製品開発編
既存のワイヤレススピーカーの枠を大きく超える製品群のこだわりとは
DENON HOMEシリーズに用途の広い多機能なワイヤレススピーカーが加わった。サイズと形状の異なるDENON HOME 200、DENON HOME 400、DENON HOME 600の3機種で構成されるが、いずれもスピーカー1台で広がりのある空間オーディオを楽しめることをアピールする。さらに、スペースに余裕があるなら2台をペアリングしてワイドなステレオ配置へのアップグレードもできるし、別の部屋に置いた複数台のHOMEスピーカーで同一音源を鳴らす用途にも対応する。既存のワイヤレススピーカーの範疇に収まらない用途の広いシリーズなのだ。

Wireless Speaker System
DENON HOME 600
オープン価格(実勢価格13万680円前後) 7月末発売予定
●使用ユニット:19mmトゥイーター×2、66mmミッドレンジ×2、165mmウーファー×2、66mmアップファイアリングスピーカー×2
●搭載アンプ数:8
●寸法/質量:W451×H226×251mm/8kg
DENON HOME 400
オープン価格(実勢価格9万3,170円前後)
7月末発売予定
●使用ユニット:19mmトゥイーター×2、114mmウーファー×2、25mmアップファイアリングスピーカー×2
●搭載アンプ数:6
●寸法/質量:W300×H219×D140mm/4.2kg
DENON HOME 200
オープン価格(実勢価格6万5,340円前後)
7月末発売予定
●使用ユニット:25mmトゥイーター×2、102mmウーファー
●搭載アンプ数:3
●寸法/質量:W140×H216×D140mm/2.2kg
大きく広がる音でリスナーを包み込む。それが新シリーズの開発テーマ
1台で空間オーディオを楽しむというコンセプトはサウンドバーとも共通するが、HOMEシリーズの3機種いずれもHDMI端子がなく、テレビに直接繋ぐ用途は想定していない。ホームオーディオの製品として、どんなポジションを目指しているのだろうか。

試聴、取材はデノン試聴室で実施した。写真左から、㈱ディーアンドエムホールディングス グローバル プロダクトディベロップメント エンジニアリングの、平木慎一郎シニアエンジニア(DSP開発)、金元洋平シニアエンジニア(トランスデューサー/ユニット担当)、斉藤天伸シニアマネージャー(シリーズの開発リーダー)、筆者の山之内さんとなる
「音楽をリラックスした雰囲気で楽しむことを最大の目的として開発しました。空間音場の再現という点では、横幅が広いサウンドバーの方が有利な面もありますが、ドライバーユニットのサイズや筐体設計の自由度においては、DENON HOMEシリーズにアドバンテージがあります。さらに独自の信号処理技術を組み合わせることで、これらの強みを最大限に引き出し、コンパクトでありながらも広がりのある音に包み込まれるような音楽体験を追求しました」(シリーズ開発のリーダー、斉藤天伸さん)
音へのこだわりの強さを、DSPの開発を担当した平木慎一郎さんは次のように説明する。
「AutoとPureという2種類の再生モードがあります。Autoはスピーカーでデコードしたドルビーアトモス音源の再生に加えて、ステレオ音源についても独自技術を用いて空間を広げる信号処理を適用します。一方のPureモードは、そのバーチャル化を含む複数の信号処理過程をまるごとバイパスして、増幅回路に直結するため、音の純度を確保することができます」
特にPureモードについては、デノンブランドが開発するハイファイオーディオの音決め一貫して担うサウンドマスターの山内慎一氏がチューニングを行なうなど、設計アプローチに妥協はない。
Autoモードで自然な広がりを引き出すための工夫として、複数のドライバーユニットを本シリーズのために新規に開発。DENON HOME 200はトゥイーター2個とウーファー1個、DENON HOME 400はウーファーとトゥイーター各2個に上向きユニットを2つ追加して合計6個を搭載。DENON HOME 600はウーファーを16.5cm口径と大型化し、前後に背中合わせで2個載せている。また、3機種ともにBluetoothにも対応するが、音質最優先の立場からメーカーはWi-Fi接続で使うことをすすめている。

