フランスのFocal Professionalから、ミドル・クラスの新型スタジオ・モニター「ST」シリーズが登場した。いかにもFocal Professional製らしい上質なデザインの「ST」シリーズは、インバーテッド・ドーム型のベリリウム・ツイーターとコンポジット“W”サンドイッチ型のウーファーを搭載したアクティブ・モニターで、6インチ/2ウェイ仕様の「ST solo6」、6インチ/2.5ウェイ仕様の「ST twin6」、12インチのサブ・ウーファー「ST sub12」という3モデルで展開される。「ST solo6」には、壁や天井に取り付けるためのインサートも付属し、イマーシブ・スタジオにも対応する現代的な仕様になっているのも特徴だ。「ST」シリーズの開発コンセプトについて、発表会のために来日したFocal Professionalのインターナショナル・セールス・マネージャー、ヴィンセント・モーユイール(Vincent Moreuille)氏に話を訊いた。

 

SMシリーズの後継、STシリーズ

画像: Focal Professionalの新型スタジオ・モニター、「ST」シリーズ。2ウェイ/6インチの「ST solo6」(写真左)、2.5ウェイ/6インチの「ST twin6」(写真右)、12インチのサブ・ウーファー「ST sub12」という3モデルがラインナップされる。Focal Professionalを代表する製品だったSMシリーズの実質的な後継モデルだ

Focal Professionalの新型スタジオ・モニター、「ST」シリーズ。2ウェイ/6インチの「ST solo6」(写真左)、2.5ウェイ/6インチの「ST twin6」(写真右)、12インチのサブ・ウーファー「ST sub12」という3モデルがラインナップされる。Focal Professionalを代表する製品だったSMシリーズの実質的な後継モデルだ

 

── 今回の来日の目的をおしえてください。

ヴィンセント・モーユイール(以下、VM) 新製品の「ST」シリーズを日本のお客様、ディーラー、プレスの皆様に公式な形でご紹介するというのが一番の目的です。私は日本を訪問するのは今回が初めてで、個人的に日本の文化には昔から親しんでいるのですが、実際に訪問するとその印象はまた違ってくるだろうと、いろいろなところを巡るのを楽しみにしています。私は現在、プロフェッショナル製品のインターナショナル・セールス・マネージャーというポジションに就いています。

画像: Focal Professionalのインターナショナル・セールス・マネージャー、ヴィンセント・モーユイール(Vincent Moreuille)氏

Focal Professionalのインターナショナル・セールス・マネージャー、ヴィンセント・モーユイール(Vincent Moreuille)氏

── Focal Professionalにとって、この3年間は大変だったのではないですか。

VM いいえ、我々はほとんどコロナ禍の影響を受けませんでした。会社全体としてもそうですし、プロフェッショナル製品に限って言えば、この3年間で売り上げが約2倍に伸びたのです。コロナ禍で部品の調達が困難になったという話をよく耳にしますが、我々は製品の生産に必要な部品を数年分ストックしており、またプロフェッショナル製品は基本アナログ回路なので、AKMのチップなどは使用していません。世界中の人々にとって大変困難な時期ではありましたが、我々はこの3年間を非常にポジティブに捉えています。

── 売り上げが約2倍に伸びたというのは凄いですね。

VM その要因としては2つ挙げられると思います。1つは、プロ・ミュージシャンやエンジニアが自宅でも作業できるように録音機材に投資したこと。コロナ禍以前は商用スタジオで作業していた人たちが自宅でも作業するようになったのです。もう1つは、それまでDAWなど扱ったことがなかったミュージシャンやプレーヤーが、コロナ禍を機に録音を始めるようになったこと。人前でパフォーマンスできない期間が長かったので、この機会に録音を始めてみようという人が増えたのです。また、タイミングよくAlpha EVOシリーズのようなホーム・スタジオ向けの新製品を市場に投入できたのも大きかったですね。興味深いのは、新たに録音を始めた人たちが積極的にFocal Professionalの製品をチョイスしてくれたことです。我々の製品は決して安価なものではありませんし、ショップに行けばチープなスピーカーがたくさん並んでいます。初めて録音を始めるような人たちも我々の製品に価値を見出し、積極的にチョイスしてくれたのは嬉しかったですね。

