前回の記事(https://online.stereosound.co.jp/_ct/17272821)では、同人音楽ユニットBeagle Kickのメンバーである和田貴史と橋爪徹に発売されたばかりの2ndアルバム、『MIRACLE』で取り組んだ挑戦や聴きどころについて話を聞いた。今回は、試聴レビュー編として、橋爪のスタジオ「Studio 0.x」にて、オーディオ機器で曲を聴いてもらい、彼ら自身がどんなインプレッションを持ったか語ってもらっている。『MIRACLE』を楽しむ際の参考にしてほしい。(ステレオサウンド ONLINE)

ALBUM『MIRACLE』
Beagle Kick

画像: ハイレゾ版(WAV/FLAC) MQA版 MQA-CD版 各¥2,500(税別) http://beaglekick.com/

ハイレゾ版(WAV/FLAC)
MQA版
MQA-CD版
各¥2,500(税別)
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画像: Beagle Kick 2nd.Album "MIRACLE" フル試聴 www.youtube.com

Beagle Kick 2nd.Album "MIRACLE" フル試聴

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MQA-CDは普通にCDとして再生しても、ハイレゾのようなサウンドだ

──前回は、2ndアルバム『MIRACLE』のコンセプトや、ハイレゾの可能性を広げる取り組みとしてどんなことを行なっているのかなど、じっくりと語っていただきました。私も含めて、いったいどんなサウンドなのか気になっている方も多いのではないでしょうか。そこで、ここからは和田さんと橋爪さんのお二人に、『MIRACLE』収録曲を試聴し、インプレッションを語っていただきたいと思います。

橋爪 楽しみです。『MIRACLE』はハイレゾ版(WAV/FLAC)、MQA版、MQA-CDと3種類でリリースしました。どれから聴きますか?

画像1: MQA-CDは普通にCDとして再生しても、ハイレゾのようなサウンドだ

和田 まずは、CDプレーヤーさえあれば誰でも聴ける、MQA-CD版からがいいですね。先ほどの話にもありましたが、MQA-CDは、通常のCDプレーヤーで再生した場合、44.1kHz/16bitでの再生ながらも、MQAの特徴である時間軸の精度が高いサウンドで再生されます。

画像2: MQA-CDは普通にCDとして再生しても、ハイレゾのようなサウンドだ

橋爪 そして、MQAデコード対応のプレーヤーで再生すると88.2kHz/24bitや、176.4kHz/24bitの高解像度に展開される。つまりCDでありながら、MQAとしても扱えるという代物です。私が知る限り、『MIRACLE』が同人音楽初のMQA-CDタイトルだと認識しています。

──なるほど。では、ディスクはそのままに一般的なCD再生と、MQAデコード再生の両方を聴いていただきましょう。橋爪さん試聴システムを教えてください。

橋爪 残念ながら、MQAデコードのオン/オフを切り替えられるデコーダーやプレーヤーがここにはありません。なので、通常のCDとして再生する場合はオッポのディスクプレーヤー「BDP-103DJP」から44.1kHz/16bitの信号を同軸デジタルでデノンのAVアンプ「AVR-X6300H」に送り、D/A変換します。スピーカーはDALIの「RUBICON2」です。

画像: 試聴システム

試聴システム

 MQAデコードをする場合には、BDP-103DJPから同軸デジタルでiFiオーディオのUSB DAC「Pro iDSD」に44.1kHz/16bitの信号を送り、ここでデコードとD/A変換を行ないます。Pro iDSDからはアナログでAVアンプに送ります。

和田 厳密にはD/A変換する機器が違っているのですが、そこは仕方がないですね。では、最初に4曲目「Shelly」をリクエストしていいですか?

──もちろんです! これは『MIRACLE』で初めて収録された曲ですが、聴きどころを教えてください。

和田 実は以前、シングルの収録曲を決めた際にボツになった曲なんです。当初のタイトルは「Ballad」でした。

橋爪 その後、同人音楽の即売会「M3」でBeagle Kickの曲をデモ曲も含めて収録した特別版に、打ち込みのモックアップ版を収録しました。

──それが、今回晴れて収録されたのはなぜですか?

