クルマ購入時に搭載されている標準装備やメーカーオプション、ディーラーオプションのカーオーディオ、いわゆる「車両純正オーディオ」を実車で体験。本稿では純正カーオーディオのシステム概要やサウンドについてレビューする。今回、紹介するのはトヨタのSUV「ハリアー(HARRIER)」。同車ではJBLプレミアムサウンドシステムが採用され、グレードにより標準装備あるいは、メーカーオプションで搭載が可能となる。街乗りから高速道路走行まで、実際に走行して取材を実施した。試していただきたいサウンド設定も紹介しているので、参考にしていただければと思う。
文/写真=長谷川 圭
クーペフォルムが人気の上級SUV、トヨタハリアー。現在4代目となるモデルで、2020年のデビュー直後から街で数多く目にする1台となった。グレードは2WDのガソリンエンジン車、およびハイブリッド、4WDのガソリンエンジン車とハイブリッドのE-FourでそれぞれS、G、G“Leather Package”、Z、Z“Leather Package”がラインナップされている。今回、試乗したのはハイブリッドのZ“Leather Package”で、JBLプレミアムサウンドシステムを標準装備している。ちなみにJBLが搭載されるのはZおよびZ“Leather Package”、GならびにG“Leather Package”でメーカーオプション(税込369,600円)、Sグレードでは設定なしとなる。
JBLプレミアムサウンドシステムは、それのみで選択するものではなく、T-ConnectSDナビゲーションと組み合わされて提供される。12.3インチの大画面インフォテイメントにはT-Connect機能(ヘルプネット、eケア、マイカーサーチ)をはじめ、カーナビ機能、ETC2.0、Bluetooth機能が含まれる。この内容を考慮すると、オプションで設定される価格はかなりお買い得と感じる。
ハリアーの前席。中央のディスプレイオーディオは、画面サイズ12.3インチの横長フォルムが採用されている。
ピラーのホーントゥイーターは、25mmドーム型高音用ユニットの外周に、音の解析効果を制御する専用設計のホーンが組み合わされている。
センターコンソールのディスプレイモニターに記されたJBLのロゴ。
本稿で紹介するJBLプレミアムサウンドシステムは9基のスピーカーとそれらを駆動するDSPパワーアンプで構成された、ハリアーのために専用開発されたカーオーディオである。なかでもピラーに配された25mmトゥイーターは、ドーム型ユニットながらその周囲は独自の曲面がデザインされたホーンが採用されており、本車ならではの音の拡がりを獲得、JBLプレミアムサウンドシステム特有の音場再生を可能としている。
聴いていて特長的に感じたのは、音場の奥行き感であった。左右方向の拡がりや、高さ方向もよく出ているのだけれど、ウィンドシールドの先、ボンネット上にまで展開されていると感じられるサウンドステージは、やはり専用設計のホーントゥイーターに撚るところが大きいだろう。見事に描かれた音の空間には、思わず感嘆の声が出てしまった。
ちなみにハリアーのインフォテイメントシステムはディスプレイオーディオとなっており、DVD/CDプレーヤーは搭載していない。USB端子はメモリーやプレーヤー、スマートフォンなどを接続して再生が可能で、Bluetoothオーディオにも対応、Apple CarPlayやAndroid Autoにも対応する。このほか、ラジオおよびテレビの受信再生が可能だ。
ピラーの根元にホーントゥイーター、すぐ傍らのダッシュボード端に80mmワイドディスパージョン・スピーカーがレイアウトされる。
12.3インチのディスプレイには、エアコン操作画面(他の操作画面に切り替え可能)とナビやオーディオ表示などを2画面表示する。この2つの画面は左右位置を入れ替えて表示することも可能。
シフトレバーの前方、センターコンソールの奥まったところにUSB端子(Type-A)が2系統用意される。USB端子のすぐ横には、3.5mmステレオミニジャックのAUX入力も装備しており、ポータブルプレーヤーなどもJBLプレミアムサウンドシステムで楽しむことができる。
