クリエイティブメディアから発売されている「SXFI」シリーズは、ヘッドホンアンプの「SXFI AMP」(クリエイティブストア価格¥16,800)、USB接続のヘッドセット「SXFI AIR C」(同¥13,800)、USB接続のほかBluetooth接続も可能なヘッドホン「SXFI AIR」(同¥17,800円)をラインナップしている。この「SXFI」シリーズは、ヘッドホン特有の頭内定位を生じない画期的な技術「Super X-Fiヘッドホンホログラフィ」を採用したもの。(※販売は同社オンラインサイト限定)
一般的なバーチャルサラウンドヘッドホン技術とは異なり、個人の特徴に合わせたパーソナライズを行なうことで、サラウンド再生の効果を飛躍的に高めているのだ。しかも、スマホで両耳と顔の写真を撮るだけで簡単に設定が行なえるという画期的な技術となっている。この新技術について、その仕組みや使用レポートをお届けしよう。
「Super X-Fiヘッドホンホログラフィ」技術は、今年行なわれたCESで合計13もの賞に輝いており、その実力と効果は高く評価されている。開発したCreative Technology Ltdは、PCに詳しい人ならばサウンドボードやPC用オーディオ製品の「サラウンドブラスター」でもお馴染みのメーカーだ。PC用の周辺機器を中心に、USB接続のアクティブスピーカーやサウンドバータイプのスピーカーなども発売している。
まずは「SXFI」シリーズの中核となる「Super X-Fiヘッドホンホログラフィ」技術から紹介しよう。シリーズの製品はいずれも、Android用アプリの「SXFI APP」(無料)を使って、個人個人に合わせたパーソナライズを行なう。作業としては両耳と正面の顔の写真をAndroid端末の写真で撮影するだけだ。撮影した写真は専用のサーバーにアップロードされ、独自のAIエンジンが各個人の頭や耳の形状に合わせたデータを生成し、それを「SXFI」シリーズにダウンロードすることで、設定は完了。
撮影を行なうとデータの送受信はあっという間に完了し、誰でも簡単にデータ作成が行なえる。あまりにも短時間でできてしまうし、写真を撮るだけなので、どこでも手軽に行なえるだろう(ただし、両耳と顔の撮影は自撮りでは難しいので、二人で行なうのが望ましい)。驚くほど簡単だ。
この簡単さを実現しているのは、専用サーバーとAIエンジンによるデータ生成に秘密がある。専用サーバーには、頭部や耳の形状の基本データがあり、AIエンジンは送られてきた両耳と顔の写真を画像解析して基本データと照合、それを基にそれぞれの人物に最適化(頭部や耳の形状)したデータを生成するというもの。高度なマッピング技術と画像解析技術の融合で、写真を撮るだけで精密な測定データにかぎりなく近いデータを作り出しているというわけだ。ちなみのそのデータの合致率は99%で、病気やケガなどで明らかに形状が異ならない限り、ほぼ一致するほどの精度だという。
このパーソナライズしたデータを用いて、HRTF(頭部伝達関数:バーチャルサラウンド技術には欠かせないもので、両耳で音を聴くときに頭部や耳の形状による音響への影響を数値化したもの)に基づいて立体的な音響の再現を行なうので、より精度の高い再現が行なえる、というわけだ。しかも、両耳と顔の写真を撮るだけでパーソナライズ化が完了する点でも、画期的な技術と言えるだろう。
こうしたデータを元に、5.1/7.1chのサラウンド音源や2チャンネルのステレオ音源を広がり感豊かな音響で再現するため、「SXFI」シリーズには専用の高性能DSP「Super X-Fi UltraDSP」が内蔵されている。このDSPは演算速度がかなり高速だそうで、リアルタイムでサラウンド化が行なえ、かつ、遅延もほとんど発生しないという。
SXFI AMPを使って、実際にパーソナライズを行なって試聴した
さっそく「SXFI」シリーズを体験してみた。使用したのは、ヘッドホンアンプタイプのSXFI AMP。「Super X-Fi UltraDSP」に加えて、旭化成エレクトロニクス製の32bitDACも内蔵したモデル。ヘッドホンアンプとしても600Ωのハイインピーダンスに対応する作りとなっており、それがフィンガーサイズのコンパクトさに凝縮されている。
まずは、Android端末とUSBで接続し、専用アプリの「SXFI APP」でパーソナライズを行なう。すでに説明したように、画面のガイドに従って両耳と顔の写真を撮影するだけだ。このほか、組み合わせるヘッドホンをリストから選択すれば準備は完了。
