2018年秋、パナソニックのカーバッテリーcaosがモデルチェンジする。オートサウンドウェブでは、これまでにいくつものカーバッテリーを試聴してきて、銘柄による音の違いが存在していることを確認してきた。なかでもパナソニックのcaosシリーズは、カーオーディオ製品を動作させる電源としての優秀性を示し続け、オートサウンドウェブ試聴取材時のリファレンス機として採用してきた。このたびのモデルチェンジの報を受け、シリーズ製品内でもっとも大きな変更が与えられているというアイドリングストップ車用製品の試聴を実施。比較用に同サイズの輸入バッテリー、大型サイズの国産バッテリー、さらに現在リファレンス電源として使用しているcaos標準車用バッテリーと比較した。なお、できるだけ多くのカーオーディオファンの参考とするべく、音楽再生に使用したのはAVナビゲーションと2ウェイスピーカーというシンプルな組合せとした。試聴は黛健司氏と和田博巳氏の両名、試聴後に聴くことができた音の印象を語っていただいた。新型caosが聴かせるサウンドを、いまここにつまびらかにする。
黛 健司:カーオーディオジャーナリスト。日本初のカーオーディオ専門誌オートサウンド(1989年創刊)の初代編集長。現在はオーディオ評論家としてステレオサウンド誌でも執筆するほか、当サイトの年時企画であるオートサウンドウェブグランプリの選考メンバーを務める。
和田博巳:ステレオサウンド社の多くの雑誌で執筆をするオーディオビジュアル評論家。元はちみつぱいのベーシスト/音楽ディレクターとしてのキャリアももつ。カーオーディオは、パイオニアカーオーディオコンテストやハイエンドカーオーディオコンテストの審査員を務めるなかで多くのクルマの音を聴いてきた経験の持ち主。
ASW:パナソニックの2018年モデルブルーバッテリーcaosのアイドリングストップ車用をお聴きいただきました。今回お聴きいただいたのはSサイズで、これまでオートサウンドウェブの試聴取材で使用してきたcaos標準車用のD26と同等の大きさのものです。比較用として、試聴取材のリファレンス機であるcaos標準車用と他社のカーバッテリー2種類(国産品、海外ブランド品)も聴いていただいています。お聴きいただいた音の印象をうかがわせてください。
黛:caosのバッテリーは、ここ数年新製品が出るたびに、聴かせてもらっています。2016年のモデルチェンジの際には、バリエーションモデルを聴いたりもしました。標準車用はもちろん、アイドリングストップ車用、ハイブリッド車用、輸入車用とさまざまなcaosを聴いてきているわけですが、今回18年モデルのcaosアイドリングストップ車用を聴いてみて感じたのは、caosの開発の主軸がアイドリング車用に完全に移ったのだろうなということです。
標準車用というのは、これからも作っていくのだと思いますが、いまや、あるクラス以上のクルマにはアイドリングストップが採用されてきていますし、あるいはハイブリッド……その中にはプラグインタイプなども増えてきています。さらにはEVなども出てきている。カーバッテリーに要求されるものが、caosが初めて登場した12年前と比べると変わってきています。
試聴を始める前に、パナソニックカーバッテリーのかたから新しいcaosアイドリングストップ車用の説明を受けましたが、それを聞いても従来のものとはだいぶ開発の注力……とでも言うところが変わってきたなという印象を受けました。バッテリーとしてのクォリティや性能を上げていくというのは、メーカーとすれば従来と同じようにしてらっしゃるのかもしれないけれど、アイドリングストップ車への対応というのが、今まで以上に重要視されているんですね。その結果が音にも相当影響を与えているのでしょう。
これまでのcaos標準車用の進化というのは、常に同一線上に音の向上が感じられたんですが、今年のcaosアイドリングストップ車用はこれまでとは全然別のもの……人でいえば別の言葉をしゃべる人になったような……違いがありました。同じcaosを名乗っているのですが、僕の感覚では今までのcaosとは別世界を実現しているなと感じました。
ASW:和田先生はいかがでしたか? 和田先生はこうしてカーオーディオを試聴室で聴くというのはもちろん、電源のバッテリーの聴き比べをされるというのは初めての体験だったわけですが、どうお感じになられましたか?
