身に覚えのない罪で人生を狂わされてしまった人々の姿を、時にユーモアを交えながらも暖かいまなざしで映像化した『事実無根』。2023年、大阪での特別先行上映にて大好評。以後、海外のさまざまな映画祭へ出展され好評を得た本作が国内に凱旋。作品の地元でもある京都での先行上映を盛況の内に終え、いよいよ東京での上映が始まる。ここでは、ヒロイン大林沙耶を演じた東茉凜にインタビュー。出演の感想から今後の抱負まで聞いた。

画像1: 映画『事実無根』のヒロイン「東茉凜」にインタビュー。「人のことを考える大切さに気付いてほしい」

――よろしくお願いします。本作は先に海外の映画祭に出品されて好評を受け、国内では大阪、京都での上映に続いて、いよいよ東京での公開を迎えます。
 ありがとうございます。東京で公開できることがうれしいですし、実はこの取材が東京での初仕事になります。本当に、有り難いです。

――本作への出演はオーディションで勝ち取った、と聞きました。オーディションはいかがでしたか?
 最初、事務所から作品を紹介された時に、タイトルを見て、どういう作品なんだろうってすごく興味をひかれて、受けようと決めました。仮台本をいただいて読むと、日常生活の中でも、この人はこういうイメージだって決めつけてしまうことがあるなと思って、それは怖いことだと感じました。改めて人のことを考える大切さに気づかされました。

 そういう気持ちで臨んだのですが、オーディションではものすごく緊張して、セリフが飛んでしまったんです。監督に、台本を見ながらやってもいいですか? と聞くと、“台本を覚えなくていいから、自分の言葉でやってほしい”と言われたので、なんとか見ずに頑張ったのですが、感情がバッと出てきてしまい、床に落ちるぐらい涙が溢れてしまって……。

――感情が高ぶってしまった。
 相手役の方がいらっしゃったからです。一人ならそこまで感情は高ぶらないと思うのですが、対面でお芝居をして、コミュニケーションをとっていく中で、相手の感情を受け取って、自分の感情を出して行く作業をしていたら、セリフと一緒に自然と涙も出てきてしまって……。とても学びのあるオーディションでした。

――オーディションってそんなに緊張するものなのですか?
 ものすごく緊張します。始まる前は、2時間後にはカフェでゆっくりできるな~なんて思うんですけど、実際にその場に立つと、緊張してしまって、予定通りにできたことはないです。あらかじめ(役を)作り込んでいたとしても、結局は、その場で生じてきた感情に左右されてしまうので。

――監督からは選んだ理由は聞きましたか?
 私が一番感情が伝わってきたと、仰ってくださいました。決まった時は、私でいいんですか? って何度も聞き返しちゃいました。

画像2: 映画『事実無根』のヒロイン「東茉凜」にインタビュー。「人のことを考える大切さに気付いてほしい」

――出演が決まりまして、その後の顔合わせとか、本読みでの思い出はありますか?
 読み合わせの時、私の声が小さすぎて聞こえないので、全然掛け合わせができなくて……。監督は、どうしようって悩んだと、あとでお聞きしました。

――それも緊張ですか?
 はい、もうスタッフのみなさんからキャストのみなさんまで、ほぼ全員が揃っていて、しかも対面には監督や脚本家の方々が、私の両隣には、近藤さんと村田さんが座っていらっしゃって、プレッシャーも強かったです……。

――子供たちもいた?
 はい、全員いました。

――大人しくしているんですか?
 そうですね、読み合わせの時は静かにしているんですけど、撮影現場では、映画の雰囲気そのままで、しかも喧嘩ばっかりしていて(笑)、泣き始めてしまって撮影が止まることも何度かありました。監督が横で、頭を抱えていたのはよく見ていましたね。

――そういうのを見て、緊張がほぐれたりは?
 というより、毎日喧嘩をしているのが不思議だなぁと思っていました。

――喧嘩しているけど、毎日現場には来る。
 そうなんです。毎日きちんと来て、喧嘩しているんです(笑)。

――話を戻しますが、どうやって声が出るようになったのでしょう。
 最初のシーンはもう緊張しすぎていましたし、自信もなくて、みなさんから“大丈夫かな”って心配されるほどでした。けど、近藤さんと村田さんに助けられて、だんだん緊張がほぐれていった、という感じです。お二人から休憩時間に読み合わせをしようと提案いただいて、読み合わせを重ねる中で、徐々にコミュニケーションが取れる(声が出る)ようになりました。

