「3000 Digital」シリーズは、「オーディオテクニカ」が満を持して発表したデジタル方式のワイヤレス・システムである。対応している周波数帯域は、免許がなくても使用できる800MHz帯(通称、B帯)である。同時使用できるch数は、通常モードで最大10ch、HDモードでは最大15chとなっている。また、音のプロフェッショナルも納得の高品位な音質を備えている注目のワイヤレス・システムだ。ここでは、製品概要に加えて、開発に携わった3名のインタビュー、そして、本機を導入した機材レンタル会社「株式会社光和」の木原繁樹氏に、使用したインプレッションを聞いた。


ハンドヘルド型トランスミッター「ATW-DT3102/SHH1」。音量を-10~20dBまで2dBステップで変更可能。また、内部には多機能なマルチファンクションボタンを備える

ボディパック型トランスミッター「ATW-DT3101HH1」。最大10mWの出力で、送信の安定性を高める。また、話者に取り付ける事が使用例として最も多いので、入力コネクターは防水・防汗対策を施している

画像: 写真は「ATW-DR3120/HH1」レシーバー。表示部は視認性の高いOLEDを採用。Dante搭載モデル「ATW-DR3120/DANHH1」もリリース

写真は「ATW-DR3120/HH1」レシーバー。表示部は視認性の高いOLEDを採用。Dante搭載モデル「ATW-DR3120/DANHH1」もリリース

Chapter.1 製品概要

 「3000 Digital」シリーズの製品開発の過程で、もっとも大切にしたポイントは「音質」。もちろん、これから多彩な機能についてもご紹介していくが、音響機器において何よりも大切なのは音質であることは間違いない。そこで「オーディオテクニカ」は敢えてアナログ方式のワイヤレス・マイク「6000」シリーズ、「5000」シリーズで培ってきたノウハウも投入したという。両機は北米を中心に世界各国でも高い評価を得ているモデルである。そこに、デジタル方式ならではの特長を活かして、まとめたのが本機である。

 実のところ、高音質にするだけならば、デジタル方式のワイヤレス・マイクの方が圧倒的に有利であろう。DAWなどデジタル機器のスペックを見れば、すぐにおわかりになると思うが、周波数特性もダイナミックレンジも非常に広い。しかし、これは送/受信機ともに、音声を送る電波の帯域幅が充分にあり、AD/DA変換、音声圧縮、符号処理などに時間を掛けて、正確かつ大量のデータ送信が許される場合に通用する話だ。スピーカーの出音に何十ミリ秒もの遅れが生じるようでは正直使い物にならない。だからこそ技術者は、できうる限り短い時間で送信機から正確な音声情報を送ること、一方の受信機では安定したRF、高能率の符号処理を行いAD/DAも聴いた人が違和感を持たないような新しいワイヤレス・マイクの開発に、日々の努力を惜しまない。このように高音質を実現しつつ、レイテンシーを短くするといったスペックの進化について紙幅が許される限りお伝えしていきたい。

 最初に、なるべく多くの音声情報を短時間で送るために音声圧縮、伸張を行うコーデックが重要となる。この「3000 Digital」では、オリジナルのコーデックを開発。24bit/48kHzにおいて120dBのダイナミックレンジを実現している。AD変換、音声圧縮、符号処理、伝送、誤り訂正、DA変換などを経たアナログ出力までのレイテンシーが2.5msec以下。「3000 Digital」は、会議室や式場、ホテルなどの固定設備でのマーケットを狙った製品というが、楽器演奏の余興に使っても違和感はないだろう。

 次に、電波受信の安定性も高音質に欠かせない要素のため、受信機にトゥルーダイバーシティを採用、1chあたり2つのレシーバーを持たせた。相互のデータを比較してデコードすることで精度の高い誤り訂正能力を獲得している。さらに送信機と受信アンテナとの距離が縮まった場合に、最適なRFレベルになるよう自動ゲイン調整機能を搭載。運用可能なD/U値(レシーバーに届いた音声希望波とノイズとの比率)も、同社のアナログ方式ワイヤレス・システムでは約40dB必要だったが、本機は約20dBでの運用を達成している。このように受信性能を高め、非常に安定した運用を実現しているのが「3000 Digital」なのだ。

