井土紀州監督の描く官能純文学作の第3弾となる『愛のごとく』が、いよいよ1月23日より公開中だ。山川方夫原作の同名小説を、『卍』『痴人の愛』でもタッグを組んだ脚本家・小谷香織とともに作り上げた注目の作品。ここでは、本作で映画初出演を果たした古屋呂敏と、古屋演じるハヤオを翻弄する女性・イズミを演じた宮森玲実の二人にインタビュー。役作りの苦労から、自身が演じた役柄の持つ深淵まで、話を聞いた。
――よろしくお願いします。公開が近づいてきました。まずは、いまの心境をお聞かせください。
古屋呂敏(以下、古屋) よろしくお願いします。すごくシンプルですけど、たいへんうれしいです。たくさんの方がこの映画から何かを見つけてもらえたらと思っています。
宮森玲実(以下、宮森) 初号を観た時の第一印象が、ここまで爽やかで清々しい不倫を題材とした映画があっただろうか! というものだったので、とにかく観てひとつの恋愛映画として楽しんでもらえたらいいなということに尽きます。
――宮森さんの演じたイズミは絶好調でしたね。
宮森 イズミはハヤオを引っ張っていくような存在感だったので、そうなるよう頑張りました。
――本作は、古屋さんにとって初の主演作となりました。決まった時の感想、役作りの苦労、現場での印象などお願いします。
古屋 僕自身、ドラマをメインにやってきた俳優ですので、オファーをいただいた時はすごくうれしかったです。一方で、映画の(現場の)空気感がどういうものだろうとか、そこにどのようにフィットしていくのか、どういう表現方法が正解なのかが分からないこともあって、正直、不安なところはありました。
――実際に経験してみて、ドラマと映画は違いましたか?
古屋 だいぶ違いましたね。ドラマだとカット数が多いこともあり、それに合わせた芝居や表情が求められますけど、映画では、そこに流れる空気感の中で生まれるものをどれだけ感じ取れるのかということが大事なんだと気づいて、面白かったし、楽しかったです。
――プレッシャーではなく楽しみだった。
古屋 はい。楽しみの方が強かったです。僕自身、作品ごとにチャレンジしたいという思いが強くありますし、この作品では宮森さんがガツンと向き合ってくださったこともあって、僕もそれに応えたいと思い頑張りました。
――素晴らしいです。宮森さんはオーディションで決まったそうですが、オーディションの雰囲気はいかがでしたか?
宮森 オーディションを見つけて台本を読ませていただいた時に、これは、今の私だからこそ出てみたいと強く思ったんです。ちょうど、自分が監督した作品の公開・宣伝・配給をしていた時で、自分で1本撮ってみたからこそ、次は新しい挑戦をしてみたい、ここまで深い恋愛模様を演じたことがなかったので、この作品なら新しい挑戦ができると感じました。
――初めての役柄(イズミ)、に惹かれた。
宮森 はい。原作や台本を読んだ時は、女性のイズミより主人公のハヤオのこじれている気持ちの方が、理解しやすいと感じました。逆にイズミは、ちょっと分からなかったんです。「どういう人か分からないからこそやってみたいです」と、オーディションで話した記憶があります。
井土監督は、ハヤオとイズミが泊まりに行った翌朝、屋外で語り合う場面を映像化したくて持ち込んだ企画だと仰っていて、オーディションでは、そのシーンを演じました。でも私、今の状態だと言えないかもしれません、と正直に話したのは覚えています。
というのも、それは経験というか撮影を重ねないと、(気持ちに)落とし込んで話せないセリフだと思ったからなんです。オーディションの感触は分からなかったですけど、出られたらいいなと思って帰りました。

――監督は、自身の動画サイトで、宮森さんの起用について、「場を明るくしてくれる雰囲気が良かったから」と話されていました。
宮森 あはは、オーディションを受けながら、自分の作品のチラシを配ってましたから(笑)。オーディションに落ちたとしても、ただでは帰るまいと思っていたので、それが明るさという面で印象に残ったのかもしれないです(笑)。
――お二人とも不安を持ちながら挑んだ作品ということになるでしょうか。物語の捉え方、役柄の印象・感想についてお聞かせください。
古屋 これは僕の解釈ですけど、台本を読んだ後に、すごく抽象的な、言語化しづらい感情が残ったんです。物語としては、とても素敵でまとまってはいるんですけど、僕も宮森さんと同じで、イズミに対して捉えきれない、理解できない感覚に陥りました。
ハヤオを演じるにあたって、じゃあ僕(ハヤオ)はなぜイズミに惹かれたんだろうという目線で台本を読んでいたので、不安定さとか、抽象的な存在であるイズミの本体・本心を探す旅をすることが多かったように思います。でも、それ自体がこの作品のメッセージなのかと感じることもあって、「愛のごとく」というタイトルにはなっていますけど、ハヤオは、自己中心的な考えで動くし、誰かを思うから行動するというよりかは、自分(たち)の足りないものを埋めるために2人が一緒にいる感じもするし、という風に、言葉がぐるぐる回ってしまうんです。つまりは、そこに流れる空気感が見えづらい瞬間があって、すごく面白い経験でした。