フロントドアの下方、ドアポケットの前方に170mmミッドウーファーが配されている。
リアドアもフロントドア同様、ドアポケットの前方にスピーカーをマウントする。ユニットは150mmフルレンジスピーカーだ。
ドアのスピーカーグリルは格子状にデザインされており、その奥に固定されるスピーカーユニットが視認しやすい。画像はリアドアのスピーカーで、エッジにJBLのオレンジがあしらわれているのがわかる。
ラゲッジの側壁にはサブウーファーのグリルがデザインされている。ユニットはこの奥にエンクロージュアへマウントされた状態で固定された224mm口径である。
ハリアーJBLプレミアムサウンドシステムのスピーカーレイアウト。DSP搭載の8チャンネルパワーアンプはラゲッジのサブウーファーと逆サイドに搭載される。
ハリアーのJBLプレミアムサウンドシステムには、Trable(高音)、Mid(中音)、Bass(低音)のレベル調整が可能なトーンコントロールを装備。各バンドとも±5ステップで調整が可能だ。ウーファーの振動板が存分に動いているのが感じられる中低域なのだが、若干のだぶつき感が気になり、Bassを1ステップ下げてレベルを整えた。本車のシステムは、フロントスピーカーがピラーのホーントゥイーター、ダッシュボードのワイドディパージョン・スピーカー、フロントドアのウーファーによる変則的な3ウェイ構成とみられる。しかし、実際にはリアドアのフルレンジスピーカー、リアエンドのサブウーファーをも含めた4ウェイ(5ウェイ?)と解釈した方がよく、細かなバランス調整をDSPアンプで巧みに整えているようである。
フロントスピーカー/リアスピーカーという区別をするよりも、車両のスピーカー全体としてサウンドバランスを考えるのが適当と考えると、音場のでき方の面でもフェーダーの設定はデフォルトよりも2ステップ前側へ設定するほうがより良いパフォーマンスに感じられた。これはドライバーポジションの耳の位置だと、リアドアのスピーカーがかなり近く、この音の存在に引っ張られることで、前方に展開してほしい音場がわずかながら縮小するように感じてしまうためだ。サウンドバランス的にというのは、主に中低音で、フロントドアでもそこそこ充分な厚みを持って再生されているバランスが、リアドアのスピーカーによりもったりとする印象があったためで、フェーダー調整でかなりすっきりと聴くことができるようになる。
オーディオの調整を行う「音設定」メニュー。3バンドトーンコントロールと、フェーダー/バランス、ASLがコントロールできる。
Trable/Mid/Bassの調整は、ほぼデフォルトながら、Bassのみ1ステップ下げて整えた。
フェーダー/バランスは、フェーダーを2ステップ前へ調整。トーンコントロールとの兼ね合いを確かめつつ合わせた結果である。
インフォテイメントの操作は、ステアリングのスイッチ類でも可能。カーナビの検索画面以外はこちらの操作に慣れた方が、ディスプレイを指紋だらけにしないで済むだろう。
エアコンディショナーのルーバー直下には、静電タッチ式の操作スイッチが並ぶ。インフォテイメントシステムで使用頻度が高いスイッチを配置している。
聴取位置による聴こえ方の変化が少ないのもこのホーントゥイーターの美点と言えそうで、極端にシートポジションが低くならない限り、サウンドステージの感じ方に差は生まれない。クルマにおいてこれほど広いスイートスポットを持つ純正オーディオシステムはかなり稀ではないだろうか。
このハリアーJBLプレミアムサウンドシステム最大の魅力は濃厚な中域の再生音だ。華やかさをもった高音や、音楽を下支えする量感豊かな低音、ここに上手くなじむように歌声を魅力的に聴かせる中音がブレンドされている印象なのだ。それらが織りなすサウンドには、一種エロティシズムをも感じさせるほどであった。
