新型コロナウィルス感染拡大という想定外の出来事もあり、この春はいつものように盛り上がらないと感じている方も多いだろう。周りを見渡しても、イベントの中止や外出自粛など、すっきりしない出来事ばかりだ。でも、せっかくお気に入りオーディオシステムやホームシアターを持っているのだから、こんな時こそこそいい絵やいい音に触れて気分をあげていきたいもの。ということで、これから数回に渡って、StereoSound ONLINE筆者陣が選んだお薦めコンテンツを紹介する。第一回は麻倉怜士さんが選ぶ“元気が出るハイレゾ”だ。(編集部)

 新型コロナウィルス感染拡大対策もあり、私も予定されていた試聴イベントや講演会がすべてキャンセルになってしまいました。オーディオファンの皆さんに紹介したいお薦め機器やコンテンツをたくさん準備していたのに、本当に残念です。

 しかしこういう時期だからこそ、下を向いていてはいけない。ここは家で過ごす時間が増えたと前向きに捉えて、ぜひ愛用システムで元気の出るハイレゾを楽しんでいただきたいと熱く思っています。曲もいい、演奏もいい、録音も凄い、といった作品を聴くと、必ず元気が出てくるはずです。

 今日はそんな“本物”のお薦めハイレゾを、最新作を中心に6タイトルご紹介したいと思います。すべてe-onkyo musicで購入できるコンテンツですので、気になる作品があったらぜひ入手して、じっくり楽しんでください。

『ペッパー警部/ピンク・レディー』(¥3,300、税込)

画像: (P)JVCKENWOOD Victor Entertainment

(P)JVCKENWOOD Victor Entertainment

●ファイル形式:96kHz/24ビット/FLACまたはWAV
●ダウンロードサイト:https://www.e-onkyo.com/music/album/veahd12165/

 まずはピンク・レディーの『ペッパー警部』です。ピンク・レディーとして初のハイレゾだと思いますが、かなり音がいい。歌謡曲のハイレゾ化はうまくいくものとそうでないものがあります。オリジナルのソースに人工的に作り込んだようなきらびやかさがあって、中域を盛り上げたようなアレンジがされていた場合は、ハイレゾ化してもちょっと……という印象ですね。

 しかし『ペッパー警部』は違います。当時の収録がとてもよかったらしく、歌謡曲的なキラキラ感はありますが、正統的な音作りです。ビクタースタジオの川﨑 洋さんがアナログマスターからのハイレゾリアスター作業を担当しましたが、川﨑さんによると、あまりいじることはしなかったそうです。もともとのアナログマスターの出来がよく、帯域も広くてフラットだったので、低域を立体的にして、ヴォーカルが前に出てくるようにしたくらいだったそうです。おそらくエンジニアを含めた、当時の録音チームの技術が素晴らしかったのでしょう。

 また忘れてはいけないのが、バックの演奏の凄さです。ミーちゃんとケイちゃんのコーラスもエネルギーがあってとてもいいのですが、演奏も驚くほどのクォリティです。どんなにテンポが速くてもリズムは外さないし、各楽器も存在をしっかり主張しながら、音場的なバランスも整っている。時代の疾風感、怒濤の勢いがハイスピードな音楽に乗って、雄弁に語られています。これこそハイレゾの醍醐味でしょう。

『アルプス交響曲〜トラップ一家のその後〜
 /マスターズ・ブラス・ナゴヤ、鈴木竜哉』(¥2,640、税込)

画像: (P)2019 Music Office KATO (C)2019 Music Office KATO

(P)2019 Music Office KATO (C)2019 Music Office KATO

●ファイル形式:192kHz/24ビット/FLACまたはWAV
●ダウンロードサイト:https://www.e-onkyo.com/music/album/mbn52019/

 次はマスターズ・ブラス・ナゴヤの『アルプス交響曲』です。東海地区で活動しているオーケストラ奏者や音楽大学講師、フリーランス奏者で構成された吹奏楽団で、去年の4月に愛知県芸術劇場コンサートホールでの定期演奏会を収録したものです。

