Noble Audio(ノーブルオーディオ)の「FALCON」をご存知だろうか? オーディオビジュアルのプロフェッショナルがお薦めモデルを選ぶ「HiVi」ベストバイ企画のワイヤレスイヤホン部門で上位に選ばれた、唯一の完全ワイヤレスイヤホンだ。今回はその選考でFALCONを1位に選んだ鳥居一豊さんによる徹底試聴リポート、並びに各選考委員によるジャンル別インプレッションを紹介したい。いい音を快適に楽しみたい方、必見だ。(編集部)
ワイヤレスイヤホンの中でも特に人気の高い完全ワイヤレスタイプ。そのなかでも大きな話題を集めているのがノーブルオーディオの「FALCON」(市場予想価格¥16,800前後、税別)だ。
ノーブルオーディオと言えば、アメリカはもちろん世界で高い評価を集めているIEM(イン・イヤ・モニター)ブランドのひとつ。“Wizard”の愛称で知られるジョン・モールトン氏が、オーディオロジスト(聴覚学者・聴覚専門医)の知見を活かした製品づくりをすることで知られている。
完全ワイヤレスイヤホン
Noble Audio FALCON オープン価格(市場予想価格¥16,800前後、税別)
●型式:Bluetooth完全ワイヤレスイヤホン
●ドライバーユニット:直径6mm Dual-layered Carbon Driver
●再生周波数帯域:20Hz〜20kHz
●Bluetoothコーデック:SBC、AAC、aptX
●搭載チップセット:クアルコムQCC3020(TWS Plus対応)
●連続再生時間:最大5.5時間(最大音量時)/10時間(音量70%時)
●充電時間:イヤホン約1時間、充電ケース約1.5時間
そんなノーブルオーディオから、完全ワイヤレス型のイヤホンが登場したのだから話題となるのは当然。しかも¥16,800前後と手の届きやすい価格というのもうれしい。
本機はHiVi「冬のベストバイ2019」ワイヤレスイヤホン部門で2位に選ばれているが、上位入賞製品で左右独立の完全ワイヤレスタイプはFALCONだけだ。つまり完全ワイヤレスイヤホンというカテゴリーでは一番のお薦めと考えてもいいだろう。
そんなFALCONは、本体(L/R)と充電ケースで構成される。本体のみで最大10時間の連続再生ができ、ケースで3回の充電が可能だ。しかも小型・軽量ながらIPX7対応の防水設計(約1mの深さに30分間沈めても動作に影響がでない)になっている。
さらにFALCONは、チップセットにクアルコム製の「QCC3020」を採用し、TWS+(TWS Plus)に対応する。これは、左右のイヤホンをそれぞれ再生機とダイレクトに接続する方式で、対応するスマホ等と組み合わせて遅延のない伝送を実現する。それに加えて、独自の「High Precision Connect Technology」を盛り込み、接続安定性を高めている。また、接続時の音声コーデックはSBCのほか、AAC、apt-Xにも対応している。
イヤホンに搭載されるドライバーは、振動板に「Dual-layered Carbon Driver」を採用。2層構造の振動板とすることで一般的なグラフェン系ドライバーに比べて歪みを半分に低減し、伸びやかな高域表現を実現した。
これを、ドライバーの特性を活かしたアコースティックダンパーなどでチューニング。さらにDSPによる調整も加えることで高音質化を狙っている。もちろん、チューニングを行なったのはジョン・モールトン氏で、ノーブルオーディオのフラッグシップIEM「Khan」をベースにして開発されているそうだ。
さっそくその実力を紹介しよう。本体のデザインは音道部分がやや長めの形状で、耳に装着するとしっかりとフィットし、不安定な感じはない。感心したのは、ワイヤレス再生での音切れの少なさ。ぼく自身も昨年の発売以来FALCONを愛用しており、外出時に持ち歩いて使っているが、TWS+非対応のiPhoneと組み合わせても、それまでの完全ワイヤレスよりも音切れの頻度が減ったことがありがたかった。このあたりは、アンテナの配置などの設計の工夫で実現していると思われる。
そして、今回の取材のために、TWS+に対応したソニーのAndroidスマホ「エクスペリア1」をお借りして、何日か使ってみた。
両者によるTWS+での接続は、ワイヤレスであることを忘れてしまうほど安定性が高かった。混雑した駅の中など、電波が不安定になりやすい場所ではごくわずか音切れが発生したが、その頻度は明らかに少ない。自宅から都心部までの1時間ほどの移動では、音切れが1回あるかないかのうちに目的地に到着した。このストレスのなさは立派で、実に満足度は高い。
肝心の音については、映画の出来も素晴らしかった『スターウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』のサントラを聴いた。聴き慣れたテーマ曲のファンファーレの鮮明な音や、オーケストレーションをしっかりと聴かせる厚みのある音色などもよく再現されている。
大太鼓や弦楽器の低音部の沈み込みはやや軽い感触になるが、低音感もきちんと伝わるし、スケール感や音場の広がりも出る。一番の美点は、解像感の高い、情報量の豊かな音なのに、高域がしなやかで聴き心地がいいことだ。ノーブルオーディオの製品でいつも感じる、自然な感触の音に仕上がっている。長時間装着して使っていても耳が疲れることはない。