和田:そう、僕は黛さんと違ってカーバッテリーの音の違いを確かめるというのは初めてでした。ピュアオーディオやホームオーディオと呼ばれる世界でも電源は非常に重要だと言われています。一般的には家庭内のコンセントをホスピタルグレードにする、あるいはそこから引いてきた電源タップを高級なものにするというアプローチが多いですね。電源タップといっても1~2万円のものから何十万円というものまでひじょうにたくさんありますので、その中から自分のシステムに合わせてコーディネイトするわけです。でも、今回聴いたのは純粋に電源そのものですよね。バッテリーが変わることで音がどれほど変わるのか、とても興味深くこの取材に参加したわけです。
オートサウンドウェブでは、雑誌オートサウンドの時代からバッテリーの試聴はやってきていたんですね。編集部に聞いたところによれば、caosの物理的な特長のひとつとして容量が大きいというのがあった。他社製品でも大容量化が進んだ時期があって、そのメリットとして瞬時のエネルギー供給能力が上がって低音の力強さは増して聴けたけれど、音質が向上するかというと決してそういうものではなかったという。でも、今日は大容量化にともなう力強さだけじゃなくて、いわゆる透明感……トランスペアレント……で、ハイレゾリューションで、『こんなに音がよくて良いのかな』と、まるでカーナビの内蔵パワーアンプを外部の高級パワーアンプに換えたような、そういう変化が感じられて、想像以上の変化に驚いてます。
ASW:caosは世代が変わるごとに大きさは同じながら容量は確実にアップしてきました。今回お聴きいただいたアイドリングストップ車用では、前モデルと比べて約15パーセントの容量アップを実現しています。
黛:ホームオーディオって、マイ電柱を立てたりしたとしても、関東なら東京電力の電気には違いないでしょう?
和田:そうですね。
黛:カーバッテリーって、言ってみれば関西電力になったり北海道だったり九州だったりするわけですよね。
和田:そういうことになるよね。
黛:供給される電気そのものが変わっちゃう。オートサウンドで一番苦労したのは、そこですね。最初は音の良さでバッテリーを選んでいたんです。海外製のバッテリーって、ちょっと海外っぽい音がするんです。海外製バッテリーが聴かせるキャラクターの魅力に関心を寄せていて、日本製のバッテリーは『良いのだけれどなんとなく日本的な音だな』と感じていたんですね。caosが登場してきた頃に、こちらの聴き方も変わってきたのかもしれないんですが、クォリティというところに着眼したと思うんです。“演奏されている場の雰囲気をどれだけ正確にリスニングルームの中に再現できるか”といったような観点で聴くと、caosバッテリーの純粋な音の良さというのがすごく貴重に思えてきた。
和田:うんうん、なんとなくわかります。
黛:カーオーディオのヘッドユニットやスピーカーでも同様かもしれませんが、置かれた状況が変わってきたときにcaosが地道にバッテリーとしての基本性能を向上させてきたことが生きてきたのかなと思います。
和田:そうかもしれないですね。今日、比較した他社バッテリーとあまりにも音が違うのは、そういう積み重ねがバックグラウンドにあるということですね。
黛:今日聴いてみて、音場の表現がまったく違いますよね。
和田:うん。だからバッテリーが変わることでステレオイメージが広大に現れたり、奥行きがより……たとえば、黛さんが聴いていたベルリオーズの幻想交響曲やチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲なんて、音場感がすごく違うんですよね。バッテリーが音場感に影響するとはとても思えないんですけど、スピーカーを換えたような変化がなぜ生じるのかが不思議だなと思って聴いてました。理由はおそらくメーカーのかた達も理解されていないんじゃないかと……。
ASW:バッテリーの性能の違いで、どういう部分が音に影響しているのか、実はバッテリーメーカーではなくオーディオメーカーのエンジニアの方と話をしたことがあるんですが、どんな測定項目でどんな計り方をしても、音の違いを定量評価することはできないのではないかという回答ばかりでした。