 近年はワイヤレス・マイクを使用する本数が飛躍的に増しており、免許取得の必要がないB帯のマイクロフォンでも、多数使用したいとリクエストされる場面も増えていると聞く。それに応えるべく「3000 Digital」ではch帯域幅を狭め、送信出力を抑える事で、使用chを増やすHDモードを搭載している。電波状況にもよるが、通常モードで最大10ch、HDモードでは最大15chまでの使用が可能となっている。

 また、秘匿性が重要となる現場も増えてきている。その対応として、送信機と受信機間で共通の4桁のコードを設定した機器間でしか使用できないようにするPINコード、さらにアメリカの標準技術局が制定した暗号化基準「AES(Advanced Encryption Standard)256」の設定を選択できる高いセキュリティ機能を持たせた。

 他にも多くの機能を有している「3000 Digital」。実はこれだけの高機能を搭載したデジタル・ワイヤレス・システムは、他社の同価格帯モデルにはない。このハイコストパフォーマンスが、魅力のひとつになっていることを今一度、強調しておきたい。

画像: コンデンサー型、ダイナミック型と7種類用意されたマイクカプセル。価格や音質によって選ぶ事ができる。業界標準のアタッチメント方式を採用

コンデンサー型、ダイナミック型と7種類用意されたマイクカプセル。価格や音質によって選ぶ事ができる。業界標準のアタッチメント方式を採用

ハンズフリーのコンデンサーマイクロフォン「ATM73cH」。ハンズフリー型が3モデル、ラベリアマイクが2モデルと、全5機種をラインナップ

画像: 写真は充電状況をPCでも確認できるバッテリーチャージャー「ATW-CHG3/N」(ネットワーク無しのモデルあり)。最大5台まで連結可能。トランスミッターは、途中で電池容量が足りなくなりそうな場合、単3乾電池も使用できる

写真は充電状況をPCでも確認できるバッテリーチャージャー「ATW-CHG3/N」(ネットワーク無しのモデルあり)。最大5台まで連結可能。トランスミッターは、途中で電池容量が足りなくなりそうな場合、単3乾電池も使用できる

画像: 今回リリースされた「オーディオテクニカ」のカプセルは、アタッチメント形状が同じ他社のトランスミッターにも使うことができる

今回リリースされた「オーディオテクニカ」のカプセルは、アタッチメント形状が同じ他社のトランスミッターにも使うことができる

 

Chapter.2 開発者インタビュー

Chapter.2では、開発に携わった3名に「3000 Digital」の設計コンセプトやこだわりをうかがった。

画像: 「3000 Digital」の生みの親を代表した3名。左から商品開発部PM2課大田祐平氏、商品開発部PM2課で主務を務める東嶋慎治氏。そして、商品開発部RF開発課の主事林 徹治氏

「3000 Digital」の生みの親を代表した3名。左から商品開発部PM2課大田祐平氏、商品開発部PM2課で主務を務める東嶋慎治氏。そして、商品開発部RF開発課の主事林 徹治氏

プロサウンド(以下、PS) 最初に、皆様はこの「3000 Digital」シリーズの開発にあたり、どのような役割をしたのでしょうか。

大田 私は製品企画を担当するプロダクト・マネジメント、東嶋が開発時の進行を主に管理するプロジェクト・マネジメントを担当しました。林は「3000 Digital」の伝送方式と信号符号処理に関する開発に携わりました。

PS さっそく「3000 Digital」の設計コンセプトからうかがえますか。

 第一に考えたのは、もちろん「音質」です。デジタル方式は、音声信号を圧縮・伸張を行うので、どうしても音質は落ちます。そこで、どこまで音質にこだわるか検討した結果、オリジナルで音の良いコーデックを開発することになりました。汎用のコーデックIPでは、ワイヤレス・マイクでの使用に向かないんですね。だったら、自分たちで作りましょうとなりました。

東嶋 また、音質劣化を抑えるような回路を設計しても、トランスミッターの中に収めなければなりません。弊社は、アナログ方式のワイヤレス・システムを長年に渡って開発していますからノウハウの蓄積があります。しかし、それを活用しても、デジタル方式では通用しないところもありました。