和田 ズバリ、私が好きだからですね。グローヴァー・ワシントン・ジュニアの「Just the two of us」という曲が好きで、私の中ではグッとくるコード進行といえば、これなんです。「こんな曲を作りたい」というイメージをずっと持っていて、最終的に「Shelly」の形になりました。

──CD、MQAの順に聴いていただきましたが、いかがでしたか。

画像: CDメディアの再生はオッポのディスクプレーヤー「BDP-103DJP」にて

CDメディアの再生はオッポのディスクプレーヤー「BDP-103DJP」にて

橋爪 CDは情報量こそCD並みなのですが、マスター音源がいいので、CD以上のサウンドに聴こえます。これがMQAデコードされると、音がクリアーで焦点が定まるためか、空間が一気に拡がりますね。

和田 私はCDもMQAもいい音だったな、というのが第一印象です。橋爪も言っていましたが、MQAは空間が拡がっているのと高域が滑らかになった感じがあります。しかし、マスターの音が良いためか、両者で思ったほどの違いがありません。

橋爪 これだけの音がCDで聴けるというのが分かったのは、新たな発見ですね。

──では、もう1曲ほど聴いていただきたいのですが、どの曲にしますか。

和田 では5曲目の「VOTEVOLUSION」でお願いします。これは、投票のVOTEと革命のREVOLUTIONを合わせた造語です。英語の歌詞が入った曲なのですが、作詞をしていたのが選挙の時期で、「若い人はもっと選挙に行って政治に参加しなきゃいけないよね」なんて話をしていたんです。それで、世の中変えたいなら選挙に行こうぜって思いを込めました。

──「VOTEVOLUSION」をCD再生、MQAデコードの順に聴いていただきましたがいかがでしたか。

橋爪 この曲は違いがはっきり出ましたね。こちらも、普通のCDとして再生してもMQAらしい時間軸精度の高い音を楽しめました。が、MQAデコードされると、楽器の音の質感がグンと上がり、生音の感覚になります。

和田 こちらもCD再生は、ハイレゾではないのかって思えるほどいい音でした。ハイレゾで作ったマスターを44.1kHzにするなら、CDも捨てたものではありませんね。MQAデコードされると音が滑らかになり、上下方向も奥行も空間感が大きく感じられました。

橋爪 この曲はシングルでも出していて、その時は和田さんがミックスしたそのものでした。それが、『MIRACLE』に収録するのに際して、和田さんがミックスまで遡ってやり直して、マスタリングエンジニアの大山高成さんにマスタリングをお任せしました。これがいい音につながった理由の1つかもしれません。

和田 私は「額縁に入れるイメージ」ってよく言うんですが、全曲を通してバランスを取るようマスタリングすることでトータルでの演出ができます。我々もそうですが、大山さんもBeagle Kickでのマスタリングを通して、ハイレゾへの理解を深めていってくださっているのもありますね。

橋爪 今回大山さんに「MQAでも出すんです」って話をしたら、MQAのセミナーに行って勉強してくれていたんです。我々のハイレゾへの探求を理解して、同じ目線で考えてくれているのは、嬉しいですね。

MQAなら家庭のオーディオ機器でプロが聴くマスターサウンドを楽しめる

──MQA-CDの試聴はここまでにして、続いてハイレゾ版とMQA配信版で聴き比べていただきます。橋爪さん、再生システムについて教えてください。

画像: ハイレゾ、およびMQA配信コンテンツの再生システム

ハイレゾ、およびMQA配信コンテンツの再生システム

橋爪 ここからはファイル再生なので、PCで再生した信号をUSBで「Pro iDSD」に送り、ここでデコードとD/A変換を行ないます。出力はRCAケーブルでデノンのAVアンプ「AVR-X6300H」に接続しています。スピーカーは変わらずDALIの「RUBICON2」です。では、新曲で1曲目に収録した「Twice the Live」を聴きたいと思います。ヴォーカルに小寺可南子さんを迎えて、キャッチーな曲に仕上がっています。

