従来、ライブやイベントなどの現場では、音響は音響専門の会社、映像は映像専門の会社が仕事を請け負うのが常だったが、最近では音響専門の会社(あるいは音響担当の個人の技術者)が映像を手がけるケースも珍しくなくなっている。きっと読者の中にも、「映像機器のオペレートも一緒にお願いできないだろうか」と頼まれたことがある人もいるのではないだろうか。映像と言うと構えてしまう人が多いかもしれないが、音響のオペレートができる人であれば映像のオペレートはさほど難しくないと言われ(その逆は難しい)、音響と映像の両方を扱うことができる“AVミキサー”と呼ばれる便利な機材も普及し始めている。これからの時代、音響技術者といえども最低限の映像に関する知識を持っていた方が、間違いなくプラスになると言っていいだろう。本連載『音響技術者のための映像入門』では、映像オペレートに必要な基礎知識を分かりやすく解説する。第10回目となる今回は、ローランドの映像機器の開発を手がける技術者のインタビューを紹介することにしよう。世界を代表する電子楽器メーカーのローランドだが、現在は映像機器の世界でも確固たる地位を築いているのはご存じのとおりだ。中でも同社のビデオ・スイッチャー/AVミキサーは、世界中の様々な現場で圧倒的な支持を集めている。はたしてローランドの映像機器は、どのようなこだわりを持って開発されているのか、ローランド株式会社 RPG第一開発部の服部宏平氏に話を訊いてみた。

映像機器でも音質には妥協しないローランドのビデオ・スイッチャー

 コンサートやイベント、放送、設備、そしてライブ配信に至るまで、様々な現場で活躍しているローランドの映像機器。電子楽器/音響機器メーカーである同社が映像機器市場に参入したのは1990年代半ばのことで、最初はPCベースの映像編集システムからスタートしたという。

「創業者の梯郁太郎氏が、“これからは音楽を表現する上で映像も重要になってくる。アーティストが音と映像の両方で表現できるようにしないといけない”と号令をかけまして、映像機器を開発することになったんです。最初の製品は『ビデオくん』という映像編集システムで(1994年)、専用機としてはV-5というビデオ・ミキサー/タイトル・プロセッサーが1号機になります(1998年)。V-5は2chのシンプルなビデオ・スイッチャーですが、映像入力の時間差を調整するフレーム・シンクロナイザーが1つしか入っておらず、リニアに入ってきた映像にフレーム・メモリーを同期させることで、2つのチャンネルを切り替えるというユニークな設計になっていました。

 これまでたくさんの映像機器を世に送り出してきましたが、その中でブレイクスルーとなった製品を1つ挙げるなら、4chビデオ・ミキサーのV-4でしょうか(2002年)。当時はビデオ・スイッチャーというと、完全業務用の高額なものばかりで、主にスタジオのリニア編集で使われる機器だったんです。しかし我々のV-4は、映像編集だけではなく映像演出もターゲットにしたビデオ・スイッチャーで、しかも低価格というこれまでに無かったタイプの製品でした。楽器メーカーの機器らしく、MIDI端子を装備していて、キーボードを使ってコントロールできるというのも特徴でしたね」(服部氏)

画像: ローランド株式会社 RPG 第一開発部の服部宏平氏

ローランド株式会社 RPG 第一開発部の服部宏平氏

 ローランドの映像機器は現在、ビデオ・スイッチャーのVシリーズを筆頭に、ラック型マトリクス・スイッチャー XSシリーズ、ビデオ・コンバーター VCシリーズ、インスタント・リプレイヤー Pシリーズなど、多様な製品がラインナップされている。その中で昨今、特に人気を集めているのが、映像と音を1台で扱うことができるVRシリーズだ。PCへのUSBストリーム機能を備えているので、流行のライブ配信にも対応する。“AVミキサー”という映像機器の新しいカテゴリーを作ってしまった製品と言っても過言ではないだろう。

「VRシリーズ以前、映像と音を1台で扱える機器が無かったわけではなく、リニア編集が主流だった時代に大手メーカーがいくつか出していました。しかしあるときから小型のビデオ・スイッチャーを作らなくなり、完全に放送スタジオ向けの業務機がメインになっていったんです。それならばと弊社がその領域に参入したわけですが、単に空白地帯だったから参入したのではなく、音質にこだわって開発できる機器だと思ったのが大きな理由なんです。技術者だったら分かると思いますが、音の回路を開発するには技術的なノウハウがかなり必要で、しかも音質にこだわろうと思ったら一朝一夕でできるものではない。弊社は長年音響機器に取り組んできた会社ですから、音の回路に関しては膨大なノウハウを持っています。これは大きな強みになると思い開発したのが、AVミキサーのVRシリーズなんです」(服部氏)

