試聴を終えて

理想の音に近づけやすいヴィンテージ球と高いクォリティに希望が膨らむ現行生産管。音を作る組合せの妙もプリ管差し替えで見える

──今回は鈴木さんの『バンド・ワゴン』を12AX7の現行生産管5本、ヴィンテージ管9本で聴き比べてみましたが、最後に試聴を終えてご感想などをお願いします。

鈴木 僕は楽器もオーディオもヴィンテージ機器が好きでよく使っていますが、「ヴィンテージがすべてじゃない」という考え方ももちろん理解できます。プロデューサーのアリフ・マーディンは、生前のインタビューで「自分はヴィンテージ信奉者ではない」と明言していました。でも彼の手がけたアレサ・フランクリンやダニー・ハサウェイのレコードを聴くと、僕が考える「良い音」そのものなんです。実際にどういう機材を使って録音していたのかは知らないけれども、聴き手はどんな機材で制作したかとかヴィンテージ機器を使っているかなんてわからないし、多くの人は興味もない。だとしても、僕はやっぱりヴィンテージ球の音が好きなんだということを今日の試聴で改めて実感しました。

 正確に言うと、ヴィンテージの方が自分の理想とする音に近づける可能性が高い、ということ。その一方で、コンディションの良いヴィンテージの真空管を手に入れることはどんどん難しくなっています。だから、今回で言えば復刻ムラードの12AX7/CV4004のような現行生産管は希望の光だなと思いました。ヴィンテージの真空管だけでなく、最近はトランジスタまで手に入りにくくなっているからね。

高橋 現行生産管にもいろいろ良いものがあることがわかり、とても有意義な試聴でした。僕自身、楽器やレコーディング機材、オーディオで12AX7をとてもよく使うのですが、もはやヴィンテージは高くて買えない状態になってきたので。

杉井 現行生産管は、かなり以前と比べるとだいぶ質が上がりましたね。

高橋 だから、まだ希望が持てるなと思いました。実は、今日の試聴はとても楽しみにして来たんです。僕の最初のオーディオセットは、父親が人からもらってきたトリオのコンソール型ステレオでした。真空管式のレシーバーと、大きな箱に入った16㎝径のフルレンジスピーカー。それにパイオニアのベルトドライブプレーヤーを買い足して音楽を聴くようになりました。最初は「みんなトランジスタなのに、うちだけ古い真空管式でカッコ悪いな」と思っていたんです。でも後々調べてみると、出力段は6BQ5のプッシュプルで、プリ管は当然、12AX7。フルレンジスピーカーはたしかダイヤトーンで。

杉井 P610あたりですかね。

高橋 その通りです。「そんなすごいシステムで聴いていたのか!」と驚いたのは20年ぐらい経ってからでした。思い返せば、このトリオのコンソール型が本当に良い音だった。それで冒頭でお話した通り、高校1年のときに『風街ろまん』を買って、ジェイムス・テイラーやニール・ヤング、ジョニ・ミッチェル、ザ・バンドなどと並行してはっぴいえんどを聴き始めるわけです。その後、大学に進んでフェンダーのストラトとツインリヴァーブを買ったので、当時の僕のそばにはずっと茂さんの音楽と12AX7があったことになります。だからこうして茂さんと真空管のお話をしていることを、高校生の俺に聞かせたいですよ(笑)。

杉井 今日は比較試聴だけでなく、『バンド・ワゴン』の音作りの秘密も教えていただけたのが嬉しいですね。

鈴木 音楽は、たくさんのこだわりの積み重ねです。クローヴァー・スタジオで僕がMXRのダイナ・コンプというコンプレッサーをつないで弾いていたら、エンジニアのマイクから「それを外してくれないか」と言われました。「コンプなら後からコンソールでかけることができるから」と。でも僕はコンプの効果を感じながらでないとうまく弾くことができないから「使わせてほしい」とわがままを通してもらいました。それは僕にしかわからないちょっとしたこだわりなのかもしれないけれど、そういう細かいディテイルを積み重ねて、自分の感性と耳を頼りに仕上げるのがレコードだから。

杉井 それと同じように、オーディオの組合せも大切だということですね。

鈴木 そうです。プリ管だけでなく出力管も大事だし、ギターアンプの音を拾うマイクロフォンやマイクプリの選定も大事。ただ良いものを選べばいいというわけではなく、すべては組合せの妙だから、とにかくいろいろ試してみるしかない。今日の試聴のように、同じシステム、同じ環境で同じ曲を何度も繰り返し聴き比べることで見えてくるものは間違いなくありますが、それはこの条件下で聴いた評価であって、真空管そのもののポテンシャルを正しく評価するものではない。ここでもまたプリアンプはこれでいいのか、パワーアンプは、カートリッジは……と検証すべきことはたくさんあります。でも今日の試聴を通じて、12AX7のことを前より深く理解できた気がします。

高橋 違いが聴き分けられるかどうか心配だったけど、意外と違いがわかって安心しましたよ(笑)。

鈴木 12AX7の聴き比べなんてなかなかない機会ですから、とても有意義な時間でした。また別の企画でこういう試聴に参加できたら嬉しいです。ぜひまた呼んでください。

杉井 こちらこそ、とても楽しい時間でした。ありがとうございました。

画像: 理想の音に近づけやすいヴィンテージ球と高いクォリティに希望が膨らむ現行生産管。音を作る組合せの妙もプリ管差し替えで見える

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別冊『プリ管の誘惑』(2025年5月)より

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