東京芸術劇場とは

 1990年に開館し2012年に全面的な改修を行なった東京芸術劇場は、池袋駅に隣接し、東京都内はもちろん関東近県からも訪問するのに大変便利な劇場です。

 そんな東京芸術劇場の魅力は大きく二つあり、一つは、ここが音楽・演劇・歌劇・舞踊等の様々な芸術を扱える複合施設であること、そしてもう一つは、クラシック専用のコンサートホールには世界最大級のパイプオルガンがあるところです。

画像: 演奏者と比べる、巨大なパイプオルガンに圧倒される

演奏者と比べる、巨大なパイプオルガンに圧倒される

 今回、東京芸術劇場とキングレコードの共同制作プロジェクトということで、そのパイプオルガンの演奏を、劇場の音響効果を知り尽くした劇場のスタッフ、録音のプロフェッショナルであるキングレコードの録音スタッフとでDSD 11.2MHz録音をすると伺い、その様子を取材させてもらいました。

 録音は2019年6月に2日間かけて行なわれましたが、取材はその初日の様子をお伝えします。

 

東京芸術劇場のパイプオルガンの凄さ

 東京芸術劇場自慢のパイプオルガンは、フランスのガルニエ社製。ご存知パイプオルガンは、建物と一体化した楽器であり、ホールのサイズや響き、空調など、建物の様々な条件を考慮して導入されるため、完全なオーダーメイドとなります。

 東京芸術劇場のパイプオルガンは、長い歴史を持つパイプオルガンの「時代によって異なるスタイルを1つにまとめる」という驚くべきアイディアから、設置・導入がスタートしています。

 この前代未聞のアイディアを、1台のパイプオルガンをクラシック面とモダン面に分け、本体を回転させて演奏面を切り替えるという、世界でも大変珍しい機構で実現しています。

 これにより、クラシック面ではルネサンス、バロック期の曲を、モダン面ではフランス古典やロマン派以降の曲を、演奏できるようにしています

画像: パイプオルガン クラシック面。クラシック面、モダン面共に左右対象のデザインに見えて、少しづづ異なっている。そんなデザインもガルニエ社のこだわり

パイプオルガン クラシック面。クラシック面、モダン面共に左右対象のデザインに見えて、少しづづ異なっている。そんなデザインもガルニエ社のこだわり

画像: 美しいデザインのクラシック面は、3段鍵盤

美しいデザインのクラシック面は、3段鍵盤

画像: パイプオルガン モダン面。一見金属に見える本体部だが、こちらも木で作られている

パイプオルガン モダン面。一見金属に見える本体部だが、こちらも木で作られている

画像: こちらも美しいモダン面の鍵盤

こちらも美しいモダン面の鍵盤

 その結果、クラシック面ではバッハの曲を当時のピッチである415Hzで演奏したり、オーケストラとの共演では、モダン面の現代ピッチである442Hzで演奏したりと、作品のスタイルに合わせて、最もオリジナルに近い演奏をすることが可能となっています。

 ホールに関して目を向けると、建物には多くの大理石が使われており、音響的にはヨーロッパの石の建造物のような反響を実現。

 加えて2012年の改修で、床板にヒノキ材を採用することにより、オルガンの音色で重要な中低音が、さらに持続出来るようにもなりました。

 そういった意味から、東京芸術劇場は日本にいながら、まるで本場ヨーロッパの教会の音を聴くことができる、大変貴重なコンサートホールだとも言えます。

 当日は東京芸術劇場のご好意により、オルガンの切り替えの様子を動画で撮影させていただいたので、こちらでモダン面からクラシック面へと切り替わる様子をご覧ください。

 

画像: 東京芸術劇場パイプオルガン youtu.be

東京芸術劇場パイプオルガン

youtu.be
画像: パイプオルガンの低域を支える32フィート(約10m)管。国内でもこの超低音をきちんと出せるパイプオルガンは少ない。今回のDSDファイルの聞きどころでもある

パイプオルガンの低域を支える32フィート(約10m)管。国内でもこの超低音をきちんと出せるパイプオルガンは少ない。今回のDSDファイルの聞きどころでもある

今回のDSD録音はなぜ行なわれたのか?

