※現在発売中のHiVi9月号では、堀切さんによる『劇場版 あしたのジョー2』UHDブルーレイの視聴インプレッションをお届けしています。併せてお楽しみ下さい。
堀切 今日はよろしくお願いいたします。『あしたのジョー2』のUHDブルーレイについては、同梱のブックレットにも制作に関する紹介がされていますが、今回改めて皆さんが携わった業務内容等も含めてお話をうかがいたいと思っています。
さて、今回のUHDブルーレイは20世紀フォックスさんから発売されたわけですが、これはフォックスさんからのリクエストだったんですか?
菅原 フォックスで本作のプロダクトマネージメントを担当した菅原です。今回のUHDブルーレイはトムスさんからのご提案があってスタートしました。
神田 同じくフォックスの神田です。『あしたのジョー2』に関しては、弊社はあくまでも販売元になります。フォックス本社としては日本のアニメーションに強い関心を持っていました。
しかし劇場公開作がありませんでしたので、なかなか実現できませんでした。そんな中でトムスさんとおつきあいができ、トムスさんが権利をお持ちのアニメ作品をUHDブルーレイで発売しませんかというお話をいただき、今回のディスクを実現できました。
ただ、アニメファンの方はクォリティにひじょうに強い関心をお持ちですから、我々としてもいい品質で発売したいというお願いをさせていただいています。
堀切 ということは、もともとはトムスさんが日本のアニメ作品を4K UHDブルーレイで出したいというお考えをお持ちだったんですね?
木田 トムスでアーカイブを担当している木田と申します。弊社では数年前からアーカイブという観点でアニメ作品の4K化を進めており、2016年初頭から、4Kスキャンを始めていました。当時はあくまでもアーカイブが目的でしたので、SDRマスターに仕上げるというところまでしか考えていませんでした。
堀切 というと、当初はSDRでマスターを作っていたわけですね。
木田 はい、最初に作ったのはSDRマスターです。それが2017年頃でしたが、ちょうどそのタイミングでフォックスさんからお話をいただき、パッケージ化まで視野に入れることになりました。
堀切 そういったアーカイブ作業は社内的にはかなり進んでいるんですか?
木田 先に発売した『劇場版SPACE ADVENTURE コブラ』も同じでしたが、トムスとしてアーカイブをどうしようかと考えたときに、やはり『コブラ』『あしたのジョー』『ルパン三世』といった作品の名前は出てきますので、それらの人気作品から順次作業を進めています。
それらについて私が責任者的な立場で作業をしてきたわけですが、今回フォックスさんのおかげでUHDブルーレイとして形にできたというわけです。
堀切 映像作品をアーカイブとして残すというのはひじょうに大切なことですから、すばらしい取り組みだと思います。ところで、今回の『あしたのジョー2』のスキャン作業はいつ頃からスタートしたんですか?
木田 2016年の年明けから1ロール分をテストして、翌年4月から2ロール目以降を、段階を追って進めていきました。その当初から、東映ラボ・テックの椎原さんにずっとお願いしています。
椎原 椎原と申します。私は東映ラボ・テックのアーカイブ事業部の所属で、今回トムスさんの作品を担当させていただいています。
堀切 椎原さんにうかがいます。この作品は、オリジナルネガからスキャンをしたそうですが、そもそもネガの状態はどうだったんでしょうか?
椎原 凄くよかったです。ただ当初はどんな状態かわからないので、ネガを1ロールお借りして、テストさせてもらいました。その結果もよかったので、翌年から2ロール目以降の作業を進めました。
堀切 保管の状態がよかったんですか?
椎原 そうだと思います。何よりフィルムの伸縮がなかったのでよかった。『あしたのジョー2』については、アリスキャンを使っています。アリスキャンはとてもいいスキャナーですが、フィルムが収縮してスプロケットに合わなくなっていると正しくスキャンできない可能性があります。でも今回はそんなことはありませんでした。
堀切 ネガ自体はトムスさんが管理されていたんですね?
木田 もともと東映ラボ・テックさん、東京現像所さん、IMAGICAさんの3社のラボに保管してあったものを弊社で集約して、外部の倉庫に預けてあります。
ただ、この作品はテレビ放送と平行して制作されているため、前半はテレビ用からデュープしたネガ(CRIネガ)を使っている部分も結構あるんです。そのため前半と後半で仕上がりに差が出るのではないかと心配していたんですが、実際にはほとんど見分けが付かなかったので、ほっとしました。
椎原 デュープネガは、色のあおり(にじみ)やムラが目立つのではないかと心配していたんですが、ほとんど問題になりませんでした。
堀切 スキャンのエリアについてうかがいたいのですが、『あしたのジョー2』の場合、もともと4対3の画角で作られていますよね。劇場版ではそれがビスタサイズになっているわけですが、今回はどちらの画角でスキャンしたのでしょうか?
