作家、タレント、セクシー女優とマルチに活躍している紗倉まなの、エッセイにおいては6年ぶりとなる新刊『犬と厄年』が発売された。これは、これまでにnoteアプリに投稿していたエッセイを元にし、嘗て文芸誌に寄稿してきたエッセイを加えてまとめたもので、彼女が普段感じていることや、自身の体の変調を感じながらも、新しく迎えた家族=犬と過ごす微笑ましい日常が、明るい筆致で描かれている。ここでは、新刊の発売を迎えたばかりの彼女にインタビューした。

――よろしくお願いします。新刊の発売おめでとうございます。
 ありがとうございます。こうして一冊の形となって出すことができて本当にありがたいです。このエッセイ集はこれまで出してきた作品とは少し違って、2年ほど前にnoteに掲載していたものを元に、そこに書き下ろしエピソードを3本、さらに、嘗て文芸誌「群像」に寄稿したエッセイも入れるという形で1冊にまとめたものなんです。6年ほど前に書いた日常の記録が含まれていることもあり、その当時の家の中での出来事や感じたことと現在の生活との比較も面白くて……。現在のイッヌ様と一緒に暮らしている状況とは、生活の視線も全然違うんですよね。それもあって自分の日常の変遷を感じる1冊にもなった、という思いがあります。

――ご自身の歴史も感じると。
 はい。これまでは1年を通して連載したものを書籍化することはありましたけど、今回は締切や決められたテーマがなく、ざっくばらんに書いたエッセイと、嘗て書いてきたものを合体させたこともあり、いろいろな時期の、いろいろなエッセイが詰まっていて。なんだか感慨深いです。

――改めて過去作を読み返してみて、文章の書き方の変遷とかはあるものですか?
 エッセイに関しては基本的にはいつも気楽に書いていて、特に今回のnoteに掲載していたものは全部iPhoneのメモで書いていたこともあり、より肩の力が抜けていたと思います。私はフリップ入力がかなり速いみたいで、結構な文量ではあったのですが一瞬で書き切ったものも多くて……(笑)。とは言え、さすがに長文すぎて(たまに)指が攣ってました。

――入力している(書いている)ところを動画で見たいですね。
 パソコンを使った執筆作業は撮ったことはありますけど、iPhoneで書いているところは確かになかったので、いつかそれも撮ってみたいですね。

――これまでの作品と比べると、文体がフランクというかナチュラルな感じを受けました。
 そうかもしれません。個人的にも、出力(入力)するデバイスが変わると文体が変わる感覚があります。基本的に、小説に関して言えば文字数も多いですし、全体が見やすいこともあってパソコンで書いていますけど、そうすると、ちょっとかしこまったというか固くなりがちだと感じていて。でも、noteはiPhoneで書いていたので、SNSに投稿する際の気楽さに近いものを感じて、自然体というか、平易で素直な文体で書けた感じがあります。それは私の中でも一つの発見でしたし、そのおかげもあってこれまで出したどの作品よりも読みやすい一冊になっているかと思います。

 元々iPhone8を使っていたのですが、サブ用にと思って最新のiPhoneも購入していて、noteのエッセイを書く際はそちら(後者のiPhone)を使っていたんです。画面も大きくて書きやすくて筆も進んでありがたい、と感激したりしつつ……(笑)。

 でもiPhone8では指紋認証ですが、最新のものは顔認証なんですよね……。疲弊しているすっぴん顔の時にnoteを書こうとすると認証してくれないんですよ……。

――そうなんですか! その話ってどこかに書いたことはありますか?
 ないはずです。情けない話なのでなんとなく話すのを避けていました…… (笑)。

――そういう時は休んだほうが……。
 まあ、そういうことですね……。

――そんなに顔認証って厳しいのですか?
 最初に登録する時に、ちょっといきがってばっちりメイクした顔で認証させたので、iPhoneが戸惑っているのかもしれません(笑)。

――なるほど。少し話を戻しまして、文体の違いというのは、あまり意識していなかった?
 そうですね。基本的にnoteもエッセイも、ブログ感覚で砕けた感じで書くことが多かったです。以前に出した「働くおっぱい」もポップな文体だったと感じています。エッセイは自分に纏わることを書くので、やはり軽やかで明るい文体の方が書き心地が良い、というのはあります。一方で小説のように、テーマやある枠組みの中で書く際は文体が硬質になる感覚はあります。

――今回収録されたのはエッセイ集ですから、特にテーマがあって書いたものではない、ということですか。
 はい、自分の中で書き溜めたものをnoteに掲載して、それを収録したかたちになります。

――テーマのありなしで、書きやすさというのは変わるものですか?
 それはないですね。これまでの書籍も意外と、編集担当者さんから、何か書きたいものはありますか? と聞かれて始まることも多くありましたから。

――すると、日常の中でふと思いついたものを書くと?
 思いつくというか、(書くネタを)ずっと考えている感じです。何を見ても、何をしても、(文章にならないかって)常に考えているみたいな。もうそれが癖になっていて、何も考えてない時間がないんですよ。そうして考えているものの中でこれは書くべきだ! とか、これは別に書かなくていいか、とか精査をしています。