 今回の共同制作プロジェクトは、そんな素晴らしいオルガンの音を多くの人に聴いてもらおうと、普段から様々な取り組みをしている東京芸術劇場と、最新の録音機器と長年培った録音技術を持つキングレコードがタッグを組んで行なわれました。

 レコーディング機材にはDSD録音で定評のある、スイス/マージングテクノロジーズ社のピラミックスを用いています。

画像: 今回のDSD録音はなぜ行なわれたのか?

 以下、キングレコード株式会社 第二クリエイティブ本部 プロデューサー「松下 久昭」氏、株式会社キング関口台スタジオ 録音部長「増田 晋」氏、東京芸術劇場 管理課 舞台管理担当係長「石丸 耕一」氏、東京芸術劇場 事業企画課 主任「曾宮 麻矢」氏に、導入の経緯や、曲目等の選定、オーディオファイルには気になる、録音機材やその様子などを伺いました。

 

今回の企画意図から教えていただけますか。

松下 以前別の企画でこちらのパイプオルガンを聴いたことがあったのですが、その素晴らしい音色に、いつかはここのパイプオルガンの音を最高の音で録りたいと思っていました。

キングレコードさんからお声が掛かった時はどう思いましたか。

石丸 大変ありがたいお話だと思いました。開館以来30年、コンサートの度にマイクの位置を試行錯誤してきました。コンサートホールにパイプオルガンを導入するのにご尽力をいただいた、故・永田 穂 先生(永田音響設計)の「パイプオルガンは風の楽器だから」というお言葉を頼りに、ここ数年ようやく満足できるマイクの位置を決められた、そんなタイミングでのお声がけでもありました。

今回キングレコードさんが導入したDSD 11.2MH録音対応のピラミックスはいかがでしたか。

石丸 正直これまで使っていた録音機器とは、天地の差がありました。この機械であれば、永田先生も満足していただけるのではと思っています。

パイプオルガンの音の特徴はどのような所にあるのでしょうか。

曾宮 パイプオルガンの音色には「笛が歌う」というような表現がありますが、ここのオルガンはフルートの音色一つとっても美しく、歌うように聴こえますし、それらの音が複数合わさっても、大変綺麗に聴こえると思います。バッハのような難解と感じる楽曲でも、音色が良いと飽きずに聴くことが出来ると思います。

また、オルガンはその発音がすごく大切な楽器です。音の出だしと切る瞬間の発音です。オルガンはフレーズ間で強弱が作れないので、特に音の出だしの発音にそのキャラクターが出てきます。「ター」なのか「ッター」なのか、そこに風の息遣いが出ると思います。私もそこが今回の録音でどのように聴こえるか楽しみです。

石丸 ホールと一体のオルガンでは、やはり音の響きも一体だと思います。ここのオルガンを別のホールに持っていっても、ここの音は出せません。その辺りも聞きどころかと思います。

選曲や演奏者などはどのように決まったのですか。

松下 今回の主役はパイプオルガンということで、演奏者に関しては、こちらのパイプオルガンを知り尽くした東京芸術劇場専属のオルガニスト4名にお願いしています。選曲に関しても、ルネサンス、バロック、モダンと、パイプオルガンの魅力が最大限に出る選曲をしています。

曾宮 例えば本日午後に聞いていただいた、ブラームスはドイツ・ロマン派の曲です。使っているパイプの本数は少ないながらも、非常に美しい音色を奏でてくれていたと思います。一方で、最後に演奏したボエルマンは大曲です。圧倒的なスケールと迫力で、使用するパイプの本数も多いのですが、一音一音がホールではきちんと聴こえてきたと思います。芸劇のオルガンはフランス・ガルニエ社製なので、最後はフランス人の作曲家にしようボエルマンを選曲しました。

