先ごろ、Sennheiser APACのプロオーディオ事業セールス責任者のヴィンス・タン氏とNeumann APAC事業セールス責任者のランス・リム氏が来日された。現在、最も先進する企業のひとつのトップが、日本の市場をどのように考え、どのような展望を描いているのか、非常に興味深い。そして、今後発表される期待の新製品も注目される。そこで、ゼンハイザージャパン本社を訪ねて、来日中の両氏に伺った。

来日の目的

プロサウンド(以下:PS) 最初に、今回の来日の目的を教えていただけますか。

ヴィンス・タン(以下:V. Tan) 日本市場は非常に重要なマーケットです。日本ではプロフェッショナル仕様のプロダクトに関して、非常に高いクオリティーが求められています。

 残念ながら、ここ2年間ぐらいコロナ禍で日本を訪問することができなかったのですが、ようやく海外渡航制限が解除されて、訪問できるようになりましたので、日本のお客様のニーズを正確に理解して、お客様との関係構築をより強力にするために、訪日しました。お客様に久しぶりにお会いできることを本当に嬉しく思っています。

Sennheiser APAC
プロオーディオ事業セールス責任者
ヴィンス・タン氏 Vince Tan

ランス・リム(以下:L. Lim) Sennheiserグループには3つの大きな事業があります。プロフェッショナルオーディオとNeumannとビジネスコミュニケーションの3つの事業です。特にこの中でもプロフェッショナルオーディオ事業とNeumann事業というのは、マーケティングやチャンネルが非常に似通っている事業ですので、普段でも密に連絡を取り合っていますし、同じお客様を同時に訪問した方が理にかなっていますので、私も一緒に訪日しました。

Neumann APAC
事業セールス責任者
ランス・リム氏 Lance Lim

PS APAC(Asia Pacific)の担当地域はどちらになりますか。

L. Lim 日本、韓国、台湾と香港、マカオを含めた中国圏。インド、バングラデシュ、パキスタンも含めた東南アジア。そして、オーストラリア、ニュージーランド等、アジア太平洋地域の全域になります。

 

Sennheiser と Neumann のビジョン

PS APACでのビジョンはどのようにお考えですか。

V. Tan APACの特に日本、中国、インド、東南アジアの4つの重点地域というのは、非常に成長している地域ということで、私どもの業界だけではないと思いますが、成長市場ということで注目しています。このような背景からこの地域に焦点を当てて、お客様のニーズを理解したいと思っています。アジア太平洋地域でどのように、今後5年間成長させていこうかという戦略を策定しています。

 また、ランス・リムが先ほど言っていたように、Sennheiserでは大きな3つの事業のそれぞれの事業でビジネスニーズがあります。このアジア太平洋地域での各事業のビジネスニーズがどういったものかということを理解して、フォーカスを当てていきたいと思っています。

 さらに、プロフェッショナルマーケットのところでは3つのセグメントがあります。プロオーディオとMIとA4V(Audio for Video)です。アジアの地域では、コンテンツクリエイションというのも非常に重要になっています。ですから、A4Vもこの3つのうちのひとつの重要なセグメントということですね。

 それから、ここ2年ぐらいこのA4Vのビジネス領域というのは非常に成長してきていますので、コロナ後もこの堅調のポジションをしっかりと守っていきたいと思っています。

 そして、プロフェッショナル領域に関しても、お客様とのしっかりとした関係構築をして、将来のソフトウェアのビジネスも成長させていきたいと思っています。

PS Neumannのビジョンはどのようにお考えですか。

L. Lim プロフェッショナル仕様の中において、Neumannというブランドは非常によく知られたブランドであります。プロのスタジオの業界において、Neumannのブランドというのは90年以上の歴史があります。

 Neumannのビジョンとしては、エンド・トゥー・エンドで、スタジオのプロフェッショナルユーザーに、プロ仕様のワークフローを提供したいと思っています。つまり、マイクロフォンのインプットから始まって、オーディオインターフェイスを介して、アウトプットのスピーカーまで、入口から出口までの流れのワークフローの全てのお客様のニーズを満たしたいということもあって、Merging Technologiesの買収に発展しました。

 また、同時にライブサウンドもアジア市場で活気が戻ってきましたので、マイクロフォンの新製品の「Miniature Clip Mic System MCM」なども強化していきたいと思っています。