SXFI AMP用のヘッドホンのリストは、クリエイティブメディアから発売されている製品のほか、世界中の有名なヘッドホンメーカーのモデルが30種ほど用意されている。ゼンハイザーやAKG、日本のメーカーではソニーやオーディオテクニカのモデルもリストにある。こうしたヘッドホンのデータは毎月更新されていくようで、今後も人気モデルを中心に対応製品が増えていくそうだ。
手持ちのヘッドホンがリストにない場合は、「アンノウン」を選ぶことになるが、まったく同じモデルがリストになくても、同じメーカーのタイプが近いモデルを選んだ方が効果は高くなるようだ。現状では対応するヘッドホンは決して多くはないが、きちんとデータが合致したヘッドホンを使いたいなら、同シリーズのヘッドホンタイプSXFI AIRやSXFI AIR Cを選べば、ヘッドホンのデータは最適化されているので、これらを使うといいだろう。
テストでは、クリエイティブのヘッドホンのほか、手持ちのゼンハイザー「HD800」がリストにあったので、こちらでも試してみた。まずは7.1chの映画をPCで再生してみたが、広がりのある音場が実に自然に体感できた。ヘッドホン特有の頭の中に音が響く頭内定位ではなく、スピーカーから聴くように頭の外側から音が聴こえてくる。特に横や後ろの空間が広く、方向感や距離感まで分かる感じだ。
強いて言えば、前方は、横への広がりはあるが奥行方向はやや狭く、横や後ろの空間の広さに比べるとやや平面的に感じる。しかし、映画のセリフが頭の中に響く感じにはならず、目の前にあるPCの画面から音が出ている印象になる。これは、USB接続で使うPC用の製品ということも含め、PCゲームやVRコンテンツにマッチする音場感だと思う。
SXFI AMPでは、本体のスイッチでSXFIのオン/オフを切り替えられるので、切り替えながら試してみたが、切り替え時に音が途切れることはほとんどなく、遅延が最小であることがよくわかる。音質的にも残響が増えて細かい音が聴こえにくくなるとか、情報量が減るということもない。音質的にはヘッドホンの周波数特性も補正されるのか、むしろ音質がより素直になって聴きやすくなったと感じるほどだ。
ゼンハイザーのHD800を使ったテストでは、ちょっと意地悪だが、ドルビーアトモス音声のソフトを試してみた。SXFI AMPはドルビーアトモスには対応しないので、音声はダウンミックスされた7.1ch出力になる。音数が減るというわけではないが、高さ方向の再現はやや失われてしまう。とはいえ、サラウンド感としてはかなり優秀なレベルだ。開放型のHD800はもともと音場が広いこともあり、サラウンド感は広大になるし、よりワイドレンジで細かな音まで豊かに楽しめた。
そして、ステレオ音声でも音場感の豊かな再現はなかなかのもの。ゲームのステレオ音声でも横方向や後ろ方向の空間が大きく広がり、サラウンドの包まれるような音場が得られる。左右のみではあるが方向感も充分だ。
そして、音楽のステレオ再生もかなり好印象。音場が頭の外まで広がるので、スピーカーで聴いているのとかなり近い印象になる。サラウンドヘッドホンというと映画やゲームのためのものと思いがちだが、音楽再生もなかなか気持ち良く楽しめる。特にヘッドホンの頭内定位が苦手という人ならば、この自然な音場感は親しみやすいはず。
3つのタイプから使い方に合わせて好みのものを選ぼう
SXFIシリーズは、バーチャルサラウンドヘッドホンとして極めて優れた音場が得られるが、音楽再生がメインの人にとっても楽しめる製品だ。自分の持っているヘッドホンが対応していれば、SXFI AMPを使うのがおすすめだが、ヘッドホンタイプも手頃な価格で用意されているので、それらでもサラウンドや自然な音場感を楽しめる。
上級モデルのSXFI AIRは、Bluetooth対応でmicroSDカードを使った音楽プレーヤー機能も備えており、単体での使用や、ワイヤレスで楽しむことも可能。SXFI AIR CはBluetoothや音楽プレーヤー機能を省略したPC専用のUSB接続モデルなので、PCでゲームや映画を見るスタイルの人にはお手頃だ。
誰でも簡単に自分に最適化されたバーチャル再生が楽しめるSXFIシリーズは、バーチャルサラウンド再生をさらに進化させた最新鋭の技術だ。決して高価な製品ではないので、試しやすいことも大きな魅力。ヘッドホンのバーチャルサラウンドに興味のある人はもちろん、映画や音楽をヘッドホンで楽しむことが多い人ならば、ぜひとも試してみてほしい。