和田:それははっきりと「ない」と言っていいと思うんです。というのは、“ハイエンド”という言葉をアブソリュートサウンドのハリー・ピアソンという人が1973年くらいから言い始めて、それはステレオイメージとか音場感とか聴感上のダイナミックレンジとか……つまり測定できないものばかりなんです。ひずみ率とか周波数特性は測定できるから優劣がわかりやすいんだけれど、ハイエンドと呼べるものは耳で聴いて初めてわかる世界なんです。だから耳で聴かなければわからない世界の違いを、バッテリーが表現しているというのが、僕は不思議でたまらない。スピーカーが違って、こういう音の違いが聴けるのはわかるんです。でも今回はバッテリーでこんなに違いが出ている。しかもデカけりゃ良いというわけじゃないというのもね、大きいから良かったとは思わないんですよ、ダイナミックレンジが大きく感じられるのはバッテリーの大容量というのも効いているんだけれど、やっぱり細部の……シグナルパスが短くなったり……電力がこうダイレクトに……瞬時にアンプに供給されているからだろうなと思うんです。バッテリー内にたくさん極板があって、エネルギーが出入りするところを太く厚くしたと説明を受けましたけれど、そういうものを含めて細かな技術的な積み重ねが効いているかなと思うんです。でも、「ここを良くしたからこんなに音が良くなったんだよ」というのは、なかなか一言では表せないでしょうね。
だから、すごく、クルマのバッテリーとして優れた製品を作ってみたんだけれど、ついでにこれが音も良かったらすごくいいなぁという希望的観測じゃないかと思うんですけど、現実に音が良くなってるというのが、不思議というか嬉しいというところですね。
黛:僕が今日、製品説明を聞いて、音を聴いて、それで『こういうことなのかな』と思ったのは、アイドリングストップ車用として絶対的な容量がないとバッテリーはどんどん消耗していってしまう、それに充放電が速くできないと……クイックチャージ性能と言っていますが……このすぐに充電できてすぐに放電できることと大容量が両立しているのが、この音が出せた原因なんじゃないかという気がしています。
和田:そうだね。僕もそこが効いている感じがします。
黛:過去の、あるいは他社のバッテリーは、ただ大容量というだけで、充放電の速度までそれほど考えられてなかったんじゃないでしょうか。
和田:考えていないわけじゃないだろうけれど、caosが一歩も二歩も進んでいるということでしょう。瞬間電力供給能力が上がっていると考えないとちょっとこれほどの音の違いは……。
黛:ではどうして音場感や奥行きがあんなに違うんでしょうね?
和田:そうなんだよね、そこが不思議。
黛:そこがわからないですよね。
和田:ダイナミクスとか低域の厚みというところに関わってくるのはわかるんだけれど、ステレオイメージが豊かになったり、空間感が広くなったり、その中にホログラフィックに細かいオーケストラの音が綺麗に並ぶところが、他のバッテリーよりもよくわかるところが不思議なんですね。
黛:もしかしたらですけれど……サブウーファーを付けるとサウンドステージってぜんぜん変わるじゃないですか。低域が本当にきっちり再生できるようになると、サウンドステージってガラッと変わりますよね。本当にその場の雰囲気が感じ取れるようになったりする。だから、そういう……。
和田:その領域の音が増えると、もっと空間感というかホールトーンの厚みみたいなもの……音の濃厚な感じがわかると思う。
黛:今日聴いたのは160mmウーファーの2ウェイシステムとAVナビの内蔵アンプでしたけれど、これがサブウーファーがついて、なおかつ外部パワーアンプでドライブしてというシステムで聴いたら、もっと違いが出ていたかもしれませんね。
和田:そうだったかもしれないですね。
黛:はじめにも言いましたけれど、これまでのcaosバッテリーとは違う、新しい路線でスタートしたんじゃないかなと、やはりクルマとしては圧倒的にアイドリングストップなどが増えていくから、まずここに新技術を投入してみて、それが順次、バリエーションモデルへフィードバックされていくという感じかなと……。
和田:カーオーディオって、2ウェイだったり3ウェイだったりして、かつ、サブウーファーが着いてますよね。それ全体をクルマに積んでいる1個のバッテリーでドライブするんですよね。
黛:そうですね。
和田:そうすると、この新型caosにすると、ますますこの新型バッテリーのありがたみというか御利益が、もっとよくわかるかもしれない。だってサブウーファーなんて大飯喰らいでしょう? だからますます差が感じられるような気がします。
黛:最初に和田さんが再生された曲を聴いて『あれ?』と思うところがあって、後から自分が聴き馴染んだ曲を再生するとはっきりわかりましたけれど、表現力が全然違うんですよ。ほかのバッテリーと比べると圧倒的に違いがありました。演奏家がそこで自分の音楽として表現しようとして音にニュアンスを託して、それが聴く側に伝わってきて感動を与えるわけですよね。僕は音が出てきたときに『そうだよね。この音こういう風に鳴って欲しいと思ってたんだよね』と初めて気づかされるようなことがある。