――注文を取る時に間違えたり、お辞儀が深すぎてテーブルにおでこをぶつけたり、なかなかに生真面目というか、不器用な子でした。
 おでこをぶつけるところは、もともとは台本になかったんですけど、リハーサルでぶつけてしまったら監督が、それ役にあっているから本番でもやりましょうとなって、急遽取り入れたものなんです。

画像3: 映画『事実無根』のヒロイン「東茉凜」にインタビュー。「人のことを考える大切さに気付いてほしい」

――そうなんですね。次に、演じられた大林沙耶の印象を教えてください。
 台本を読んで感じたのは、すごく慎重で、繊細な子というものでした。加えて、強さもあると思っていて、その強さはどこから来ているんだろうって考えた時に、特に後半に発揮される、誰かを想う力がその強さに繋がっていると解釈できたので、お父さんを想う強さとか優しさを、後半の部分で出せたらいいなと思いながら演じました。

――前半では、ある意味天然な面が際立っていました。
 生真面目で、何事も一所懸命に丁寧に丁寧にやる。そうした慎重な性格とか繊細な部分が伝わるようなお芝居を心掛けましたけど、それがちょっと天然っぽさに繋がっていたのかもしれません。

――ご自身の芝居について、完成した映像を見ての感想はありますか?
 現場では、何度もリハーサルを行なって、そこで監督や近藤さん、村田さんからいただいたアドバイスで完成した、と思っているので後悔はないです。

――どのようなアドバイス?
 もうたくさんありましたよ。それこそシーンごとに監督と相談していて、次はこうしてみてよう、逆にああしてみようって、いろいろな案を考えてくださって。そのパターンごとにリハーサルをして、どれがいいのかを決めてから本番に臨んでいたので、とにかくすごく時間をかけて撮影してくださいました。

――すると、本番以外のバージョンがたくさんある。
 はい、いっぱいあります。

――DVDがリリースされたら、特典映像で見てみたいですね。さて、話は変わりますが、劇中に出てくるカフェは、実在するのですね。
 そうなんです。撮影が終わってから母と一緒に行きましたけど、いつ行っても満席で、本当に人気のあるお店でした。お客さんの層も劇中と同じで、年配の方もいらっしゃるし、子供たちも来ると聞きました。

――ネタバレしないようにお聞きしますが、天然そうに見える大林も、ふとした表情の中に、何か隠し事があるようにも感じました。
 そうですね、元々引きこもりだった沙耶が、ある覚悟を持ってお店に来ているので、なんとしてでもここで働きたいし、その反面、すぐに(隠し事が)バレてはいけない、ということは意識していました。

――近藤さん(カフェのマスター 星 氏)の生い立ちというか、過去の話を聞いている時も、少し沈んだ顔をしていました。
 カレーを食べているシーンですよね。そこは、マスターの生い立ちを聞いて、共感して、感動して、そんな人生を歩んできてたんやっていう想いを持っての顔だったんですけど、説明するのは難しいですね。ただ、話を聞いて自分も一歩踏み出してみようかなっていう、自身の感情が動くシーンでもあったのは覚えています。

画像4: 映画『事実無根』のヒロイン「東茉凜」にインタビュー。「人のことを考える大切さに気付いてほしい」

――その後、パンフに書いてあるので少しネタバレしても許されると思いますが、義父である村田さんが会いに来ます。すると、今までとは表情が一変します。
 実はそのシーンが、村田さんと初めての掛け合いだったので、とても緊張していました。沙耶は、お父さん(村田)が悪いことをしたと決めつけていて、寄りそうことができない状態なので、とにかく会いたくないという気持ちが強くて、激しく拒絶してしまうんです。

 その上、せっかくマスター(近藤)と少しはコミュニケーションが取れるようになってきたし、また人と繋がりを持てるようになったと思っていたのに、お父さん(村田)が現れたことで、途切れてしまう……。沙耶にしてみればもう、絶望しかないです。また人生を諦めなくてはいけないのかって。

画像5: 映画『事実無根』のヒロイン「東茉凜」にインタビュー。「人のことを考える大切さに気付いてほしい」

――ここから先は、全部がネタバレになってしまうので話を収めますが、一点だけ、沙耶はあることをします。それについての感想を聞かせてください。
 実は一回、リハーサルをしているんです。本番は負の感情を盛大に出しながらも、正確にしないといけないので、ミスできないという緊張感のほうが強かったかもしれません。

――本作に出演しての感想をお願いします。
 物事や人に対して決めつけることの怖さを知りましたし、人を想うことや、人の気持ちを考えることの大切さを、役を通して知ることができました。

