皆さんは8K映像をご覧になったことがあるでしょうか? 昨年12月1日の放送開始から半年が過ぎ、店頭などで目にする機会は増えているけれど、ホームシアターでそのクォリティを確認するチャンスは少ないかも……。StereoSound ONLINEでお馴染の酒井俊之さんもそんな風に感じていたひとり。そこで今回は、放送開始以来8K映像をすべて録画し、チェックしている麻倉怜士さんのお宅で、8Kの魅力をじっくり体験させていただきました。

画像1: ホームシアターで見る8Kは、本当に素晴らしかった! 「乃木坂46」や「宝塚歌劇」ファンがこれを知らないなんて、そんな勿体ないことがあっていいのか【シリーズ:4K(8K)深掘り04】

——今日は酒井さんと一緒に麻倉さんのシアタールームにお邪魔して、8Kのお薦め番組をいろいろ見せていただきました。

酒井 いや〜、やはり凄いですね。昨年の12月1日、BS4K8K開局日に渋谷のNHKスーパーハイビジョンパークで麻倉さんとはご一緒しましたが、8Kを今日くらいじっくり観ることが出来たのは初めてです。

——今日はシャープの80インチ8Kテレビで見ていただきましたが、まずはその再生システムについて、改めて教えてください。

麻倉 わが家では、放送開始に合わせて、アンテナから入れ替えました。NHK BS8Kの受信には左旋電波に対応したBSアンテナが必要ですから、それを追加すると同時に、ブースターや分配器も左旋対応機に入れ替えています。

 受信機器はシャープの8Kチューナー内蔵液晶テレビ「8T-C80AX1」で、これに8K用HDDレコーダー「8R-C80A1」を組み合わせて8Kエアチェックを実践しています。視聴距離は約1.8mなので、1.8H(Hは画面の高さ)で観ていることになりますが、まったく圧迫感はありません。

 音はオラソニックのテレビ用スピーカー「TW-D77OPT」をつないで、2chで再生しています。

酒井 これで1.8Hなんですね。自宅のスクリーンでもここまで近くはありませんが、映像が緻密なためか、意外と“近接している”といった印象にはなりませんね。

——その環境で、麻倉さんが選んだお薦め番組を見せていただきました。

麻倉 12月の放送開始から気になる番組はすべてエアチェックしています。8R-C80A1には、145タイトル録画しているんです(2019年5月26日時点)。

酒井 もう既にライブラリーの数がすごい(笑)。実は今日は、普段自宅で見ている4K放送やNHKの試写会での8K映像とくらべて、実際の放送ではどんな印象なのかを確かめたいというのが個人的なテーマでしたので楽しみにしていました。

麻倉 なるほど。で、実際にご覧いただいていかがでしたか?

酒井 4Kと8Kの違いは思いのほかあるんだなぁというのが第一印象です。

麻倉 具体的にはどんな違いがあったのでしょうか?

酒井 ひと言で言うと8Kは“思わず覗きこみたくなる”。画面の中に首を突っ込みたくなって、たびたび身を乗り出してしまいました。その先に何があるかを確かめたくなる、4K放送ではそこまでの気持ちにはならないのですが、8Kは違う。そこが一番大きな違いだと感じました。

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麻倉 それは素晴らしい感想ですね。歴史的に考えると、現実の世界があって、テレビジョンはそれを切り取って、遠くで今何が起こっているかを知らせてくれるメディアとしてスタートしました。

 その頃は情報伝達が第一で、情緒や質感まで再現しようといった発想はなかったのです。しかし技術が進んで白黒がカラーになり、画質も2Kになってくると、テレビは単なる映像情報だけでなく、情緒感、臨場感といったプラスアルファの部分をいかに視聴者に届けるかも大切になってきたのです。

酒井 しかもこの20年くらいの間で急激に進化したわけですよね?