── 新製品の「ST」シリーズとはどのようなスタジオ・モニターなのか、おしえていただけますか。

VM 「ST」シリーズは、Focal Professionalの新しいミドル・クラスのスタジオ・モニターです。2ウェイ/6インチの「ST solo6」、2.5ウェイ/6インチの「ST twin6」、12インチのサブ・ウーファー「ST sub12」という3モデル展開で、もちろん全製品アクティブ仕様、ベリリウム・ツイーターや『TMD(Tuned Mass Damper)』といった我々が培ってきた技術が盛り込まれています。「ST」シリーズの開発に着手したのは3〜4年前のことで、SMシリーズの実質的な後継モデルにあたりますが、我々はSMシリーズを置き換えようと思って「ST」シリーズを開発したわけではありません。SMシリーズは、Focal Professionalのスタジオ・モニターの中で最も売れた製品ですが、発売から15年以上もの年月が経過しています。その間、ユーザーから様々なフィードバックをもらいましたし、我々自身も多くの技術やノウハウを蓄積してきました。そういった技術やノウハウをブロックのように積み重ね、ミドル・クラスのフォームファクターで仕上げたのが新しい「ST」シリーズなのです。

 

2ウェイ/6インチの「ST solo6」

画像: 2.5ウェイ/6インチの「ST twin6」

2.5ウェイ/6インチの「ST twin6」

 

12インチのサブ・ウーファー「ST sub12」

 

── 「ST」シリーズではどのような製品を目指したのですか?

VM ベーシック・コンセプトは明快で、とにかくニュートラルなサウンドを実現すること、歪みが極小であること、できるだけ大きなダイナミクスを得ること、念頭に置いていたのはこの3つです。月並みなコンセプトようですが、我々が「ST」シリーズで目指したのは、まさしくこういうサウンドなのです。我々自身、SMシリーズで改善しなければならない点は十分に把握していました。「ST」シリーズの開発メンバーの中にはSMシリーズの開発を手がけたスタッフも含まれていますが、彼いわく、ユーザーから「ロー・エンドが物足りない」と言われることにうんざりしていたと(笑)。ですから新しい「ST」シリーズでは豊かなローエンドを実現することも重要なポイントでした。

── それは現代の音楽トレンドを意識してのことですか?

VM 他のメーカーは分かりませんが、我々は製品開発を行う上で、音楽のトレンドを意識することはありません。もちろんスタッフ全員、音楽を聴くことが大好きですので、影響を完全に排除することはできないかもしれませんが、なるべく影響を受けないように努めています。Trio11 Beという製品は、EDMのプロデューサーの間で非常に人気がありますが、そういった音楽をターゲットに開発したわけではありません。Trio11 Beは、「SM9の開発時には存在しなかった技術を使って、同じようなフォームファクターで設計し直す」というのが開発のスタート・ポイントになっているのです。SM9は素晴らしいスピーカーですが、やはりパッシブ・ラジエーターでは低域の表現力や音の解像度に限界がある。そして完成したのがTrio11 Beであり、決して「EDMやクラブ・ミュージックに対応する低域の再現能力を持ったスピーカーを作ろう」と思ったわけではありません。実際、Trio11 Beは、EDMのプロデューサーだけでなく、クラシックやジャズのエンジニアからも高く評価されています。

 この話の流れで、もう1つ付け加えるとすれば、Focalには限界を定めずに常に良いものを求めて探求するという社風があります。この探究心、向上心は、スタッフ全員で共有していると言っていいでしょう。我々の特許技術の1つにウーファーを制御する『TMD』という機構がありますが、これはもともとハイファイ・オーディオ製品の開発過程で生まれた技術です。非常に革新的な技術だったので、プロ・オーディオ製品でも採用するようになり、今では他の分野の製品でも基礎技術の1つとなっています。よく「この新製品は完全にゼロから設計されたものですか?」という質問を受けますが、我々自身が納得している設計、デザインには手を付ける必要はないと考えています。

── 「ST」シリーズで、肝となっている技術や機構を挙げるなら何になりますか。

VM 「ST」シリーズでは、非常に多くの技術が採用されています。インバーテッド・ドーム型のベリリウム・ツイーター、W字型コーンのウーファー、先述の『TMD』、これまで以上に高い剛性とダンピング性能を備えた堅牢なキャビネットなどなど……。ご質問に対する正しい回答は、“これら多くの技術のコンビネーション”ということになりますが、どれか1つを強いて挙げるなら、新技術ではありませんがウーファーのデザインでしょうか。ウーファーの角度、ボイス・コイルの長さ、これらの要素が「ST」シリーズの高音質を実現する上での重要なファクターになっていることは間違いありません。素材そのものが軽量になっているので、制動性が大幅に向上した結果、低域のダイナミクスが格段に良くなっているのです。