 加えて、単三乾電池で7時間ほどは使えるようにして欲しいというのも大変でした。

大田 音質の追求、送受信の安定性を考えて作っていくと、どんどん使用可能時間が短くなるんです。それでも、最初2時間しか持たなかったのが、最終的にニッケル水素充電池2本で約7時間の使用が可能となりました。

 電池の話もそうですが、ワイヤレス・システムはトレードオフになっている所が多いんです。音質を高めるとデータ量が増える。そうすると、必要とする帯域が広くなるのでch数が減る。ch数を稼ごうとすれば、今度はRF出力が上げられなくなります。

PS 音質を犠牲にしない、というのは大変ですね。

 そうですね。この「3000 Digital」は、様々な用途でお使いいただけるような製品を目指しました。そこで、お客様が購入しやすいようできる限り価格を抑えました。そして、B帯ですから、おそらく会議室などの設備用に使われる事が多いだろうという予想はありました。そういう使い方がメインとなれば、人の声がしっかりと聴こえる事が、とても大切だろうと考えて、クリアかつ聞き取りやすい音質を実現するのに相当な研究を重ねています。また、せっかく開発するならば、ワイヤレス・マイクでありながらワイヤードに近いような高音質を狙おうと考えました。
 その結果、周波数特性は20Hzから20kHzまでフラットにしています。おかげさまで、テストの際に「これはワイヤードですか?」とおっしゃった方もいました。もちろん、聴き込めば違いがわかりますが、ぱっと聞いた印象でワイヤード・マイクと同等に聴こえる。そこまでの音質を達成できたので安心しました。

PS 間もなく発表となるアプリケーションソフトウェア「ワイヤレス・マネージャー」について教えてください。

東嶋 「3000 Digital」シリーズと「5000」シリーズで使用できるソフトです。オフラインでデバイス設定や周波数プランニング、運用時はバッテリー残量や電波環境などのモニタリング、ログデータの記録といったことができます。

PS 他社のワイヤレスも含めた周波数プランニングはできますか?

大田 はい。他社でよく使用されているモデルについては、すでに計算条件がメモリされています。それ以外のワイヤレス・システムも、計算条件を入れれば、それをベースにして計算する仕組みを入れています。
 「3000 Digital」はB帯なので、周波数プランニングはそれほど大変ではありませんが、「5000」シリーズはホワイトスペース帯をカバーしているので、必須のソフトになると思います。

画像: 「3000 Digital」シリーズと「5000」シリーズに対応した「ワイヤレス・マネージャー」。周波数情報や条件を設定することで使用可能な周波数などを算出。プランニング時に、オペレーターの負担を格段に軽減できるアプリケーションだ

「3000 Digital」シリーズと「5000」シリーズに対応した「ワイヤレス・マネージャー」。周波数情報や条件を設定することで使用可能な周波数などを算出。プランニング時に、オペレーターの負担を格段に軽減できるアプリケーションだ

PS 「Walk Test」という機能は面白いですね。

大田 これは一定時間トランスミッターを持って動いてもらい、レシーバーの受信レベルを記録し時間軸で表示する機能です。この機能によって、カバーエリア内の電波状況を確認することができます。

画像: レシーバーが受信している電波強度をリアルタイム表示するとトランスミッターを持ちながら現場を歩くことで、カバレッジの確認ができる

レシーバーが受信している電波強度をリアルタイム表示するとトランスミッターを持ちながら現場を歩くことで、カバレッジの確認ができる

PS 「3000 Digital」は、ネットワーク化にも力が入っていますね。

大田 レシーバーはDante搭載モデルとDante未搭載モデルの2種類で展開していきます。Danteに対応したことで、コンソールとの連携をはじめメリットはありますが、会議室などの小規模システムに導入するとDanteを使わないお客様も多いと思うのです。それならば、Danteを搭載せず、その分をお客様に還元した方がよいとの判断です。