PS 先ほど、ヴィンスさんが将来のソフトウェアのビジネスと言われていましたが、どのようなソフトウェアでしょうか。

V. Tan 従来とは異なる新たなワークフローを導入するために、技術力を高め、お客様のニーズに応える新しいソフトウェア開発を続けていきたいと考えています。例えば、EW-Dワイヤレスシステムでは、Bluetoothで接続されたモバイルアプリケーションを使用して、セットアップや操作、等間隔周波数調整などを自動化し、従来のRFセッティングに代わるワークフローを実現しています。今後も、より使いやすいワークフローソフトウェアを開発していきます。

 

Sennheiserの注目製品

PS それでは、これから発表される、Sennheiserの注目の製品とその特徴を教えていただけますか。

V. Tan 私どもの製品ラインに、EW-Dシリーズのワイヤレスシステムがありますが、日本では、まだホワイトスペース帯の製品しか販売されていませんが、今後800MHzのB帯に対応する製品を来年に予定しています。

画像: Sennheiser EW-Dワイヤレス・コンボセット

Sennheiser EW-Dワイヤレス・コンボセット

 また、新しいプロダクトレンジとしては、EW-DシリーズのさらにハイレベルなEW-DXシリーズを発表します。デジタルシステムを強化して、Danteインターフェイスを装備しています。また、インターモジュレーションの心配をしないで使えるよう、等間隔でチャンネルをセットできる4チャンネルのレシーバーや、周波数管理コントロールの部分でも機能が強化された製品になります。すべての機能をアプリで、Bluetoothでコントロールもできるワイヤレスシステムです。

画像: Sennheiser次期主力ワイヤレスシステム EW-DX/SK/SKM-Sベースセット

Sennheiser次期主力ワイヤレスシステム EW-DX/SK/SKM-Sベースセット

 

PS そのEW-DXシリーズの日本での発売はいつ頃になりそうですか。

V. Tan グローバルでは2023年のQ2(第2四半期)に予定しています。日本バージョンはまだ予定が出ていませんが、グローバルバージョンに合わせて、ホワイトスペース・バージョンはほぼ同時に発表できそうですが、それ以外の製品に関しては、まだ未定です。

PS Sennheiserの来年の最も注目される製品は、EW-DXシリーズになりますか。

V. Tan 来年はそうですね。ライブサウンドのマーケットがコロナが明けて戻ってきたので、その辺を強化していきたいと思っています。コンサートや劇場、映画館も含めて、そういうところで使われるオーディオ部分も強化しています。それがEW-DXシリーズです。

 

Neumannの注目製品

PS Neumannのこれから発表される注目の製品とその特徴を教えていただけますか。

L. Lim 私どもは、先ごろMerging Technologiesを買収しましたので、そちらとの新製品を開発しています。ただ、まだ開示できない部分がありますが、スタジオの現場で使われる、レコーディングでのエンド・トゥー・エンドのワークフローをサポートするような製品を提供していきたいと思っています。

 Neumannの最新の製品としては、KH 150スタジオモニターがあります。現在、グローバルに供給できる準備をしています。日本では、6.5インチ・モデルの要望が多いと聞いており、すでに問い合わせも多くいただいています。

画像: Neumann KH 150とKH 150 Wスタジオモニター

Neumann KH 150とKH 150 Wスタジオモニター

 

 イマーシブ・オーディオの領域で非常に高く評価されている、KH 80と同じくDSPを内蔵しています。もちろんモニターアラインメントに対応しています。MA 1のモニターアラインメントは、現在は2.1チャンネルのアライメントだけですが、近い将来サラウンドのアライメントも調整できるようになります。

PS それはいつ頃になりますか。

L. Lim できれば今年末か来年初めには発表したいと思っています。これはソフトウェアなので、リリースされれば、グローバルで日本でもほぼ同時に展開できます。

PS 要望が多いでしょうね。早くほしいですね。

L. Lim 最善を尽くします。

PS Rycote、vdBのビジョンはどのようにお考えですか。

V. Tan Rycote、vdBは、Sennheiserの重要なサードパーティーとして、お客様のニーズをいろいろ聞いていきますし、お客様の断固としたニーズもあるので、しっかりと対応していかなければなりません。今後も、充実したアクセサリー類をラインナップしていきます。

 

Merging Technologies

PS 先ごろ発表されたMerging Technologiesの買収で、日本での代理店はどうなりますか。

L. Lim 近い将来、Merging Technologiesのディストリビューション・チャンネルにおいての変更は予定しておりません。

V. Tan Merging Technologiesは、3Dオーディオ・ソフトウェアブランドのDear Realityと並ぶ、Sennheiserグループ傘下のもうひとつのブランドということになります。

画像: Merging Technologiesのコンバーター

Merging Technologiesのコンバーター

 

