TM NETWORKの楽曲で国民的に知られる名曲といえば「Get Wild」だろう。TVアニメ『シティハンター』のEDテーマとして長年支持されてきた側面もあるが、この曲のヒットがTM NETWORKの行く末を決めたといっても過言ではないはずだ。そうしたタイアップとしての背景もあり、オリジナルアルバムには収録されていなかった「Get Wild」を含め、それまでの足跡を辿れるヒストリーCDとして企画されたのが『Gift for Fanks』だ。
いわゆるベストアルバムとしての側面も持っており、「Get Wild」でTM NETWORKを知ったリスナーに向けた、入門用タイトルとしても人気のCDであった。かく言う筆者もその一人であり、初めてTM NETWORKのアルバムとして触れたのが『Gift for Fanks』だ。メタルカセットテープにダビングし、通学のお供として聴き込んだ思い出が蘇る。
「Gift for Fanks (CD/SACDハイブリッド)」 ¥5,500(税込)
●品番:SSMS-069(TDGD90059)●制作・発売:株式会社ソニー・ミュージックレーベルズ●企画・販売:株式会社ステレオサウンド※通常のCDプレーヤーで再生可能
この人気タイトルがSACD/CDハイブリッド盤としてリリースされることになり、矢も楯もたまらず聴いてみたのだが、まず嬉しく感じたのが、同じくステレオサウンドから発売されているSACD/CDハイブリッド盤『CAROL〜A DAY IN A GIRL’S LIFE 1991〜』同様に、トラックダウンマスターを基にしているという点だ。
録音、そして発売された時期の異なる14曲が収められた複数のマスターテープを改めて集めることも時間がかかるはずだが、一般的なマスタリング行程で製作されるカッティングマスターよりも前段階のトラックダウンマスターを集めるのはもっと大変であろう。数年とは言え、これだけ時間の範囲が広いと、製作環境、使用機材も異なり、音圧や音質のばらつきも当然のことながら起こりうる(特に今回はマスターごとにテープ幅やテープスピード、ノイズリダクションの有無といった違いがあるので、その音質差は相当だっただろう)。
それらを一枚のアルバムとしてまとめ上げるためにはマスタリング作業が欠かせないが、今回のSACD化はトラックダウンマスターの持つ音のよさや個性をそのまま引き出すことに重きを置いたとのことで、一般的なアルバムと比べると曲ごとにある程度の音質差がある。録音スタイルの変化もあるため純粋な比較は難しいが、アルバム単位、その前後に発売されたシングル曲で捉えると傾向も見えてくる。
時代ごとの背景に思いを馳せつつ、通常よりも純度の高いトラックダウンマスターの持つ素材のよさ、まさにスタジオで鳴っている状態の音と楽曲に対峙することができるのだ。通常のベストアルバムではそうしたことを感じさせないよう統一した処理を行うので、いかにこのSACDが特別な存在であるかがわかるだろう。
『Gift for Fanks』を再生して思ったのは、後年の作品に比べると音数が少なく、音と音の隙間を適度に感じるサウンドメイクであり、楽器やヴォーカルの純度を感じやすいということ。特にシンセサイザーの音色の豊かさ、音像の厚み感もしっかりとみえてくる。そしてシンセサイザーと対比するように映える、生のサックスの音の鮮やかさ、キレ味も心地よい。
ベースの豊かさ、押し出しのいい厚みを持つ曲はマスターテープもハーフインチなのか、テープ速度が76cm/sなのかと想像をめぐらせながら聴いていくのも実に楽しい。いずれの楽曲も高純度で、切れ味鮮やかな音像表現を持っており、オリジナルCDでは想像できないほど、ひじょうにフレッシュなサウンドだ。特に6曲目「1/2の助走」から8曲目「Confession〜告白〜」までのバラードセクションの落ち着き感、奥行きの深い空間性も聴き所となろう。
CD層はより密度が凝縮して力強さが増す印象となる。ヴォーカルの鮮度の高さ、すっきりとした浮き立ち感も好ましい。一方で音の分離や空間の広がり、フレッシュな鮮度感はDSDフォーマットの器の大きさを生かしたSACD層の方が優位である。
ちなみに「Get Wild」についてはシングル発売30周年となる2017年に、同じトラックダウンマスターを基にした96kHz/24ビットハイレゾ版も登場している。音圧感は今回のSACDの方が高い印象で、音像のほぐれ感、空間性の点でもSACDの方が一歩前へ出ており、よりダイナミックだ。特に低域の張り出しの力強さ、低重心で逞しいエネルギー感を得られる。ヴォーカルの生気、鮮やかさ、生々しい息遣いも注目点であり、力強いのに音の分離がよく、立ち上がり、立ち下がりのスムーズさが感じられるところもこのSACDならではの美点だろう。
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