「Steppin’ Out With My Baby/ホリー・コール」
(96kHz/24ビット)

 1993年3月に録音されたホリー・コールの名曲「I Can See Clearly Now」は機器評論の定番だ。それから32年後に13枚目のスタジオ・アルバム『Dark Moon』の冒頭の「Steppin’ Out With My Baby」は新スタンダードになるかもしれない。アーヴィング・バーリンが作曲しフレッド・アステアがMGMの傑作ミュージカル『イースター・パレード』で歌ったスタンダードナンバーだ。陽気なアステアとはまったく違う重い質感。巨大なヴォーカル音像が、偉容な声質で迫ってくる。歌詞が分かち書きで、一句一句がこってりと語られる。ヴォーカルの背後に、そっくりなアーティキュレーションでのアルコベースが執拗に食らいつく、録音もヴォーカルの力強さ、ベースのスケール感、ギターの重い質量、スネアの粘り……と、ヴォーカルの世界観と同質だ。

https://open.qobuz.com/track/313698433

 

「J・シュトラウス2世:オペレッタ『ジプシー男爵』序曲/リッカルド・ムーティ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団」
(44.1kHz/16ビット)

 リッカルド・ムーティはウィーン・フィルのニューイヤーコンサートのスターだ。1993年の初出演以来、1997年、2000年、2004年、2018年に登場し、2021年にはコロナ禍での無観客開催だった。ウィーン・フィルの音楽性を深く理解し、生誕200年のシュトラウス2世の作品の魅力を深い次元で伝えてくれる。それは、ムーティにとって1993年以来の2回目の披露となった、『ジプシー男爵 序曲』で余すところなく発揮。ウィーン風の気品と爽やかさやソロ楽器のカンタービレの豊かさは、今回のコンサートの白眉。洒落たアゴーギクを伴なったワルツの芳しいこと。ウィーン・フィルならではの喜遊感だ。録音もクリアーさと質感の良さでは歴代のニューイヤーコンサートでも最高峰。

https://open.qobuz.com/track/305395899

 

「BADモード (Live Version)/宇多田ヒカル」
(96kHz/24ビット)

 このライヴ音源は非常に素晴らしい。ベース、ドラムス、キーボードの個々の音像が明確で、音場に確固とした存在感を持つ。ヴォーカルは、スタジオ録音版ではかなり先鋭的だったが、ライヴ版は、大きな体積を持ち、質感はリジッドにしてふくよか。包容感、一体感を醸し出しているのが、本ライヴバージョンの美質だ。疾走感は、バスドラムの叩きのオスティナート(執拗反復)が大きく貢献。歌い上げるメッセージがたいへんクリアーで、ヴォーカルに左右チャンネルから絡むコーラスが良い味を醸し出している。「HIKARU UTADA SCIENCE FICTION TOUR 2024」のKアリーナ横浜公演(2024年9月)のライヴ録音。

https://open.qobuz.com/track/304126635

 

「変わるし/矢野顕子、上原ひろみ」
(48kHz/24ビット)

 2024年9月、東京オペラシティ コンサートホールにてライヴ録音。冒頭の上原のピアノ音から、このライヴ音場は非常に透明感が高く、空気の流れがクリアーだと分かる。ライヴの響き感は厚い。くねくねする矢野のヴォーカルも冴え渡る上原のピアノも、ホールの熱い空気感と響きの豊潤感に圧倒されることなく、それを引き裂き、ダイレクトに響く。音の浸透力が、非常に強いのである。矢野顕子の尖鋭さを受け止めて、上原ひろみはさらに驀進。上原ひろみが弾くピアノの高域のシャープネスも凄いが、矢野顕子が奏でるピアノの低音の偉容さにも驚かさせる。これらが、たいへんクリアーにディテイルまでこと細かに捉えられている。強烈な音楽力だ。

https://open.qobuz.com/track/304692720

 

「Moon River(feat. Jeff Beck)/Eric Clapton」
(96kHz/24ビット)

 エリック・クラプトンの最新アルバム『Meanwhile』の1曲。生前のジェフ・ベックと2022年にレコーディングした「Moon River」はジェフ・ベックとエリック・クラプトンのギターソロ、エリック・クラプトンの歌が聴き物だ。ジェフ・ベックのソロは音を長くサステインさせ、最大限に轟かせる。有名なスタンダードナンバーも彼の手にかかると、味わい深いソフトロックに生まれ変わる。響きのすべらかさを聴かせる音の太さが魅力だ。半音転調し、エリック・クラプトンが渋い喉を聴かせる。酸いも甘いも嘗めた渋い男のロックンロール・ワルツだ。エリック・クラプトンのギターはジェフ・ベックとは違う野性味。歪みが尖鋭で鮮明。突き刺すようなシャープネスが持ち味だ。「Moon River」はどんな編曲でも、姿を変えても魅力を持ち続ける名曲だと再認識。

https://open.qobuz.com/track/293298554

 

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>本記事の掲載は『HiVi 2025年春号』

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