クルマ購入時に搭載されている標準装備やメーカーオプション、ディーラーオプションのカーオーディオ、いわゆる「車両純正オーディオ」を実車で体験。本稿では純正カーオーディオのシステム概要やサウンドについてレビューする。
文=長谷川圭
8スピーカー&DSPアンプのMAZDA HARMONIC ACOUSTICS
MAZDA3の標準装備オーディオ
新プラットフォームで誕生したマツダのミドルグレードMAZDA3。音楽ファンが気になるところというと、標準装備で搭載される「マツダ・ハーモニック・アコースティックス(MAZDA HARMONIC ACOUSTICS)」の存在だろう。動くオーディオルームを創造したいという企図のもと開発されたというこの純正カーオーディオが聴かせるサウンドはどのようなものか。実車に乗り込む前から気持ちが高まってくる。
今回試聴がかなった車両について簡単に説明すると、ボディタイプはセダン。パワートレインは2リッターガソリンエンジンの“SKYACTIV-G2.0”。車両グレードは20S L Packageでボディカラーはスノーブレイクホワイトパールマイカ。車両本体価格は¥2,482,778(特別塗装色代含/税別)だ。
実はMAZDA3で採用された「マツダハーモニックアコスティックス」は、新時代のマツダがこだわりぬいて開発した純正カーオーディオの新標準なのだという。つまり、MAZDA3と同じプラットフォームで開発されるクルマには、同様のカーオーディオが装備されるというわけだ。ではどのあたりが新標準と謳われる所以なのか、ひも解いてみたい。
はじめに認識しておくべきことは、「マツダハーモニックアコースティックス」は、単純なカーオーディオシステムに対する名称ではなく、クルマ全体の音響を研究した上で完成させたものであるということ。たとえば車両の各部で遮音性能を上げて静粛性を高めたり、スピーカーの配置や向きをボディ設計時点から考慮して設計されているというのだ。そのために、一般的なドアの構造にあるメンテナンス用のサービスホールまで塞ぐという念の入れよう。こういった音響チューニングはクルマ全体で実施しているという。実際に走ってみるとわかるのだが、ロードノイズやエンジン音、風切り音といった騒音は極めて抑えられているいっぽうで、エキゾーストなどドライブフィーリングを高めてくれるような音はちゃんと耳に届く。その中で聴くオーディオも、クルマが聴かせたい音と喧嘩させずに音楽を美しく聴かせようという意図が感じられるのだ。
スピーカーの構成、配置についても標準装備とは思えない陣容で、フロントスピーカーを3ウェイ構成とするほか、トゥイーターはフロントシート側に角度をつけて直接音を聴きとりやすくし、ミッドレンジをドアの高い位置に配置、ウーファーは一見どこにあるのか見えないがサイドカウル部にマウントされている。リアスピーカーは、リアドアに80mmのミッドレンジユニットが配置される。
スピーカーユニットは、パイオニア製だと発表されているが、このスピーカーユニットひとつをとっても、マツダとパイオニアがタッグを組んで開発したというのだから恐れ入る。搭載される各ユニットは、高音用トゥイーターが25mmのドームタイプ、ミッドレンジは80mmコーン型、ウーファーは120mmのコーン型である。サイドカウルというこれまでのカーオーディオではスピーカーのマウント位置として選択できなかった場所を開拓して配置されたウーファーには、3リッターの容積まで確保している。
ジャンルを選ばずに、“普通に聴かせる”整ったオーディオサウンド
だいぶ前置きが長くなったが、カーオーディオの音についてご紹介しよう。まず、一聴して感じるのは、どんなジャンルの楽曲を聴いても、すべてを普通に聴くことができるところ。特別に刺激的な音をさせることはなく、かといって音の数を間引いて耳当たりをよくしただけのものとも違う。低い音から高い音までをしっかりと整えて鳴らすのだ。サブウーファーがないシステムなので最低域の重低音再生までは難しいけれど、120mmウーファーとは思えない量感を聴かせるのには驚く。
トゥイーターとミッドレンジが、高い位置に近接して配置されているせいか、人の声などはナチュラルな聴き心地。全帯域にわたってシームレスな音のつながりを感じられるのも、純正オーディオとしては稀な存在だろう。
個人的に、気分が上がると音量も上がりがちになるのだが、ボリュウムを上げていっても音がひずんだり、低音が飽和したり大音音量で破綻しない純正カーオーディオというのも驚きだった。
無敵の優良カーオーディオかというと、聴き込むうちに気になるところも出てくる。走行中のどの速度域でもあまり印象が変わらないというのは、計算された静粛性の高さゆえのことなのかもしれないが、女性ヴォーカルに少しだけピーキーな音が乗ることに気づき、音響設定機能を試してみた。
サウンド調整機能の中にある「シンプルモード」と「アドバンスモード」を切り替えてみる。すると、「シンプルモード」ではトーンコントロールだけだった調整項目に、イコライザーが出現した。イコライザーを選択してみるといくつものプリセットモードが並ぶリストの下に「カスタム」というセッティングが現れる。それも3つ。そして選択メニューの一番下には「編集」の項目が出現。この編集で13バンドのグラフィックイコライザーが利用できるようになる。いくつかの楽曲を聴きながら調節をしてみた。結果はイコライザーの編集画面画像をご確認いただきたいが、本車のベストフォームではないかと思える調整値が見つけられたと思う。
ここで気づいたのがレベル調整をした際の音の変化量が少ないこと。これはきっとオーディオが好きな人が設定した機械なのだろうと思うのだ。自分自身、オーディオの調整とは、わずかな変化を緻密に積めていく作業だと心得ているので、一目盛の調節で劇的に音が変わってしまっては調整機能の意味を成さないと考えている。ベーシックな性能を高くし、微細な調整機能を載せるなど、なかなかである。
CDやUSBをメインソースで楽しみたい
いっぽうでBlutoothやスマートフォン連携再生も
リスニングポジションは「運転席」と「全席」が選べるが、これはそのままドライバー1人なら「運転席」、同乗者がいる時は「全席」とするのが良さそうだ。サウンドステージが左右に綺麗に拡がり、まさに音楽に対峙するように聴くことができる。オーディオルームでスピーカーと向き合っているかのよう。
再生メディアは、CD、USB、Bluetooth、Apple CarPlayなどを試してみたが、CDやUSBでとてもみずみずしい音を聴くことができた。BluetoothとApple CarPlayでは、アマゾンミュージックやスポティファイなどの定額制音楽配信サービスを聴いていて、こちらは楽曲データのクォリティの差が出たもよう。なるほどこの差を鳴らし分けることができるのだから、さすがといえよう。
同車のインフォテイメントシステムを操作するマツダコネクトのコントローラーは、タッチパネルを操作するのと違い、画面へ手を伸ばさなくてもブラインドタッチで操ることができるため、走行中でも姿勢を変えず、視線の大幅な移動をしなくても使いこなすことができた。このあたりもだいぶ進化していると感じた。
標準装備のカーオーディオがこれほどの仕上がりを聴かせるなど、実車を体験する前は思いもよらなかった。カーオーディオでクルマを選ぶということもなかろうが、この出来の良さはMAZDA3の価値を高めているものと思う。
<photo : Kei Hasegawa>