東京芸術劇場のパイプオルガンの特長はどんなところにありますか。

曾宮 実はパイプオルガンのデザインですが、一見同じように見えますが、左右で少しずつ異なっています。音色に関しても、製作者であるガルニエさん曰く「メーター通りの調律は面白くない」とおっしゃっていて、少しずらすことによって音が拡散して共鳴し合うような、その響きをご自身の耳で調整していたようです。

石丸 ホールに関して言えば、パイプオルガンの左右の壁の角度と広がりも絶妙なんだと思います。音の拡散と反射が、パイプオルガンの大きさやパイプの本数に完全に合っており、さすがはガルニエ社製と言ったところだと思います。

曾宮 そこは同感です。ガルニエさんの圧倒的なセンスと耳の良さがあって、全てが実現したと思っています。

本日はありがとうございました。

画像: 写真左から、キングレコード株式会社 第二クリエイティブ本部 プロデューサー 松下 久昭 氏、株式会社キング関口台スタジオ 録音部長 増田 晋 氏、東京芸術劇場 管理課 舞台管理担当係長 石丸 耕一 氏、東京芸術劇場 事業企画課 主任 曾宮 麻矢 氏

写真左から、キングレコード株式会社 第二クリエイティブ本部 プロデューサー 松下 久昭 氏、株式会社キング関口台スタジオ 録音部長 増田 晋 氏、東京芸術劇場 管理課 舞台管理担当係長 石丸 耕一 氏、東京芸術劇場 事業企画課 主任 曾宮 麻矢 氏

 

超絶サウンド!芸劇オルガン

画像: 「風の音を聴いてほしい!」芸劇オルガンのDSD 11.2MHz録音現場に伺った

1. カプリッチョ「カッコウ」 /J.C.ケルル:演奏:川越 聡子
2. 詩編 第24編「地とそこに満ちる」 Verse 1/A.ファン・ノールト/演奏:川越 聡子 3. 詩編 第24編「地とそこに満ちる」 Verse 2/A.ファン・ノールト/演奏:川越 聡子
4. 詩編 第24編「地とそこに満ちる」 Verse 3/A.ファン・ノールト/演奏:川越 聡子

5. コラール「一日が終わり、イエスよ私とともに留まりたまえ 」/J.C.オーライ/演奏:小林 英之
6. コラール「ああ神よ、天よりみそなわし」/J.N.ハンフ/演奏:小林 英之
7. コラール「神のみわざはすべて善きことなり」 (BWV Anh.II/67) /作者不詳/演奏:小林 英之
8. 前奏曲とフーガ ロ短調 BWV544/J.S.バッハ:小林 英之

9. 『教区のためのミサ』より「地には平和 プラン・ジュ」/F.クープラン/演奏:平井 靖子
10. 『教区のためのミサ』より「グラン・クラヴィエのトランペット、クレロン、ティエルスとポジティフのブルドン、ラリゴによるディアローグ」/Francois Couperin/演奏:平井 靖子
11. 『教区のためのミサ』より「テノールをティエルスで」/F.クープラン/演奏:平井 靖子
12. 『教区のためのミサ』より「グラン・ジュによるディアローグ」 /F.クープラン/演奏:平井 靖子

13. 『11のコラール前奏曲 Op.122』より 第10番「わが心の切なる願い」/J.ブラームス/演奏:新山 恵理
14. 『11のコラール前奏曲 Op.122』より 第4番「心よりの切なる喜び」 /J.ブラームス/演奏:新山 恵理
15. 『ゴシック組曲 Op.25』 I. 序奏ーコラール/L.ボエルマン/演奏:新山 恵理
16. 『ゴシック組曲 Op.25』 II. ゴシック風メヌエット/L.ボエルマン/演奏:新山 恵理
17. 『ゴシック組曲 Op.25』 III. ノートル・ダムへの祈り/L.ボエルマン/演奏:新山 恵理
18. 『ゴシック組曲 Op.25』 IV. トッカータ/L.ボエルマン/演奏:新山 恵理

 

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