作家・タレント・セクシー女優とマルチに活躍している紗倉まなの新刊「あの子のかわり」が2月12日に発売された。今年は、作家デビュー10周年を迎える年になるそうで、初めての取り組みとなる妊娠・出産をテーマにした内容にまとめられている。女性としての葛藤が、氏の繊細な筆致で綴られている。ここでは、刊行を控えた彼女にインタビューを実施。テーマへ込めた想いや今の心境、今後の抱負を聞いた。

――新刊の発売おめでとうございます。これが「犬と厄年」のインタビューの時に伺っていた新しい物語でしょうか?
 ありがとうございます。そうです。その時は、絶賛執筆中でした。

――今回は、産みの苦しみはありましたか。
 実は今回、これまでとは流れが違っていて。いつもなら、小説を出す時にはある程度の長さ(短編、中編など)を決めて、担当編集者さんとやり取りしながら書くんです。ただ今回の「あの子のかわり」は、最初は短編の形で出し、担当編集者さんとやり取りをしているうちに“もっと読んでみたいです。内容を広げられますか”と言っていただけたことで喜びながら加筆して……、気付けば中編になりました。初出が10月発売の「文藝」2025年冬季号、書き始めたのは2025年の元旦だったのですが、自由に書かせていただいた分、掲載時期も予定(※春季号掲載)から随分と伸びました。

――最初の短編は、どういう始まりだったのですか?
 元々、これまで「文藝」さんで掲載させていただいたいくつかの短編を揃えて単行本化しようという話が出ており、それらの短編に通じるテーマでもある「水面下での戦い」を意識した物語を書いていました。

――その時から、妊娠・出産というテーマはあったのでしょうか?
 基本的な設定は変わっていませんが、その時にテーマとなっていたのは、女性――全然立場の違う者――同士の本音の言い合いが起きるようなものでした。

 出産や妊娠について書こうと当初はあまり意識していなかったんです。ただ、気持ちの奥底では書きたいことではありましたし、私にとっても身近なこととして、切迫した問題として捉えていたこともあったので。話を肉付けしていく過程で、女性という体や人生に否応にも引っ付いてくるこの課題を無視はできないな、と。

――「水面下での戦い」とは、バトルですか。
 バトル? そうですね、やはり人間同士ですから、思わぬところでの衝突は常に起こり得るとは思っています。口には出さない(出せない)けれども、心理的にはその気持ちを持ち帰って、悶々としている……ということもありますし、そうした気持ちを見落とさず、零さずに言語化したいという思いが常にあります。

 口にできない悶々としたものを全て小説に託そうと思ってはいないですが、書きたい動機に繋がる感情ではあります。自分の身の回りにいる人たち、それこそ、親しいマネージャーを含めて出産ラッシュだったこともあって、身近でありながら遠いと思っていたその出来事が、急に目の前に迫ってきたような衝撃がありました。彼女たちと同じように(妊娠・出産を)経験できる側に立ち、身体的にもカウントダウンを突きつけられてしまうからこそ、「選んだことに悔いがないか?」と将来の自分のことまで考えざるを得ない、というところもありました。

 私、実は母との関係が穏やかではないんです。仲はいいはずなんですが、常に激しく好きと嫌いという感情が両極端に行き来しながら、構築、破壊、再構築されていった関係で。それでいて母の言動に、人として決して許せないと強く思うこともあります。そのせいでよく口論していて、女性同士の言い合いや本音のバトルといったものに関心が向くのも、きっとこの母娘の関係がもたらしているのかもしれないです。それでいて、自分の母をまなざす中で、妊娠・出産について娘の立場から思考を巡らせていたところがあったのだろうと思います。

――小説を書き始めて10周年ですから、ある意味、機が熟した、のでしょうか。
 そうですね。そう考えると、書き始めたのが20代で今は30代に入っていて、世代的な物事の見方とか、感じ方とかは随分と変わったなと思っていて。興味関心事も、自分が置かれている立場や年齢によっても移ろいでいったな、と振り返りながら思います。年齢による説得力があるのだとすれば、自分が確信めいてこのこと(妊娠・出産)を書ける、書きたいと思えたタイミングが、まさに今だったという感じはありました。

――初掲の「文藝」2025年冬季号は、文藝賞の発表もあって内容も豪華ですね。ここには全文掲載されているのですか?
 はい、そのまま入っています。ただ、書籍では加筆・修正している部分もあるので、全く一緒ではないです。句読点とか言い回しも、単行本用のゲラの雰囲気を見ながら少し変えたりしています。文芸誌って1冊の中にいろいろな作品が全文掲載されているので、お得だなあと改めて思います…。パッと開いたページに掲載されている作品と偶然に出会う楽しみがあるのも好きなところです。

