1965年デンマークのコペンハーゲンに生まれた俳優、マッツ・ミケルセンの60歳を記念する一大上映が11月14日から新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国で公開される。『007/カジノ・ロワイヤル』の悪役ル・シッフル、ドラマ「ハンニバル」ハンニバル・レクター役などで世界的な名声を博した印象があるのだが、今回はなんというのだろう、より生身のマッツが感じられるような、デンマーク映画が主体のセレクション。約10年間、プロのダンサーとして活躍したというだけあって、別にアクション・シーンなどではなくても、ふとしたときに見せる体の動きも実にしなやかだ。
作品は『ブレイクアウェイ』(*)、『フレッシュ・デリ』(*)、『アダムズ・アップル』、『アフター・ウェディング』、『ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮』、『偽りなき者』、『メン&チキン』(*)。*は日本劇場初公開作品で、どの作品も基本的にデンマーク語中心に綴られる。名作の誉れ高いのはやはり、マッツにカンヌ国際映画祭 主演男優賞をもたらした『偽りなき者』であろうか(監督・脚本トマス・ヴィンターベア)。マッツ演じる幼稚園教師・ルーカスはまじめで信頼も厚い。周りの大人たちとの関係も良好。小さなコミュニティなのか、ほとんどのひとが家族ぐるみの知り合いでもあるようだ。あるとき、幼稚園児が「ルーカスに誘惑された」(実際の映画ではもっと直接的な表現だが)というようなことを他の者に告白する。むろんルーカスは事実無根と否定するのだが、か弱い女子園児の作り話と大人教師の必死の否定のどちらを世間が信頼するかといえば、やはり前者なのである。しかもその園児はルーカスの無二の親友の愛娘であった。注目される嬉しさか、悲劇のヒロインとして抜群の演技力を発揮する女子園児と、異常性愛者のレッテルを貼られて除け者にされてゆくルーカスのコントラストが哀しい。
日本劇場初公開作品『フレッシュ・デリ』(監督・脚本アナス・トマス・イェンセン)は、ちょっと落語的なユーモアも感じさせる一作。男ふたりで独立して立ち上げたものの、どうにも業績の冴えない精肉店が舞台だ。あるとき、電気工がやってきたのはいいが、そのまま気配を消してしまう。おかしいなと思ったら、その電気工は冷蔵庫に閉じ込められていた。凍死である。が、せっかくの店を閉じたくないし、つかまりたくない。だからその痕跡を消すべく、死体の肉で作ったマリネを商品にしたところ「おいしい」と大評判、店は長蛇の列に……。だが死体はこの時点ではひとつしかないから、早々に在庫が尽きる。客を喜ばせるためには新鮮な死体の確保がマストだ。いきなり別世界に飛ぶようなエンディングも含めて、文字通り一筋縄ではいかない作品である。
特集上映「〈北欧の至宝〉マッツ・ミケルセン生誕60周年祭」
11月14日(金)新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷 ほか全国公開
●ラインナップ
『ブレイカウェイ』(2000年/112分/デンマーク)※日本劇場初公開
『フレッシュ・デリ』(2003年/100分/デンマーク)※日本劇場初公開
『アダムズ・アップル』(2005年/94分/デンマーク)
『アフター・ウェディング』(2006年/124分/デンマーク)
『ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮』(2012年/137分/デンマーク)
『偽りなき者』(2012年/115分/デンマーク)
『メン&チキン』(2015年/104分/デンマーク)※日本劇場初公開
配給:シンカ