 編曲者の長生 淳さんが収録に立ち会っていますが、長生さんの録音はホールの自然なソノロティを基本に置きながら、細かい部分まで見えて、配置感、バランスにも優れたものですね。

 作品も、リヒャルト・シュトラウスの『アルプス交響曲』がメインの演目なのですが、『トラップ一家のその後』という副題からわかるように『サウンド・オブ・ミュージック』の曲をからめています。ライブで盛り上がる要素としての演出を加えているのです。

 『サウンド・オブ〜』の映画は、トラップ一家がザルツブルグからアルプスを越えてスイスに逃れるというラストシーンですが(本当はミュンヘンに行ってしまいます)、であればトラップ一家がアルプスに登っていたら……という発想からできた演出のようです。

 2曲目がとても面白く、マーラー『交響曲第1番』の第2楽章から始まって「一人ぼっちの山羊飼い」に変わったり、「ドレミの歌」がサンバのリズムになるといった演出が楽しいのです。これは聴いていて元気が出ること間違いなしです。

 R.シュトラウス『アルプス交響曲』では「夜」の変ロ短調の暗い夜の動機が、次の「日の出」でイ長調の歓喜と感動の太陽の動機に変わる転調技が大感動です。マスターズ・ブラス・ナゴヤは演奏が素晴らしいですね。ライブ収録ですが、素晴らしい解像度、ホール感、音色感です。ホール録音ならではの響きの臨場感も感動です。

『交響曲ガールズ&パンツァー/浜口史郎』(¥3,080、税込)

画像: (P)ランティス

(P)ランティス

●ファイル形式:96kHz/32ビット/WAV、96kHz/24ビット/FLACまたはWAV
●ダウンロードサイト:https://www.e-onkyo.com/music/album/laca15812/

 人気アニメ『ガールズ&パンツァー』の音楽を、作曲家の浜口史郎さんが6楽章の交響曲に再構築したものです。演奏はチェコ・フィルハーモニー管弦楽団のメンバーで、プラハのドヴォルザーク・ホールで収録したという、実に気合いの入ったハイレゾ音源です。

 第一楽章のメインテーマ「戦車道行進曲」を循環形式に使い、同じフレーズが繰り返し出てきて全体の統一を図る構成になっています。ベルリオーズ『幻想交響曲』の「イデー・フィクス」、いわゆる「女優のテーマ」のような存在ですね。

 演奏と音も素晴らしく、クラシックコンサートそのものの響きの雰囲気とわかりやすい編曲で、『ガルパン』のファンだったらみんな知っている曲なのはもちろん、ファンでなくても楽しめる点が凄いです。音調は正統的なクラシック調。各楽器、各パートのバランスがよく、ドヴォルザーク・ホールのソノリティもきれいに収録されています。

 32ビットと24ビットの音源が配信されていますが、どちらもサンプリング周波数が96kHzなのが残念です。せっかくなら192kHzで聴きたかったですね。

『New Year's Concert 2020/Andris Nelsons,Wiener Philharmoniker』
 (¥4,277、税込)

画像: (P) 2020 Wiener Philharmoniker under exclusive license to Sony Music Entertainment

(P) 2020 Wiener Philharmoniker under exclusive license to Sony Music Entertainment

●ファイル形式:96kHz/24ビット/FLAC
●ダウンロードサイト:https://www.e-onkyo.com/music/album/sme886447968055/

 ネルソンスが指揮をした、2020年のウィーン・フィル『ニューイヤー・コンサート』も既にハイレゾで配信されています。

 ネルソンスの指揮は、ウィーン音楽の伝統への尊敬と愛情が感じられ、とてもチャーミングです。特にワルツの3拍子がエレガントで軽妙、気持ちよく再現されています。

 ネルソンスはリハーサルの段階ではとても細かいところまで指示をしていたそうで、現場では楽員と衝突することもあったということです。でも、そんな様子からもウィーン音楽に対する愛情が感じられたのでしょう。演奏はウィーン・フィルならではの暖かさと、ネルソンスのヴィヴットな音作り……が、見事な融合を聴かせています。