たとえば、ムターのヴァイオリンなんかでもすごく良い状態で再生されたとき、プレヴィントの演奏で聴ける彼女の独特な魅力というのが確実に伝わってくる。
小澤征爾のサイトウキネンの幻想交響曲でも、これはデッカのスタッフの録音だからすごくスペクタクルに録ってあって、『松本文化会館行ったって絶対こんな音では聴けないぞ』という感じの音なんですけど、そういう再生装置を通して聴く音楽の楽しみ、その醍醐味のようなものが、とても濃密に伝わってくる。そのあたりが新caosと他のバッテリーと決定的に違うところですね。それはもう本当に、なんでこんなに違うんでしょうねと思わず言いたくなるほどです。
和田:こう……なんて言うんだろう……。何度も同じ話を繰り返しても仕方がないんですけれど、高級なパワーアンプに換えたイメージがありました。たぶん黛さんは、わりとダイナミックな音楽を大きな音で聴かれるだろうと思って、僕は比較的センシティヴな音楽を選んで、それを小さめの音量で聴いたんですよね。僕がここで聴こうと思ったのは、透明感とか音数の多さであったりとか、精細感とか空間がどれくらい広く聴けるか、そしてそこにどれだけ綺麗にイメージした通りの音像が浮かび上がるか……なんだけれど、新型caosだけがきちんと再生してくれた。
だから僕がもし、カーオーディオコンテストで何かを喋るとしたら「バッテリーまで真剣に考えないと、優勝できないですよ」って言わざるをえないよね。
黛:コンテストに限ってという非現実的な話になりますけど、クルマがアイドリングストップ車じゃなくても、バッテリーをこのcaosアイドリングストップ車用を使わないと勝てないみたいな(笑)。
和田:本当にそうだね。
黛:和田さんがいみじくもおっしゃったとおりなんですが、僕は一番びっくりしたのはエネルギー感の違いです。ベースの音をとってみても、全然違うんですよ。パチっとくるんです。それが『えぇーこんなに違うんだ……』と思いました。音量は同じなんですよね、別に変えたりしていない。なのに音に漲るエネルギー感とか存在感みたいなものがすごく違っていました。
和田:ジャズヴォーカル聴いてましたよね? えぇと……。
黛:ダイアン・リーブスです。
和田:そのダイアン・リーブスの曲の冒頭がベースで始まりますよね。あのベースの弦が震えてボディが鳴っている感じが、新型caosだとわかるんですよね。他のはベースがでかい音で聴こえるだけ……。そういうレベルでした。新型caosはニュアンスがとても良く出ていた。
あとね、びっくりしたことがもう一つあるんです。
黛:なんでしょう?
和田:幻想交響曲で、5楽章の真ん中くらいでグランカッサ(大太鼓)がフォルテシモでどかーんと鳴らされるところ、AVナビの内蔵パワーアンプだとクリップするんですね。この新型caosはクリップしているのに音が汚れないんです。従来のcaosでは、クリップすると音が汚れたんです。
黛:ほんとうはもっと音量を下げなければいけなかったんですけどね……。
和田:でも、クリップしても汚れた音に聴こえないことがわかっただけでも、大きめの音量で聴いた意味がありましたよ。
ASW:確かに、どのバッテリーで聴いても明らかにひずんでいる音なんですけれど、ずいぶん聴こえ方に違いがありました。
和田:そう、ひずみ感が違うんだよね。聴いた音楽のどの部分をとってみても、とても面白い体験でした。
黛:演奏に余裕が感じられる。本当に上手い人が楽々とやっているような感じがしました。楽しく聴けるんです。新型caosは他のどのバッテリーとも決定的に違うなと思いました。
今度のcaosは、構造の改良に加えて、工法の見直しをしたといいますから、やはり小さな積み重ねがあったうえで、これまでの路線とは違うところへパーンと飛び移ってしまって、一段高いところへいって、さらにその先を目指して歩みを進めているのだろうと感じます。歴代のcaosを聴いてきた者としては、ある種感慨深いものがありました。
和田:これまで少しずつ良くなってきたものが、ぽんと上に上がった感じですね。
黛:そうです。ただ上に上がったというのではないんです。これまでの進化の延長線を辿ったのでは限界があったのではないかと思うんです。ベースの音が違うとおっしゃったじゃないですか。和田さんが言うとすごく説得力があるんだけれど……。これまでのcaosでは、新しくなれば良くはなるけれど、たとえばアタックのあの感じはなかなか出なかったのではないかと思うんです。
