不便だからこその魅力が詰まったアナログレコード
アナログレコードは、CDが登場する1982年以前の音楽メディアの中心的存在で、一般的に知られるLPレコードの登場は1940年代後半。実に、70年近い歴史を持った音楽メディアなのだ。と、歴史的なお勉強をする以前に、現代でもそのアナログレコードが、若い世代も含めて大きく注目されているのはご存じの通り。
海外でも多くのアーティストが新譜をアナログ盤でリリースしているのをはじめ、国内でも多くのレーベルが再びアナログレコードの発売を行なうなど、その生産量も増えている。
デジタル音源にはないアナログならではの温かみのあるサウンド、30cmの大きな円盤が回転し、レコード針が、盤面(溝)に刻まれたサウンドを奏でるそのたたずまいの美しさ……などなど、アナログレコードの魅力を語れば枚挙に暇がないほどだ。
しかし、極論してしまえば、手軽になった反面、どのように音が出るのかも分かりにくくなってしまったデジタルオーディオに対し、少々不便でも実際に音を出している実感がダイレクトに味わえることが、(アナログの)魅力の本質ではないかと思う。
そんなアナログレコードとファーストコンタクトを果たした若い世代から、昔、夢中になっていた熟年世代まで、今こそ、アナログレコードを聴きたいと考えている人は少なくないだろう。そこでここでは、アナログレコードの再生について、もう一度くわしく紹介してみることにする。対象となるのは、アナログレコードのことは知っていても、実際に再生したことも、その音も聴いたこともないまったくの初心者。現代では、情報だけは膨大に集めることができるが、実際に手を動かす必要のあるアナログ再生は、手強いと感じる人もいるだろう。だが、まったく怖れることはない。
アナログレコードが音を記録/再生する仕組みはとても「簡単」
音の正体は空気の振動(圧力の変化)だ。それが空気を媒介として周囲に伝わり、最終的に耳の中にある鼓膜を振動させることで、脳が音として認識する。これが音の聴こえる仕組み。アナログレコードは、その空気の振動で震える(共振する)小さな針を使ってレコード盤面に空気の振動そのものを刻みこんでいる。再生時は逆の順番で、レコード盤の溝に針を落とし、盤面に刻まれた通りに針が震え、その振動を拾いあげて電気的に増幅して音にしているわけだ。
この仕組み自体は、電気をまったく使わない蓄音機もほぼ同じ。簡単に言えば、レコード盤を回転させて、そこにカートリッジ(レコード針)を落とせば、音が出る。これ自体は一度やり方を覚えれば誰でもできる。
この「簡単」なことが大きな問題でもある。例えば、レコード盤の回転数が速かったり遅かったりすれば、演奏の速度(ピッチ)が変わってしまう。レコード盤にキズがあれば針が飛んで音が途切れてしまうし、不要なノイズも出る。モーターの振動や回転ムラがあればそれも針が拾って音(ノイズ)になるし、もともと微弱な信号(出力信号はおよそ250mV前後、CDなど一般的なオーディオ機器の出力は2V前後)なので、再生のために大きく増幅する必要があり、ちょっとしたノイズも一緒に大きくなるため影響が大きい。
仕組みは簡単、だが正しく再生するにはコツがいる。これが、アナログレコードが手強いとされる原因。こう言うと、一気にハードルが高くなってしまう気もするが、とにかく音は出る。ここが肝心だ。初めてのときはひどい音が出るかもしれないが、その音をよく覚えておこう。ちょっとした手間をかけて調整やセッティングをしていくと、その音が見違えるように変わるのが分かる。はっきり言って、これが実に楽しい。音の変化がよく分かるから、いろいろなことを試してみたくなるし、その結果がすぐに出る。この分かりやすさも魅力なのだ。
アナログレコードプレーヤーを使ってみよう/組立編
ではいよいよ、実際にアナログレコードプレーヤーを再生してみよう。使用したのは、ティアックの「TN-350」。大手家電量販でも¥32,000ほどで買えるエントリークラスのモデルだ(2018年6月時点)。
