ライヴ空間の臨場感やミュージシャンたちの実在感も素晴らしい
演奏自体の醍醐味が十全に伝わってくる
文=鈴木 裕
2007年にイギリスで設立されたメーカーだ。今までも高級なアンプを作ってきたが、これも個性派の音を持ちつつ、音楽表現力も高い。概要を簡単にまとめると、カスタムで作らせた最高級グレードのパーツ類、オペアンプやキャパシタや抵抗器たちが惜しげもなく使われたフルディスクリート構成のAB級2チャンネル。出力としては190W×2(@4Ω)。ヒューズ容量は30A×2というパワーアンプだ。 しかしそうしたスペックやパーツを紹介してもこのアンプの音の良さは伝わらないだろう。
オートサウンド試聴室ではまず山下達郎『ソノリテ』から「MIDAS TOUCH」を聴きだした。油絵のような濃厚な色調。情報量はたくさん出ているのだがこちらに音を投げつけて来るのではなくどこか包容力というか、浸れる音だ。ヴォーカルの肉質感や歌の表情が絶妙に伝わって来るのも味わい深い。
エリック・クラプトン『アンプラグド』から「ロンリー・ストレンジャー」では、中低域に豊潤に鳴り合う旨みがあり、音自体に愉悦を感じる。同時に演奏と対峙している感覚も持っていて、ライヴをやっている空間の臨場感やミュージシャンたちの実在感も素晴らしい。語弊を恐れず書けば、ミュージシャンたちをあらしめる力の強いパワーアンプだ。濃厚なタッチではあるが、演奏自体の醍醐味が十全に伝わってくる。
チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を聴くと、ソロを弾いているユリア・フィッシャーはもちろん、オーケストラの1stヴァイオリンの一人一人の演奏者たちが弾いている感覚もある。ソロヴァイオリンのメロディの歌い方やフレーズの愛で方にも情緒があり、なんともかぐわしい。またオーケトスラの音の重なり方の美しさもずっと聴いていたくなるレベル。
単なるアキュレートな音とは違った世界をじっくりと味あわせてくれる名機。個性派で高額でもあるが、売っていてくれるだけでもありがたいのかもしれない。
オーケストラの立体的な響きには息をのむ
なによりしなやかな音楽表現に魅了された
文=黛 健司
「140Wの2chアンプが100万円!」という声が聞こえてきそうだが、いいものはいい。この製品でしか聴くことのできない音があり、それがとてつもなく魅力的なのだから、この価格も納得せざるをえない。なにより魅了されたのは、音楽の表現がしなやかなこと。高額なアンプの中には、力強さをはき違えた剛直な音の製品もあるが、本機は違う。たとえば、ジャズのアコースティックベースなど、適度なブーミングが心地よい。艶やかななかに、どこか優しい響きが感じられる女性ヴォーカルにはホッとする。クラシック曲の再現も見事だった。ヴァイオリンの濃やかな表情の変化を克明に再現し、オーケストラの立体的な響きには息をのんだ。
オーディオウェーブ社を主宰するグラント・ヘイナンは、生まれ故郷のアフリカ・ジンバブエのカーオーディオショップでのインストーラーとしての仕事を皮切りに、イングランドに移住してからは本格的なカスタムインストールに携わるなど活躍の場を拡げていった。その実績をもとに独自のパワーアンプを開発しオーディオウェーブ社を創業。超弩級パワーアンプを続々と発表し、それらを搭載したクルマでカーオーディオ競技に挑戦。優秀な成績を収めたことが今日の成功につながった立身出世の人。
製品には隅々まで「マニアならでは」のこだわりが詰まっている。金メッキで表面処理したゴールド仕様の両面基板には、ニチコンに特注した「オーディオファイルGold Tuneキャパシタ」、タクマン電子の精密抵抗器、アルパイン・アルプスのポテンショメータなどなど、日本の専業メーカーの精密部品が惜しみなく投入されている。シャーシは厚さ2mmの亜鉛メッキ鋼板に結晶塗装を施した頑強なもの。トップパネルはステンレスと耐熱性・耐衝撃性に優れたポリカーボネート製のクリアパネルの組合せ。アンプ1台の生産に2週間以上を要するという「作品」ゆえ、高価になるのも致し方ないだろう。
オーディオウェーブ AUDIO WAVE
Aspire Pro V2
¥1,023,000(税込[受注生産])
SPECIFICATION
●定格出力:140Wx2(8Ω)、190Wx2(4Ω)
●周波数特性:12Hz~100kHz
●SN比:100dB
●入力感度:300mV~8V
●入力インピーダンス:33kΩ
●動作電圧:9~16V
●アイドリング電流:±3A
●外形寸法:W378×H64×D339mm
●重量:7.92kg