 この号(「文藝」2025年冬季号)で言いますと、山下紘加さんも犬が物語の軸を握っている小説を書かれているんですよね。犬文学ブームが来ているんじゃないか、ってSNSでどなたかが投稿されていたんですが、そうかもしれない、と感じました。犬の扱い(ペットから家族)の変化が、如実に文学にも表れていくのは不思議な話ではないですし、私も四年前に保護犬を家に迎えてから、生活の優先順位ががらりと変わりました。動物への接し方について常にさまざまな議論が激しく飛び交っていることにも、昔は感じなかった動物との関係性の変化を感じます。

――次は「犬と結婚」がテーマでしょうか(笑)。
 ちょっとそれはよくわかりませんが、次はちょっと寓話的なものを書きたいなと考えたりはしています。

――10年書いてきて、自分の中にあるものは出し切った感覚ですか?
 私も毎回、出し切った、次はきっともう書かないだろうって思うんですけど、出版するたびにいつも、不思議と何か思うことが出てくるんですよね。自分が連れ出されるような感覚と言えばいいのか、パソコンやスマホのメモで打ち込んでいると、思いもよらなかった一文や想いがパッと浮かんでくるんです。最初は10年も続けられるとは思っていなかったんですけど……。

――ちなみにタイトルはどのように決まったのでしょう。
 今回も最後の方でした。本当にタイトルを決めるのは得意ではなくて……。最初の段階での仮タイトルが「あの子のかわり」だったんです。最後に変わるかなと思っていましたけど、最終的にそれに決まりました。ちなみに平仮名であるのは「代わり」と「変わり」の二つの意味を持たせたいと思ったからで、決めたのは完成前であったのに、不思議とこの物語を表すタイトルになったと感じて決めました。

――「犬と厄年」の時も最後でしたけど、最後に決めたほうが書きやすいのでしょうか。
 そうですね。先にタイトル決めてしまうと、それに引っ張られてしまいそうなので、書く幅を狭めたくないという思いからいつも考えずに書きます。「春、死なん」の時も、最初、「蜆(しじみ)」っていうタイトルを考えていたのですが、周囲からは渋すぎませんかって言われて……。(笑)

――イベントの時に、「あの子のかわり」の他のタイトル案をクイズにしたら面白いかもしれません。
 それは面白そうですね。いくつか案があって、どれもすごく良かったので、みなさんに当ててもらうゲームとかしてみたいです(笑)。

――ところで、昨年は本厄(今年は後厄)でした。無事に過ごされたのでしょうか。
 ありがとうございます。無事に過ごすことができました。本厄も、意識していたおかげか、意外とあっけなく過ぎました。自分の中では占いと一緒だなと思っていて、事前に何か(嫌なこと)が起きるよと言われていれば、意識してそれを乗り越えようとしますから、きっと何も起きないのだろうと……。引き続き、今年も注意します。

――さて、少し内容の方に踏み込んでいきたいと思います。主人公の由良は、頭の中でずっとモヤモヤしている女性でした。紗倉さんご自身も投影されているのでしょうか。
 私よりもだいぶ飛躍した考えをする主人公なのですが、好きな人物です。何においても深く考えてしまう癖がある女性を描きたかったという思いもありました。そうした人物像を由良に投影させ、由良を完成させていく時には、「由良、そっちじゃないよ!」と何度ももどかしくなったり、とにかく思い入れが強い人物です。

――本文の出だしには惹かれるものがありました。
 前に帰宅する時に、ペットカメラのアプリを開いたら、いつもはたいてい寝ているイッヌ様がなぜか微動だにしないまま、テーブルの上に立っていて。思わず、え、と声が出て。急いで帰ったのですが、そのときの衝撃を思い出して書きました。ひやりとするこの感覚を持った時に、ああ、私は安心したいがためにペットカメラ越しに見ていたのだなと改めて思ったことも……。

――その出だしを見て、妊娠と出産へどう展開していくのだろうと少し考えました。
 そうですよね。赤ちゃんも、どのように動くか、何か口にしていないかと常に見ていないといけないんだよなと重ねて思って書いた出だしでもあります。

――主な登場人物は、主人公の由良、その旦那、友人の有里奈、そして犬が2匹です。それぞれのキャラクターはどのように考えたのでしょうか。
 思考を巡らせすぎて暴走しがちな由良には、喧嘩する際に「ポップ」を主張する夫がそばにいてほしいな、という個人的な思いがあったので……。ハリエットやブロン(犬)は、先程のカメラの話もそうですが、自分が守らなければいけないという存在として、人間の赤ちゃんと重ねて書いていました。