内部構造の説明用の透明樹脂で作られた、DENON HOME 400のスケルトンモデル。天面に斜め上向きにマウントされているユニットに注目。また樹脂自体の分厚さや細かく加えられた補強用リブなど、デノンのオーディオ技術の様々なノウハウが注ぎ込まれていることがわかる
密閉型ボディの採用で低音の質感を高めている
Qobuz Connect、Spotify Connectのほか、HEOSアプリではAmazon Musicの選曲、本体設定の変更、試聴編で紹介するサウンドコントロール機能の調整などが行なえる。壁との距離など3つの設置条件から最適なものを選ぶイコライザー機能も用意するので、低音の量感補正に活用したい。
本体は樹脂製だが剛性を高めるために構造を強化し、密閉型とすることで低音の質感を高める工夫を凝らしている。特にDENON HOME 600は上下にブレイシングを追加してさらに堅固な構造を確保。ウーファーはこのサイズとしては異例なほど口径が大きいが、背中合わせに配置することで不要振動を打ち消し、ソリッドな低音を狙ったという。試聴編ではストリーミングサービスの音源を用いて各モデルの再生音を検証する。
試聴編
アトモス音源とハイレゾ音源で試す3製品特有の魅力とキャラクター
DENON HOMEシリーズの最新ラインナップ3モデルは、リスナーの耳元ではなく部屋の空間を満たす広がり豊かな音を目指したワイヤレススピーカーだ。一方、Pureモードのこだわりがどこまで成果を上げているのかも気になる。各モデルの音を実際に聴いてみた。
ミニマムな構成だがふわりと音が浮かぶ、DENON HOME 200
DENON HOME 200はウーファー1個とトゥイーター2個というミニマムな構成のワイヤレススピーカーで、音量など基本操作はHEOSアプリだけでなく本体天面のボタンでも操作できる。140mm×216mmとかさばらないサイズなので、机やテーブルなど好きな場所に置き、思いついたらスマホで曲を選んですぐ鳴らすといった気軽なスタイルにうってつけだ。パーソナル空間にぴったりだが、キッチンやリビングの片隅に置いて部屋を音で満たす目的にも使える。
Amazon Musicのドルビーアトモス音源をAutoモードで聴いたノラ・ジョーンズは、スピーカーを中心にした大きめの球面のなかにゆったりと広がる音場のなか、空中にふわりと声が浮かぶイメージで、聴く位置を変えても声と楽器のバランスに変化がなく、座ったり立ち上がったりと姿勢を変えても音色が大きく変わらない。一般的なハイファイスピーカーは特に上下方向の指向性に制約を感じることが多いが、DENON HOME 200はほぼ一定のバランスを保つのだ。左右の広がりはアプリで調整できるが、今回聴いた環境では空間の密度が自然な「+2」がベストと感じた。
Pureモードに切り替えてヴォーカルやヴィヴァルディの合奏曲をQobuzで聴くと、声やヴァイオリンがスピーカーよりやや高めの位置に定位し、空間は一気にコンパクトになるが、声の柔らかさや息遣いは聴き慣れたサウンドそのものだ。じっくり聴きたいときはこちらをおすすめする。

DENON HOME 200は、円筒形のワンボックススタイルのステレオスピーカー。高域用に左右2つのユニットを、角度をつけてマウントすることで、ステレオ感を獲得する仕組み。天面にはユニットは搭載されていない

