のフロント側にどれくらいの荷重がかかっているかなど、オンボードコンピューターに情報が戻ってくるんですけど、当時は最新の測定器を積んでいても、そこまではできなかったでしょうね。
片山 今のF1では、センサーのデータを見れば車の問題点も分かるはず。だから「どうだ?」と聞かれても、ドライバーが試されているような気分になりますね。
川井 最近のレースでは、エンジンの冷却機器をどっちに積んでいるかドライバーは知っているから、ピットからの指示でトラブルのある場所が判断できます。左側を冷やせと指示されたら、エンジンがヒートアップしているとわかる。同じように全部冷やせといわれたら、これはブレーキもおかしいのかなと思うんです。
片山 テストカーでブレーキがフェードして止まれなくなってクラッシュしますが、あんなシーンを見ると、自分がテストしていた時のことを思い出して苦しくなっちゃいます。
潮 さて、チャプター25まで見終わりましたが、ここまでの印象はどうでしたか?
片山 男子はみんな車が好きだと思うんですけど、この映画は一番夢があって楽しかった時代が舞台だから、見ていてわくわくします。
川井 ル・マンに出場するのに、あれだけの人数で開発できちゃうんだと思ったけどね(笑)。
片山 フォードという会社がお金を出して、飛行場を貸し切ってテストしているなんて、ある意味今と変わらないくらいの規模ではありますね。
潮 片山さんはF1とル・マンの両方に出場経験があるけれど、ふたつの違いはどこにありましたか?
片山 F1は世界で一番早い車を決めるもので、レース数もそれなりにこなします。ル・マンは世界一の草レースと呼ばれて、24時間の中に色々な勝ち負けがあって、早いだけでは勝てないことも多い。人間がギアボックスやエンジンを壊しちゃうこともあるし。
川井 ル・マンではレース中にギアボックスを交換することがあるんですが、ピットクルーはその手順を前もって練習しておくんです。どれを外して、どの手順でと。だから現場では15分で交換が終わるようになっています。
潮 ギアボックスを15分で交換できるの?
片山 さすがに15分ではないけれど、98年のレースで2回ギアボックスを交換した時は、ピットに入って出ていくまでに30分かかるかかからないかでした。レースの前には実物大のガレージを作って、何歩でそこまで行くかという導線も決めて練習したんです。
僕たちドライバーも緊急時の対応を覚えなくてはいけなかった。ペンライトを咥えてカウルを開けて、ギアが入らないと、アナログで2速に入れて……といった練習を軍隊みたいにひたすら繰り返しました。
潮 コースを走っている最中にトラブルがあったら、ドライバーが対応しなくてはならない。
片山 そうです。とにかくピットまで帰ってきて、みんなの力を借りて修理してもう一度走らないといけない。ル・マンは完走することが大事ですからね。その意味ではドライバーもピットクルーもみんなで力を合わせないと勝てないのです。
潮 じゃあ力を合わせるところを見ましょう。
●チャプター26以降を再生
潮 ゴール直前にケンがミュルサンヌ・ストレートを走っているシーンで、だんだん音がなくなります。前に片山さんからF1で走っている時、スピードが上がると視界がカラーからモノクロになってスローモーションに感じてくると言う話を聞いたことがあったけど、こういうことって本当にあるのかな?
片山 若い時にはそういった “ゾーンに入る” という経験もあったけど、歳を取ってくるとだんだん忘れてしまいますね(笑)。YouTubeで自分の若いときの走りを見直したりすると、一日でいいからあの時に戻って走りたいと思いますね。
99年に2位に入賞した時もそんな感じだったかもしれません。最後の最後にチームの他の2台がリタイアして、もう失う物はないから行けと言われて、そこから全開で走った。ラスト1時間を切ってからコースレコードをどんどん更新して1周で7秒くらい追い上げていったんだけど、残り50分を切った時にタイヤがバーストしてしまった。
川井 あの時は片山さんのチームは3番手で、ずっと我慢を強いられていたんだよね。
片山 交換タイヤもなくて、1、2号車がリタイアしてからやっと夜に柔らかいタイヤを使えるようになったくらいですからね。
潮 それでも2位をキープしたというのは凄いことですよ。
川井 ケンがミュルサンヌ・ストレートを走りながらサングラスを外しているけど、さすがにこの余裕はないでしょう。
片山 当時の車だったら余裕もあるんじゃないですか?
川井 でもトップスピードで時速220マイル(352km)くらいで出てるはずだよ。
片山 それは怖い(笑)。当時のGT40ってそんなスピードが出たのかなぁ。
潮 ル・マンのコースは全長何kmあるんですか?
片山 13.5kmくらいですね。
潮 ドライバーは下見でコースを歩くと聞くけれど、ふたりはこのコースを歩いたことがあるの?
川井 さすがに10kmを超えるコースを歩かないですよね。
片山 F1サーキットくらいなら歩くこともありますが、ドライバーみんなというわけではないですよ。ハミルトン、ライコネンは歩かなかったんじゃないかな。
潮 ラストシーンではフォードが1、2、3位を独占して、でも同時にゴールしたからケンは2位になってしまうんですよね。ここがいまひとつわかりにくかったと思うのですが。
片山 当時のル・マン式スタートはタイム差レースだったので、同時にゴールした場合はスタート時に後ろにいた人の方が走っている時間が短いと言うことで上位になったんです。
潮 今もそうなんだっけ?
川井 いえ、今はどこからスタートしても、先にゴールした人が勝ちです。でも、ケンがアクセルを緩めた瞬間に泣きそうになりました(笑)。
潮 映像で観ていても、現場を思い出すものですか?
