文=石田 功/写真=長谷川 圭
新蕎麦で腹ごしらえをして東北パイオニアへ
残暑が長引く中、ようやく秋風を感じ始めた頃の早朝5時。まだ夜が開ける前に北秋田の実家を出て、山形・天童へ向かった。東北パイオニアでカロッツェリアの最新スピーカーを試聴できるという連絡が入ったからだ。とくに、Vシリーズは7年ぶりのフルモデルチェンジで、大きく変わったという噂。期待を胸に、天童へとクルマを走らせた。
取材は午後からだったので、その前に腹ごしらえ。天童には「やま竹」という美味しい蕎麦屋がある。そこで美味しい鴨汁せいろをいただく。ちょうど新蕎麦に代わったばかりのタイミングだったので、香りが立って美味しいこと‼︎ 満足して、これだけでも帰ってよかったのだが(笑)もう1軒、パイオニアの担当者との正式な待ち合わせ場所、十割蕎麦のお店、「楓」に向かって板蕎麦をいただき、満腹になって取材に挑む。蕎麦好きにとって、おいしい蕎麦は別腹なので、いくらでも食えるのだ(笑)。
carrozzeria TS-V174S
カロッツェリア、カスタムフィットスピーカーの最上級モデルとなるTS-V174S(税込¥79,200/セット)。170mmウーファーと36mmバランスドドームトゥイーター、それぞれのユニットへの信号を帯域分割するウーファー用ローパスフィルターとトゥイーター用ハイパスフィルターで構成される。
TS-V174Sを構成するパーツ群。大きな変化としてバランスドドームトゥイーターや1ピースのダイキャスト製バスケットフレームが認められるが、すべて新規設計モデルであり細部にわたって充分な検討と入念な検証が重ねられている。
フルモデルチェンジの「TS-V174S」
ローズゴールドのチタンバランスドドームトゥイーター採用
それはさておき、カロッツェリアの新製品である。まずはVシリーズTS-V174Sから。従来のVシリーズといえば、最高峰スピーカーであるRSシリーズのトゥイーターと同様の構造を持った、デュアルアークリングダイヤフラムの採用が、アイコニックな最大の特徴であった。これが、一般的なバランスドーム型に変更されている。一見、拍子抜けする感もあるのだが、これには理由がある。デュアルアークリング型は理想を追求するあまり扱いづらい面もあって、サービスエリアが狭く少し角度が変わるだけで理想の音が得られないということもあった。それを改善して、よりサービスエリアを拡大して取り付け角度を問わず幅広く良音を届けられるように、チタン製のバランスドームダイヤフラムを採用したのだ。
以前のアルミニウム合金からチタンに変更したのは、管楽器などの音がより重厚に聴こえるとの観点から。入念にチューニングを行い、現在の音に仕上げていった。
ところで、チタンといえば、焼きの入れ具合によって色が変わるのはご存知のことと思うが、新しいVシリーズの色は、特徴的なローズゴールドだ。ローズゴールドといえばサイバーナビχシリーズにも採用されたカラーリングで、新しいVシリーズにもウーファーバスケットの外周などに採用されているのだが、トゥイーターの振動板もこの色を採用している。これは、焼き具合をいろいろ変えて試聴した時に、ローズゴールドの音が最もしっくりきたからだという。
ただし、チタンの色は400度で焼いた時にはイエローで420度ではパープルに変わるという。その20度の間の微妙な温度で焼いた時に現れるのがローズゴールド。話を聞いただけでも、そんな微妙な温度で変わるチタンに均等な温度の熱を与えるのは相当な技術が要りそうだが、それを克服してローズゴールドのチタンダイヤフラムを作り上げている。ちなみに、RSシリーズのチタンダイヤフラムはブルー。これは、もっと高い温度で焼き上げたものだという。
TS-V174Sのトゥイーターダイヤフラム。36mmのバランスドドーム型で、素材はチタンだ。ローズゴールドのカラーリングは“焼き入れ”の温度で決まる。
橋梁の構造にヒントを得たバスケットフレームなど
新規開発のウーファーユニット
ウーファーのフレームは、より剛性を高めるために、トラス構造のフルバスケットタイプとなっている。カタログ等では、トラス構造の象徴的な例として東京スカイツリーの写真が掲載されているが、実はトラス構造を思いついたのは、開発担当者の斎藤さんが仙台をドライブしていた時だという。仙台には戦前に作られた石張りの丸森橋と、鉄道と道路を併用したダブルデッキトラス構造の竜の口橋というふたつのトラス橋があるが、これを見た時にはたと閃いた。この構造なら、軽くて剛性に優れたフレームを実現できるんじゃないか、と。
