文=藤原陽祐/Photo:Atsuko Goto、Akio Shimazu
カーオーディオでいちはやくハイレゾ対応を果たしたケンウッド
2015年春、JVCケンウッドではAVナビとしては初めてハイレゾ音源をサポートした“彩速ナビ”を発売。その翌年には同社のスピーカーシステムの最高峰、XSシリーズがハイレゾ対応を果たし、良質なハイレゾ音源を車室でも楽しんでほしい、という熱いメッセージとして送り出された。
しかも“彩速ナビ”では再生音を可能な限りオリジナルマスターの音質に近づけ、リスナーに本来あるべき感動を届けるという独自技術、K2テクノロジーを搭載。全ての音源を可能な限りオリジナル、そのままを忠実に再現するというJVCケンウッドの提案は、熱心なカーオーディオファンを中心に、歓待の拍手をもって迎えられたのである。
「我々の提案はカーオーディオの世界でも広く受け入れられたわけですが、近年、ハイレゾは特別のものではなく、オーディオ再生ではごく普通のものに変わりつつあります。ここでさらに説得力のあるシステムの提案が求められ始めたというわけです」(事業企画グループ長・奈良充晃氏)。
スピーカーシステムとして、ハイレゾ対応を謳うには40kHzを超える再生帯域の確保が不可欠だが、当然ながら、実際の音質はそれだけで決まるわけではない。JVCケンウッドでは基本特性の向上に加えて、試聴室で実際の様々なジャンルの音楽を何度も、何度も繰り返し聴きながら、最終的に志向するサウンドに仕上げている。
MP3などの一般的な圧縮音源、CD音源、そしてハイレゾ音源も含めて、アーティストが伝えたい音楽を、ありのまま楽しんでもらうというスタンスは変わらないという。
“アーティストの思いをそのまま届ける”
車載スピーカーでは初のビクタースタジオとコラボ
こうした音楽との関わり方も含めて、そのままユーザーに伝える方法はないものか。試行錯誤する中で、浮かび上がったのが、アーティストとともに音楽制作に直接関わり、オーディオについても造詣の深いビクタースタジオと共同で音質チューニングを行うというアイデアだった。JVCケンウッドのグループ企業であるビクタースタジオとのコラボにより、ソフトウェアとしての楽曲制作からハードウェア=オーディオコンポーネントまで、しかも音の出口であるスピーカーに至るまでをトータルコーディネイトすることが実現した。
実は、K2テクノロジーはビクタースタジオの特許技術の一つ。グループ会社になったことでケンウッド“彩速ナビ”へ導入することが叶い、以降、その関係は途絶えることなく、いまも続いている。スタジオの一線で活躍しているエンジニア達とともに、最終的なサウンドを仕上げていくことで、基本的な音質向上にとどまらず、JVCケンウッドの音に対する思いがユーザーに届けられるのではないか、そう考えたわけだ。
「今回は歴史に残るような名曲を含めて、数多くのヒット曲を手がけてきたマスタリングエンジニア、川﨑洋氏に協力してもらいながら、XSの音を仕上げていきました。制作の現場ではすでにハイレゾは当たり前で、彼は実際にリスナーの心に響き、魂を揺さぶれるかが重要と話していました。実際に試作機の試聴を重ねながら、色々なことを勉強させてもらいましたが、なかでもドンと鳴る音はそのままドンと聴こえてほしい、というリクエストには少し戸惑いました」(奈良氏)。
カー用、ホーム用を問わず、明確な定位や空間の広さ、あるいは声の艶っぽさ、生々しい余韻感といったところが求められる。ただアーティストにとっては、ココという聴かせどころが必ずあって、スピーカーにはこの部分を如何に再現できるかが問われるのだという。
「ドンとか、パンとか、その音が出た瞬間、アーティストが“これだ”と納得できる、それこそカッコイイ音の出せるスピーカーだ、というわけです。簡単なようですが、コストの制約が厳しい民生用のスピーカーユニットでは、これが難しい。今回のXSではとにかくアーティストの思いをそのまま届けられるスピーカーを目指して、開発を進めていきました」(奈良氏)。
新開発2ウェイツィーターはじめ