 小寺さんは、日本ファルコムのゲームソフト『英雄伝説 空の軌跡SC』のエンディングソング「I swear...」を担当されたのをきっかけに、同社のゲームの多くでヴォーカルを務められた、ゲーム好きには広く知られたヴォーカリストです。私も小寺さんの透き通った歌声が大好きで、ずっと参加してほしいと思っていたのですが、ようやく叶いました。

和田 Beagle Kickはキャッチーな曲というのもコンセプトです。その中でも、「Twice the Live」はとりわけキャッチーでハッピーに仕上がっています。この曲は、音作りでも苦労していてウッドベースがずっと聴こえていてほしいと思って、音の分離感を大事にしています。

橋爪 この曲は特に音数が多いですからね。和田さんの腕があがっているから、いちいち試行錯誤しなくても、今までの経験からこうすればいい、という方程式ができあがっています。

──「Twice the Live」をハイレゾのWAV版、MQA配信版の順に聴いていただきました。

和田 率直な感想はどちらも音がいいですね(笑)。WAVは、イメージ通り分離がよいサウンドに仕上がっています。MQAは時間軸の精度が高いためか低域がタイトでリズミカル。しかし、その分ふくよかさが若干削がれているように思います。どちらがいいかは、好みの問題かも。

橋爪 私も甲乙つけにくいと思いますが、冒頭の数秒でMQAの音がすっきりしているのが分かりました。和田の話にもありましたが、どちらがよいかは完全に好みによりますね。ただ、リズミカルなこの曲に合っているのはMQA版なように思いました。

和田 作った時に自信を持って良いと思っていたのに、MQAになると時間軸の精度が違いますね。制作時のマスターに近い感覚です。それに、普段はスタジオでしか聴かないので、オーディオ機器で聴くのは楽しく新鮮です。

──続いて再生するのは「Moment 4 Autumn」です。この曲はコンサートホールを貸し切って、ジャズカルテットをDSD 5.6MHzで一発録音した作品になります。私もこの曲の収録を見学させていただきましたが、とにかくホールに満ちていくサウンドが聴きどころだと思います。……こちらはPCMのWAV、MQAに加えてシングルで発売したDSDの音も聴いていただきました。

画像1: MQAなら家庭のオーディオ機器でプロが聴くマスターサウンドを楽しめる

和田 改めでDSD版の音は、ホールの高さや奥行が感じられていいですね。PCMについては先ほどと同じ感想になりますが、音がすっきりしています。

橋爪 説明いただいたように、ホールで録った6chマルチトラック音源(DSD 5.6MHz)をスタジオでアナログミキシングして、2cnのDSD音源を作成しました。PCM版作成に当たっては、6chマルチトラック音源から個別にPCM変換を行ない、192kHz/32bit-floatのProToolsセッションで新たにリミックスしました。DSDの一発録りが音場型なのに対して、こちらは音像型といった形でしょうか。それが、音にもよく現れています。それでいて、しっかりホールの雰囲気も出ているので、この曲は我々のハイレゾ探求の形の1つとして、聴いてもらえたら嬉しいです。

和田 響きを豊かにするのと、音をくっきりさせるのは反比例の関係で、両立させるのが難しいものです。DSDが、究極的にホール感があるので、今回のPCM版「Moment 4 Autumn」はWAV、MQAとも音の明瞭さを出すことを意図しました。そういう意味では、狙い通りといえます。

橋爪 響きを狙ってDSDで作ったこともあり、私はDSD版がこの曲には最も合っていると思うんです。でも、PCMのハイレゾはWAV、MQAとも決して悪いということではなく、音像がはっきりしているので、演奏者の細かいニュアンスや楽器の音は際立っています。その上で、WAVよりもMQAのほうが、音がタイトでより引き締まっている。

和田 そうですね。ぜひ音の反射や反響が多いライブ傾向のDSD、タイトで音が明瞭なMQA、その中間のWAVと三種類を聴き比べてほしいと思います。

──最後にアルバムのラスト、13曲目に収録されている「ZERO」をMQAとWAVで聴いていただきました。これも新曲ですね。ゆったりしていてメロディアスなギターが魅力的な曲に思います。