加えて、ここまで気持ちを内に秘めて、それでいて不安定な役柄は、これまであまり経験してこなかったことによる不安もありました。父親がアメリカ人ということもあって、どちらかと言えばマイナス(陰)に行くよりも、出力(感情)をプラスに変えることの方が多い人間なので、そこは僕と一番違うところですし、(演じるにあたって)どこにチューニングを合わせるのかは、ずっと考えていました。
――自己中心的でありながら、意外と待っている印象も受けました。
古屋 どうでしょう。待っていたのかな? 間違いなく過去の恋愛から、いまのイズミに対しての感情はあって心は揺れているんですけど、一方でイズミもイズミで、不倫という形なので、そこに愛があるようでないような気もするんです。平気で、「このレストランは、旦那と来てるよ」と言ったりして、掴ませてくれないその存在って、この世の中にはたくさんあるとめちゃくちゃ感じていました。そういう、そこにあるけどなくて、掴めそうで掴めなくて、居るけど居なくてみたいなことが、この物語の大きな軸にあるのだろうと思っています。
――宮森さんはいかがですか?
宮森 ハヤオ自身は、今の言葉で言えば自意識の塊で、自分の中だけでずっとこうぐるぐると消化せずに感じたことを吐き出し続けている。私はまず、そこに惹かれました。
一方で、作品としては怪しげな光を放っている印象もあって、その怪しさの奥の手触りというか、それをすごく見てみたくなったんです。演じる側としてだけでなく一映画ファンとしても作品が出来上がることが楽しみになり、撮影に参加できるのがうれしかったです。
イズミを演じるにあたってはまず、どういう人間であるかを考えましたけど、果たして、彼を愛していたのか、いなかったのかみたいなことも浮かんで来ました。
不倫とは言え、いろいろな男性と関係を持つようなタイプではないし、マサキというパートナーがいるけれども、それは生活の安定とか家族としての関係できっとそれによる幸せも感じていたのだろうと。ただ、忘れられない人が再び目の前に現れてしまったことで、運命が変わってしまった。それもあって、気持ちに蓋をして、そうは見せないようにしながら、彼に近づいていってしまったのではないか、と。
関係を持ったあとも、ただ関係を持っているだけという雰囲気を出しつつも、きっと奥底では愛ゆえの行動だったことを端々に感じていたのだろう、それをうまく演じられればいいなと思っていました。とはいえ、自分(イズミ)がコントロールしているようで実は、ハヤオに転がされているんだと感じるところも多々ありました。
――古屋さんは役作りの一環で、(ハヤオの部屋の)セットに泊まり込もうとしたと聞きました。
古屋 最終的には、機材も多くて泊まれなかったのですが、普段は役を感じるために早く現場に入ったり、役に縁のある場所に行くなど、なるべく役柄の環境に身を置くようにしているんです。特にハヤオの部屋で起こる物語がとても濃密だったので、なるべくここにあるものや見える景色に慣れておきたいと思っていました。
――ところで、古屋さんから見てイズミはどんな女性に見えましたか。
古屋 掴めない存在ですね。なぜこういうことをするのか、なぜそういう言葉をかけるのか。健気に見えるようで、実はすごく振り回してくる。しかも、自分のものにはさせてくれないし。ようやく最後の最後で、初めて彼女の名前を呼ぶシーンがありますけど、そこで初めてハヤオは自分の意志を出します。それまでは常に、イズミと向き合っていても雲を掴むような感覚で、愛されているようでいて愛されていない……と感じていたように思います。
――ネタバレしないようにお聞きしますが、イズミの名前を呼ぶ――自身の感情を出すシーンの撮影はいかがでしたか。
古屋 この作品に出演するにあたって、愛とは何かとすごく考えたんです。このシーンのハヤオを演じる時に気付いたのは、愛って意志だと。つまり愛すると思うこと。その意思が初めて出た瞬間だったんです。その時本当に、ハヤオはイズミと一緒にいたいという気持ちを出します。演じていても、すごく清々しかったですし、天気も良かったので、(撮影で)イズミの背中を見た時に、「ああ、この人と一緒にいたい」と思えました。
――イズミの表情からは、復讐は終わった、という雰囲気も感じました。
宮森 本当ですか。実は私自身はあまり復讐とは捉えていなくて。いろいろな捉え方があって面白いですね。イズミとしては名前を呼ばれたことを内心喜んでいて、エクレアでも買って帰ろう、ぐらいの気持ちでした。
実はそのシーンのセリフは、読み合わせの時に古屋さんがアドリブで「イズミ」って言ってくれて、脚本の小谷さんもそれいいねとなって、追加されたものなんです。
イズミとしては、彼に気持ちを悟られないようにすることが大事で、ずっと“ごとく”のように紡いできた愛のすれ違いが、やっと向き合えた瞬間だと思いました。

――「イズミ」というセリフを入れたのは?