技術的新機軸を導入
まず注目されるのが、25mmのソフトダイアフラムと9mmのチタンドームを組み合わせた同軸2ウェイのツィーターだ。内側のスーパーツィーターのボイスコイル部分に、外側のソフトドームの振動板がつながった構造で、それぞれは独立して駆動する。それぞれのボイスコイルに各フィルムコンデンサーで帯域を分けて信号を入力するシステムとなっている。
「ワイドレンジ再生が可能な贅沢なツィーターを開発したわけですが、ここまで高域特性が伸びると、低音の表現力がよりシビアに問われるようになります。ウーファーユニットについては、不要な振動を抑えるアルミダイキャストのフレーム、コイルの電磁誘導で生じる磁気変調歪みを抑えるアルミショートリング、真四角の断面を持つ線材を2層巻きしたスクエアボイスコイルなどなど、高度な技術を積極的に投入しつつ、ディフューザー部を全面的に見直すことにしました」(奈良氏)。
ディフューザーの設計で重要視されたのは、ウーファーから出る高音域の干渉を抑えつつ、音を気持ちよく前にだすこと。高さ、径、スリットの幅、さらには中央部分のくぼみで、音はコロコロ変わっていくことはこれまでの経験から確認済み。
そこで今回はシミュレーションで綿密に計算し、音のよさそうな形状を見いだし、3Dプリンターで試作。実際に音を聴きながら最適な形状を模索して言ったというが、最終的に満足のいくサウンドを獲得するまでに、そのサンプル数は23にも及んだという。
最終的な音質チューニングは“彩速ナビ”の最高峰、TYPE Mとの組み合わせで、もちろん川﨑洋氏の立ち合いのもと、開発部内にあるスタジオで行われた。最初の音がでる緊張の一瞬。重厚なバスドラが、強い押し出しでドンと響いた瞬間、川﨑氏は満足げな表情で開発陣に視線を送り、軽くうなずいた。紛れもなく、OKの合図だった。
「今回のXSの開発ではウーファーでしっかりと低音を出したかったので、同軸2ウェイのツィーターが必要だったという側面もあります。ウーファーのダンパーをわずかに柔軟にして、動きやすくしていますが、そのあたりのチューニングも豊かな空間描写に少なからず効いていると思います」(奈良氏)
実に生々しい声のニュアンスや楽器の響きを聴かせる
取材後、彩速ナビ、TYPE MとKFC-XS174Sを装備したデモカー(トヨタ/ノア)で、日頃から聴き慣れた数曲、聴かせてもらった。まずハイレゾ音源、シャンティの「MEMORIZE」(24bit/96kHz)の再生だが、スムーズにして雄大な空間の拡がりと、明確な定位が特徴的で、緻密で、落つきのある質感がある種、格調の高さのようなものを感じさせる。このあたりの聴かせ方はXSの血統を感じさせるが、声のニュアンス、楽器の響きが織りなす空間の表現といった部分で、明確な優位性があり、同時に、ベースの響きの厚み、バスドラの音の芯の描きわけといったところでもしっかりと存在感をアピールしてくる。
そして私が最も感心させられたのは、低域から中低域にかけての分解能に磨きがかかり、音量を上げていっても、足元がふらつかず、音楽の軸がブレないことだ。ダイアナクラールの「デスペラード」(CD)は音の骨格を明確に描き上げ、ピアノの響き、声のニュアンスと、実に生々しい。耳にスッとしみこんでくるような聴き心地のいいサウンドでありながら、ここというときには一気に吹き上がる、勢いの良さも見事だ。
カーオーディオの新しい時代の到来を感じさせるに充分の、魅力溢れるサウンドだった。
KFC-XS174Sの主な仕様
●形式:170mm2ユニット3ウェイスピーカー
●使用ユニット:ウーファー・170mmコーン型、トゥイーター&スーパートゥイーター・25mmソフトダイアフラム&9mmハードドーム型同軸ユニット
●定格入力:45W
●瞬間最大入力:180W
●出力音圧レベル:83dB/W
●再生周波数帯域:34Hz~56kHz(-10dB)
●インピーダンス:4Ω
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