橋爪 WAVもMQAもいい音で、試聴を忘れて聴き入ってしまいました。アルバムの終わりなのに「ZERO」というのは最後だからではなく、一度終わってゼロになるけど、また始まるという意味を込めています。

和田 そうですね。この曲はデモではギターだけだったのですが、後からオルガンを重ねたことで、曲の厚みが出ました。ギターは幼なじみのギタリスト・和泉聡志が弾いていまして、実はうん百万円するギターを使っているんです。このギターのおかげなのか、ハイレゾおかげなのか、音の密度が高くて、生命力も感じます。この曲は、作曲時のイメージがWAVに近いですね。ただ、MQAもよくて、メロディのギターを弾く音がMQAの方が明瞭で、グッときます。

橋爪 楽器そのものが見えるというか、音に立体感がありますよね。それはWAVもMQAも同様ですね。どちらもいいと思うんですが、MQAだと指の動きまで見えるというか、微細な音まで聞き分けられますね。また、MQAではオルガンの揺らぎのニュアンスが良く分かったのも印象的でした。

和田 オルガンのロータリースピーカーですね。これはプレーヤーの野崎洋一さんが揺らぎのオン/オフを切替えながら演奏しています。不思議なのは、ギターのタッチやオルガンのちょっとしたニュアンスなど聴き流してしまいそうな部分が、意識に入ってくる感じがあるんです。

橋爪 決してWAVが悪い訳ではないのですが、MQAは時間の情報が正確になるように補正されているので、生に近い音が楽しめますね。MQAは賛否あって、否定的な意見の人が多いのも承知していますが、聴いた限りでは、制作時のマスターサウンドに近い再生をオーディオ機器でも楽しめると思います。

和田 ハイレゾが出たときにマスターサウンドと言われて我々も「いい!」と思ってその可能性を探ってきました。それが、MQAのサウンドを聴いたときに、音のにじみが圧倒的に少なくて、私がスタジオで聴いているあるべき姿に近い感覚だったんです。ただ、それがオーディオの音と違うので、違和感を覚える人がいるのかもしれないですね。

──最後に今回、Beagle Kickに、そして『MIRACLE』に興味を持った方に一言お願いいたします。

画像2: MQAなら家庭のオーディオ機器でプロが聴くマスターサウンドを楽しめる

和田 Beagle Kickは、やりたいことをやるのが強みで、今回はMQA-CD、MQA配信といろいろ試しました。聴く側もMQAってこういう音になるんだなっていう感じで、Beagle Kickの作品を1つの実験台として利用してくれたらうれしいですね。

橋爪 MQA-CDであれば、可能ならMP3とかにせず、WAVやFLACで聴いてください。また、ヘッドホンでなくスピーカーで聴いてもらえたら嬉しいですね。ヴォーカルが真ん中から聴こえる、とか音がこんな方から鳴っているのかといった音場まで楽しめます。

──取材を忘れてしまうほど楽しい試聴でした。ありがとうございました。

【Information】

『MIRACLE』のリリースを記念して、東京・浅草橋のアコースティックラボ蔵前ショールームにて、和田貴史と橋爪徹によるトークイベントが開催される。今回は、試聴レビューでも聴いた「Twice the Love」のメインヴォーカル、小寺可南子さんをゲストに迎え、音源をどうやって作っているのかを語る。小寺さんの歌手としての話も聴きどころだろう。小寺さんのファンはもちろん、音作りに興味がある方もぜひ参加あれ。

●開催日時:2019年6月22日(土)14:00~16:00(開場13:30)
●場所:アコースティックラボ蔵前ショールーム
●住所:東京都千代田区外神田2-3-6 成田ビル2F
●定員:18名程度(先着順)
●申し込み方法:
専用申し込みフォーム(https://ws.formzu.net/fgen/S76008529/)
また、Beagle Kickサイト(http://beaglekick.com/)からも申し込み可
※先着順にて受付(定員になり次第受付終了)

●イベント告知URL:

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