PS 1台で約5万円違うのですね。

大田 LANケーブルによるローカル・ネットワークを作ることも可能でして、その際「ワイヤレス・マネージャー」を使って、バッテリー容量や電波状況などの情報をモニタリングできるようになっています。また、IPコントロール情報は開示しておりますので、システム・インテグレーターにお願いして、用途に合わせたプログラムを作っていただく事もできます。

東嶋 「3000 Digital」は発売されましたが、プロジェクトはまだ続いています。これからは、使用された方々からのフィードバックをいただくというフェーズになります。
 そのご意見から新しいニーズを見つけたり、ここは改善しなければならないなど、実際に使ったからこそわかったご意見が、次回作の仕様検討に活きます。ようやくデジタル方式のノウハウを蓄積できるようになった、とも言えるかもしれません。
 現在、我々が次の課題として考えているのはレイテンシーです。音楽ライブでアーティストが違和感なく使えるようになるには、もっと短くしたいところです。

 他社の製品を見ると、レイテンシーを短くするために、音質をかなり犠牲にしているものが見られます。電波状況が良ければ問題はないのですが、妨害波の多い場所だと音が途切れてしまいます。言ってしまえば、レイテンシーを短くするために、充分な符号処理を入れられないからなのです。レイテンシー1msec台を目指すとなると、かなり高度な技術、ノウハウが必要となります。
 今回、我々は2.5msecを落とし所として「高音質」、妨害波によって音が切れないような「安定性」を重視して開発しました。

東嶋 レイテンシーと音質の両立、これは我々にとって大きな課題です。他社で実現しているところもありますので、そこを追い抜くような製品開発を今後も行っていきます。

PS 今後もデジタル方式のワイヤレス・システムのラインナップは拡充されていくと思います。期待しております。

東嶋 林さん、がんばってください。

 正直に言いますが「3000 Digital」の開発は、すごいプレッシャーだったんですよ(笑)。

PS ありがとうございました(笑)。

画像: 「オーディオテクニカ」本社にある電波暗室。外来電波を遮断、また室内で発生した電波を外に漏らさないように設計されている。本社ビル建設の際に導入された

「オーディオテクニカ」本社にある電波暗室。外来電波を遮断、また室内で発生した電波を外に漏らさないように設計されている。本社ビル建設の際に導入された

 

導入社インタビュー:株式会社光和 木原繁樹様

信頼性、手厚いアフターフォロー、そして、高音質。それらが低コストで手に入りますので大満足です

 我々は関東を商圏に、イベントや会合など様々な現場に機材レンタルをしている会社です。今回、ワイヤレス・マイクの機材更新時に、様々なマイクを試しました。デジタル方式を採用した製品も多いなか、「オーディオ テクニカ」の「3000 Digital」を選んだ理由は、性能や信頼性に対するコストパフォーマンスがとても高い事でした。我々は「問題やトラブルが起きた時、すぐに対応する会社から購入する」という点も大切にしておりまして、手厚いアフターフォローが期待できる点も選んだ大きな理由です。

 他にも選定理由がありまして、機材をお渡しするだけの案件では、何に使われるかわかりません。株主総会のような高い秘匿性を必要とする現場もありますし、司会が話すだけでなく、急遽、ピアノや歌などの音楽演奏に使われることもあります。そのため、レイテンシーや音質面、そして高い秘匿性といった点にも気を配りました。また、ハンドヘルド型はマイクカプセルを選べるようになっていますが、オフマイクでも音を拾ってくれるという安心感と音質に優れた「ATW-C5400」を選んでいます。今後はハウリングが起きにくいハイパーカーディオイドの「ATW-C6100」の購入を検討する必要も感じています。

 そして、意外と嬉しい性能として、充電できるニッケル水素電池が使えることでした。弊社ではこれまで2ヶ月に一度、大量に乾電池を購入していたんです。それが少なくなるとランニングコストの面でも優れたワイヤレス・マイク・システムだと感じています。

画像: 株式会社光和 レンタル本部 テクニカルセンター次長 木原繁樹氏

株式会社光和 レンタル本部 テクニカルセンター次長 木原繁樹氏

 

3000 Digital シリーズに関するお問い合わせ
株式会社オーディオテクニカ プロオーディオ事業部プロフェッショナルSS課
Tel:03-6801-2010

 

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