シャープは本日、同社東京ビルにおいて、「シャープの新技術・製品展示会」を開催した。これは、前日に中国・広東省 省長の馬興瑞氏を始めとする高官一行が同社を訪問していたのを受けて準備されたもので、本日は日本のマスコミ関係者に向けての開催となった。

 会場には8K関連の展示を集めた「8K Lab」や「AIoT関連」「フォルダブルOLED」といった50近い技術や製品が並び、ひとつひとつにていねいな解説がなされていた。ここではその中で編集部が注目したテーマについて紹介していきたい。

8KのIP配信(8Kビデオオンデマンド)

画像: 100Mbpsに圧縮した8K/60p/SDR映像を一般回線で伝送したもの。充分満足できる画質だ

100Mbpsに圧縮した8K/60p/SDR映像を一般回線で伝送したもの。充分満足できる画質だ

 8Kコンテンツをインターネットの一般回線を通じて配信、デコーダーを経由してテレビで視聴しようという提案だ。今回は堺工場にあるサーバーから8Kコンテンツを再生し、デコーダーシステムを経由して、8Kテレビで再生していた。

 映像は8K/60p/SDRで、元々は60〜70GbpsのデータをHEVCで100Mbps前後まで圧縮して、配信しているそうだ。このレートは現状のBS8K放送よりもわずかに高い値で、画像品位も安定している。

 なお現状では、番組の選択、切り替えはアプリから行なう仕組みで、アプリ画面上で観たい番組をタップすると、数秒でテレビの映像が切り替わっていた。このレスポンスが実現できるのであれば、家庭での鑑賞にも充分使えるだろう。

 実際に製品化するとなると、テレビにIP配信の再生機能を入れなくてはならないだろうが、HEVCのデコード機能は既に搭載されているわけだし、ハードルは比較的低い気もする。海外では8K放送そのものが存在しないし、日本もNHKだけではやはり寂しい。8Kの普及のためにも、IP配信は大きな可能性を持っているはずだ。

8K+5Gエコシステム(5G総合実証試験)

画像: 5Gによる8K伝送実験で使われたカメラも展示されていた

5Gによる8K伝送実験で使われたカメラも展示されていた

 先に紹介した8K IP配信技術を活用し、8K映像を5Gを使って伝送した実験結果も展示されていた。シャープとdocomoによるライブ配信実験も行なわれたとかで、SLが走っている様子を8Kカメラで撮影し、それを5Gを使って伝送、被写体となったSLの中で5Gの電波を受信して8Kテレビで再生するといったことも行なわれたそうだ。

 また別の実験では2台の8Kカメラで撮影した映像を異なる経路で伝送し、それを合成して再生したそうだが、こちらもふたつの映像にずれは発生しなかったという。ちなみにこちらは世界初のMMTを使った8K IP配信だったとかで、HEVCの圧縮やMMTへの変換などで6秒ほどの処理時間が必要だったそうだ。

 まずはパブリックビューイングなどのB to Bでの展開を考えているようだが、5Gが現実化すれば家庭での8K視聴にも使えるはずだ。マンションなどで左旋電波対応のアンテナ工事ができないケースも多いというから、放送波をIP変換してマンション内にだけ5Gで配信するといったサービスが実現したら、喜ぶ人も多いだろう。

8Kアップコンバート

画像: 画面左がオリジナルの8K映像で、中央が伝送用に4K変換したもの。右はそれを復元した8K映像だ

画面左がオリジナルの8K映像で、中央が伝送用に4K変換したもの。右はそれを復元した8K映像だ

 現在発売中のAQUOS 8K、8T-C80AX1には2Kや4K映像を8Kに変換する「8K精細感復元アップコンバート」「8Kリアリティ復元アップコンバート」といった技術が搭載されている。今回はこの技術を応用した、より効率的なIP配信の伝送方法も提案されていた。

 上記の通り、100Mbpsのビットレートが確保できれば、8K/60p/SDRの伝送はできるが、すべての家庭でこの値が確保できるかは難しい。そこでオリジナルの8K映像をいったん4K(30Mbpsがターゲット)に変換してインターネット回線で伝送し、受像機側で8Kに復元(アップコンバート)しようというものだ。

 ここで8K→4K変換の際に付加情報を抽出しておき、4K映像と一緒に送ることでより原画に近い8K復元が可能になるという。付加情報としては被写体の種類やどの復元アルゴリズムを使うのが一番あっているかなどを想定しているそうだ。

 会場のデモでは街並を上空から撮影した映像が再生されていたが、街路樹の葉っぱなど、かなりオリジナルに近く再現されていた。一部アスファルトの表面がつるんとしている部分もあったが、このあたりも付加情報の使い方で改善できるのだろう。

 使い方として、4Kテレビのユーザーなら伝送用の30Mbpsの4K映像を楽しみ、8Kテレビのユーザーは8Kまで復元するといった具合に、手持ちのデバイスに最適化したデコードの選択も考えられる。より豊かな4K8Kライフの手段として期待したい。

小型8Kビデオカメラ

画像: 8C-B30Aの完動品は日本で初めての展示となった

8C-B30Aの完動品は日本で初めての展示となった

 今年のCESで展示されて注目を集めた小型8Kカメラ、8C-B30Aが日本で初めてお目見えした。圧縮にはHEVCを使い、8K/30p映像をSDカードに撮影できるという。