古屋 読み合わせの時に、ふと出てきた言葉で、無意識でした。お互いの距離を近づけたいとか、今までと違うよっていうことを伝えたくて出できたものだと思います。そこは、僕自身も好きなシーンになりました。
宮森 そのシーンは台本を読んだ時も、原作を読んだ時も、一番胸をざわつかせる場面だったので、説得力を持てるように演じたつもりです。
――ところで、ネタバレになるかもしれませんが少し踏み込んだことをお聞きします。イズミは最初からハヤオに近づこうと思っていたのでしょうか。
宮森 そうですね。もう、再会のところから始まっていたと思います。「傷つけられた分、傷つけたかった」と後半で語っていますけど、それはやはり裏腹で、(イズミの)スイッチを入れたのは、彼が小説を書いていなかったこと。こんなに才能があるのに何をしているんだ! っていう怒りが発端です。
――ありがとうございます。作品をより深く識ることができました。さて、話は変わりますが、お二人はホームシアターに興味はありますか?
宮森 それができたら幸せだなと思いつつ、私は映画館に行ってしまうので、もし家に設置できるのなら専門の部屋を作りたいです。棚にブルーレイを並べたりして。今後の密かな夢です。
古屋 僕はテック系好きなので、自宅にはプロジェクターを使ったサウンドシステムを組んで、きちんと音が回るようにしています。自分の出ているドラマは恥ずかしくて見られないんですけど(笑)、主にテレビドラマをよく見ています。
――では最後に読者へのメッセージと、新年ですので今年の抱負・目標をお願いします。
宮森 『愛のごとく』は、一見、濃厚な不倫映画のように思うかもしれませんが、描いているのは、実は純粋な愛の話なので、観てくださった方には恋愛っていいなって思ってもらえたらうれしいです。ひと時の楽しい時間、お互いの時間を共有している様を感じてほしいです。そして、ご自身の恋愛を自然と思い起こすかもしれません。日常的に実は孤独を飼いならしている方々が、少しでもそれを忘れてしまえるような作品であったらと思います。
2026年は愛のたくさんある年にしたいです。
古屋 この作品は、大人の愛と孤独に向き合った話だと僕は思っています。それは誰しもが持っているもので、その形も違えば熱量というか熱さも違う。その中でこの2人の愛と孤独、それぞれの向き合っている形を見てもらって、自分に投影してもらって、何度も観てもらうと、見え方が変わってくると思います。つまり、解釈がどんどん変わっていく物語になっていると思うので、そういうところを楽しんでいただきたいです。本当に素敵な作品に関わることができてうれしく思っています。
2026年も、楽しくお芝居がしたいです、します。
――ありがとうございました。
映画『愛のごとく』
2026年1月23日(金)より 新文芸坐にて一週間限定上映、全国順次ロードショー

<キャスト>
古屋呂敏 宮森玲実
蒼田太志朗 窪田翔 たなかさと 山崎真実 吉岡睦雄 佐藤真澄 芳本美代子 東ちづる
<スタッフ>
監督:井土紀州 脚本:小谷香織 企画:利倉亮、郷龍二 プロデューサー:竹内宏子 ラインプロデューサー:森川圭 撮影:中澤正行 録音:山田幸治 美術:成田大喜 編集:蛭田智子 音楽:高橋宏治 助監督:東盛直道 制作:牧野信吾 ヘアメイク:石山美子 衣裳:藤田賢美 インティマシー・シーン監修:佐倉萌 ポスター写真:三宅英文 スチール:今優介 キャスティング協力:関根浩一 営業統括:堤亜希彦制作:レジェンド・ピクチャーズ 配給・宣伝:Cinemago
2026/日本/DCP/100分/カラー/ステレオ/16:9/R15+
(C)2026「愛のごとく」製作委員会
公式HP
https://www.legendpictures.co.jp/movie/ainogotoku
●古屋呂敏 公式サイト
https://www.amuse.co.jp/artist/A8922/index.html
●宮森玲実 公式サイト
https://babel-pro.com/member/miyamori/