片山 思い出しますね。ただ、今日は映画を純粋に観客として楽しんでいたので、自分がドライバーだったことは忘れていました(笑)。
−−さて、今日は川井さんの新シアターで、4K/HDRとドルビーアトモスでUHDブルーレイをご覧いただきました。映画ファンとしては、ホームシアターでどれほどのリアリティ、没入感を味わえるかが重要なテーマなのですが、ル・マンの現場を知っているお二人から見て、今日の絵と音の迫真性はいかがでしたでしょうか?
川井 僕は充分楽しめました。なにより音が以前に増してよくなった!
片山 音のクォリティがどうのといった細かいことまではジャッジできませんが、そういう事が気にならないくらい作品に夢中になってしまいました。
潮 AVマニアとしてはどうしても分析的に考えたがるんだけど、レースそのものの描写として違和感はなかったですか?
川井 レース映画の中には過剰演出と感じるものもありますが、この作品はそんなこともなかったですね。
片山 強いて言えば、実際のレースでは横の車のドライバーと顔を合わせることはありませんよね。また当時のレースでクラッシュしたら、ほぼほぼ大けがをするか、亡くなることが多かったですね。
川井 ミュルサンヌ・ストレートは長さが6km以上あって、スピードが出ましたからね。
片山 初めてル・マンに出た時は予選が夜中で、時速386kmでターボを効かせて走っていると、ドアがふわっと浮いてきて風が下から入ってきたんです。これが寒くて、寒くて(笑)。その横をシルクカットジャガーのマーティン・ブランドルとかが並んでくると、馬鹿野郎! びっくりするじゃないかと(笑)。
川井 6月のル・マンは案外寒いんですよ。
潮 映画でレースを描いた場合、映像もそうだけど、音でどれほどの迫力を感じられるか、いかに疾走感が出てくるかがポイントだと思います。
片山 その意味では、充分引き込まれる仕上がりになっていました。唯一残念だったのが、ロレンツォ・バンディーニ役の俳優が色黒で、『チャーリーとチョコレート工場』のウンパルンパに見えて仕方なかったことかな(笑)。
川井 エンジン音も、フォードはV8の音をしているし、フェラーリはV12の音だった。ここもちゃんとしていましたね。
片山 何よりこの映画は最後まで飽きないですね。ル・マンの映画というとまず出てくるのはマックィーンの『栄光のル・マン』なんでしょうが、あの作品はセリフがなさ過ぎて、いつも最後まで完走できないんです……。
川井 ケン・マイルズやキャロル・シェルビーという知る人ぞ知る人物にフォーカスして、ここまでのドラマに仕上げたのが立派です。僕は自動車が好きだからといって、レースの映画を必ず観るわけじゃない。でもこの作品は繰り返して観ても飽きない。
片山 僕の友人も、みんなこの映画は面白かったと言っています。結局みんなエンジンが好きなんですよ(笑)。撮影も素晴らしいですよね。CGも使っているんだろうけど、迫力充分です。
川井 ル・マンには独自のACO(Automobile Club de l'Ouest、フランス西部自動車クラブ)ルールがあるんです。そもそも自動車レースでは長いこと規約がフランス語で書かれていた。
作品中でフォードが規約の記述でもめるシーンがあるけど、まさにその事が描かれていて面白かったですね。フランス語と英語で規約が書かれている場合にも、最後にフランス語が英語より優先されるという記述もあったんですよ。解釈が違う場合はフランス語が優先するんです。
片山 そういうことも含めて、過去の出来事をかなり忠実にストーリーに盛り込んでいますよね。
潮 プロフェッショナルが観てもとんちんかんじゃないのは、そういった脚本の緻密さもあるのでしょう。
--ではそろそろ、川井シアターの4K/HDR映像とドルビーアトモスの総括をいただけますか。
片山 エンジンと一緒で、暖まると絵も音もどんどんよくなっていった感じでしたね。本編を見終わる頃の絵と音は本当に凄かった。
川井 この家が完成して1年ほどですが、やっと落ち着いて映画を楽しめるようになりました。音も安心して出せるし、前より画面が20インチ大きくなったのも嬉しい。片山邸の140インチにはかなわないけどね。
片山 わが家はスクリーンの大きさは自慢できますよ。友達が来るたびに驚いてくれます。
川井 プロジェクターは、潮さんからはもうワンランク上の「DLA-V9R」を強く推薦されたんだけど、予算の都合でDLA-V7に落ち着きました。でも今日も充分いい絵だったと思うけどなぁ。UHDブルーレイがこの絵と音で楽しめるのは、本当に嬉しいですね。
潮 片山シアターもそろそろ4K対応しないとね。
片山 わが家もメインソースはブルーレイなので、今でも相当綺麗だと思います。今日の映像も、最初はブルーレイとそんなに変わらないかなぁと思っていたんだけど、機器が暖まっていくと絵も綺麗になってきて最後は全然違うなぁと……。
川井 比べるとわかるでしょう? 4Kが欲しくなるよね〜(笑)。
片山 人から教えてもらった趣味で人生が変わったのは、ホームシアターだけなんです。僕はずっとレースだけやっていたら、唯一ともいえる趣味がホームシアターで、あとはせいぜいビンテージカーをいじるくらいです。だからホームシアターの進化は気になるんですよ。今日は面白かったけど、ショックもあったなぁ。
潮 じゃあ4K/HDRは必須ですって。次回は片山邸に4Kプロジェクターを持ち込みましょう! いつにする?