和田:僕が再生したスペインの女性ヴォーカル「ブイカ」というアーティストのアルバムですが、僕はこのアルバムとほぼ同じメンバーがブルーノート東京で演奏したのを聴いているんです。エレクトリックベースを弾いている人が……たぶん65歳くらいのおじいちゃんなんだけど……ものすごく上手なんですけど、つねに親指でミュートして優しい音で弾いているんです。ダイアン・リーブスのああいう力強い演奏じゃなくてソフトに聴かせるんです。だから、ベースの音がパーカッションに埋もれてあんまりラインが綺麗に浮かばないんですけど、この新型caosだけはすごくよくわかった。それもとても不思議でした。ベースがくぐもってよくわからなくなることなく、ソフトな演奏はソフトなりにちゃんと存在感がありました。
ジャズのピアノトリオも聴きまして……本田珠也というドラムがリーダーなんです。ここでは彼のシンバルがきちんとホームオーディオの高級なシステムで聴くとシンバルがすごく澄んでいて、優しく叩いていても音が空間にふわぁーとオーバートーンが拡がって音がすぅーっと消えていく、それが新型caosだとわかる。他のだと、ただシンバルが「チン!」と鳴るだけ。オーバーに言うとですけど。
あの、読者の方にお断りしておくと、わかりやすいように30倍くらい誇張して話をしているので、多少は割り引いて読んでください(笑)。でも、オーディオをやっている身としては、わずかとも思われる差がすごく大事なんです。本物のようにシンバルは聴こえたい、本物のようにベースは聴こえたいと思っているので……再生音だから当然本物じゃないんだけれど……本物感がはんぱない感じだよね。
ASW:試聴をご一緒させていただいていましたが、おっしゃりたい気持ちはよくわかります。
和田:それくらいビックリしたんです。予想を覆す度合いが大きくてね。
黛:僕は試聴で使う曲を変えることはなくて、新しい曲を聴く機会が少ないんですが、和田さんが再生された曲を聴いて『最近はこういう録音のものもあるんだな』と刺激的な体験だと感じました。でも、これはバッテリーが良かったから音楽の表現を正確に感じることができたということなんでしょうね。
和田:本田珠也のトリオは、日本のスタジオで録音して、同じ系列のマスタリングスタジオでデジタルマスタリングして、ハイレゾもそこで作っているんです。僕は両方のスタジオを知っていて、エンジニアも知ってるので、音を良く理解しているんです。収録はこの試聴室の2倍くらいの広さのスタジオで、あまりついたてを立てずに……普通はベースだけブースに入ってセパレーションを高めるんだけれど……、同じフロアに並んで“せーの”で録っているので、当然ほかの楽器の音もマイクがひろっている。だからこそ本当に上手く再生すると、ステレオイメージが綺麗に浮かぶんです。
そんな音楽が、カーオーディオの世界でこんなに見えるように再生できるんだと驚きました。この平面バッフルを使った試聴方法の良さというのも理解しているつもりですが、みごとでした。
黛:カーオーディオでも電源ケーブルにこだわっている人は多いんですね。確かにそれで成果は上がると思うんだけれど、でもまず変えるべきはバッテリーからじゃないかなと感じますね。
和田:おおもとからだね。
黛:おおもとをきちっとしてから、それから全部見直すと、もうワンランク上の音が可能になる。
和田:おおもとをちゃんとすると、その後に何かを変えても、どこを変えたから何が変わったというのがわかりやすくなるでしょう。
黛:間違った方向に行かないですよね。
和田:カーオーディオでいい音を作ろうとしたとき、おおもとをしっかりさせないと音を整えるときのアプローチを見誤りがちになります。どこを整えればいいのかがはっきりしないまま、割れ鍋に綴じ蓋的な対処をしていくと、生理的に受け付けない音になりがちで、僕もこれまでにそういったクルマをたくさん聴いてきました。
DSPがあるから、割れ鍋に綴じ蓋がやりやすくなってきているのだけれど、あれで整えられるのはピンポイントなリスニングポジションだけで、少し首を振ったりしただけで位相がおかしくなる。そうならないためにも、ちゃんとした環境でスピーカーの位置や向きを適切に決めて調整できることが必要でしょうね。今回の試聴では、バッテリーというおおもとが、再生音を大きく左右するということがわかりました。
黛:新型caosアイドリングストップ車用の力を見せつけられましたね。カーオーディオファンの多くの人に試してみてもらいたい音でした。
特別企画/協力:パナソニックカーバッテリー