2024年はTM NETWORK、デビュー40周年で沸いた一年だった。様々なリリース、再発ものも多かったが、ステレオサウンドから発売された『CAROL〜A DAY IN A GIRL’S LIFE 1991〜』(以下、CAROL)のSACD/CDハイブリッド盤が音質面も含め、もっとも感銘を受けた一枚であったように思う。オリジナル発売当時のLPやCD、さらには96kHz/24ビットでリマスターされたハイレゾ音源も聴いているが、それらと比べてみても次元の違う印象である。

 まず今回のマスターとなった、トラックダウンマスターの採用はひじょうに嬉しいポイントだ。いわゆるマスタリングにあたるカッティングマスターもミックス=トラックダウンと同じスティーヴ・ナイが担当していたので、オリジナル盤のバランス感、音色、定位などはそのまま継承されているが、ひとつの工程が増えることで音の基本的な純度感は幾分低くなる。様々なリマスターが登場する現在、トラックダウンマスターまで遡れることは稀であり、特に音像の周囲に漂う空気感の再現など、空間情報に関してはカッティングマスターの比ではないので、その有効性はいうに及ばず、貴重な復刻といえよう。

画像1: TM NETWORKのSACD/CDハイブリッドを聴く(1) 『CAROL〜A DAY IN A GIRL’S LIFE 1991〜』は、トラックダウンマスターの持つ鮮度の高さを維持し続ける、悠久のリファレンスディスクだ

「CAROL ~A DAY IN A GIRL'S LIFE 1991~(CD/SACDハイブリッド)」 ¥5,500(税込)
●品番:SSMS-070(TDGD90060)●制作・発売:株式会社ソニー・ミュージックレーベルズ●企画・販売:株式会社ステレオサウンド※通常のCDプレーヤーで再生可能

 大好きな楽曲でもある「SEVEN DAYS WAR」をオリジナルLP(28・3H-5070〜71)、オリジナルCD(28・8H-5070)、ハイレゾ版と、今回のSACDのCD層、SACD層を聴き比べてみた。7インチ・シングル盤も所有しているので、そちらも聴いてみたが、そもそもシングルはアルバム収録のものとはバージョンが違う。シンセストリングスと子供たちを含めたコーラスが重ねられており、ミックスも国内で行っているため、ヴォーカルのニュアンスやドラムセットのリヴァーブ処理など、より華やかでメリハリのいいバランスでまとめられている。

 これに対し『CAROL〜』収録のものは「Four Peaces Band Mix」という表記の通り、シンセ、ギター、ベース、ドラムといった基本楽器構成でのミックスとなっており、ソリッドに楽器の音色を捉え、より楽曲の芯が見えてくるダイレクトな音作りとなっている。

 今回のSACDの肝は、マスターテープの経年劣化を補う程度のEQ処理に留めた、限りなくフラットトランスファーに近いものであり、音像の純度感の高さ、DSDならではのシームレスで広がり豊かな空間表現力を堪能できる。オリジナルCDと今回のSACDのCD層を聴き比べると、中低域方向の音のほぐれ感が異なり、シンセベースのクリアーさ、ドラムセットの分離のよさを実感。ヴォーカルはしなやかで、鮮度よく浮き上がる。音量感も今回のCD層の方が高く感じた。

 SACD層に切り替えると一気に音場が広がる。CD層でオリジナルCDに比べて分離よく感じたリズム隊の表現もSACD層と比較するとまだまだ凝縮したような、天井を感じる音だ。エレキギターのカッティングも克明に掴み取れ、これまで聞き取れなかった、微細なニュアンスも浮き上がらせる、情報量の多さを感じられた。

 アルバムを全体的に見た時、ロンドンでのミックスならではの低重心なローエンドの響き、陰影深いサウンド性が支配的である。しっとりとした湿度感の高さ、音像の滑らかなディテイル感をどのように引き出すのか。シンセだけでなく「Winter Comes Around」で聴くことができる生のストリングスの濃密でありながら澄みきったハーモニーをどう再現するのか。特にオリジナルLPはそのあたりが理想的なバランスで収められていたように感じる。

画像2: TM NETWORKのSACD/CDハイブリッドを聴く(1) 『CAROL〜A DAY IN A GIRL’S LIFE 1991〜』は、トラックダウンマスターの持つ鮮度の高さを維持し続ける、悠久のリファレンスディスクだ

 それに対し、今回のSACDは圧倒的な解像度の高さを誇るトラックダウンマスターに迫り、曖昧さのない音世界を構築。シンセベースのみっちりとした密度感と艶やかさはLPに近いアナログライクなものだが、そもそも低域の解像力が高く、LPでは混然となっているキックドラムとの描き分け、前後感も鮮明に表現されている。エレキギターもアンプから鳴らしているディストーションの距離感、余韻の階調性の高さも自然に掴み取れる。シンセサイザーの音色感、ふくよかな、かつ煌びやかなトーンもニュアンス細かく空間に浮かんでいる。

 何よりもヴォーカルの柔らかい抑揚感、シームレスな口元の動きとボディの密度の高さが素晴らしい。コンセプチュアルな詞の世界を鮮やかに、そしてダイレクトに耳元へ届けてくれる。純度の高さ、各パートの分離のよさにより、その精神性、メッセージの熱量がストレートに伝わってくるようだ。35年も前の音源とは思えない鮮度感、透明度の高いサウンドである。楽曲そのものだけでなく、コンセプトアルバムとしてひじょうに完成度の高い、まさにTM NETWORK時代の最高峰ともいえる『CAROL〜』の全貌をより分析的に楽しめる逸品だ。

 CD層だけでもオリジナルCDより分離がよく、音の粒立ちやリアルさ、生々しさがよりダイレクトに伝わるものとなっているので、SACDプレーヤーを持っていなくてもベールを剥いだようにクリアーなサウンドを楽しめるだろう。

 そもそもハイレゾ版は、オリジナルのカッティングマスターを音圧的に高めつつ、よりヴォーカルや楽器のエナジー感を引き上げた、音像の力強さ、鮮明さが際立つ音作りとなっているため、様々な再生環境でハイレゾならではの解像度の高さを味わえるような音質傾向にある。

 今回のSACD/CD盤はそのハイレゾ版と比べるとパッと聴いたときには控えめな印象を受けるかもしれない。しかしその真価、立体的な空間性はハイエンドなシステムほどわかりやすく見えてくる。楽器がひとつ一つ分離よくシームレスに定位し、誇張なく浮かび上がる、スタジオで聴いているものと同等といえるリアルな空間表現はSACDでないと味わえないだろう。

 今そうした環境を持っていないとしても、これからシステムをアップデートしていくことで、SACDに込められた多くの情報を紐解いていけるはずだ。まさに “タイムカプセル” といえるこの盤は、幾年もトラックダウンマスターの持つ鮮度の高さを維持し続ける、悠久のリファレンスといえよう。

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