――いよいよ東京で公開されますが、先行した京都での上映はいかがでしたか?
 当初は、2週間の限定上映だったものが、再上映が続いて最終的に7週間も上映していただけたのは、本当にうれしかったです。こんなにたくさんの方に観ていただけるとは思っていなかったので、観てくださった方々が周囲の方に広めてくだったお陰で、こうして東京にも来ることができました。感謝の気持ちでいっぱいです。

画像6: 映画『事実無根』のヒロイン「東茉凜」にインタビュー。「人のことを考える大切さに気付いてほしい」

 本当にこの取材や、試写会舞台挨拶(5/1)、初日舞台挨拶(5/10~)が、東京での初めての仕事になるので、東京デビューできたっていう想いですし、これも、観てくださったみなさんが広めてくださったお陰なので、舞台挨拶では感謝の気持ちをすごく伝えたいですし、よりもっと映画が広まるように、みなさんの心に届くように、精一杯お話したいです。

――ところで、プロフィールを拝見すると、特技にダンス、アクロバットとあります。このアクロバットというのは?
 小学生のころから習い事をしていたんです。

――ご家族の仕事の関係?
 いえいえ、まったく関係ないです。近所の公園に、アクロバティックな用具があったので、それで遊んでいるうちに、もっとやりたくなって、習い事として通うようになったんです。普通に、バク転とかできますよ!

――そのアクロバットを仕事に活かしたことは?
 今のところありませんけど、結構動けますので、将来的にはアクションにも挑戦してみたいです。

――女優としての今後の目標は?
 人と競うことが苦手なので、自分のペースでコツコツと地道に頑張っていきたいなと思っています。演じてみたい役柄・設定としては、サスペンス作をよく見ているので、犯人役とか演じてみたいですね。

――今日はありがとうございました。

映画『事実無根』

2025年5月10日(土)より 新宿K's cinema ほか全国順次公開

画像: 映画『事実無根』

●舞台挨拶情報
新宿K's cinemaにて、連日舞台挨拶を開催
 上映は1日2回(14:30、16:45)実施
・2025年5月10日(土) 近藤芳正/東茉凜/柳裕章監督
・2025年5月11日(日) 近藤芳正/東茉凜/柳裕章監督
・2025年5月12日(月) 村田雄浩/東茉凜/柳裕章監督
・2025年5月13日(火) 村田雄浩/東茉凜/柳裕章監督
・2025年5月14日(水) 東茉凜/柳裕章監督
・2025年5月16日(木) 安藤玉恵/武田暁/柳裕章監督

<ストーリー>
京都「そのうちcafe」のマスター・星隆史。ひとりで切り盛りしてきたが、利き手を骨折してバイトを雇う事になった。アルバイトに採用された大林沙耶は、高校を卒業したばかりで不器用を絵に描いたような性格。しかし一所懸命かつ異様なほど几帳面に働き、その姿はマスターはもちろん、常連の間でも注目の的となっていった。

そんな沙耶を公園から覗き見る男がいる事に気付いた星。問いただしてみると、セクハラの冤罪で大学教授の職を追われホームレスになってしまったらしい。この男は沙耶の元義理の父親だという。家族に迷惑をかけまいと、事件の渦中に妻と娘の元を離れたが、唯一後悔しているのは「セクハラは事実無根である」という説明を娘にしなかったことだった……。

<出演>
近藤芳正 村田雄浩 東茉凜 西園寺章雄 和泉敬子 仲野毅 西尾塁 しまずい香奈 小堀正博 武田暁

<スタッフ>
原案・監督:柳 裕章 脚本:松下隆一 音楽:上野祥 撮影:武村敏弘 照明:古川昌輝 録音:松陰信彦 美術:小出憲 装飾:長谷川優市呂 ヘアメイク:重松隆 助監督:井田純朋 編集:藤田和延 製作:高原正浩 プロデューサー:安達ツトム 配給:MomentumLabo.
2023年|日本|カラー|99分|1:2|5.1ch|
(C)一粒万倍プロダクション

●東茉凜 プロフィール
2002年生まれ。大阪府出身
高校(演劇学科)を卒業後、芸能活動を開始。神戸インディペンデント映画祭2022で上映された短編『放送部』で、映画初主演を果たす。以後、映画『1秒先の彼』(2022)などに出演。特技はアクロバット。

公式サイト
https://www.maimupro.co.jp/profile/14352/
https://www.instagram.com/marin_azuma/

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