麻倉 その意味では、われわれは映像激変の時代に立ち会っているといえるでしょう。SDの時代は元の情報が少ないので、輪郭強調、カラー強調といった人工的な脚色が必要でした。4Kでもその残滓があって、メリハリをつけて綺麗に見せる、感動してもらおうという意図が感じられることがあります。

 しかし8Kはそれとは違い、元から凄い情報量を持っているので、それをいかにダイレクトに伝えるかが大切です。余計な脚色を加えたり、加工しないで、オリジナルのよさをきちんと持ってくるという点が8Kの特徴ではないでしょうか。

 その違いが一番わかりやすかったのが、昨年の『紅白歌合戦』でした。地デジ、4K、8Kで同じ番組が同時に放送されることはあまりないのですが、さすがに紅白は特別ですからね。

酒井 『紅白歌合戦』は4Kと地デジを切り替えながら見ていました。違いは歴然で、地デジは従来通りブロックノイズが目立っていましたね。

麻倉 地デジは伝送帯域が限られているため、初めから情報を整理して圧縮しています。それもあり、甘い印象になりがちです。それに比べると4Kは素晴らしかった。黒も締まっているので、ハイパワーな映像で楽しめます。解像度も4Kなので、緻密です。

 しかしこれが8Kになると、まったく違うレベルになります。4Kはコントラストと階調をバランスさせた映像ですが、8Kはどちらかというと階調重視で、なめからで一見なよっとしているのだけれど、よく見ると素晴らしく繊細な絵になっています。

 人工的な絵づくりの極地が4Kで、自然そのものが持っている生成りの階調感が出せるのが8Kといってもいいでしょう。

『紅白歌合戦』視聴インプレッション
会場の本物感を体験できる8Kと、華やかさを感じる4K

 『紅白歌合戦』の印象は、4Kと8Kで大きく違いました。自宅で見た4K放送は『紅白〜』らしい華やかさが目を惹いたけれど、それに比べると8Kはパッと見ると地味な印象。しかしじっくり見ていくと、司会の桜井君が着ている白い羽織などで、8Kは素材、質感のよさがよく伝わってきました。

 4Kではそこまでは目が行かなかった。4K放送は地デジの2Kにはない緻密さや華やかさはあるけれど、何気ない質感再現という点では8Kの方が優れている。8Kはそれだけリアルな世界に近いといえるかもしれません。(酒井)

 『紅白歌合戦』は、地デジ、4K、8Kで同時に放送された貴重な番組です。しかも、地デジ/4K用と8K用では、撮影しているカメラそのものが違う。だから絵づくりが違っているのも当然。

 8Kは階調重視、4Kはコントラスト重視の絵づくりと見ます。8Kはありのままを再現している印象ですが、それでもこれほどの情報がでてくるのが素晴らしいですね。おそらく、実際にNHKホールで見ている印象は8Kに近いのではないでしょうか。(麻倉)

酒井 先ほど8Kは階調を重視した絵づくりがされているというお話でしたが、8Kで収録した番組を4Kにダウンコンバートした場合も同じ傾向になるのでしょうか?

麻倉 8Kコンテンツは階調性重視なので、そのまま4Kにダウンコンバートするとコントラストが足りないと感じるでしょう。8Kは卓越した精細感・情報量があるので、階調感があれば絵として成り立ちますが、4Kではどうしてもそこに力感が必要になるのです。なので放送では8K→4K変換した後で、コントラストを調整しているのではないかと思います。

 2Kや4Kでは脚色して見栄えをよくしていますが、8Kはそうではない。もちろん8Kでも見栄えをよくすることはできるはずですが、『紅白歌合戦』では8Kは他とは違う、緻密、階調感のある映像を狙っているように思います。

酒井 同じ音楽番組として、『乃木坂46 神宮球場8Kライブ!』や『8Kスーパーライブ コブクロ オーケストラナイト』も見せていただきましたが、こちらは積極的に絵に演出を施している印象がありました。視聴者層を意識して、コンテンツによって絵作りを使い分けているのでしょうね。

麻倉 確かに『乃木坂46〜』は、8Kにしては華やかで、いかにも若い世代に向けた映像でした。きらびやかな衣装もよかったし、日が落ちてからのシーンで、スポットライトが当たるステージはHDR(HLG)の効果がとてもよくわかります。