――何かきっかけがあってというものではなく、ずっと何かを考えている、と。
 そうですね、書きたい! と思ったら書く、という感じです。

――文章を書く時間というのは、ルーティン的に決まっているのですか?
 私は書き出すと止まらないので、結構、規制をかけていることが多いですね。小説は朝方に書いた方が頭は冴えているし、(内容が)整理されている感じがして書きやすい、というのはあります。

 一方で、エッセイや自分の思いを書く時は、夜の方が(内容が)より熟成された感があるので1日の終わりに書いたりしますけど、特にこだわりとかルーティンはないですね。

――では、書きたいと思った時が書く時。
 はい。あとは、締め切りが迫ってきた時ですね(笑)。もちろん、毎日空いた時間に書くようにはしていますけど、仕事柄、時間が不規則――夜からテレビの収録があるとか、お昼にラジオに出てあとはお休みとか、日によってバラバラ――なので、毎日決まった時間に何かをするのが難しいということもあります。その日その日で、タイミングがいい時、書きたいと思った時に書く、という感じです。

――締め切りは偉大ですね。
 そうなんですよ! 締め切りがないと、小説は多分、永遠に書き終わらないかもしれないです。締め切りが辛い、と思うと同時に、締切があってマジありがとう! とも思います。自分を追い詰めることは時に大事じゃないですか……(笑)。

――よく分かります(笑)。まあ、編集者はサバをよむこと(締め切りを早く言う)もありますけど。
 「締切の本当のデッドはこの辺りなのではないか?」と勝手に見当をつけることもありますが、お正月とか夏休み、ゴールデンウィークなんかは、思っていたより校了が早くて、ハっとすることもあります。仕事柄、休日なども曜日が決まっていないので、世間の休暇の感覚との足並みが揃っていないこともあり、“ゴールデンウィークだから締め切りが早くなります”と言われて、「え、もうゴールデンウィーク? 4月なのに!?(今年は早くて4月末からゴールデンウィークに入っている方々がいた)」と気づくことも結構あります。

画像: 「紗倉まな」の最新エッセイ集『犬と厄年』が発売。「その時々の想いを、素直な文体で綴っています」

――話は変わりますが、今回のタイトルはどのように決まったのでしょう。
 担当編集者さんが最後に提案してくださって決まりました。ただし、厄年にまつわる話はnoteに掲載したものではなくて、本にまとめる際に書き下ろしたものになります。三十路を過ぎてからの思いや体の不調など、女性は30代を迎えるといろいろな課題というか、壁があるんですよ。結婚、出産、仕事、体調(代謝)などなど、そういった変化を敏感に感じ取るようになってくる年齢だからこそ書けた文章でもありますし、この厄っていうのも、特に女性の場合は30代の半分以上が厄年になるので、まさに象徴的な言葉だなと思っています。それに対して私の生活の輝き=犬、が入っていて、対照的ですごいいいタイトルだなと思って決めました。

――ところで、犬はなぜイッヌ様なんですか?
 ネットスラングが好きで、そこからきています。名前を明かさないと決めているんですけど、芸名を新たに名づけるのもまどろっこしいし、“犬”では雑な感じがして嫌だな、と考えまして。“イッヌ”だと少し冷たい気がしたので、私の愛犬は“イッヌ様”だなと思って、敬愛する気持ちと共に“様”を添えてみました。すみません、私の謎のこだわりです。

――SNSを拝見すると、いまでは体重も18キロと巨体で、散歩もたいへんですね。庭付きの家なら、放し飼いできていいと思いますけど。
 そうですよね、室内の広さに加えて庭まである都心部の物件はあまり見当たらないですし、仮にあっても高すぎて正直手が出ないです(笑)。

――ところで、今回の作品は祖母からの反応はありましたか?
 この本に関しては今のところ来ていませんけど(6/26現在)、前回取材していただいた「うつせみ」の感想は、会見の後にメッセージが来て、「もっと取材されたかった!」って言われました(笑)。

――この本のイベントの時に、ゲストで呼んだら面白そうです。
 それは無理です! うちの母と祖母は手綱が利かないので、暴走しちゃいますから、本当にだめです……。

――そうなんですね(笑)。では月並みなお願いですが、本作のアピールをお願いします。
 はい、犬が大好きな方、家族が大嫌いな方、そして30代に突入してしんどさを抱えている方、それはもう男女関係なく、いろいろな方に読んでいただけたらとても嬉しいです。よろしくお願いします。

――最後に、「うつせみ」の会見で話されていた“斬新な作品を創りたい”は、その後いかがですか。
 おかげさまで、今年中には多分発表できそうです。もう少しお待ちください。

――期待しています。今日は、ありがとうございました。

撮影:横山英雅

書籍「犬と厄年」

画像: 書籍「犬と厄年」

著者:紗倉まな
6月26日発売
講談社 刊
四六判・並製・240ページ
¥1,700(税別)

●紗倉まな プロフィール
1993年、千葉県生まれ。工業高等専門学校(高専)在学中の2012年にSODクリエイトの専属女優としてAVデビュー。著書に小説『最低。』『凹凸』『春、死なん』『ごっこ』『うつせみ』、エッセイ集『高専生だった私が出会った世界でたった一つの天職』『働くおっぱい』などがある。初めて書き下ろした小説『最低。』は瀬々敬久監督により映画化され、東京国際映画祭のコンペティション部門にノミネートされるなど話題となった。文芸誌「群像」に掲載された『春、死なん』が2020年度野間文芸新人賞候補作となり注目される。

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