そこで研究を重ねて作り上げたのが新しいVシリーズのトラスバスケットフレーム。高い剛性によって不要な振動を排除しつつ、背面の音抜けの良さを確保するために広い開口部を持たせ、なおかつ埋め込み深さを最大化している。実は、この新しいV シリーズ、従来モデルと比べてみるとわかるのだが、埋め込みの深さが3ミリほど増えているのだ。
TS-VおよびTS-Cシリーズスピーカーの開発チームを率いた東北パイオニア株式会社 スピーカー技術統括部第二商品技術部市販設計課シニアエンジニアの斎藤達郎氏。
TS-VおよびTS-Cシリーズスピーカーの商品企画を担当した東北パイオニア株式会社 事業企画部市販企画課チームリーダーの佐藤広大氏。技術者出身で、開発チームと二人三脚で新型機を作り上げた。
カスタムフィットスピーカーだから、無闇に奥行きを深くすることはできないわけだが、過去15年分、約800車種のデータを集め、それだけではなく実車にモックを当てて調査するなどして、最大限のサイズを導き出したという。結果、取り付けができない車種は古いホンダ車など数車種にとどまり、取り付け可能車種をほとんど減らすことなく、多くの車種への装着を可能にした。実は、この点がもっとも時間をかけ、一番苦労した点でもある。
そのフレームの深型化によって、振動板の深さは20%もアップ。エッジ部分の工夫によって有効振動の直径もφ125.3ミリからφ128.6ミリへと、3ミリ以上も拡大しているため、中低域の再生能力が大きく拡大している。音的には、低域の力強さをさらに高めたと考えていたところで、それを実現したわけだ。
さらに、開織(かいせん)カーボン振動板の採用も特徴だ。開織カーボンクロスは、特に新しい技術というわけではないらしいが、スピーカーの振動板として採用されたのは初めて。幅広く薄く、均一に広げて作る技術で、より軽くて強い振動板が出来あがる。確かに、振動板自体が滑らかで、従来よりもフラットな感じだ。これに改良した抄紙を貼り合わせることで、高剛性化を実現すると共に、入力信号を正確に再生する原音忠実再生を実現した。
磁気回路まで収まるトラスバスケットフレームは、充分な強度と軽さ、空気の動きを制限しない高い開口率を兼ね備えるという。トラス構造のアイデアは、橋梁のデザインにインスパイアされたとのこと。
開繊クロスカーボン採用のコーン振動板。開繊クロスカーボンは、従来に比べて薄く強く成形できるのが特徴だという。また、表面の平滑度合いも従来より高く、滑らかに仕上げられている。
旧モデルと、新型ウーファーの構造や寸法を比較した図。ユニットの埋め込み寸法を3mm増加させているほか、コルゲーションエッジの位置を前面に少し出すことで、振動板形状を深くしなおかつストローク長も稼いでいるという。寸法の見直しは、強化した磁気回路や、強度を増した振動板のパフォーマンスを最大活用することにもつながっている。
開繊クロスカーボンの採用で、薄いカーボン振動板が実現できたことで、新たに開発した抄紙を背面に貼り合わせて理想的な振動板とすることができたという。
低音楽器の音階がはっきりしていてクリア
音楽が弾んだように楽しく聴こえる。文句なしの良音だ
大まかな違いはこのへんにして、音の印象である。聴いた瞬間、洗練された音だなぁということがわかる。最初は試聴室で聴いたのだが、広い試聴室の空気全体を動かし、音楽に没頭できる空間を創りだす。実は、その前に新しいCシリーズ「TS-C1740S」を聴いていて、Cシリーズだとやはり試聴室の空間だと広すぎるために脳内で補正して聴くことが必要だったのだが、TS-V174Sに関しては脳内補正の必要なし。文句なしに良音である。
狙っていた中低域の再生能力の拡大だが、見事に狙い通りになっていて、深く沈んだ低域が聴ける。その上で、ベースなど低音楽器の音階がはっきりしていてクリア。だから、音楽が弾んだように楽しく聴こえる。僕は、好きなロック系を中心にインストルメンタル、ジャズ、ファンクなど、様々な音楽を持っていったのだが、ついつい時間を忘れて次々と音楽を聴きたくなってしまった。
高域についても然りで、管楽器が鳴る音源はあいにく持っていっていなかったのだが、アコースティックギターのハーモニックスや、パーカッションの高域が力強くてリアル。振動板がチタンに代わった効果が大きく感じられる。
東北パイオニアの製品開発で試聴評価に使われているエンクロージュアにマウントされたTS-V174S。試聴はサイバーナビと組み合わせて行なっている。
試聴室で音を確認する筆者。広い空間であるにも関わらず、良音を奏でるTS-V174S、つい時間を忘れて聴き入ってしまった。
