オートサウンドウェブグランプリ2023の選考委員は、評論家[石田 功、鈴木 裕、藤原 陽祐、黛 健司、脇森 宏、長谷川 圭]6名によって構成している。
本記事では、グランプリ製品の選考に関する解説と今年の動向についてまとめた。
文=長谷川 圭
13モデルを選出したASWGP2024
オートサウンドウェブグランプリ2024(ASWGP24)は、2023年12月(発表および発売時期の都合で前年選考対象から外れた製品)から2024年12月に発売されるカーオーディオ製品を対象に、音質面で高く評価されるものを選出するものである。選考は先述の6名によって行われる。
選考手順は、選考メンバー各氏が推薦する製品をノミネート製品とし、対象製品に対する評価を各メンバーが表明、グランプリに相応しいと判断された製品を選出している。2024年の受賞は全13賞とした。
Grand Prix Gold Award カロッツェリア TS-V174S
Grand Prix Silver Award ブラム Signature Multix Barrel 3ウェイスピーカー
Grand Prix Bronze Award カロッツェリア サイバーナビシリーズ912IV
Grand Prix Bronze Award ブラックス RX2 PRO
Grand Prix Bronze Award クワトロリゴ INGOT 3
Grand Prix Bronze Award クワトロリゴ OPUS AMP I
Grand Prix アビス DUAL MONO 120.2
Grand Prix アビス VERDIevo+2CH
Grand Prix アビス SQ200
Grand Prix ゴールドホルン P3DSP A Plus(A6 PRO)
Grand Prix グラウンドゼロ GZUC165.3SQ
Grand Prix ケンウッド 彩速ナビType M
Grand Prix パナソニック CN-F1X10C1D
(上位3賞の他はブランド名のイニシャルアルファベット順に列記)
選考手順は次の通り。
◆選考メンバー推薦による製品ノミネート
◆ノミネート製品に対する採点
◆得点数をもとにグランプリ入賞製品を協議
◆入賞製品の中で特に高く評価できるものに対し、ゴールドアワード以下、シルバー、ブロンズ、スペシャルなどの賞を決定
全ては音を聴いて評価
製品の評価については、基本的にオートサウンドウェブの試聴取材環境で実際に音を聴いておこなっている。ステレオサウンド社の試聴室における試聴条件は以下の通り。
〇スピーカーは、ユニットサイズや構成による一部の製品を除き、独自のプレーンバッフルにマウントして試聴している。
〇電源は車載用バッテリー(パナソニック製caos)に定電圧電源を接続し、つねにチャージしながら各コンポーネントを駆動。
〇接続ケーブルは、電源、ライン、スピーカーとも車載用製品を使用。
〇各製品ジャンルごと、評論家ごとにリファレンスとなる機器を接続。適宜組合せを変えるなど、できうる限り製品のパフォーマンスが引き出せるよう試聴を行っている。
いずれの条件も、車載用という製品仕様ではあるものの、オーディオ機器として理想的な再生条件で評価しようというものだ。当サイトの前身でもある雑誌Auto Soundで確立させた試聴スタイルを踏襲した形でもあり、音質評価において車両と試聴室という条件の違いは問題にならないことは幾度も検証している。さらにいえば、試聴室で評価する方がより良い評価となることも確認してきている。
ステレオサウンド社には2つの試聴室があるが、本年も季刊HiVi誌が主に使用する部屋で試聴取材を行っている。
絶対的な高評価を得られる製品だから受賞が叶う
それがオートサウンドウェブグランプリ
グランプリ受賞の製品は例年、メーカーを代表するトップグレードのモデルが名を連ねることが多い。それは、なにも高額製品だから受賞するのではなく、どれほど高額なプライスダグがついていようがその価値があるもの、その製品でなければ体験できないサウンド体験が可能な製品だからこそ評価され、グランプリ製品として認められる。
手頃な価格で、なおかつ多くの人に認められるであろうベストバイ的な製品も、年間を通じて少なからず市場に展開されるが、グランプリ受賞製品はそれらとは幾分意味合いが異なる。我々が選出するのは“お買い得モデル”ではなく、“その年を代表する絶対的高品質なカーオーディオ製品”なのだ。
『車載用のオーディオ製品でこんな価格の商品どれだけの人が購入する?』との声もあるかもしれないが、グランプリで選ばれた製品は、後年においてもいい音を奏でる逸品であり続けることだろう。
2024年の動向
カーオーディオのメインソースがCDなどのディスクメディアから、ストリーミングやメモリー、ことハイエンド界隈においてはハイレゾ再生へと移行している。往年のカーオーディオ愛好家は、自身のディスクライブラリーを活かすべく、リッピングをして新しいカーエンターテインメントを謳歌していることと思う。