ヴォーカルは、男声女声を問わず、喉の湿り気まで感じられ、艶めかしさすら感じた。またスロージャズなども、分厚く聴けるベースやピアノの音は実に官能的で、夜のドライブなどは、自分がドラマのワンシーンを演じているんじゃないだろうかと錯覚しそう……などというと言い過ぎだろうが、そんな気分は味わえそうである。
ラゲッジのサイドに作りつけられているサブウーファーは、専用設計のエンクロージュアに224mmユニットがマウントされた本格的なもので、ここから繰り出される低音は、ごく低い音を的確に添えてくれる。膨張した低音を発生させるのではなく、まっとうなサブウーファーとしての役割を高いレベルで果たしていると言える。このエンクロージュア搭載方式は、あなどれない。ただし、いくらいい低音とはいえ、レベルバランスは大事である。サブウーファーの音量ばかり目立つようなチューニングにしてしまうと、絶妙なサウンドバランスは木っ端みじんとなるとなるため、上手く鳴らしたい。
この充実した低音は、強烈なビートが繰り出される楽曲でノリノリだろうと思う方も少なくないだろうが、実はクラシック音楽の再生においても大いに効いていて、大太鼓やコントラバスのボウイングなどを響き豊かに聴かせてくれる。そのため、小規模の弦楽曲などでは走行ノイズにまけてしまうけれど、フルオーケストラはそれなりの迫力とともに荘厳な音楽世界を楽しむことができる。
JBLらしいラウド&クリアが体現された音ともいえそうだ。ロックやポップスだと、レコーディング、ミキシングのテクニックが良くわかって楽しい。個人的に一番楽しかったのはエレキギターの音。ディストーションの音色が生々しい。電機を使った楽器で生々しいというのもおかしいと思われるだろうけれど、生き物の咆哮とも感じられるような響きが聴きとれてたまらなかったのだ。
ローリングストーンズの初来日公演を収録したライブアルバム「フラッシュポイント」などでは、M.ジャガーの歌声もセクシーさがあって聴き応え抜群。同公演の会場に身を置いていた身としては、ゾクゾクしてしまった。ライブ音源の再生に注力しているというJBLらしさは、こういったところにも現れていたようだ。
オーディオ再生音の理想がHi-Fiであると信じてやまない方にとっては、物足りないところは多々あろうかと思うが、ドライブを楽しませる音楽がどれだけ魅力的に聴けるかということにおいて、このハリアーの完成度はかなり高いだろう。素直に音楽の色香を味わえる1台であった。
オーディオメニューのソース選択画面。ハリアーではDVDやCDの円盤メディアプレーヤがないディスプレイオーディオ仕様のため、一般的にはスマートフォンやポータブルオーディオを再生することになりそうだ。取材時の試聴はUSBメモリーを中心に行った。
ステレオサウンドリファレンスレコードから「Nobu's Popular Selection」を聴くと、音の重ね方や音像の置き方など細かな音造りの様子がよくわかって楽しめた。
「選曲」メニューでは、楽曲データのタグ設定に応じたリスト表示ができ、聴きたい曲へすぐにアクセスできる。
Apple CarPlayのアイコンメニュー画面。
ザ・ローリング・ストーンズのライブアルバム「フラッシュポイント」をApple CarPlayで再生。インフォテイメントシステムのオーディオ表示画面としたようす。
こちらの画像は、Apple CarPlayの画面で見たところ。操作上の差異はあまりないので、見た目で左の表示とどちらを選ぶか決めるのがいいだろう。
ハリアーのJBLプレミアムサウンドシステムで聴くヴォーカル曲は、楽曲を選ばずに雰囲気良く歌声が楽しめる。「浪漫と算盤」で聴く歌姫2人の声も格別だった。
前席間のグローブボックス、その後ろ側にはUSB端子が2系統装備されている。ただし、こちらは充電用であり、メディア再生には使用できない。
ジャジーな楽曲も収録されているステレオサウンドリファレンスレコードの「ルパン三世 1977〜1980 ORIGINAL SOUNDTRACK 〜for Audiophile〜」。この楽曲もハリアーで聴くと、気分が上がる音源のひとつだった。ハリアーではディスクプレーヤーが無いので、リッピングしたデータをUSBに格納して聴いている。