画像: SMシリーズの後継、STシリーズ

コンポーネントへのこだわり

画像: 昨年11月、東京・渋谷の『LUSH HUB』で行われた発表会の様子

昨年11月、東京・渋谷の『LUSH HUB』で行われた発表会の様子

── このインタビューに先立って行われた発表会では、ツイーターやウーファーなどのコンポーネントを来場者に触れさせていたのが印象的でした。

VM それは「ST」シリーズで採用したコンポーネントの軽さ、質感を体感してほしかったからです。我々はコンポーネントに対して、並々ならぬこだわりを持っていますが、実際に製品で使用する場合はコストとのバランスが重要になってきます。すべてのスピーカーでベリリウム・ツイーターを採用できればベストですが、そういうわけにはいきません。もっと言えば、高価なコンポーネントを使用できないエントリー・モデルの開発の方が難しかったりします。安価なエントリー・モデルと言っても、Focalブランドで発売する以上、我々のDNAを受け継いだものでなければいけませんからね。Alpha EVOシリーズの開発でも、コンポーネントの選定にはとても苦労しましたよ。また、ベリリウムというのは市場価格が安定しない素材で、時には金の50倍くらいの価格になってしまうこともあります。それに扱いも難しく、純粋なベリリウム、“ピュア・ベリリウム”を加工してオリジナルのコンポーネントを作っているオーディオ・メーカーは、我々だけなのではないでしょうか。コーティング素材として採用しているメーカーはあるでしょうけどね。

 ベリリウムというのは、レスポンスに優れ、本当に素晴らしい素材です。先日販売を開始したUTOPIA SGという開放型のヘッドフォンでもベリリウム製のドライバー・ユニットを採用しているのですが、我々の開発チームが使用しているダミーヘッドでは40kHzまでしか測定できませんでした。つまり、ダミーヘッドの性能を上回ってしまっているということで、もしかしたらUTOPIA SGの高域特性は50kHz、あるいは60kHzまで伸びているかもしれません。インターネットを見ていると、「そんな高域特性でも、人間の可聴範囲外なので意味はない」という意見がありますが、我々は耳に聴こえる音がすべてではないと考えています。ヴァイオリンにしても鐘にしても、その音色は倍音が複雑に積み重なって成り立っている。そういった倍音をすべてキャプチャーできなければ、音のテクスチャーを捕らえることができないというのが我々の考え方なのです。ですので、50kHzや60kHzの音も無視することはできません。

── Focal ProfessionalのDSPへのスタンスをおしえてください。

VM ユーザーや各国のディストリビューターからも、「FocalはDSPを採用しないのか?」という質問を頻繁に受けますね。確かに、最近のスタジオ・モニターは、音場補正用のDSPを内蔵したものが増えていますし、メディア・インテグレーションで取り扱っているSonarworksのような音場補正ツールも人気を集めていますから。しかし現時点で我々は、DSPに頼らずにアナログで作ったスピーカーの方が絶対的に良いという信念を持っているのです。これはDSPを採用している他社への批判ではありませんし、我々も将来的にはDSPを採用するかもしれません。しかし現時点では、ユニットやキャビネット、アナログ回路をブラッシュ・アップすることで、スピーカーはまだまだ良くなるという考えがあるのです。この信念は、開発チーム全員で共有しており、道を逸れないように心がけています。我々は常に前を向いて製品開発を行なっていますが、その一方で、昔ながらのオーディオ・メーカー的な側面も持っている会社なのです。

── なるほど。

VM 繰り返しになりますが、頑なにアナログだけというこだわりがあるわけではありません。実際に20年前に発売したSM8とSM11という製品はDSPを搭載していましたからね。SM8とSM11は、あらゆる環境に柔軟に対応できる優れた製品ではあったのですが、純粋にサウンドにフォーカスすると、正直なところ我々が求める領域には達していなかったのです。自画自賛するわけではありませんが、我々のドライバーは非常に繊細なので、DSPを経由したことが音に現れてしまっていたんです。我々の繊細なドライバーに耐えうるデジタル・プロセッシングの手法を見つけられていないというのが、現在DSPを採用していない理由です。

── 安易にDSPに頼らずにアナログ・コンポーネントを吟味して製品を設計する姿勢は、素材にこだわる和食のようです。

VM まさしくそんな感じです。その喩えは嬉しいですね。

── 最後に、この記事を読んでいる日本のプロフェッショナルにメッセージをお願いいたします。

VM 何より新製品の「ST」シリーズのサウンドを体験していただきたいですね。体験を通して、「ST」シリーズのサウンドがご自身の仕事にどのようなベネフィットをもたらすのか、ぜひ発見していただけたら幸いです。それと我々の製品によるイマーシブ・システムにもぜひ注目していただけたらと思います。Focal Professionalのスタジオ・モニターであれば、あらゆるレベルで、想像以上に安価に、イマーシブ・システムを構築することができます。

── 本日はお忙しい中、ありがとうございました。

取材協力:株式会社メディア・インテグレーション MI事業部
写真:八島崇

 

画像: 発表会にゲストとして登場した音楽プロデューサーの鈴木Daichi秀行氏と

発表会にゲストとして登場した音楽プロデューサーの鈴木Daichi秀行氏と

Focal Professional ST Series
問い合わせ:メディア・インテグレーション MI事業部
Tel:03-3477-1493

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