カーオーディオマーケットは、各種メディアをユーザーの利用状況に応じてシステム構築が可能であるが、その多様化はいまだ発展途上といえるだろう。いっぽうで車両事情をみると、市販AVナビを拒絶するような構造を採用するクルマは少なくなく、またスマートフォンとの機能連携が純正装備で対応可能となり、いわゆるディスプレイオーディオ中心になってきている。ナビゲーション機能はアプリに任せ、車両側のインフォテイメントには地図データを持たないというものが増えてきている、クラウドの地図データを利用するため、常に最新の道路情報が利用できることと、アプリがカーナビとして使いやすくなるなど、急速な進化を遂げている。このため多くのドライバーのセレクトはこれまでのAVナビではなく、安価な純正装備でよしとする風潮があるのも否めない。
また、自動車メーカーの上級グレードなラグジュアリーカーにおいて、オーディオブランドの名を冠したエンターテインメントシステムはその数を増やしている。中には市販カーオーディオでは製品展開していないものの、ラグジュアリーカーの純正(あるいはオプション)に導入しているホームオーディオハイエンドブランドなども参画している。こちらの動向は市販カーオーディオ市場の盛況にも関わるだろう。
2024年の受賞製品をジャンルごとに振り返ってみよう。個々の製品評価については、選考メンバーによる個別レビュー記事に詳しいので、そちらでご確認いただきたい。
スピーカージャンルがゴールドとシルバーを獲得
オーディオにおいてスピーカーの役割は大きい。音の出口、電気信号を空気の振動に変換するトランスデューサーであり、再生音を決定づける最重要パートであるからだ。そのスピーカーが豊作であるほど、市場は活況を呈すると個人的には信じている。なんとなれば主要3賞を全てスピーカーが占めてもそれは正常であろうとも思っている。その信念からすれば、今年のグランプリ受賞製品から見ると2024年は実にまっとう、よい年だったと思う。
カロッツェリアのTS-V174Sは、車両純正スピーカーとの交換をシンプル作業で行えるように開発されたカスタムフィットモデル、つまりコストを嵩ませずにクルマへ導入したいユーザーに向けられているはずながら、立派な価格が設定された高級機である。とはいえ、車両インストールに大規模工事を前提とするような汎用スピーカーを抑えてのゴールドアワード獲得は、それだけに大いなるインパクトを秘めた製品であったとご理解いただきたい。
ブラムは3ウェイのスピーカーながら、シリーズラインナップのトゥイーターが多様であり、そのいずれも魅力的であったことが確認できたため、イレギュラーではあるがシリーズ製品の評価としている。3種類のトゥイーターのどのユニットが如何に評価されているかは、レビューおよび座談会記事をお読みいただきたい。なお、パッシブネットワークはセット販売されていないが、今回はラインナップされているパッシブクロスオーバーネットワークを組み合わせて、デモ用エンクロージュアにマウントした状態で評価している。
グラウンドゼロはグランプリの常連ブランドである。スピーカー、それも3ウェイでの受賞は初のこと。ウラニウムシリーズは同ブランドのミドルハイライン、パワーアンプやDSPなどもラインナップしている。アルミニウムコーンのウーファーとシルクソフトドームのミッドレンジとトゥイーターという組み合わせで、輸入元のイース・コーポレーションではマルチアンプドライブ前提のパッシブネットワークレススピーカーセットとして販売しているが、今回はシリーズ製品に用意されている3ウェイ用パッシブクロスオーバーネットワークを組み合わせて評価した。
AVナビゲーション & ソースプレーヤー
AVナビゲーションおよびソースプレーヤーは、再生メディアが徐々に変わってきていることを示している。フルモデルチェンジを実施したパナソニックのストラーダはディスクメディアの再生機能を省き、ネット環境を活用した“つながる”エンターテインメントへと舵を切った。同時に内蔵パワー・アンプをクラスDに進化させているなど大きな変更を実施している。
昨年のゴールドアワード機のカロッツェリアサイバーナビ、グランプリ受賞を果たしたケンウッド彩速ナビはオーディオ機能の進化や変更は行わなかったが、大きなモデルチェンジが実施された場合、ディスクメディアが残されるのかどうか……。多くのディスクライブラリーをお持ちのドライバーにとっては、できるだけ生き残って欲しいところかもしれない。
完全にデジタルメディアプレーヤーとしてグランプリ受賞となったのがゴールドホルンである。DSP、パワーアンプまでを1筐体に集約した本機は、あらゆるカーオーディオシステムに採用可能なコンポーネントであり、今後このような製品が台頭してくるのかもしれない。
パワーアンプ受賞製品
パワーアンプは、日本市場への新規参入を果たした韓国のアビス、25周年を迎えてラインナップを大花に一新したクワトロリゴが、多くの製品で評価されたこともあり、受賞製品に占める割合が高くなった。また昔ながらのクラスAと最新のクラスDが上位で受賞しているのも興味深い。
また図らずも高額製品が多く受賞したが、しばらく前からAVナビに内蔵されるパワーアンプの高性能化が著しく、単体アンプとしては、まずAVナビのクォリティを超えてからというハードルができている。しかも年々そのハードルは高さを増し、かなりの実力を備えたモデルでなければその存在は認められにくくなっているかもしれない。そういった背景を踏まえ選出されたパワーアンプは、間違いなくカーオーディオシステムを上質なものにしてくれる実力を備えている。