 ワルツの三拍子がウィーン風でエレガント。歌いの優しさと、節回しの軽妙さ、チャーミングさ、軽快なグロッシーさ……。ネルソンスは、そんなこのオーケストラの特性を美しく引き出していますね。「美しき青きドナウ」のウィーン風の溜がひじょうに効いているのも、ネルソンスのウィーンへの尊敬の現れでしょうね。

 今年の『ラデツキー行進曲』は編曲も新しくなったそうで、よりシンプルな構成になっています。しかも観客の手拍子が入ることを前提とした編曲とのことで、そこも微笑ましく聴きました。

『MISIA SOUL JAZZ BEST 2020/MISIA』(¥3,2590、税込)

画像: (P)2020 Sony Music Labels Inc.

(P)2020 Sony Music Labels Inc.

●ファイル形式:44.1kHz/24ビット/FLAC
●ダウンロードサイト:https://www.e-onkyo.com/music/album/smj4547366444131/

 MISIAも素晴らしいですね。これは彼女が最近こだわっているSOUL JAZZをテーマにしたアルバムで、ビッグバンドをバックにオリジナル曲を歌っています。とても魅力的なのは、基本的な曲のよさを残しながら、間奏だけをジャジーにしています。

 トランペッターの黒田卓也さんがアレンジをしていますが、MISIAさんは「歌の最中はコードは変えてもいいけれど、オリジナルに近いコードで、間奏などで黒田節が出てくるようなバランスでやりたいとお願いしました」と話しています。

 そのことからも、例えば「Everything」が持っている基本的な世界観はそのままに現代風になった、元のよさを残しながら“今”を感じさせるリズムになっているのが元気をもらえます。もともと彼女の歌そのものがエネルギーがあってパワフルですが、それが全身で感じられるハイレゾだと思います。

 ヴォーカル音像はセンターに、かなり大きなサイズで定位。楽団のベース、ドラムス、キーボード、ギター、ブラスなどの楽器の音像も明瞭です。

『ベートーヴェン:序曲集/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団,
 ヘルベルト・フォン・カラヤン』(¥3,279、税込)

画像: (P) 1970 Deutsche Grammophon GmbH, Berlin (C) 1970 Deutsche Grammophon GmbH, Berlin

(P) 1970 Deutsche Grammophon GmbH, Berlin (C) 1970 Deutsche Grammophon GmbH, Berlin

●ファイル形式:DSF 2.8MHz/1ビット
●ダウンロードサイト:https://www.e-onkyo.com/music/album/uml00028948413546/

 最後はカラヤンの『ベートーヴェン:序曲集』です。今年はベートーヴェンの生誕250周年ですが、これは50年前に生誕200周年に合わせて録音された全11曲を収録しています。ハイレゾとしては今回初めてのリリースで、フォーマットはDSD 2.8MHzです。

 先ほどのネルソンスもよかったのですが、カラヤンはさすがに格が違う。大巨匠が作る大音楽という印象です。というのも、現代の指揮者の演奏はスマートでディテイルも綺麗なのだけど、全体的には華奢な印象があります。

 しかし、この時のカラヤンは彼が持っている豪華絢爛なオーケストラ術をすべて発揮して、ベートーヴェンの分厚いハーモニーの中に、ベルリン・フィルのクリアーで重厚な音をすべて詰め込んでいます。

 ある意味爽快な演奏で、重さを持ちながらパワーがあって、ハイスピードで音楽的快感のある演奏です。カラヤンの音楽的演出の巧みさが聴ける、大傑作。「1.《エグモント》序曲」のフィナーレの追い込みの高揚感は、まさにカラヤン芸の真骨頂です。

 DSDのサウンドはオーケストラの各パート、ソロ、そして合奏の音が、いかに録音会場のすみずみに広く拡散し、深い音場感を作りだしているかがよく分かるものです。ステレオ効果が高く、左右の分離だけでなく、センター音像も厚く、くっきりと再現されている。カラヤンのベートーヴェン音楽の密度の高さ、剛性感、細部までのていねいな解釈が、たっぷり聴けます。

This article is a sponsored article by
''.