D棟 D5ホール

 去る6月29日〜30日に開催された「OTOTEN2019」に於いて、ステレオサウンド社もオーディオ専門誌セミナーを開催しました。

画像: 北村さんの解説に耳を傾けてくれる皆さん

北村さんの解説に耳を傾けてくれる皆さん

 今回のテーマは「アナログレコードができるまで」。株式会社ミキサーズラボ ワーナーミュージックマスタリング カッティングエンジニアの北村勝敏さんを講師に迎えて、現代のアナログレコード制作がどのように行なわれているか、動画・図説などをまじえながら解説していただいています。

 最近のオーディオ界で大きなムーブメントとなっているアナログ盤。オーディオ愛好家の心と耳を捉えて離さないレコードだが、しかしそのディスクがどのようなプロセスを経て製造され、手元に届くのかは、ほとんどの方が知らないのでは……。

 そんな思いから企画したセミナーですが、当日は会場前から多くの皆さんが行列に並んでいただき、予想以上の盛況ぶりでした。それだけアナログレコードへの関心が高い証拠でもあるのでしょう。

画像: 講師を務めてくれた、株式会社ミキサーズラボ ワーナーミュージックマスタリング カッティングエンジニアの北村勝敏さん

講師を務めてくれた、株式会社ミキサーズラボ ワーナーミュージックマスタリング カッティングエンジニアの北村勝敏さん

 さて肝心のセミナーは、北村さんのていねいな解説で進行していきました。そもそもアナログレコードができるまでには、大きく分けて(1)マスタリング、(2)カッティング、(3)プレスという工程があります。

  (1)マスタリングとは、全体の流れ、アルバムを通して曲ごとの音量、音質を調整する作業を指します。これによりレコーディングのスタジオやエンジニアが違っていたとしても、一体感のある音としてひとつのアルバムに収めているわけです。

 ちなみに北村さんは、以前マスタリングの際に「雨だれがみえるような音のイメージにして欲しい」、あるいは「額の汗は見えるけれど、腰に手ぬぐいを付けている様子までわかるようにして欲しい」といったリクエストをもらったこともあるとか。「どうやって解決したか自分でも覚えていませんが(笑)、持っている技術を駆使しました」と、懐かしそうに話してくれました。

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 続く(2)カッティングは、まさにレコードの溝を掘る工程です。カッティングマシンと呼ばれる、先端に針のついた機械でラッカー盤を削るわけですが、ただ単に音楽信号を入力して溝を掘ればいいということではなく、そこには匠の業が求められます。

 例えばレコードの溝は、大きな音を記録すると幅も広く、かつ深くなります。しかし幅が広くなるとそれだけ記録できる面積が少なくなるので、当然記録時間も短くなるわけです。カッティングの現場では、数秒先をモニターしながら、レコードに情報を記録していくのです。

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 そして(3)のプレスに移ります。(2)カッティングでは最終的にラッカー盤に溝を掘って仕上げていますが、ラッカー盤はスプリングバックといって、元に戻ろうとする特性があるそうです。それもあり、北村さん的にはラッカー盤ができたら、なるべく早くプレスをした方がいいと考えているそうです。

 そのプレスでは、ラッカー盤に電気ニッケルメッキを施して、マスター→マザー→スタンバーの順番で、溝の情報を持ったプレスの元(金型のような物)を作ります。A/B面用がそれぞれ出来上がったらプレス機に取り付け、塩化ビニールの素材を型押ししてレコードができるわけです。

 なお、レコードレーベルはこの時に取り付けますが、塩化ビニールを温めながら(80度くらい)プレスしていくので、その課程で紙製のレーベルが盤面にしっかり固定されるので、糊は必要ないそうです。

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 こうして出来上がったディスクの外周部を整え、検査を経た後、アナログレコードとしてわれわれの手元に届くという仕組みなのです。

 なおセミナーでは、解説の合間に北村さんが手がけたレコードやラッカー盤が再生されました。なかでも、今回のセミナーのために特別に準備したラッカー盤(一度を針を下ろしたことがない新品)を再生したときは、来場者はみんな全神経を耳に集中しているかのよう。

 そもそもラッカー盤は柔らかい素材でできているため、数回の再生で音溝が摩耗してしまうのですが、フレッシュな状態ではアナログ盤として最高のサウンドを楽しませてくれるのです。

 その音の感想は、セミナーが終わって会場を後にする皆さんの表情から、充分にうかがえた次第です。

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