意匠は光彩の魔術を思わせて周到に配置された立体造形の魅力を感じさせる。
大型モニタースピーカーの素性を露わにして最強音から微細な音までが高純度

 現役オーディオ用ビーム管として最強クラスであるKT150ステレオパワーアンプ、出力は75W+75W。そうした仕様からは古典名機風、あるいは業務用機器風の大振りで構えた外観を想像したくなるけれど、これはいたって簡素な佇まいだ。

 カソード電流監視メーターを各出力管に配置したり、固定バイアス用トリマーも測定器の端子のような外観であったりするわけで、見ようによっては音質評価用の試作機風でもある。

 

画像: Fascination 95

Fascination 95

 大手メーカーならば、ここからプロダクトデザインの力量を誇示するべく凝った仕上げを施すことだろう。しかし、これには真空管アンプの各構成要素の成り立ちを尊重しつつ周到に配置された立体造形の魅力を感じさせられるのだ。

 柔らかい稜線に物量感をじわりとにじませるトランス類。それらを背景にした円筒形コンデンサーや卵殻形状の出力管の対比効果。特に頂点の明瞭なガラス球が整列すると、実線に対する破線のような運動性が得られるわけで、それにはガラスや鏡面仕上げシャーシの映り込み効果も加味される。一見ありふれた整序感でありながら、設置空間に波紋を与えその広がりを再び自らに凝集するという光彩魔術の技法を会得しているのだろう。パスカルの言葉を借りれば「幾何学の精神」と「繊細の精神」の双方がここに見出せる。

 試聴した個体は温度センサーが付いていたりするけれど音はほぼ完成しているという。何はともあれ、B&W 800D3をなんなく駆動する力量は確かであり、しかも『春の祭典』のような広いデュナミーク(強弱)の音源にて、耳を穿つ最強音から寂滅にいたる微細な音まで高純度に提示し再構成する力が秀でている。だからロマネスカや長岡京室内アンサンブルなどの小編成バロック合奏において、余韻の高密度な描写力に支えられた透徹した構成美や眼前彷彿型の立体定位が得られるのも当然だ。

 ビッグバンド系ジャズの大ぶりな盛り上がりやソロの突き抜けるような高唱もすこぶる快調。アナログディスクでも鮮烈にして稠密なタッチの再現性を確認できた。

 謹厳なモニター系のスピーカーの素性まで露わにする能力があり、もっと官能美を得意とするスピーカーでも聴いてみたいという願望も芽生えてきた。ともあれ、この大出力アンプに腕力自慢という偏見は無用であり、無辺際の力量をうかがわせる逸品だ。直熱管シングルの至純の世界からより広い世界に踏み出そうという人にも注目してほしい。

Fascination95の意匠を確認する吉田氏。

試聴する吉田氏。アナログ再生システムとしてプレーヤーのテクニクスSL1000RとMC型カートリッジのフェーズメーションPP2000、昇圧トランスにエアータイトATH3を使い、プリアンプはフォノイコライザー内蔵のエアータイトATC5、スピーカーはB&W 800D3を組み合わせた。

 

「Fascination 95」頒布のお知らせ

Fascination95の完成品を「Stereo Sound STORE」で販売いたします。販売は期間限定で2020年6月30日(火)までにお申し込みください。納期はお申し込み後、約100日となります。製作とメインテナンスは是枝重治氏が担当します

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