いよいよ本日発売となった尾崎亜美初のSACD『HOT BABY』と『POINTS-2』 本プロジェクトも終盤に差し掛かった8月上旬、尾崎亜美さんご本人をステレオサウンド試聴室にお招きし、リファレンスシステムを用いて、制作途中の音をお聴きいただくことができた。お相手は、音質の総合監修をお願いしたオーディオ評論家の小原由夫先生。その時の模様は、9月4日(火)に発売となった季刊ステレオサウンドNo.208の232ページからに掲載されているが、ここではその完全版として、その取材の全貌をお届けする。(インタビューとまとめ:小原由夫、写真:相澤利一、コラム:レコード事業部)

その場の雰囲気をホンワリさせる不思議な個性

「実は同じ名字なんです。ただし、私は(オバラ)と濁りますが…」
「あら! 私の本名は(オハラ)ですのよ、オホホホホ」
 のっけからそんな脱力感満載のやりとりで始まった尾崎亜美さんとの試聴&インタビュー。ご本人の印象は、私が初めて亜美さんの曲(もちろんデビューシングル「冥想」)を聴き始めた頃からまったく変らない、キュートでチャーミングなままだった。発言もこれまたたいへんユニークで、本誌のリファレンススピーカーB&W 800D3を見るなり、「黒いポストみたい!」と形容。その想像力の豊かさには、まさしく目が点になった次第。

尾崎亜美さんのご主人は、元サディスティックミカバンドのベーシスト、小原礼「おはら れい)さん。現在もベーシスト/プロデューサーとして、積極的な音楽活動を行なっており、奥様の亜美さんはレコーディングやライブなどで、彼の裏方的な作業もこなしている。オフィシャルサイトからたどれるブログには、日々のなにげない出来事や、日頃の音楽活動が濃やかにつづられている。

画像: とっても和やかなインタビュー。亜美さんは、ご主人である小原礼さんの作品づくりやスタジオワークなども手伝うとのことで、エレクトロニクスにもかなり詳しいとお見受けいたしました

とっても和やかなインタビュー。亜美さんは、ご主人である小原礼さんの作品づくりやスタジオワークなども手伝うとのことで、エレクトロニクスにもかなり詳しいとお見受けいたしました

「自宅ではタンノイのスタジオモニターを使っています。ここしばらく私の音づくりをしてくださったエンジニアの三浦瑞生さんが新しいモニタースピーカーに変える際に譲り受けたものです。クセがなくて、自分には合っているし、爆音出さなくてもわかる(笑)」
 モニター時に大事にしていることは、『表現したい感情が音から聞き取れるかどうか』だという。感情との距離感を感じないスピーカーがいいとのこと。「音楽の世界観に酔いながら作るので、それが出せるスピーカー、感情が揺さぶられるような音が聴きたいですね」と、ご自身のモニタースピーカー観を語ってくださった。
 一方では、いわゆるスタジオワークも苦にしないマメな一面も…。
「エンジニアがやるようなリップノイズを消したりする作業も好きなんですよ。こう見えて、ある程度シビアになれる耳も持ってるんです。エヘン!」とお茶目に笑う姿も、失礼ながら可愛らしい。

 ここに登場する三浦さんとは、録音技術者集団「ミキサーズラボ」の現取締役社長の三浦瑞生さん。ミキサーズラボは、ステレオサウンドからリリースしているアナログレコードシリーズの制作などでも、大活躍していただいている会社。実は10月に発売となる亜美さんのSACD「Shot」の制作当時のレコーディングエンジニアは、そのミキサーズラボの現会長内沼映二さんなのだ。

指先から煙が出そうな勢いの、すごいギターソロでした

 まずは『HOT BABY』に収録の「Prizm Train」を試聴。聴きながら、ドラムを叩く真似をしたり、身体をくねらせたり……。
「だんだん早くなっていって、始めに比べると、終わりでテンポが3つぐらい上がります。ジェフ・ポーカロのこのドラムは、確かワンテイクでOKでした。スティーヴ・ルカサーのギターもとっても上手くて、録音当日は歯痛で機嫌が悪そうに見えたんだけれども、指から煙が出てるんじゃないかというくらい凄いソロでした」 

ここで面白い聴き比べの提案をひとつ。オリジナルの録音エンジニアはアル・シュミット、ギターはスティーヴ・ルカサー、ドラマはジェフポーカロ。録音した場所はロス。そしてSACD化にあたってマスタリングをお願いしたエンジニアがソニー・ミュージックスタジオの鈴木浩二さんで、ブレスがソニー。こんなふうに多くの共通点をもつ曲が、実はステレオサウンドからリリースしているSACDのなかに隠れているんです。それは、傅信幸先生のリファレンスレコードに収録されているTOTOの「ロザーナ」。なんと「HOT BABY」を制作した翌年、「ロザーナ」を収めたアルバム『TOTO IV〜聖なる剣』が誕生しているんです。当然、同じ音質ではありませんが、ギターのリフや、ドラマのフィルインの感じなどに「Prism Train」を思い起こさせるフィーリングが感じられておもしろいですよ。気になる方はこちらからどうぞ。
●Nobu's Popular Selection (SACD/CD)
SSRR5 3,909円(税込」
https://www.stereosound-store.jp/fs/ssstore/rs_sacd_ss/1070

続いて「蒼夜曲~セレナーデ」を試聴。先に東京で録音されたバラード調とはまったく異なるアレンジは、デイヴィッド・フォスター。
「この曲を演奏し終えたジェフが、ダーンと椅子から立ち上がって、『なんてかっこいいロックンロールなんだ』って叫んだんです。ワタシ、アレーッ? って唖然としちゃって(笑)。シングル用の私のアレンジは、劇伴みたいですけど。今回SACDのためにマスタリングされた音は、ストリングスの音がきれいに出ていますよね。一方で、私のピアノの音が意外に小さい(笑)。その代わりにポヨヨヨヨーンっていうシンセサイザーの音が大きいんだなぁ」

水滴のついた果物みたいな感じで好きです、この音

画像: 音を言葉にするのがとても上手だな、という印象を受けました。ご自宅ではタンノイのスピーカーを愛用中だそうです

音を言葉にするのがとても上手だな、という印象を受けました。ご自宅ではタンノイのスピーカーを愛用中だそうです

 この時期のデイヴィッド・フォスターのストリングスの作り方からは、ずいぶん勉強させてもらったと亜美さん。さらに、録音エンジニアのアル・シュミットに関しても言及する。
「アル・シュミットの音って、当時の日本の音ともの凄く違っていて、カラッて乾いた感じで驚いたんです。そうした音にするのは自分の中でもチャレンジングだったなぁと。今回の音を聴いて、それがとても潤っていてビックリしたんです。私が長年思っていた『HOT BABY』の乾いた音の印象からだいぶ変りましたね。なんていうか、水滴のついた果物みたいな感じで、私としてはこちらの方が好きですし、アル・シュミットもきっとこの音を喜んでくれると思います」
 この感想にはわが意を得たりで、ややドライでハイ上がり気味に感じた声を瑞々しくしたいというのが、このアルバムのリマスタリングにおけるひとつの狙いであったのだ。

<次回へ続く> ※第2回は10月4日(木)の公開となります。SACDの『HOT BABY』が聴いてみたくなった方はこちら!
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