『管球王国』117号「マイ・ハンディクラフト」企画で是枝重治氏は6V6類似のMT7ピン・ビーム管6005/6AQ5プッシュプル・パワーアンプを発表。往年のコーナーホーン型スピーカー、バイタボックスCN191から典雅で切れ込みのよい音を引き出すべく設計され、出力6W+6Wでまとめられた。

6V6GT類似管のMT型6AQ5プッシュプルでコンパクトに仕上げる。初段とP-K分割型位相反転段も7ピンMT型5極管6AK5で構成

是枝重治

バイタボックスCN191にはWE350Bなど古い多極管も適する。後年のMT型ビーム管6AQ5を試す

 ビームGT管6V6にはたいへん多くの類似管があります。それだけ傑出した真空管ですが、なかでも7ピンMT管の6AQ5は1950年代に電蓄の出力管として多用されていましたし、電源トランス付きの高級な家庭用ラジオにも使われていました。テレビ用途のトランスレス管とは出自が異なって昔は比較的高価な真空管でした。電信電話級アマチュア無線が開設された1958年頃はこれを使った小型送信機がいくつもありました。手元にも谷電気製の未組み立ての送信機のキットがあります。やがて電波法上限の空中線電力10Wが得られるビーム送信管807が主流になっていきましたが、初めの頃は6AQ5や6AR5(6K6相当)を使った空中線電力3〜4Wのものが多かったのです。変調を伴うA3電波では近距離に限られますが、CWでは遠距離でも立派に通用したのです。

画像: 左が前段を構成する7ピンMT管の5654W/6AK5。シャープカットオフ5極管で、ヒーターの規格は6.3V/0.175A。右が出力管の6005/6AQ5。電気特性が6V6GT相当の7ピンMT管で、定格は最大プレート電圧250V、ヒーター6.3V/0.45A。いずれもGE製を採用している。

左が前段を構成する7ピンMT管の5654W/6AK5。シャープカットオフ5極管で、ヒーターの規格は6.3V/0.175A。右が出力管の6005/6AQ5。電気特性が6V6GT相当の7ピンMT管で、定格は最大プレート電圧250V、ヒーター6.3V/0.45A。いずれもGE製を採用している。

画像1: 【My Handicraft】6005/6AQ5プッシュプル・パワーアンプ
Fascination117の製作/是枝重治 Part.2

 さて当地は、バイタボックスのCN191を所有していた人がとても多くて、特に珍しいものではありません。昨年も1セット引き取りました。CN191はSP時代末期に発売されたものです。相当後に発売されたタンノイのオートグラフはCN191と同じ価格でした。バイタボックスは近年になってロンドンに近いハートフォードシャーにあるサイレンメーカのセコマックに引き継がれました。Royal Navy繋がりだと思います。CN191も極めて高価ながらも現行モデルです。いま作られている銀色のハンマートーンに塗られたS2ドライバーも手元に届きました。これは見事な出来栄えです。

 うまく鳴らされたCN191の音味はグッドマンAXIOM80の4本システムと共通する部分も多く、漫然と聴いていると、どちらが鳴っているのかわからなくなることもあります。一番の要点は、必ず後面に指定の屏風状のバッフルを付けるということです。これは別売りでしたから付けずに使う人が多いのです。その場合は低域にホーン負荷が全然かかりません。これは絶対に必要です。
 また、極めて滑らかな音なので接近して聴いても構いませんが、できるだけ左右に離して置くことが大事です。鳴らし方はオートグラフより難しくて性格が全然異なるAXIOM80と双璧です。

 いままでにCN191にいちばん適したアンプはカンノ製のパーマロイコアトランスを使ったWE300Bシングルでした。基準を満たさぬハネ球でしたが蕩けるような美音で驚倒したものです。では3極管シングルアンプが良いのかというと、そうでもありません。総じて古い多極管が適するようで、とりわけWE349Aや350Bは良かったと思います。戦前設計の多極管はCN191では局部帰還をかけずに使ったほうが良いのです。小型MT管のアンプでうまく鳴るとは思えませんが、戦後設計(?)の6AQ5はどうでしょう。なんといっても6V6の末裔ですから。

P-K分割型位相反転段兼ドライバー段を高周波増幅管6AK5で構成する。出力トランスはファインメットコア採用

 本機で使用したGEの6005は過酷な用途に耐えられるように特に設計された軍用球で、黒く底光りするプレートはニッケル材だと思われます。40年前には米国内から持ち込まれたものがあちこちに出回っていましたが、最近は全然見かけません。新品のバルク球1箱100本で3万円くらいでした。本誌でも、これを使ったアンプをこれまでにもお話ししたと思います。

 6005はタフな真空管だと思いますが、決して無理ができないのがMT管の常です。東芝発表の動作例では「プレート電圧250V、SG電圧250Vで−15Vのバイアス電圧を与えると1管あたり35 mAのプレート電流が流れて10kΩ負荷に10Wの電力が5%の歪みで発生する」ようです。これをプッシュプルで使うときは部品点数や配線経路などの視点でP-K分割が最良の選択です。

 電源トランスを115V入力/110V出力のトロイダルトランスにして、これを倍電圧整流で使うと印加電圧は230V程度になります。ですから、出力トランスの損失を考慮すると5〜6W程度の出力になるでしょう。出力トランスには8kΩ/10Wの春日無線のファインメットコアのカットコアトランスを使いました。

 励振部に使う球は7ピンのMT管が適切ですが、本機では6AU6ではなく6AK5を使いました。これは戦時中にWEが開発した高周波増幅管です。1本のケーブルで多数の音声回線を送る搬送波通信の歴史は古く、電話回線用としても昭和初期からありました。WE310Aや348Aは本来は搬送波用で、同様に日本電気のCZ501も搬送波管です。これは寿命10万時間だそうです。

 松前重義さんの無装荷ケーブルにも見られるように、一部では米英に近づく技術力は有していたと思います。でも、総合的な国力を反映する真空管技術はまだ模倣の域に止まっていました。米国では第2次大戦終結直後からマイクロウェーブ回線が整備されたのですが、そのための長寿命、広帯域、低歪率の真空管は戦争中にはすでに開発されていました。ですから、特徴はほぼ同じながらも寿命や歪率などをさほど重視しない6AK5を作ることは造作もないことだったと思います。

 中学2年生のときに作ったクリスタルコンバーター(バリコンを用いたスーパーヘテロダイン受信機と併用し、ハムバンドの受信性能を飛躍的に向上させるもの)に6AK5を使ったことがありますが、6BA6の10倍近く、東芝球は二千円に近かったと思います。伊藤喜多男さんは1950年代後半にフォノイコライザーにお使いになられていました。6AK5をオーディオ用途に使ったのは、知る限り伊藤さんが初めてです。

 この球は6AU6より小柄で非力ですが、甘く怜悧な切れ味があります。どちらも7ピン5極MT管ですが、高電圧を印加できる6AU6は1本で300Bを励振できますが、通信用途に作られた6AK5では不可能です。本機の定数では、印加電圧200Vのときに位相反転段の最大出力電圧は100kΩ負荷時に歪み1%で18Vrms、励振に必要な出力電圧10Vrmsは歪み0・3%で得られました。入力端から反転部出力の利得は約43 dBです。

第1図 全回路図

画像: P-K分割型位相反転段兼ドライバー段を高周波増幅管6AK5で構成する。出力トランスはファインメットコア採用

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