特徴としては、アナログレコード再生に必要な機能、パーツがセットになったオールインワンモデルであるということ。(1)音を読み取る針=カートリッジ。(2)カートリッジを取り付けるヘッドシェル、(3)ヘッドシェルを取り付けてレコードに針をおろすためのトーンアーム、(4)針が読み取った信号(アナログレコード用に決まった特性で処理された信号)をフラットに戻すフォノイコライザーアンプまで内蔵している。つまり、本機単体で、現代の一般的なオーディオ機器やアクティブスピーカーとつないですぐに音を出すことが可能なのだ。
しかも、レコードの音をデジタル音声に変換して出力する機能(USB端子)もあり、PCとUSB接続すれば、デジタル録音までできてしまう。スマホやDAP(デジタルオーディオプレーヤー)で聴くための音源(コンテンツ)を作ることまでできてしまう。
しかも、本体の作りもしっかりしているし、木製の美しいキャビネットもインテリア性が高い。トーンアームはカットリッジの着脱が可能で、さまざまなカートリッジを交換して音の変化を味わうという、上級者の楽しみにも挑戦できる。針圧調整、インサイドフォースキャンセラーの調整機構なども持った本格的な製品。初心者に最適なだけでなく、長く愛用できるモデルだ。
【手順1 組立】
アナログプレーヤーは輸送時の破損を防ぐため、一部が分解された状態で梱包されているので、使用するには組み立てが必要だ。基本的には、本体中央付近にあるスピンドル(回転軸)にプラッター(レコードを載せる円盤状のパーツ)を載せること。忘れてはいけないのが、プラッターを回転させるためのモーターとプーリー(滑車)をゴムのベルトでつなぐこと。TN-350はベルトドライブ方式であり、モーターの回転をゴムベルトでプラッターに伝えるので、これを忘れるとレコードが回転しないのだ。
このほか、トーンアームにカートリッジを装着するなどの操作もある。製品の取扱説明書をよく読んで、ていねいに組み立てよう。
【手順2 動作チェック】
組み立てが終わったら、電源アダプターをつないで電源を入れ、プラッターが回転するかを確認する。TN-350の場合、手前にあるツマミをSTARTの位置にすると、ランプが点灯してプラッターが回り始めるはずだ。あとは、背面にあるオーディオ出力(RCAケーブル)をアンプなどのオーディオ機器に接続すればいい(接続時は電源を切っておくこと)。
フォノイコライザーアンプを搭載していない、あるいはPHONO端子がない機器と接続する場合(近年ではこちらが一般的)は、LINEやAUXなどのオーディオ入力端子と接続し、TN-350のフォノイコライザー機能は「オン」にする。
一方、フォノイコライザーアンプや同機能を内蔵したオーディオ機器と接続する場合は、PHONO端子と接続し、TN-350のフォノイコライザー切り替えは「オフ」を選ぶ。
【手順3 スピーカーをつなぐ】
今回は、より手軽なシステムでアナログ再生を楽しむため、アンプを内蔵したアクティブスピーカーを使うことにした。モデルはオラソニックの「TW-S9」(¥25,000前後)。タマゴ形のボディに60mm径のウーファーユニットと、25mm径のソフトドームツイーターを搭載した同軸2ウェイ構成のスピーカーで、このほかに低音を増強するパッシブラジエーターも備えている。独自のSCDS(Super Charged Drive System)回路を内蔵し、USBバスパワーの電力でも最大12.5W×2の大出力を実現できる。
接続はTN-350のアナログ音声出力をTW-S9のオーディオ入力(ステレオミニ端子)に接続する。RCA→ステレオミニの変換ケーブルが必要だ(TW-S9に同梱)。その際、TN-350の背面にあるフォノイコライザーの切り替えは「オン」にする。
後編は7月13日(金)公開予定
ティアック(TN-350)
https://teac.jp/jp/product/tn-350/top
オラソニック(TW-S9)
https://www.stereosound-store.jp/fs/ssstore/as_ols/2341