 

画像: AVミキサーのフラッグシップ・モデル、VR-50HD MK II。音と映像を1台で扱うことができるオール・イン・ワンの映像機器で、ワンマン・オペレートをサポートする『オート・ミキシング』や『ビデオ・フォロー・オーディオ』といった便利機能も搭載。もちろん、USBストリーミング機能も備えているので、これだけでライブ配信にも対応する

AVミキサーのフラッグシップ・モデル、VR-50HD MK II。音と映像を1台で扱うことができるオール・イン・ワンの映像機器で、ワンマン・オペレートをサポートする『オート・ミキシング』や『ビデオ・フォロー・オーディオ』といった便利機能も搭載。もちろん、USBストリーミング機能も備えているので、これだけでライブ配信にも対応する

 

 ローランドのビデオ・スイッチャー/AVミキサーのユーザーが、映像/音のクオリティや機能と同じくらい高く評価しているのが、誰でもすぐに扱える使い勝手の良さだ。また、機器同士のフォーマットや解像度/画角などを考えずにセットアップしても、“とりあえず映る”対応力の高さも人気の秘密だろう。

「操作性は凄くこだわっている部分です。こういう機器は、やみくもに操作子を減らせば使い勝手が良くなるというものではなく、逆にボタンがたくさんあるからといって、必ずしも操作性が悪いというものではありません。プロが使っても不足なく、アマチュアにも分かりやすい、絶妙なバランスというところにはもの凄くこだわっていますね。ライブの現場でも使用されるものですから、マニュアルを参照しなくても操作できるということは常に考えています。

 それとビデオ・スイッチャーやAVミキサーは、たくさんの機器を接続して使うものですので、対応力の高さというのも重視しているポイントです。特に映像機器は相性問題があり、映るはずの映像が映らないということがよくあるのですが、我々の製品は何でも繋がる設計になっている。回路設計がそうなっているだけでなく、様々な機器を接続した検証にもかなり時間をかけています。その最たる製品と言えるのが、VC-1-SCというスキャン・コンバーターで、SDIだろうがHDMIだろうがコンポーネントだろうが、この機器を介せばどんなフォーマットの映像でもとりあえず表示されます。スケーラーを内蔵しているので、解像度やフレーム・レートのことを考える必要がない。この機器を持って行けば、どんな信号がきても対応できるということで、多くのお客様にご愛用いただいています」(服部氏)

 

画像: 映像を扱う現場で定番ツールとなっているVC-1-SC。コンパクトなアップ/ダウン/クロス/スキャン・コンバーターで、SDI/HDMI/RGB/コンポーネント/コンポジットといった信号を任意のビデオ・フォーマットに変換してSDI/HDMIで出力できる。多機能なスケーラーも搭載、フレームレートやアスペクト変換も可能

映像を扱う現場で定番ツールとなっているVC-1-SC。コンパクトなアップ/ダウン/クロス/スキャン・コンバーターで、SDI/HDMI/RGB/コンポーネント/コンポジットといった信号を任意のビデオ・フォーマットに変換してSDI/HDMIで出力できる。多機能なスケーラーも搭載、フレームレートやアスペクト変換も可能

 

 そして忘れてはならないのが、電子楽器/音響機器メーカーとしての音質へのこだわりだ。映像機器と言っても、音響機器と同じように設計され、一切妥協のないオーディオ回路になっているという。

「ローランドは昔から音質へのこだわりが強い会社で、開発チームのメンバーも全員、音には本当にシビア。高いハードルをクリアした製品だけが日の目を見ます。中でも特にこだわっているのがS/Nで、ビデオ回路というのはもの凄いノイズを発生しますから、何も考えずにオーディオ回路を入れてしまうと、S/Nがめちゃくちゃ悪くなってしまうんですよ。しかし我々は楽器メーカーであり、映像機器の開発も25年以上やっていますので、ビデオ回路が発生するノイズを避けながら、クリアで解像度の高い音を実現するためのノウハウを持っている。これに関しては映像機器専門のメーカーには簡単に真似できないと思いますし、実際、業務用の音響機器と比べても遜色のない音質を実現できていると自負しています」(服部氏)