また、現在ベータ版が提供されているAndroid用アプリ「Noble Sound Suite」も便利だ。左右のボタンによる操作をカスタマイズできるほか、EQ(イコライザー)設定もカスタムできる。マニア的には、接続した状態でバッテリー残量と接続コーデックを表示してくれる点がありがたかった。
実は今まで、完全ワイヤレスを個人的に使いたいとは思っていなかった。なぜなら音質への不満や音切れのストレスが気になったからだ。しかしFALCONでは、そんな不満はほぼ解消された。完全ワイヤレス型もついにここまで進歩したのはうれしい限り。
日常的にストレスなく使えて、しかも音質も好ましい。まさしく、今使って欲しい、完全ワイヤレス型イヤホンの最有力候補だ。
HiViベストバイ選考委員も実際に使って納得した、FALCONの魅力
完全ワイヤレスイヤホンに求められる要素を凝縮した逸品。
ジャズやEDMを広大なサウンドステージで展開する …… 土方久明
2016年に発売されたAppleの「iPhone 7」と「AirPods」がトリガーとなり、巷では完全ワイヤレスイヤホンが大人気。そんな中、新進気鋭メーカーのノーブルオーディオから、「FALCON」が衝撃的デビューを果たした。
FALCONは、筆者が完全ワイヤレスイヤホンに求める5つの要素である、本体の音質、Bluetooth高音質コーデックへの対応、ワイヤレスの接続安定性、装着感、バッテリーの持続時間、イヤホン紛失時の有償サービスのすべてを、限られたコストの中で詰め込んだ、コストパフォーマンス溢れる1台だ。
Astell&KernのDAP(デジタル・オーディオ・プレーヤー)、「SE100」とFALCONを高音質コーデックapt Xで接続して、筆者が大好きなジャズとEDMで音質チェックを行なう。
近代ジャズの歴史を塗り替えたピアニスト、ロバート・グラスパーの「Fuck Yo Feelings」では、中高域に程よい明瞭なキャラクターを持ち、トランジェントに優れた音が第一印象。ピアノの距離感も近すぎず遠すぎず、適切である。
ビルボードの「EDM Music & Dance Songsチャート」で執筆時点(2020年1月中旬)での1位、マシュメロ & バスティル「Happier」では、エレクトリックシンセサイザーによって創り出されたEDMらしい広大なサウンドステージの中に、立ち上がりのいいバスドラムが強烈なグルーブ感を生み出し、抜群の音楽性に酔いしれた。
この音質的な特徴はEDM音源再生で必須の要素であり、FALCONが聞かせる音作りの巧みなセンスに感心した。
ロックやAORのビート感までしっかりと繰り出される。
よくぞこの価格でと感心しきりの、最近のお気に入りイヤホン …… 小原由夫
ハイエンドイヤホン市場で磐石なポジションを築いているノーブルオーディオから、2万円でお釣りがくる完全ワイヤレスイヤホンがリリースされたということだけでも驚きなのに、それが使い勝手(装着感やバッテリーの持続等)もすこぶる良好で、私の最近のお気に入りイヤホンのひとつになっているのだ。
私が好んで聴くブリティッシュ系プログレッシブロックや、ウェストコースト系AORなどの音楽を「FALCON」で聴いていると、まずビートがしっかりと繰り出されてくる点に感心する。AORならではの軽快なビートも、プログレ特有の重厚なビートも、いずれもスムーズかつリアルに再現してくれる点がたいへん好ましい。
加えて、シンフォニックな立体感や奥行きといった再現が巧みなところがいい。FALCONが持つ分解能の高さが、ピンクフロイドのサイケデリックなハーモニーや、キングクリムゾンの複雑なアンサンブルを精巧に描写する様は、よくぞこの価格でと感心しきりなのである。
ハイレゾ再生を思わせる精密なステージの拡がりが印象的。
女性ヴォーカルもクラシックも、ストレスなく楽しめる …… 藤原陽祐
カスタムIEMや高級イヤホンなどを手がけてきたノーブルオーディオが送り出す初めての完全ワイヤレスイヤホンだけに、おのずと期待は高まる。
今回は主に女性ヴォーカルとピアノ(クラシック)を聴いたが、透明感に溢れるスムーズな空間の拡がりと、明確な定位が特徴的だ。低音は量よりも質で楽しませるタイプ。雑みのない鮮度の高いサウンドが、軽やかに躍動し、ストレスなく空間に拡がっていく様子は実に清々しい。
私が愛聴するジャニファー・ウォーンズの歌声も、明快な解像力を感じさせながら、耳障りなピーク感がなく、実に肌合いがいい。特にニュアンスの描写が克明で、息づかいが生々しく、ビブラートの細かな震えも、歪むことなく、ていねいに描き出す。荒っぽさ、とげとげしさを感じさせない緻密な質感は、まさにノーブルオーディオの血統と言えるだろう。
オーケストラは良質な響きが体を包み込むように拡がる様子だが新鮮だ。中域から低域にかけてのグラデーションの描きわけも緻密で、分解能の高さを感じさせる。反田恭平のピアノは、濁りのない響きが、目の前の空間にしみこむように拡がっていく感じ。ニューヨーク・スタインウェイの独得の音色も曖昧にならず、響きの質が高い。ワイヤレスのapt X接続とは言え、ハイレゾ再生を思わせる精密なステージの拡がりが印象に残った。