日本テレビでは、12日〜13日の2日間、東京・汐留の日テレタワー2Fロビーで「日テク」(NITTECH 2019)を開催した。
これは、“日テレ×テクノロジー×働き方改革”をテーマにした展示会で、従来は「デジテク」「クリエイティブテクノロジーラボ」と呼ばれていたイベントの発展形となる。
会場には、StereoSound ONLINE読者が気になるであろう4Kに関連したデモや、各方面で話題のAIをいかにテレビに活用するかといった展示が多く行なわれていた。今回はそんな中から、編集部が注目した項目について紹介したい。
アオイエリカと無人のスタジオ
2Fロビーの特別展示では、アンドロイドアナウンサーのアオイエリカが進行を務めるロボットスタジオの収録風景が公開されていた。アオイエリカ嬢はAIを搭載し、他の出演者(もちろん人間)との会話でも自律的な応答が可能という(知能的には3歳児程度とか)。
実際に会場でも(台本に則ってではあるだろうが)、比較的スムーズに番組を進行していたし、会話の中で呆けるといったことにまでトライしていた。なお、アメリカ人のゲストの通訳などはスムーズにこなせており、このあたりはAIとしての機能を活かしている使い方だと感じた次第だ。
そしてこの展示のもうひとつの見どころが、会場内の5つのカメラが自動制御されていたことだろう。
たとえば天井面に設置されたニコンのRobotic PODカメラは、顔認識AIと組み合わせられており、アシスタントの女性がスタジオ内を移動すると、自動的に彼女をトレースしてくれる。しかもカメラの動きがかなりスムーズで、ブレもまったく気にならなかった。
他にも、パナソニックのAW-UE150は4K/60pが撮影できる小型モデルで、こちらも人物認識機能を使った自動撮影が行われていた。加えてロボットペデスタルのSmartPedはジョイスティックによる簡単な操作でカメラを乗せたSmartPadがスタジオ内を自在に移動して、最適なカメラアングルにセットされるというものだった。
これらの機材がさらに進化すると、“ゼロオペ”で番組が制作できる「無人スタジオ」も夢ではなくなる。アオイエリカ嬢の司会はともかく、スタジオでの撮影などは既に実用可能なレベルに入っているのは間違いない。
HDRからSDRへの変換方式
技術展示では、実際の放送でも問題になるであろうHDR→SDR変換についての紹介が行なわれていた。
そもそも日本の放送では、HDR方式としてはHLG(ハイブリッド・ログガンマ)が採用されている。HLGは中輝度部分まではSDRと共通のガンマカーブなので、SDRテレビでそのまま再生しても互換性があると言われていた。
しかし実際には、HLG信号をそのままSDRテレビで再生すると、画面全体の輝度が下がって見えるのだという。日本テレビとしてもその点は認識しているようで、HLGで収録した素材を地デジ等でオンエアする場合に向けて、最適なHDR→SDR変換の開発を進めている。
その際のトーンマッピングカーブは、HLGのハイライト領域をほどよく圧縮し、SDRの見た目を大きく変化させないことに重きをおいているそうだ。具体的には400nitsまでの明るさの信号はそのままで、それを超える輝度信号をSDRの領域に収めている。
なおイメージとしてはSDR映像の100%の白を、HLGでは75%相当で表現しているとのこと。変換時もこの比率に則ったトーンカーブで処理することで、色あいも変化しない自然なSDRの映像が再生できるそうだ(一部舞台作品などでは、微調整することもある)。
AR自動撮影ユニット「mixta Shot」
テレビ放送に直結した技術ではないが、AR自動撮影の「mixta Shot」も興味深い提案だった。
「mixta Shot」は、“憧れのタレントと一緒にいるような体験”ができるシステムで、カメラ一体型ディスプレイの前に立つと、あらかめじ準備されたタレントの映像を合成して、画面に表示してくれる。しかも撮影時には、タレントが動画で話しかけてくれるので、緊張することもない。撮影した画像はQRコードを読み込むと、そのままスマホにダウンロードできるという仕組だ。
実際に撮影と画像ダウンロードを体験してみたが、ぱっと見ただけでは合成しているとは思えない自然さだった。このシステムは、既にとあるアーティストのライブなどで試験的に運用されたそうだが、会場ではメンバーと撮影したかのような写真が撮れると、2時間待ちの人気だったという
箱根駅伝×画像認識AI(テロップ自動作成)
画像認識技術を応用した例としては、箱根駅伝のテロップ自動作成技術もユニークだ。こちらは、箱根駅伝の中継の際に、撮影された選手のユニフォームをAIで識別して、学校名を割り出すという機能だ。各区間の選手名はあらかじめわかっているので、学校名がわかればすぐにテロップが表示できる。
この検出AIでは、事前にユニフォームを撮影した映像を学校ごとに平均2000カット(前、横、後)読み込ませているので、どんな角度から撮影しても識別ができるそうだ(今年は99.3%の認識率を達成)。
この他にも箱根駅伝では、画像内の横断歩道や車を参考に選手間の距離を自動的に割り出す「選手間距離の自動推定」や、中継車の撮影映像から大学を特定し、制作スタッフがレース展開を瞬時に把握できるようにする制作支援システムなど、様々なAIの応用も検証されているそうだ。
テレビをもっと楽しく!「AIう」さんとお話しよう!
インターネットを使った番組支援機能としては、「AIう」(えーあいう)と名付けられたキャラクターとの会話システム(LINEを使用)が、既に運用されている。
こちらは日本テレビの情報番組『バゲット』で紹介したグルメスポットなどの内容について視聴者が質問すると、「AIう」氏が答えてくれるというものだ。番組が終了した時点でデータベースに反映されるので、その日に紹介された内容に関する質問でも大丈夫という。
この他LINEの活用例としては、昨日最終回を迎えたドラマ『家売るオンナの逆襲』の世界観をベースにしたグループチャットも準備されていた。こちらも視聴者の質問に対して、ドラマの登場人物(AI)が返事を返してくれるので、ファンにはたまらないだろう。
ちなみに『家売るオンナの逆襲』は、番組は終了しているが、LINE自体は今月末まで運用される予定で、放送後のエピソードについてもLINE上に反映されていく模様だ。