 ローランドの映像機器は現在、そのほとんどが“MADE IN JAPAN”、浜松の自社工場で生産されている。服部氏によれば、開発チームの目が届く場所で製品が生産されることで、高いクオリティが担保できているとのことだ。

「もちろん、海外で生産した方がコスト的には有利だったりするのですが、少ロットの業務用機器を品質を第一に生産することを考えると、日本で生産した方が効率が良かったりするんです。ODMで海外の工場に委託すると、どうしても品質的に厳しい部分が出てくるので、開発者としてはとても苦労する。自分たちの工場で生産することによって、お客様に高い品質の製品を届けられていると思っています。ちなみにメイド・イン・ジャパンというのは海外でも高く評価されていて、それがブランドになっていたりするんです。ですので、製品の箱には“MADE IN JAPAN”と大きく印刷していますね(笑)」(服部氏)

 

注目の新製品 V-02HD MK II

 そしてローランドの最新のビデオ・スイッチャーが、V-02HD MK IIだ。V-02HD MK IIは、2018年11月に発売され、世界中で大ヒットを記録したV-02HDのアップデート・モデル。手のひらサイズのコンパクト筐体に、2chのビデオ・スイッチャー機能、スケーラー機能、映像エフェクト機能、オーディオ機能を凝縮した、超小型のビデオ・スイッチャーだ。十分な機能を備えながら低価格で、映像演出やライブ配信を始めてみたいと考えている音響の会社/音響オペレーターの“手始めの1台”として、最適な製品と言えるだろう。

「2015年にV-1HDという4chのビデオ・スイッチャーを発売したのですが、こういう機器に触れたことがないビデオグラファーやカメラマン、映像演出に興味を持っているエントリー・ユーザーに向けて開発したのがV-02HDなんです。入力は最低限の2chで、場所を選ばずに使っていただけるように、できるだけコンパクトにして。サイズもチャンネル数もV-1HDの半分なので、頭に“0”を付けた型番にし、ミニマムなビデオ・スイッチャーであることをアピールしたんです。おかげさまでV-02HDは大ヒット製品となり、高機能なスケーラーやコンバーターも搭載しているため、プロのサブ機としても人気を集めました。今回発表したV-02HD MK IIは、V-02HDのコンセプトやデザインはそのままに、ユーザーの皆様から寄せられた要望を反映した後継モデルになります」(服部氏)

 

画像1: 音響技術者のための映像入門<第10回:ローランド 映像機器 開発プロデューサーに訊く>【PROSOUND SEMINAR】

新製品のV-02HD MK II。世界最小サイズのビデオ・スイッチャーとして人気を集めたV-02HDの後継モデルで、基本コンセプトやデザインはそのままに、大幅な機能強化が図られている。目玉はUSBストリーミング機能の搭載で、エンコーダーなどを使用せずに、これ1台でライブ配信を行うことが可能になった。しかもUSBストリーミング機能は、ハイエンド・モデルと同じく1080/60pのフル・フレーム対応(編註:USB 3対応のパソコン接続時)。また、オーディオ入力はステレオ2系統に拡張され、マイクを直接繋ぐことも可能に。それに合わせて、リバーブやディエッサー、ボイス・チェンジャーといったエフェクトも追加されている。ビデオ・スイッチャーに求められる機能は網羅しながら低価格で、映像演出やライブ配信を始めてみたいと考えている音響の会社/音響オペレーターの“手始めの1台”として、最適な製品と言えるだろう(問い合わせ:ローランド株式会社 お客様相談センター Tel:050-3000-9230)

 

 

 V-02HD MK IIの目玉のフィーチャーと言えるのが、接続したパソコンにダイレクトに映像/音声を送出できるUSBストリーミング機能だ。オリジナルV-02HDは、純粋なHDMI入出力のビデオ・スイッチャーだったが、新しいV-02HD MK IIではUSB経由でパソコンにも出力できるようになった。つまりエンコーダーを用意することなく、ライブ配信が行えるようになったということで、これは大きなアップデートと言っていいだろう。