試しに、従来のVシリーズもあったので、それも聴いてみたのだが、あれだけいいと思っていた従来Vシリーズが、なんか荒いなぁと感じるほど。もちろん、決して荒い音がするわけではないのだが、新Vシリーズに比べると荒く感じてしまうのである。それほど、新Vシリーズの音の透明度が高く洗練されているということなのだろう。
休憩時間に喫煙所(といっても単に外に灰皿と灰捨て場があるだけ)に行ったら、前Vシリーズの開発を担当した安西さんと会ったので、新Vシリーズの音の印象と従来Vシリーズとの違いを伝えたら、納得した表情で「新しいVは従来Vを超えてくれないと困ります(笑)」とのこと。その上で、「従来Vシリーズ開発時はハイレゾが立ち上がったばかりだったので、ハイレゾ対応を強く意識しました。新Vシリーズの開発にあたってはハイレゾでも中域再生と全体のクォリティが重要だと認識されるようになって、変わってきたんでしょうね」とのことだ。
スピーカーを入れ替えるだけで
これほど音楽が楽しく聴こえる魅力的な音になるとは
デモカーでも聴いてみたが、印象は試聴室で聴いたときと変わらず。クォリティの高い音が車内を満たしている。とかく、インストールに金と労力がかかると敬遠されがちだし、最近はクルマ自体への施工が難しくなっていてますます世間からは遠い存在になってきているカーオーディオだが、スピーカーを入れ替えただけ(カロッツェリア製バッフルは使用)で、これだけのクォリティが得られるのがわかったら、入れ替えてみようかと思う人が続出するのではないだろうか。それほど、音楽が楽しく聴こえる魅力的な音である。
「TS-V174S」を搭載したトヨタRAV4。フロントスピーカーをTS-V174Sに換装し、サイバーナビ「AVIC-CQ912IV-DC」と単体デジタルアンプ「PRS-D800」2台で構成し、スピーカーをバイアンプドライブしている。
車載状態の音を確認する筆者。「この音を聴いたら、スピーカーを交換したいと思う人が続出しそう」と感想を述べていた。
RAV4のダッシュボードに装着されたTS-V174Sのトゥイーターユニット。純正スピーカー装着位置にフィットする車種専用取付けパーツ「UD-K302(税込¥8,800/ペア)」を利用して固定されている。グリル越しに見えるダイヤフラムのローズゴールドは、存在感たっぷりである。
車載状態で真価を発揮のCシリーズ
中低音の再生能力拡大を中心に最適化
新しいCシリーズもお伝えしておこう。試聴室で聴いた時は、少し物足りなさを感じたCシリーズだが、デモカーでは印象が一変。やはり音を聴く空間の全体の空気量というのは重要で、車内空間では十分に良い音が楽しめる。こちらも、中低音の再生能力拡大を中心に最適化を図ったそうで、マグネットは見た目にもわかるほど大型化。そして、取り付け性を損なうことなく、振動板の面積の最大化と深型化を図っている。重量も前作に比べて圧倒的に重く、低音が出そうだなぁという印象である。
デモカーで聴くと、それがよくわかる。フロントスピーカーのみを交換して、サブウーファーなど無い状態なのだが「サブウーファーはどこにあるの?」と尋ねたくなるくらいの低音の量感。力強く、伸びのある低音が車内に響く。低音がよく鳴るスピーカーは他社にもあることはあるが、ブーミーに鳴るか音程を伴ってしっかり鳴るかが違うところで、カロッツェリアのスピーカーは音程がしっかりしていて、クリアな低音が聴こえる。特に新しいVシリーズやCシリーズは、そのあたりが進化したところと感じた。
TS-Cシリーズスピーカーが聴けるスズキ スイフト。サイバーナビχシリーズとTS-C1740S & TS-C1740のシステムが搭載されている。
フロントドアにはセパレート2ウェイタイプのTS-C1740Sを装着。ウーファーはインナーバッフル
UD-K626(税込¥13,200)使用してマウントされている。
ドアミラー裏に、車種専用取付けパーツUD-K309(税込¥8,800)を使って、TS-C1740Sのトゥイータユニットを固定。
スイフトのリアドアには、同軸タイプの2ウェイスピーカーTS-C1740がマウントされる。
「製品としての深化」を遂げたVシリーズで
大満足の取材だった
今回の新製品は、以前のシリーズ名を継承しているものの、まったくのゼロベースで設計したものだという。とくにVシリーズは「製品としての深化」をコンセプトとして、良いところは残し変えたい部分は調整するという点にこだわった。それがトラス構造のフルバスケットだったりチタン製のバランスドームダイヤフラムだったりするのだが、その辺は開発担当者の斎藤さんと元エンジニアの企画担当者、佐藤さんのSSコンビだったからこそ、スムースに実現したのだと思う。朝5時に家を出た甲斐があった、お腹も耳も大満足の取材だった。
提供:パイオニア