オーディオテクニカは、同社60周年記念MCカートリッジ「AT-MC2022」の後継モデルとなる新製品「AT-MCD1」を、現在開催中のHIGH END VIENNA 2026で発表した。市場想定価格¥1,870,000(税込)で、日本では6月12日に発売される。

画像1: オーディオテクニカ、スタイラスチップ一体型ダイヤモンドカンチレバーを搭載したMCカートリッジ「AT-MCD1」をHIGH END VIENNA 2026で発表

 AT-MC2022は、同社の伝統や技術の集大成として、さらにスタイラスチップ一体型カンチレバーや精密なカートリッジハウジングといった最新技術を取り入れた限定モデルとして、優れた応答性とダイナミックな表現力を実現。発売早々に完売となった。

 その後、AT-MC2022の再販を望む声も多く寄せられる中、同社ではAT-MC2022の性能を上回ることを目標に、新たなフラッグシップ量産モデルとして「AT-MCD1」の企画・開発を進めてきたそうだ。

 そのAT-MCD1では、スタイラスチップ一体型ダイヤモンドカンチレバーを採用している。アナログレコードの再生では、スタイラスチップでピックアップした機械的振動をカンチレバーと呼ばれる棒状のパーツで発電コイルに伝え、電気信号を生み出している。

 多くの製品では、コストや技術的な制約からスタイラスチップとカンチレバーには別々の部品が使われているが、AT-MCD1ではこれを一体化、レコードの音溝の動きをより正確に発電コイルに伝えることができるようになっている。なお素材にダイヤモンドを選んだ理由としては、ボロンやベリリウムよりも密度は大きいが、振動の伝搬速度がもっとも大きい点を重視してのことという。

画像: 模型を使って、「AT-MCD1」の改良点を教えてもらった。写真で担当者が指さしているのが、スタイラスチップ一体型ダイヤモンドカンチレバーだ

模型を使って、「AT-MCD1」の改良点を教えてもらった。写真で担当者が指さしているのが、スタイラスチップ一体型ダイヤモンドカンチレバーだ

 ここまではAT-MC2022でも同様だが、AT-MCD1ではダイヤモンドカンチレバーの軽量化にも取り組んでいる。きわめて微細な加工によってカンチレバーの先端上側をより深くカットして重量を削減、機械的共振のピークを抑制して、高域の表現力を一層向上させたという。

 もうひとつ、AT-MC2022ではスタイラスチップにマイクロリニア針を採用していたが、今回は新形状のシバタ針に変更された。オーディオテクニカのシバタ針ではこれまでR2.7✕r0.26milというサイズが使われていたが、AT-MCD1ではR2.7✕r0.08milとした。この数値は針先がより薄くなったことを示しており(進行方向に対して横から見た側面の曲線が変化)、複雑に変化する音溝からより精密に情報を拾い上げることができるそうだ。

 カートリッジのハウジングはチタンとエラストマー、アルミのハイブリッド構造。チタンは音響的な響きとしても優れた性能を備えているが、一方でアルミ等に比べて比重が高いため、カートリッジ全体としての質量をどう抑えるかも重要という。というのも、カートリッジの質量が大きいと、トーンアームを含めた全体の最低共振周波数が低下して、アーム自体の動作が不安定になったり、再生に支障をきたすこともあるからだ。

画像2: オーディオテクニカ、スタイラスチップ一体型ダイヤモンドカンチレバーを搭載したMCカートリッジ「AT-MCD1」をHIGH END VIENNA 2026で発表

 今回は5軸切削加工機を導入して複雑で繊細なデザインを実現、肉厚も最小に抑えることで、優れた剛性と軽量さを両立している。表面処理にはイオンプレーティングを採用、光沢感のある黒い発色で、高級モデルに相応しい外観を実現した。

 その他、「AT-ART20」で開発されたフロントヨークの厚みを増やした磁気回路も採用、磁束密度が強化されたことで出力電圧が約15%向上したそうだ。ターミナルピンは現行製品に対して金メッキの厚みを約30倍に増やし、接触抵抗の低減を実現した。

 パッケージもこだわったもので、カートリッジの保管用ケースにはヘッドシェルも収納できる新規設計の天然無垢チェリー材を採用。プラスチックを排除した美しい仕上げで、所有者は高い満足感を得られるはずだ。

 またAT-MCD1は修理サービスにも対応しており、カンチレバー交換が¥1,122,000、性能検査サービスが¥22,000(どちらも税込)とのこと。高価な製品なので、こういったサポートが受けられるのは嬉しいだろう。

画像: チェリーの無垢材を使った保管用ケース

チェリーの無垢材を使った保管用ケース

 オーディオテクニカの試聴室で、AT-MCD1の音を体験させてもらった。

 『ロドリーゴ:アランフェス協奏曲』では、ギターの細やかさ、しなやかさが出ている。低域も豊かに再現されるが、比較的すっきりめで、力押しで迫力を出そうという方向ではない。

 鈴木勲トリオの『ブロー・アップ』から「アクア・マリーン」で、AT-MC2022とAT-MCD1の違いを聴かせてもらう。AT-MC2022は明瞭で、きりっとしたサウンド。演奏もとても鮮明に再現されている。AT-MCD1は、より深みが出てくる印象で、キレのよさとていねいさを備えた大人っぽい音になる。

 UAレコードから情家みえ『ボヌール』のA面1曲目「Lover,Come Back To Me」では、情家さんの声の質感、発声のキレが生々しい。ドラムやベースの演奏でも、低域の安定感や厚みが素晴らしかった。

画像: オーディオテクニカの試聴室で、テクニクス「SL-1000R」とオーディオテクニカのアキュフェーズのMCトランス「AT-SUT1000」、アキュフェーズのフォノイコライザー「C-47」といったシステムで様々なレコードを再生してもらった

オーディオテクニカの試聴室で、テクニクス「SL-1000R」とオーディオテクニカのアキュフェーズのMCトランス「AT-SUT1000」、アキュフェーズのフォノイコライザー「C-47」といったシステムで様々なレコードを再生してもらった

 オーディオテクニカの60周年記念モデルとして注目を集めたAT-MC2022からさらに進化し、量産モデルとしても高い完成度を備えたAT-MCD1は、音の立ち上がりの速さを備え、音像の厚みや強靭な低域表現が楽しめる魅力的な製品に仕上がっている。熱心なレコード愛好家はぜひその音を体験していただきたい。

「AT-MCD1」の主なスペック

●型式:MC型
●再生周波数特性:20Hz〜50kHz
●出力電圧:0.55mV(1kHz、5cm/sec)
●針圧:1.7〜1.9g(1.8g標準)
●スタイラス:シバタ針(カンチレバー一体型)
●カンチレバー:0.22mm角ダイヤモンド
●カートリッジ取り付けねじ穴:M2.6×2
●寸法/質量:W17.7×H17.3×D26.7mm/9.5g

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