「コロナ禍で一気に普及したライブ配信ですが、コロナ以前から、“USB端子に出力できるようにしてほしい”という要望が多数寄せられていたんです。“コンパクトでたくさんの機能が備わっているのはいいけれど、これだけで配信できないのが惜しい”と。V-02HD MK IIではUSBストリーミング機能を搭載したことによって、シンプルなセットアップでライブ配信が行えるようになりました。USB端子はType-Cで、上位モデル同様、非圧縮で1080/60pでストリーミングできるようになっています(編註:1080/60pでストリーミングを行うには、USB 3.0での接続が必要)。エントリー・モデルでありながらフル・フレームというのは、今回こだわった部分の一つですね。また、他社の安価なエンコーダーの中にはMotion JPEG形式を採用しているものもありますが、V-02HD MK IIは非圧縮で高画質なストリーミングができるのもポイントです。しかし、インターネット環境によっては圧縮した方が配信が安定する場合もありますので、圧縮でのストリーミングを選択することもできます」(服部氏)

 

画像2: 音響技術者のための映像入門<第10回:ローランド 映像機器 開発プロデューサーに訊く>【PROSOUND SEMINAR】

V-02HD MK IIの背面。HDMIは入力2系統(インプット1&2)、出力2系統(プログラム出力およびプレビュー出力)備え、すべてスケーラーを内蔵。ストリーミングに対応したUSBは、Type-C端子が採用されている。コントロール端子にフット・スイッチなどを接続すれば、足元で各種操作を行うことも可能だ

 

画像3: 音響技術者のための映像入門<第10回:ローランド 映像機器 開発プロデューサーに訊く>【PROSOUND SEMINAR】

V-02HD MK IIの右側側面。ステレオ2系統のオーディオ入力(3.5mm TRS端子)は、マイク・レベルに対応。もちろん、パネル上のツマミを使って入力ゲインを設定することもできる。その右側には、独立したボリューム・ノブを備えたヘッドフォン端子を装備

 

 

 もう一つの大きなアップデートが、オーディオ入力がマイク・レベルに対応し、ステレオ2系統に拡張された点だ(V-02HDは、ライン・レベルのステレオ・オーディオ入力端子が1系統)。これによりマイクを直接繋げるようになっただけでなく、BGM用のプレーヤーなども同時に接続できるようになった。

「2系統のマイク・レベルに対応したオーディオ入力、2系統のHDMI入力、USB端子からのオーディオ入力、合わせてステレオ5系統/10chのオーディオ入力が可能になりました。V-02HDでは、マイクやBGM用のプレーヤーを同時に接続するには別途ミキサーが必要でしたが、V-02HD MK IIでは本体だけで両方を接続することができます。マイク入力に対応したのに合わせて内蔵エフェクトも強化し、ディエッサー、ボイス・チェンジャー、そして要望が多かったリバーブを追加しました。ディエッサーを使えば声を聴き取りやすくできますし、ボイス・チェンジャーを活用すれば、VTuberの方がやられているようなボイス・エフェクトを簡単に作ることができます。ちなみにボイス・チェンジャーのアルゴリズムは、弊社のボイス・トランスフォーマー VT-4から移植したもので、かなり高品質ですね。また、内蔵ミキサーにはAUXバスが備わったので、メイン・バスとは別の音作りをして、任意の出力に送るということも可能になりました。例えば、配信用と録音用で音作りを変えたりとか。このクラスのビデオ・スイッチャー内蔵のオーディオ・ミキサーで、AUXバスを備えているものはほとんど無いのではないでしょうか」(服部氏)

画像: 横幅160mm×奥行き108mm×高さ51mmと超コンパクトなV-02HD MK II。底面には1/4インチのネジ穴が備わっているので、三脚に取り付けることもできる

横幅160mm×奥行き108mm×高さ51mmと超コンパクトなV-02HD MK II。底面には1/4インチのネジ穴が備わっているので、三脚に取り付けることもできる

 コンパクトな筐体はそのままに、大幅な機能強化が図られたV-02HD MK II。服部氏は、「ビデオ・スイッチャーのエントリー・モデルとして、これ以上ないくらいの製品に仕上がった」と胸を張る。

「ビデオ・スイッチャーとしての基本機能はハイエンド・モデルと比べても遜色ありませんし、ライブ配信に求められる機能はすべて入っていると思います。スケーラーも備わっていますし、PinPなどの映像演出にももちろん対応していますしね。初心者の方でも直感的に操作できるデザインになっていると思いますので、ライブ配信に興味を持たれている方は、まずこの製品をチェックしていただければと思います。願わくば、ライブ配信用ビデオ・スイッチャーの代名詞的な機器になってくれると嬉しいですね」(服部氏)

監修:ローランド株式会社

問い合わせ
ローランド株式会社
Tel:050-3000-9230(お客様相談センター)
https://proav.roland.com/jp/

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