 有里奈は、親友であり、自分ができなかった(しなかった)妊娠・出産という経験をする存在。相手が遠くへ離れていくような寂しさがあっても、世の中では素直な祝福以外の感情はなかなか歓迎されない。歪んだ感情を抱きながらも、関係を継続したいと由良が思えるたった一人の親友、として書きました。

――会見でも、結婚や出産の質問は多くて、答えにくいですよね。
 20代前半の頃から、結婚しないんですかとか、子供は産まないんですかとか、「好きな男性のタイプは?」とセットで、ライトな感覚で聞かれるのが本当に嫌で……。聞いたところで何になるの? と毎回思っていたのですが、最近になって、そういったことを聞くことの失礼さや無礼さが浸透してきた感じがします。答えるのに困る質問だったので、ありがたいです。

――また作品のことに話を戻してしまい申し訳ないのですが、そういったことも踏まえて考えると、夫も友人・有里奈も、由良の思いを分かってくれる人として描かれていまね。
 そうですね。ポップ夫も有里奈も、枠にとらわれない寛容な姿勢で生きている。だから、基本は二人とも由良のことをフォローしてくれるんですけど、由良が拒絶して一人で空回りしたり、真面目でこだわりが強くうまく立ち回れなかったりする。そんな部分があっても二人は決して由良を責めたりはしない。「由良ちゃんは、なんか、戦っているんだね」なんていうセリフを吐いたりする夫に、もしかしたら読んでいる人は少しイライラするかもしれませんが、ここに出てくる人物の中では誰よりも穏やかで、受け皿が広いんですよね。

――モデルと由良(職業・メイク)の会話の中にも、思っているけどなかなか口に出せないことが盛り込まれていました。
 そうですね。同世代の人たちと話していると、よく話すことでもあるんですが……。「オワコン」と言われる速さ、その息苦しさみたいなものを書きたかったんです。人に対して勝手に「旬」の時期、「全盛期」と時期を決めて、だけれどその時期はあまりにも短くて、消費される速度も貶される速度も早い。時代性もあるのかもしれませんが、ベテランという言葉が、どうしてかオワコンという言葉に置き換わっているような違和感があったので、それも書きたかったというのがあります。

――ちなみに、本作では犬に名前――ハリエットとブロン――がついています。命名の由来は?
 犬と一緒に散歩している時に出会う人たちと、お互いの犬の名前を口にするのですが、印象に残ったのでメモしておいた名前だったんですよね。ハリエットは、家庭の長(支配者)という意味があるそうで、この物語の中にも出てくる「群れ」というキーワードで言えば、先頭に立っているのはやはりハリエットだな、と決めました。

――文中には、実体験がないから語れない、というワードも散見されました。結構実体験が反映されている?
 妊娠・出産に関しては、私も実体験がありません。ただ、先ほどお話したように、最近は身近にいた人たちが出産ラッシュを迎えていて、会うと子どもの話になるのでよく聞いていました。書くにあたって、改めてその経験がどうであったかを、取材としてたくさんの方に聞かせていただいたり……。私の母は、悪阻がひどくて20キロも落ちて大変だったと昔からよく言っていたので、そのイメージが強かったのですが、悪阻がない人もいるという話や、妊娠期間中に思っていたこともみなさん違っていて。そんな当たり前のことすら私は知らなかったんだ、と勉強になりました。

――最後に、今後の目標をお願いします。
 ありがとうございます。今は、書いたものを出版していただけるという恵まれた状況にいるだけなので、これがいつまで続くかは分かりませんが、書くこと自体はずっと続けていきたいと思っています。

 今後については、自分と離れた作品というか、これまでは比較的自分と地続きにある作品・内容が多かったような気がしているので、全く離れたものにチャレンジしたいです。それはもうずっと分かっていた課題なんですけど…。自分が見ていない世界も、いつか書いてみたいです。

――期待しています。今日は、ありがとうございました。

「あの子のかわり」

画像: 「あの子のかわり」

著者:紗倉まな
仕様:46判/仮フランス装/192ページ
発売日:2026年2月12日
価格:1,870円(税込)
装丁:佐藤亜沙美
装画:金井香凜
刊行:河出書房新社

●紗倉まな(さくら・まな) プロフィール
1993年、千葉県生まれ。
国立高専在学中の2012年にSOD専属女優としてAVデビュー。著書に小説『最低。』『凹凸』『春、死なん』『ごっこ』『うつせみ』、エッセイ集『高専生だった私が出会った世界でたった一つの天職』『MANA』『働くおっぱい』『犬と厄年』などがある。

小説『最低。』は瀬々敬久監督により映画化、東京国際映画祭のコンペティション部門にノミネートされた。文芸誌「群像」に掲載された『春、死なん』『うつせみ』が、それぞれ第42回、第47回野間文芸新人賞候補作となり注目される。

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