ワーナーミュージック・ジャパンは8月7日、「ハイレゾCD(MQA-CD×UHQCD)名盤コレクション」合計29作品を発売した。ポピュラー19作品、邦楽とクラシックが各5作品というラインナップだ(価格は¥2,800〜¥3,800、税別)。それを記念して、東京・四谷のクリプトン・ラボでプレス向けのMQA-CD試聴体験会が開催された。
ご存知の方も多いかもしれないが、MQA(Master Quality Authenticated)は、メリディアンの創設者のひとりであるボブ・スチュワート氏が開発したテクノロジーで、録音マスターのクォリティを折りたたんで(カプセル化して)、効率的にユーザーに届けようというものだ。
MQA-CDはその技術を使い、44.1kHzのリニアPCM信号の中にハイレゾの情報を格納したディスクとなる。普通のCDプレーヤーで再生すれば44.1kHzのクォリティで、MQA-CD対応システムで再生すればハイレゾ音声として楽しめることになる。
今回クリプトン・ラボで試聴会が開催されたのは、同ブランドの「KS-9Multi+」が、一体型システムとして世界で初めてMQA-CDの再生に対応したことを受けてで、ソフトウェアとハードウェアの両面からMQA-CDの魅力を訴求していこうという狙いのようだ。
試聴会では、まずMQAの鈴木弘明氏が、現在のMQA-CDの概要を説明してくれた。氏によると、MQA-CDは2017年に発売された。その時はUNAMASレーベルの『A.Piazzolla by Strings and Oboe』で、OTTAVA Recordsからのリリースだった。
その後2018年にユニバーサルミュージックが一気に100タイトルをリリースし、音楽ファンの注目を集めた。最近では毎月MQA-CDが発売されているそうで、今回のリリースを加えると合計300タイトルを超えるディスクが揃っている。
これを受け、ワーナーミュージック・ジャパンの道島和伸氏は、「MQA-CDについては、昨年から打ち合わせを進めていましたが、やっと本日リリースできました。ユニバーサルさんの作品は洋楽が中心でしたが、弊社はいろいろなジャンルを揃えたつもりです。中でも中森明菜さんの2タイトルとドナルド・フェイゲンは発売前から多くの予約をいただいています」と、音にこだわるユーザーからの反響があったことを明かしてくれた。
また、「今回のMQA-CDのマスターの多くはアナログ・テープから作られた192kHz/24ビットマスターを176.4kHz/24ビットに変換し、MQA側でエンコードしています。それを日本で検聴するのですが、立ち会ったエンジニアも、ハイレゾだとこんな音が聴こえるんだと感動していました」と話してくれた。
ちなみに各作品のマスターの詳細は、店頭カタログに詳しく紹介されているので、気になる方はぜひチェックしていただきたい。
続いてクリプトン オーディオ事業部長の渡邉勝氏が再生システムのKS-9Multi+について解説してくれた。
「オリジナルモデルのKS-9MultiはMQAデコードには対応していましたが、MQA-CDの再生はできませんでした。今回のKS-9Multi+で無事再生できるようになりましたが、発売が予定より遅れてご迷惑をおかけしてしまいました。
現在でもKS-9Multi+のようにプレーヤーをつなぐだけでMQA-CDが聞ける製品は少ないと思います。さらにKS-9Multi+は光デジタル入力に加えてHDMI入力も備えています。これは本機だけの特長です。実際に光とHDMIでケーブルによる音の違いもありますので、聴き比べて下さい」(渡邉氏)
そして今回発売されるMQA-CDの中から、お勧めタイトルや参加者が聴いてみたいディスクを再生してもらった。
ちなみにMQA-CDの再生は、プレーヤーからKS-9Multi+に44.1kHz/16ビットのリニアPCM信号を入力するだけ。KS-9Multi+に内蔵されたデコード回路がハイレゾ信号を復元・再生してくれる。なお、再生機にはパイオニアのユニバーサルUHDブルーレイプレーヤー「UDP-LX500」を使い、HDMIケーブルでつないでいる。
まずは、ドナルド・フェイゲン『ナイトフライ』とリッキー・リー・ジョーンズ『浪漫』を使い、CDとMQA-CDでどれくらい音が違うかの確認からスタート。MQA-CDデコードすると、『ナイトフライ』は48kHz/24ビット、『浪漫』は176.4kHz/24ビットで再現される。なお『浪漫』はハイレゾ音源として初めてのリリースになるそうだ。
『ナイトフライ』では、まず音場感が違う。CDは聴き慣れた印象だが、MQA-CDになると声の張り出しがクリアーで、力強い。ヴォーカルに芯があり、抑揚感や低域感の再現にも違いがある。
『浪漫』も同様で、ドラムのアタックが力強く、低域の沈み感が違う。音の粒は細かく、楽器もきちんと分離するなど情報の違いも出てきた。声のニュアンスも自然。
『浪漫』を使って、光デジタルとHDMIケーブルによる音の違いも聴かせてもらった。すると、光デジタルではハイあがりの印象で、声がやや薄くなる方向になる。低域が整理されて、すっきりしたサウンドに思えた。
渡邉氏によると、KS-9Multi+側の信号処理回路はどちらの入力でも同じとのことなので、音質の違いは純粋に伝送経路に起因したもののようだ。いったいどれほどの差があるのかは、ぜひご自分の耳で確認していただきたい。
他にも、アニタ・ベイカー『ラプチュアー』、ドゥービー・ブラザーズ『キャプテン・アンド・ミー』、デュ・プレ『エルガー:チェロ協奏曲』などでも共通して清涼感のある綺麗なサウンドが再現される。リズムが弾んで、テンポもいい。チェロの弦の太さ、楽器の重なりなどもひじょうにリアルだ。
これらの印象は、もちろんサンプリング周波数などのスペック的な優位さもあるが、MQAとして時間軸解像度を上げる処理をエンコード時に加えていることも大きな要因だそうだ。人間は時間軸方向にずれがあると、違和感につながりやすいという。その意味でMQA-CDでハイレゾを聴くメリットもあるのだろう。
最後に面白い検証として、中森明菜の2枚のベスト盤から、「ミ・アモーレ」の聴き比べをさせてもらった。最初は2012年に発売されたデビュー30周年記念のリマスター盤の音源、もう一枚は1986年のアナログ盤用マスターを使った音源で、どちらもMQAデコードすると88.2kHz/24ビットで再生される。
リマスター盤は、デジタルサウンドらしい綺麗さのある、すっきりした印象だった。ヴォーカルとバックの演奏がどれも均等に聴こえてくる。対してアナログ盤用マスターの音はいかにもアナログらしいニュアンスで、ヴォーカルをしっかり聴かせてくれるバランスだった。
こういったマスタリングの違いまではっきり描き出すのは、MQA-CDというフォーマットの優秀さもあるが、KS-9Multi+が素直にソースの持ち味を再現していることも一因だろう。ハイレゾのクォリティとパッケージを愛でる楽しみを両立できるメディアとしてのMQA-CDのこれからの展開にも期待したい。