SennheiserとNeumann これからの展望

PS APACで、これから力をいれていく地域はどちらで、その戦略を伺えますか。

V. Tan 日本、中国、インド、東南アジアという4つの地域ですね。日本では、ワイヤレスシステム(特定ラジオマイク)の周波数再編が2013年に始まってもう10年が経ちます。それの買替需要が来年ぐらいからスタートしますので、需要が再びやってきます。それに向けて、強力なシステム、先ほどのEW-DXシリーズが登場しますので、楽しみにしていてください。

 また、日本はアジアの中でも、特にA4Vのマーケットが強くて、それらのお客様に向けて動画のコンテンツを作って注目を集めています。特に日本にマッチしているというか、APACの中で最もうまくいっています。といったように、4つの地域でもそれぞれのニーズがあって、それぞれの機会があります。

PS 中国の動向はいかがですか。

V. Tan 中国は世界で最大の人口を抱えている国ですし、映画やツアーも盛んです。それに加えてeコマースでも様々な機会があります。TikTokやWeChatなどのSNSの中で、多くのキーオピニオンのリーダーがいて、そのオピニオンリーダーがTikTokをしながら商品を販売したりしています。これをライブコマースと言いますが、そういった分野にも注目しています。

PS Sennheiserグループとしては、これから補強していきたい分野はありますか。

V. Tan 私どもは、とにかく現状に甘んじないということで、常にどんな時でも改善の余地があると思っていますので、それはプロオーディオ同様にA4Vでもそうです。やはりお客様に最善のベストなプロダクトを提供したいと思っていますので、A4Vではワイヤレスの初心者向けや、ライブプロダクトなど、そういった新しいテクノロジープロダクトを提供していきます。プロオーディオではドイツのエンジニアリングの職人気質のエンジニアの会社として、最高品質の製品を今後も引き続き提供していきます。

Sennheiser MD 435/MD 445ダイナミック・マイクロフォン

 

PS ドイツ本社とは、どのくらい連絡をとられていますか。

L. Lim 毎日ミーティングしています。主にMicrosoft Teamsを使って、ドイツともアメリカとも、他各国とも頻繁にビデオ会議を行っています。

V. Tan 今回、アジアの各国を訪問して、どういった反応だったかというフィードバックをドイツの本社に伝えています。アジアというのは多様な地域と国で多様なニーズがありますので、例えば、ワイヤレスのニーズや、マイクロフォンのニーズもそれぞれ異なります。ホームスタジオのスピーカーシステムのサイズにおいても、日本ではアメリカとかヨーロッパとかとは違います。そういった日本の事情のユニークさや、いろいろな各国の事情など、特殊性も伝えたりしています。

PS 最後に、今後の豊富を伺えますか。

L. Lim Neumannは、U 87とかU 67とかそういったコアプロダクト以外の領域のライブサウンドの領域でも、新しいMiniature Clip Mic System MCMマイクロフォンやKK 14カプセルも発表しました。

今、話題のNeumann Miniature Clip Mic System MCMシリーズ・マイクロフォン
(KK14マイクロフォン・カプセル)

 今後Neumannが強化していこうとしていることは、イマーシブオーディオのトレンドがアジアの太平洋地域で急速に成長している状況で、Amazon、Appleの他、TIDALなど、イマーシブオーディオのフォーマットを出しており、このようなトレンドがどんどん普及してくると、音楽業界の景観が変わってくると思っていますので、私どもとしてもこの成長分野を強化していきたいと思っています。

Neumann M 49チューブ・マイクロフォンの復刻版M49Vも注目される

V. Tan この2年、コロナ禍で音楽空間のクルーだけではなくて、アーティストもそうですし、サウンドエンジニアもメーカーもブランドもみんな苦しい思いをしてきました。コロナ禍で活動が止まってしまったところに、私どもはグローバルで社会奉仕活動もしてきました。また、いつでも仕事が戻ってきて活躍できるようにということで、ウェビナーなどでバーチャル・トレーニングもやってきました。

 ようやくトンネルの先に光が見えてきて、業界の人に、やっとコロナが明けて戻ってきたよって、一緒にロックンロールしようよ!って、呼びかけたいと思います。

PS お忙しいところ、ありがとうございました。

画像: ヴィンス・タン氏(右)とランス・リム氏(ゼンハイザージャパン本社にて)

ヴィンス・タン氏(右)とランス・リム氏(ゼンハイザージャパン本社にて)

 

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