 ミラーレス一眼のようなフォルムに、シャープ製の3,300万画素4/3サイズのCMOSセンサーが搭載されており、会場ではその場で撮影した映像をHDMI経由で8Kモニターに再現していた。

 そのHDMI端子はHDMI2.1準拠で、ケーブル1本で8K信号を伝送できるようになる見込みだ(現時点では規格がフィックスしていないので、シャープ製品同士でのみ8K伝送できる)。

 製品としては今年中の発売を目指しているそうなので、楽しみに待ちたい。

検査ライン連動監視カメラシステム

画像: ライン検査システムのデモ。上側に取り付けられているのが2,500万画素のカメラだ

ライン検査システムのデモ。上側に取り付けられているのが2,500万画素のカメラだ

 8KのB to Bでの展開として、製造ラインへの応用も展示されていた。デモでは、0.5mmピッチで120本(上下60本)のピンが並んだコネクターの製造ラインの品質管理をどのように行なうかが実演されていた。

 製造ラインに見立てた円盤の上にコネクターが並べられており、それを2,500万画素のカメラで常時チェックしている。ここではコネクターのピン数やピン幅、間隔にずれがないかを監視しているそうで、許容値を外れると赤色灯で知らせてくれる。

 その状態が頻発するとラインそのものを再確認する仕組になっており、実際にシャープを含めた工場で同様のシステムが稼働しているという。

 6Kや8Kの解像度を持ったカメラであれば、これくらい細かいパーツであっても充分にクォリティチェックに使えるということで、物づくりの現場では高精細カメラの活躍の場が広がっているようだ。

8Kソリューション(美術館)

画像: タッチパネル式の8Kモニターに、30Kの情報を持った映像を再現。拡大も自由にできる

タッチパネル式の8Kモニターに、30Kの情報を持った映像を再現。拡大も自由にできる

 こちらは、タッチパネル式の8Kモニターを使い、絵画などの美術鑑賞を新しい形で楽しもうという提案だ。

 デモでは、30Kの解像度で撮影した絵画を8Kモニターに表示していた。これは実際の絵とほぼ同サイズとのことだが、観たい部分をピンチで拡大すると、さらに細かい情報が映し出されるわけだ。実際に絵を拡大してみると、絵筆の運びや、紙の傷んだ部分まで克明に再現されていた。

 その他にも4億画素(23K)のセンサーを搭載したハッセル製カメラで撮影した昆虫の映像も観せてもらったが、複眼のひとつひとつの構造がはっきりしてくるし、繊毛の1本1本まできちんと認識できる。

 このシステムがあれば、子供たちも絵画鑑賞や昆虫の生態の勉強に夢中になることだろう。教育分野での8Kの応用も期待大だ。

広視野角フィルム

画像: 視野角を1.5倍に拡大する、魔法のフィルム(?)。写真右がフィルム”あり”の状態

視野角を1.5倍に拡大する、魔法のフィルム(?)。写真右がフィルム”あり”の状態

 参考展示ながら、StereoSound ONLINE読者が絶対気になるであろうテーマが「広視野角フィルム」だろう。これはVA液晶パネルの前面に貼ることで、視野角を拡大してくれる技術となる。

 現状の8Kテレビは一番小さいサイズでも60インチであり、画面が大きくなるとそれだけ視野角に悩まされる可能性も高くなる。しかしこのフィルムがあれば、そんな心配はなくなりそうだ。

 会場に展示されていたフィルム“あり”と“なし”のモニターを見比べると、その違いは一目瞭然。“あり”では、斜めから見ても色がきちんと残っているし、明るさのロスも気にならない。このフィルムは全方位で効果があるとのことで、家庭用はもちろんサイネージなどでも歓迎されることだろう。

8Kシアター

画像: 8Kリビングシアター。8Kコンテンツを80インチの近接視聴で楽しませてもらった

8Kリビングシアター。8Kコンテンツを80インチの近接視聴で楽しませてもらった

 8Kテレビ8T-C80AX1とサウンドバーの8A-C31AX1を組み合わせたリビング8Kシアターを体験できるコーナーも準備されていた。

 ここでは外付けUSB HDD、8R-C80A1に録画した番組を上映していたが、音楽ライブからスポーツ、美術品まで圧倒的な精細感と色再現で楽しめた。

 同じ番組を4Kで何度か観ているが、絵画に描かれた装飾の細かさ、緋のマントの落ち着いた色合いなど、8Kだとここまでリアルなのかと再認識させられた。8Kの情報量はやっぱり凄い、のだ。

フォルダブルOLED

画像: 折り曲げ可能な有機ELパネル。明るさや色再現も、スマホとしても充分使えそうな印象だった

折り曲げ可能な有機ELパネル。明るさや色再現も、スマホとしても充分使えそうな印象だった

 ひときわ多くの報道陣が集まっていたのが、6.18型フォルダブルOLED(有機EL)の展示だった。

 ベースにプラスチック素材を使うことで、折り曲げ可能なOLEDが実現できている。今回はスマートホンサイズの6.18型で、R=3mm(半径3mm)の折り曲げ試験で30万回の耐久性を確認しているそうだ。

 同様の技術展示はこれまでにもあったが、実際に製品に触って、折り曲げることができたのは今回が初めて。展示機をふたつ折りにしてみたが、大きな抵抗感もなく、パタンとたたむことができた。

 OLEDとしての色再現や輝度はガラスを基材に使った場合と遜色はないとのことなので、案外早い時期に製品化されるのかもしれない。

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