酒井 残念ながら『乃木坂46〜』はこれまで4K放送ではオンエアされていないんです。やはりNHKとしても特別なコンテンツなのでしょうか。こういったものをどんどん4Kで放送すれば、もっと幅広い層に注目されると思うんですけれど……。

画像3: ホームシアターで見る8Kは、本当に素晴らしかった! 「乃木坂46」や「宝塚歌劇」ファンがこれを知らないなんて、そんな勿体ないことがあっていいのか【シリーズ:4K(8K)深掘り04】

麻倉 クラシックでは、『N響演奏会 諏訪内晶子 シベリウス バイオリン協奏曲』も素晴らしかったですよ。NHKホールでの収録なのでスタッフも手慣れているのでしょうが、フォーカス感もいいし、色、雰囲気もとてもうまく再現されていて安心して楽しめます。SDRですが。

 これに比べると、『コブクロ〜』は脚色されていて、オーケストラもウォームな方向だし、画面にパワーをつけている。そういったグレーディングの使い分けは、8Kは地デジや4K以上に使い方の余地も広がっている気がします。

酒井 なるほど、グレーディングのテクニックにも差が出るわけですね。

麻倉 バレエの『マリインスキー・バレエ くるみ割り人形』もなかなかうまい映像でした。そもそもバレエ中継はバレリーナの全身を捉えていなくてはなりません。しかし2Kだと引きの映像ではぼけてしまって、面白みがない。8Kだと舞台全体を捉えても精細感があります。こういった画面全体でスタイを捉えるという撮り方も、8Kの情報量を活かす方法としてあっていますね。

酒井 ステージ奥の暖炉の明滅やセットの奥行感もとても自然でした。そう考えると、8Kではライブやステージを収録した“生の作品”をもっとオンエアしてくれた方がありがたい気もしますね。

麻倉 そもそも舞台ものはお客さんもかぶりつきではなく、ゆったり座って楽しむ芸術です。客席とステージもある程度の距離があるわけで、8Kカメラの映像はそのシミュレーションになっているのでしょう。でありながら、会場に行ってもこれほどの情報量では見られないわけですし、ベストポジションで楽しめるというのは何より素晴らしい。

酒井 普段はあまり縁がありませんが『宝塚』のステージには感動しました。

麻倉 そう、『宝塚』の舞台中継も素晴らしかった。前半の芝居シーンは暗めの映像ですが、後半のレビューはとてもきらびやか。その両方の違いが、うまく再現できていると思ったのです。

『宝塚』視聴インプレッション
まさに8K向きのコンテンツ。もっと大画面で見たくなる

 ファンなら絶叫モノ! ではないでしょうか。『宝塚』の一連のステージは、先日の4K放送版も見ましたが、舞台割り、きらびやかさなどは本当に8K向きと言える内容でした。NHKもいいところに目を付けていますね。

 宝塚ファンは少なくないわけで、そういった方々がこの8K映像を見たら、きっと生のステージ同様に感動して、8Kテレビが欲しくなるんじゃないかと思います。ファン同士のコミュニティも盛んだし、誰それが8Kで見ているなら私も8Kが欲しいという気分になるでしょう(笑)。

 レビューシーンで、横一列に出演者が並んだ時の画角の使い方も上手い。4K放送でも、それぞれの組による演出や衣装の違いが分かりましたが、ディテイル感、華やかさはやはり8Kにはかないませんね。(酒井)

 『宝塚』の舞台は、8Kと本当に相性がいいのです。もともとファンタジー的なステージですから、お化粧や衣装も現実にはない演出がされています。その描写が8Kではとても細かく再現されるので、魅力がいっそう伝わってきます。

 『宝塚』の真骨頂は後半のレビューですが、ここの迫力もいいですね。衣装のキラキラ感、羽の細かい再現性など見惚れてしまいます。特に大階段は大画面ならではの迫力です。今日は80インチだけど、もっと大きい画面で観たいと感じました。(麻倉)

※7月1日公開予定の【シリーズ:4K(8K)深掘り05】に続く

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