TAD(テクニカル オーディオ デバイセズ)ラボラトリーズは、同社Referenceシリーズパワーアンプの新製品を12月上旬に発売すると発表した。ラインナップは以下の2モデルだ。

●モノーラルパワーアンプ
TAD-M700 ¥6,400,000(ペア、税別、12月上旬発売)
●ステレオパワーアンプ
TAD-M700S ¥3,900,000(税別、12月上旬発売)

画像: TAD-M700とTAD-M700Sの外観はまったく同じ。TAD-M600からは、ベース部の脚部の傾き角度と側面の曲線が変更されている

TAD-M700とTAD-M700Sの外観はまったく同じ。TAD-M600からは、ベース部の脚部の傾き角度と側面の曲線が変更されている

 TAD-M700は先頃生産終了となったTAD-M600の後継機で、出力が700W(4Ω)/350W(8Ω)にアップしている。加えて今回は、ステレオタイプのTAD-M700Sも新しくラインナップした。

 そのTAD-M700Sは350W×2(4Ω)という出力を備え、かつバイアンプ駆動にも対応しており、マルチチャンネルドライブ用にも使える。この点は、より多くのユーザーにTAD製品を使って欲しいという想いから新たに加わったようだ。

 24日に開催された発表会では、同社社長の永畑 純氏が登壇し、新製品について紹介してくれた。永畑氏は開口一番、今年は6月にもスピーカーの「TAD-R1TX」を発表しており、同じ年にReferenceシリーズを紹介できることは嬉しいと話していた。

 TADは40年前に登場し、業務用で高い支持を集めていた。2007年に家庭用スピーカーの「TAD-M1」を発売、その後はアンプやプレーヤーといった高級モデルを数多くラインナップしてきている。

 そのひとつ、パワーアンプの「TAD-M600」は2009年にスピーカーの「TAD-M1」を鳴らすために開発された。今回は10年の蓄積を経てM700/M700Sに進化したわけだが、そこには同社の開発コンセプトが、変わることなく受け継がれているそうだ。

画像: TADL代表取締役社長の永畑 純氏

TADL代表取締役社長の永畑 純氏

 今回はそれらを、「象」「必」「匠」という言葉で表現していた。

 「象」はアイコンの意味で、一見して分かるTADらしさのこと。これは本体フロントパネルの窓のデザインなどに受け継がれている(M600と細部は異なる)。

 「必」は必然の素材の採用で、M700/M700Sの本体シャーシ(ベース部)は奥州・水沢の鋳物メーカーによる特注品を使っているそうだ。

 最後の「匠」は部材や製造工程でのこだわりを指したもので、パーツ、トランスは匠の手によるものだし、組み立ての生産ラインもひとりの女性がすべて手作りしているそうだ。まさにM700/M700Sは匠の技により成り立っている製品といえるのだろう。

 最後に永畑氏は、「M700では出力を700W出力にアップしています。本体サイズがまったく同じアナログアンプで出力を上げるのは難しく、社内で議論にもなりました。さらにM700Sではステレオ化しています。この困難な要望にエンジニアが応えてくれたことを、喜びたいと思います」と話していた。

画像1: TAD、Referenceシリーズに、4年ぶりにパワーアンプが追加された。モノーラル機の「TAD-M700」とステレオモデルの「TAD-M700S」は12月上旬の登場予定

 続いてM700/M700Sの開発を担当した沼崎氏が登場し、開発の経緯を語ってくれた。永畑氏の話にあった通り、今回は2機種同時の開発で、しかもハイパワー化、音質面の担保などひじょうにハードルは高かったようだ。

 そもそも同社の製品開発アイデンティティは40年変わっていない。材料もベストな物を選び、長期信頼性や品質の維持管理を徹底している。しかもただ技術が優れているだけでは駄目で、そこに音としての魅力がなくてはならないという。“音像と音場の高次元での両立”というのは難しい内容だが、TAD製品ではこれは欠かせないことなのだ。