椎原 4対3サイズを4Kでスキャンしています。アーカイブという観点から、フィルムにある映像すべてを取り込むというスタンスで進めました。劇場版については4対3映像からビスタサイズにトリミングしてUHDブルーレイに収めています。
堀切 なるほど、そうだったんですね。たとえばデジタルカメラで4Kフルフォーマットで撮って、ビスタサイズにトリミングする感じですね。
木田 今思えば4対3画角を5Kや6Kなりでスキャンできればよかったですね。
堀切 ちなみに作業の流れとしては、スキャンが終わったら次は傷消し、パラ消しになるのでしょうか?
椎原 当初はマスターをSDRで仕上げる予定でしたので、それに合わせて粒状性(フィルムグレイン)を取ることと、レストア、傷消し、パラ消しの順番で作業を進めていました。
堀切 その粒子感についてですが、4Kだとどうしても粒状性を取らないといけないのでしょうか?
椎原 今回当初はSDRに合わせて粒状性を抑えていたんですが、後からHDR化するとなって調べてみたら粒状性がさらに目立ってきて、結果的に処理をしなおしています。
堀切 その作業は編集ツールでできるものなのでしょうか?
椎原 弊社ではフェニックスという処理ソフトを使っています。ただ、さまざまなネガタイプを含むアニメーションの場合オートでは対応できないので、ほぼすべて人による作業が必要でした。
堀切 やっぱりそうなんですね(笑)。『あしたのジョー2』のUHDブルーレイを拝見しているとセル画そのものを観ているような印象になるので、かなり粒状性については気を遣っているんだろうと思っていました。
椎原 そこはユーザーさんの好みもあるのでしょうが、今回は粒状性は抑える方針で進めています。
堀切 その方針は、どのタイミングできまったんですか? アーカイブとして粒状性のないものを残そうとしていたのか、それともHDR化していく段階で粒状性を抑えざるを得なかったとか?
木田 フィルム撮影のアニメ作品として、粒状性やパラをどう解決するかはひじょうに難しいテーマです。特にテレビ用では16mmフィルムで撮影した作品もあり、粒状性が目立ちやすいんです。当然、傷やパラも目立つので、これらも消していかなくてはなりません。前に椎原さんに担当していただいた『TVシリーズ じゃりン子チエ』が16mm作品だったのですが、その時の経験がかなり活きてきました。
堀切 完成したUHDブルーレイの映像について、ユーザーからの反応はいかがですか?
木田 レビューを見てもひじょうにいいと言う意見が多数あり安心しております。他作品ではグレインを残して指摘を受けた事もありましたからね。
堀切 個人的な経験としては、原作の『あしたのジョー』は週刊誌のざら紙でしたし、テレビもアナログ放送の白黒で観ていましたから、ざらざらしている印象です(笑)。その意味ではこの4K映像は別世界ですが、しかし、持っている風あいや絵づくりは崩れていない。そこが素晴らしいと思いました。
木田 弊社としては、粒状性を取れるのであれば取りたいというスタンスで臨みました。これはBDが登場し、アニメの粒状性をどうするかが言われ始めた頃からずっと社内で検討してきた結果も踏まえてのことです。
椎原 実写作品の場合、粒状性が“味”になることも多いのですが、アニメーションについては、粒状性がない方がユーザーにも喜ばれるように感じています。
木田 もちろん監督によっては粒状性を残したいという方もいらっしゃいますから、そこは制作者の意図も大きいと考えています。今回の『あしたのジョー2』については、粒状性を抑える方向で進めました。
堀切 粒状性を抑えていくと、パラ消しは簡単になるのでしょうか?
椎原 今回はスキャン、パラ消し、粒状性処理の順番で作業を進めましたので、あまり関係ありませんでした。ちなみに今回は40分あたりの紀子とジョーが雨上がりの土手で会話するシーンでの粒状性が一番きつかったですね。何回もNGが出て、苦労したんです。
※後編に続く(8月24日に公開予定)
『劇場版 あしたのジョー2<4K ULTRA HD>』
(フォックスFXHB-90049)¥7,800+税
●1981年日本作品●1枚組(本編)●片面2層(66Gバイト)●本編110分●カラー(16:9/ビスタ)●映像圧縮方式:HEVC●収録音声:リニアPCM2.0ch(96kHz)※特製ブックレット(24p)封入
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