接続端子は、3.5mmアナログミニ端子とUSB Type C端子、電源コネクターのみ。USB端子は、メモリーストレージもしくは市販のUSB Type C変換のイーサネット(LAN)アダプターの接続に使う。それ以外にはWi-Fiセットアップ用のコネクトボタン、Bluetoothボタン、マイクミュートボタンが備わる。写真はDENON HOME 200で、他の2機種も同じ装備となる
DENON HOME 400は上方に加えて奥行方向まで音の余韻が広がる
上向きのドライバーが2個備わるDENON HOME 400は、上方だけでなく奥行方向にも音場が広がり、低音から高音までふわりと広がる余韻が身体を包み込む。DENON HOME 400とDENON HOME 600はサウンドコントロール機能では左右方向に加えて、高さ方向も「±5」の範囲で調整でき、こちらは音源によって最適な設定が変わる。高さも左右も「+2」〜「+3」ぐらいが違和感がなさそうだ。試聴したのはいずれもQobuzのステレオ音源だが、バーチャル処理を加えたことで音色に違和感が生まれることはほぼなく、声や独奏楽器にも芯があり、音像が曖昧になるといった不満もない。
Pureモードで同じ音源を再生すると、DENON HOME 200よりも低音の厚みが感じられ、帯域バランスとしてはこちらの方が自然だ。特にヴィヴァルディの合奏協奏曲の安定したバランスは心地良さに繋がり、リラックスして音楽に浸れる良さがある。レジンを用いた樹脂製ボディが共振するのではないかと心配したが、振動モードの制御が適切なのか、大きめの音量で聴いても低音が大きくぶれたり、尾を引く様子はない。ストレスなく音楽に集中できるのはそこにも理由がありそうだ。

コンパクトな筐体に2ウェイスピーカーを2組と、アップファイアリング(上向き)スピーカーを2基搭載したDENON HOME 400。上向きスピーカーがあることで、ドルビーアトモス再生の臨場感を大きく高めることを訴求する
立体的かつ明瞭に音が宙に浮く低音再現も別格のDENON HOME 600
DENON HOME 600は16.5cmウーファーを2個内蔵するだけに他の2機種に比べると存在感があり、重心が低く分厚い低音の力強さも別格だが、共振が少ないのはDENON HOME 400と同じで、質感の高い低音を引き出すことができる。Autoモードで聴いたジェニファー・ウォーンズやスティングの音源は、空間の広がりだけでなく、音場に隙間がなく密度感がある点にも長所があり、より自然な広がり感が得られる。
Pureモードに切り替えると、立体的で明瞭なヴォーカルの音像が空中に浮かび、ベースもアタックが明瞭なのでビートを刻む力が明らかに強まる。スピーカーに音が張り付くイメージではなく、小型のブックシェルフスピーカーを聴いている感覚に近い。実際に目の前にあるスピーカーの外観と音の実在感やスケールの大きさが良い意味で一致しないので、最初は少しとまどうほどだ。このレベルのサウンドで普段から音楽を聴いていると、さらにその先を求めるマニア心が刺激されるかもしれない。本格ハイファイオーディオへの入口としての役割を担えるスピーカーだと思う。

シリーズ最上位のDENON HOME 600は、本体中央の前後に165mmウーファーを搭載しつつ、筐体の左右に高域/中域ユニットを独立搭載。さらにアップファイアリングスピーカーも66mm口径と大型化し、効果を高めている。なおシリーズ3製品に搭載されているユニットは全て新開発された専用品で、そのことからもいかに力の入った製品群であるかが理解できよう
新しいDENON HOMEシリーズの「1台だけで広がりのある空間再現を狙う」というコンセプトは、主要なストリーミングサービスで空間オーディオの音源が充実してきた現在の環境に焦点を合わせたもので、とても良いタイミングで登場したと思う。それだけでなく、自然な鳴り方で音楽をじっくり楽しむためのPureモードを用意し、その完成度を高めていることが、本格オーディオブランドであるデノンが送り出す本シリーズならではの強みだ。

中央のスタンドにセットしているDENON HOME 600を試聴しているところ(左右のDENON HOME 200とDENON HOME 400はヒートアップ中)。電源ケーブルだけの接続で、立体的なドルビーアトモス再生と本格サウンドを実現した
>本記事の掲載は『HiVi 2026年夏号』