 その具現化のためのテクノロジーとして、M700/M700Sでは主に6つの点で改良を施した。その概要は以下の通り。

(1)対称性=Dual Logic Circuit Technology
・入力から出力段まで完全に独立したアンプをバランス接続したBTL方式を採用
・電源トランスから整流回路、平滑回路、安定化回路すべてを独立設計(モノーラルアンプのM700も、プラス用とマイナス用にトランスを2基搭載)
・電源トランスの配置や基板のパターン、配線長にまで対称性を重視

(2)振動制御技術
・ベース部に新形状のアルミニウム鋳造シャーシを採用。M600では鋳鉄を使っていたが、今回はアルミに変更することで高い内部損失を獲得。これにより不要振動周波による固有共新を排除した
・本体上部はアルミインゴッドから削り出したパーツを使うことで、高い精度を実現。アルミは低インピーダンスであり、電気的な安定化を獲得している
・新開発の点支持アジャスタブルスパイクを採用。床からの振動の影響を低減し、アイソレーション性能を向上させている。ベース部はSUS304という硬いステンレス材料で、スパイク側はXM7(銅を3%含有)など、異種素材を組み合わせている

画像: 左がTAD-M700のリアパネルで、右はTAD-M700S。入力端子以外はほぼ同一だ

左がTAD-M700のリアパネルで、右はTAD-M700S。入力端子以外はほぼ同一だ

(3)低重心構造
・ベース部シャーシの脚部の傾斜を3%から5%に変更し、側面の曲線もより大きくすることで共新を抑制。さらに安定した状態を実現した
・シャーシ部の表面塗装の柄を変更し、日本のお城の城壁のようなイメージを演出

(4)高出力
・マルチ・エミッター・トランジスターによる電力増幅回路をバランスアンプ接続することで、全周波数帯域で余裕のあるドライブ力を獲得
・エミッター抵抗は10年をかけて開発したハイブリッド型にすることで信頼性を確保している

(5)大容量電源の採用
・2.8kVAの超大型電源トランスを採用。M600からトランスはふたまわり大きくなっており、本体ぎりぎりに納めている。ひとつのトランスで重さが14kgもあるとのこと
・一次巻線と二次巻き線の結合度を高めるためにボビンを廃し、絶縁紙をコアにして手巻きで製造している。電力増幅段に送るケーブルは直径3mmほどあるが、治具を使って巻いているとのこと。ファーストステージ用の巻き線は直出しした引出線を使用
・オリジナル電解コンデンサーは33,000uFを4大搭載。カスタムメイドの部品については、数年間かけて試作を重ねてきた
・フィルムコンデンサーもM600からは一新し、EV車などの登場で振動に強い製品がでてきたので、それらも活用している模様

(6)シンプル化にこだわった電圧増幅回路
・入力回路に採用したFETデバイスは、ひとつひとつの特性が異なるため、社内で厳選してペアを指定している。これにより動作安定性が大幅に向上している
・電圧増幅回路の基板は、M700ではパーツの配置を完全に対称にし、ステレオフォニックの再生、情報量、骨太の音色の再生を目指した
・M700Sではステレオの回路を納めるために基板の集積度を上げて、しかもそれらを対称に配置している。共通のパーツも多いが、一部のパーツはM700/M700Sそれぞれに最適なものを選んでいる

画像2: TAD、Referenceシリーズに、4年ぶりにパワーアンプが追加された。モノーラル機の「TAD-M700」とステレオモデルの「TAD-M700S」は12月上旬の登場予定

 発表会でM700とR1TXを組み合わせた音を聞かせてもらった。

 オルガンを使った交響曲やギターとバイオリンのデュオ、トランペット、女性ボーカルなどの音源を再生してもらったが、いずれも音場の静けさ、そこから音がふわりと立ち上がってくる様に驚いた。

 S/Nも優れているし、楽器の発音の早さ、クリアーさが飛び抜けている。音場は浪々としながら、見晴らしがよく、トランペットもストレスなく吹き抜けていく。もちろんボーカルや各楽器の定位も素晴らしい。

 M700/M700SはTAD-R1TXを駆動することを目標に開発されたそうだが、これだけの再現力を持っていれば、他のスピーカーも見事にドライブしてくれることだろう。精緻さや細かな情報の再現にこだわるオーディオファンはこの音を体験して欲しいと思った次第だ。

This article is a sponsored article by
''.